吃音

話そうとすると言葉がつまったり、同じ音を繰り返したりして、人前で話すことに不安を感じていませんか。吃音は決して珍しいものではなく、生涯でおよそ100人に5人が経験するといわれています。ご本人だけでなく、お子さんの症状に悩むご家族も少なくありません。

この記事では、吃音の主な種類や症状、そして体質的な要因が関わるとされる原因について、科学的な知見を基に詳しく解説します。吃音は、かつて言われたような親の育て方や本人の性格が直接の原因ではないことが、現在ではわかっています。

読み進めることで、吃音への正しい理解が深まり、症状や不安とどう向き合っていくべきかのヒントが見つかります。コミュニケーションの負担を和らげ、より自分らしく話すための第一歩としてお役立てください。

吃音の概要

吃音(きつおん)は、話そうとするときに言葉がスムーズに出てこなかったり、つまったりする発話の障害です。かつては「どもり」とも呼ばれていましたが、現在は「吃音」という名称が一般的です。

この症状は人種や文化、話す言語に関わらず、誰にでも起こりえます。生涯で一度でも吃音を経験する人はおよそ100人に5人、現在症状がある人はおよそ100人に1人といわれています。

特に2〜5歳の幼児期に発症することが多く、3歳のお子さんを対象としたある調査では、有症率(症状がある子の割合)が6.5%だったという報告もあります。発症したお子さんの約8割は、成長とともに自然に症状が消失するとされています。

ここで最も知っておいていただきたいのは、吃音は本人の性格やご両親の育て方が直接の原因ではない、ということです。ご自身やご家族を責める必要はまったくありません。

現在、吃音の原因は完全にはわかっていませんが、何らかの体質的な要因が関係すると考えられています。

その一例として、吃音と利き手の関連を調べた複数の研究を統合・分析した「メタ分析」という信頼性の高い研究があります。2,590人の吃音がある方々と17,148人の方々を比較した結果、吃音のある人はそうでない人と比べて、非右利き(左利きや両利きなど)の割合がわずかに高い傾向にあることが報告されました。※

こうした研究は、吃音を脳の機能的な側面から理解しようとする試みの一つといえます。

吃音の種類

吃音は、いつ、どのようなきっかけで始まったかによって、大きく2つのタイプに分けられます。

吃音のある方の約9割を占めるのが、幼児期に自然に始まる「発達性吃音」です。残りが、これまで吃音のなかった方に何らかのきっかけで生じる「獲得性吃音」です。

1. 発達性吃音

言葉を覚え始める2歳から5歳頃に始まる、最も一般的なタイプの吃音です。

原因は一つに特定されていませんが、遺伝など生まれ持った体質的な要因が7〜8割を占めると考えられています。親の育て方やしつけが原因ではないことが、現在ではわかっています。

また、学齢期(6〜12歳)になると、吃音そのものの影響だけでなく、コミュニケーションに対する不安といった心理社会的な課題を抱えることも少なくありません。

ある研究では、吃音の影響、不安、発話への満足度といった心理的な側面へのアプローチが、症状の管理に重要であることが示されています。※

2. 獲得性吃音

もともと吃音がなかった方に、主に青年期以降に何らかのきっかけで発症するタイプを指します。

原因によって、さらに以下の2つに分けられます。

種類 | きっかけとなる原因

神経原性吃音 | ・脳卒中や頭部の怪我など、脳の病気や損傷

心因性吃音 | ・強い精神的ストレス ・心に傷を負うような体験(トラウマ)

神経原性吃音は脳の物理的な変化によって、心因性吃音は心の問題によって引き起こされるという違いがあります。

吃音の原因

吃音の直接的な原因はまだ完全には解明されていません。しかし現在は、生まれ持った「体質的な要因」を土台として、いくつかの要因が重なり合って発症するという考え方が主流です。

まず、大前提として知っておいていただきたいのは、かつて俗説として語られた「親の育て方」や「愛情不足」「本人の性格」などが原因ではない、ということです。ご自身やご家族が「自分のせいかもしれない」と悩む必要は一切ありません。

現在、吃音は以下の3つの要因が相互に影響しあって起こると考えられており、中でも体質的な要因が7〜8割を占めるとされています。

1. 体質的な要因(素因)

言葉を滑らかに話すために必要な、脳の働き方の特徴が関係していると考えられています。これは、吃音が単なる癖や心の弱さではないことを示すものです。

実際に、吃音と脳機能の関連を探る研究は世界中で進められており、例えば、2,590人の吃音がある方と17,148人の方を比較した「メタ分析」という信頼性の高い研究があります。

その結果、吃音のある人はそうでない人と比べて、非右利き(左利きや両利きなど)の割合がわずかに高いことが報告されました。※

こうした科学的根拠は、吃音が脳の機能的な特徴と関連している可能性を示唆しています。

2. 発達上の要因

言語能力や運動能力が爆発的に発達する幼児期は、話すための神経システムがまだ成長途中で不安定です。この時期に、年齢に対して少し複雑な文章を話そうとすること自体が、脳にとって大きな負担となり、吃音のきっかけになることがあります。

3. 環境的な要因

吃音の症状に対して、周囲から否定的な反応(からかい、言い直しを強いるなど)を受けたり、話すこと自体に強いプレッシャーを感じたりする経験を指します。

ただし、これらは吃音を発症させる直接の原因というよりも、もともとあった症状を悪化させたり、定着させたりするきっかけとして作用することが多いと考えられています。

このように、吃音は一つの原因で起こるわけではありません。生まれ持った体質的な土台の上に、成長の過程や周囲の環境が影響し、症状として現れると理解することが大切です。

吃音の症状

吃音の症状は、単に言葉がつまる「言語症状」だけにとどまりません。それに伴って現れる身体の動きである「随伴症状」、そして内面的な苦しみである「心理的反応」の3つが複雑に絡み合っています。

むしろ、吃音の悩みの本質は、これら3つの症状が互いに影響し合って悪循環を生み出してしまう点にあるといえます。

1. 言語症状(中核症状)

言葉がスムーズに出てこない、吃音そのものの中心的な症状です。「どもり方」とも呼ばれ、主に以下の3つのタイプに分けられます。

種類 | 症状の例 | 特徴

連発(れんぱつ) | 「ぼ、ぼ、ぼくは…」 | 言葉の最初の音などを繰り返してしまう

伸発(しんぱつ) | 「ぼーーくは…」 | 特定の音を引き伸ばして話してしまう

難発(なんぱつ) | 「……っぼくは…」 | 言葉が喉に詰まったように出てこない (ブロックとも呼ばれる)

これらの症状は、本人の意思とは関係なく起こります。一つのタイプだけが現れることもあれば、複数が混在して現れることもあります。

2. 随伴症状

詰まってしまった言葉を、何とかして押し出そうと「もがく」中で、無意識に現れてしまう身体の動きです。

・顔をしかめる

・頻繁にまばたきをする

・頭や手足を振る

・体を揺する

・足で床をたたく

こうした動きは、話すことへの努力や緊張の現れであり、本人が意図して行っているわけではありません。症状を隠そうとすればするほど、かえって目立ってしまうこともあります。

3. 心理的反応

言語症状や周囲の反応によって、心の中に生まれる苦痛です。吃音の悩みの大部分を、この心理的な問題が占めていると言っても過言ではありません。

・予期不安

「またどもるかもしれない」と、話す前から強い不安や恐怖を感じてしまう状態です。心臓がドキドキしたり、冷や汗が出たりすることもあります。

・回避行動

どもることへの恐怖から、話す場面そのものを避けるようになります。

・人前での発表や電話を避ける

・苦手な言葉を、別の言いやすい言葉に置き換える(「言い換え」)

・自己紹介が苦手

・自己評価の低下

「うまく話せない」という経験が積み重なることで、「自分はダメな人間だ」と自信を失い、コミュニケーション全般に臆病になってしまいます。

特に学齢期の子どもでは、吃音の影響がコミュニケーションへの不安や発話への満足度といった心理社会的な側面に大きく影響を及ぼすことが報告されています。※ このような心理的な苦痛が、吃音の困りごとをさらに深刻なものにしていきます。

吃音の検査・診断

吃音の検査や診断は、単に「どもり方」を調べるだけではありません。吃音という症状が、ご本人の生活や心にどのような影を落としているかを多角的に把握することを最も重要視します。

なぜなら、吃音の悩みの本質は、言葉がつまること自体よりも、それに伴う心理的な苦痛や社会生活での困難さにある場合が多いからです。

そのため、医師や言語聴覚士は、ご本人やご家族との対話(問診)と各種検査を組み合わせ、以下の3つの側面から総合的に評価を行います。

評価する側面 | 評価の目的 | 具体的な確認ポイント

話し方の評価 | 吃音の客観的な特徴を把握する | ・どのような種類の吃音(連発・伸発・難発)が、どのくらいの頻度で現れるか ・日常会話や音読など、場面による症状の変化

心理・社会面の評価 | 吃音が生活や心に与える影響を理解する | ・ご本人が何に困り、どう感じているか ・話すことへの不安や恐怖(予期不安) ・学業や友人関係、仕事への影響 ・ご自身の話し方に対する満足度

質問紙による評価 | ご本人の困りごとを客観的に数値化する | ・専門的な質問紙「OASES™」などを用いて評価する ・吃音が生活の質(QOL)にどの程度影響しているかを測定する

特に学齢期のお子さんでは、吃音の影響や不安、発話への満足度といった心理的な側面を評価し、アプローチしていくことの重要性が研究でも示されています。※

これらの評価は、単に症状の重さを判定するためだけのものではありません。ご本人が抱える困難さやニーズを深く理解し、「吃音とどう向き合い、より楽に生活していくか」という一人ひとりに合った支援の方針を一緒に見つけていくために不可欠なプロセスです。

吃音の治療

吃音の治療と聞くと、「どもりを完全になくすこと」がゴールだと考える方が多いかもしれません。しかし、現在の吃音支援が目指すのは、それだけではありません。

吃音による困りごとや心理的な負担を軽くし、ご本人が「自分らしく、楽に話せる」ようになること。これが、治療における最も大切な目標です。

確立された単一の治療法があるわけではなく、年齢や一人ひとりの状況に応じて、いくつかの支援を組み合わせていくのが一般的です。

具体的な支援は、主に以下の3つの柱で成り立っています。

アプローチの種類 | 主な対象 | 目的

1. 環境調整 | 主に幼児期のお子さん | ・安心して話せる環境を整える ・話すことへの肯定的な態度を育む

2. 直接的な訓練 | 学齢期以降〜成人 | ・楽に話すための技術を身につける ・話すことへの過剰な努力や緊張を和らげる

3. 心理面へのアプローチ | 全年齢(特に学齢期以降) | ・吃音に対する考え方や感情を整理する ・コミュニケーションへの自信を取り戻す

1. 環境調整(間接的なアプローチ)

特にお子さんの吃音において、まず基本となるのが、ご家庭や園・学校といった周囲の環境を整えることです。これは、ご本人が安心して話せる土台を作るための、非常に大切な「治療的関わり」といえます。

周囲の大人が、以下のような関わりを意識することが推奨されます。

・話を急かさず、最後までゆっくりと聞く

・言葉がつまっても、先回りして言おうとしたり、言い直しをさせたりしない

・吃音そのものをからかったり、否定的な態度を示したりしない

・話の内容にしっかりと耳を傾け、メッセージを受け取ろうとする姿勢を見せる

このような関わりは、話すことへのプレッシャーを和らげ、自己肯定感を育む上で重要な役割を果たします。

2. 直接的な訓練

言語聴覚士などの専門家のもとで、楽に話すための具体的なスキルを身につけていくアプローチです。主に学齢期以降のお子さんや成人の方を対象に行われます。

この訓練の目的は、無理に流暢さを追求することではありません。むしろ、どもってしまいそうな時の過剰な力みや緊張をコントロールし、「より楽に声を出す方法」を学ぶことに重点が置かれます。

・腹式呼吸など、リラックスした呼吸法の習得

・ゆっくりとしたペースで、穏やかに話し始める練習

・どもりながらも、前に進んで話す練習(オープンスタタリング)

これらの訓練を通して、話すことへの身体的な苦痛を軽減し、コミュニケーションの主導権を自分で握れるように支援していきます。

3. 心理面へのアプローチ

吃音の悩みの本質は、言葉がつまること自体よりも、それに伴う「またどもるかもしれない」という予期不安や、人前で話すことへの恐怖、自信の喪失といった心理的な側面に深く根ざしていることが少なくありません。

そのため、現在の吃音支援では、この心理面へのアプローチが極めて重要視されています。

特に学齢期のお子さんを対象とした複数の研究を分析した報告では、治療によって以下の3つの心理的な側面が改善する可能性が示されています。※

・吃音の影響:吃音が日常生活に及ぼす困難さの軽減

・不安:話すことに対する不安や恐怖心の緩和

・発話満足度:自身の話し方に対する満足感の向上

専門家との対話を通して、吃音に対するネガティブな考え方や感情を整理したり、どもることへの過剰な恐れ(「どもってはいけない」という考え)を和らげたりします。

大切なのは、ご本人が吃音という特性をありのままに受け入れ、コミュニケーションへの自信を取り戻すことです。吃音があっても、その人らしく豊かに生きていくための「心の土台」を再構築することが、このアプローチの最終的なゴールです。