双極性障害

「うつ病の治療を続けているのに、なかなか良くならない」「激しい気分の波に振り回されてしまう」。そんな悩みの原因は、実は「うつ病」ではなく、治療法が全く異なる「双極性障害」かもしれません。

双極性障害は、約100人に1人がかかるとされる身近な脳の病気です。しかし、気分が高揚する「躁状態」をご本人が病気と認識しづらいため、うつ病と誤診され、正しい診断まで平均4〜10年かかってしまうことも少なくありません。

この記事では、うつ病との違いや見過ごされがちなサイン、適切な治療法を詳しく解説します。長引く不調の正体を知り、穏やかな毎日を取り戻すための一歩としてお役立てください。

双極性障害の概要

双極性障害は、気分が極端に高まる「躁(そう)状態」と、深く落ち込む「うつ状態」を繰り返す脳の病気です。自分の意思ではコントロールが難しい、病的な気分の波が大きな特徴です。

以前は「躁うつ病」とも呼ばれていました。しかし、うつ病とは原因も治療法も異なるため、この二つを正しく区別することがとても大切になります。

この病気は、およそ100人に1人弱がかかるといわれており、決して珍しくありません。20代から30代といった比較的若い時期に発症することが多く、男女での差はほとんどないとされています。

双極性障害による激しい気分の波は、ご本人の生活に大きな影響を及ぼします。特に対人関係や社会的な活動に困難を感じることが少なくありません。近年の研究では、子ども時代のつらい経験が、大人になってからの対人関係の難しさに関係する可能性も指摘されています。

双極性障害は再発しやすい特徴がありますが、早くから適切な治療を始めることが重要です。治療を続けることで症状をコントロールし、安定した日常生活を送ることは十分に可能です。近年、「障害」という言葉の印象に配慮して「双極症」と呼ばれることも増えてきました。

双極性障害の種類

双極性障害は、気分の上がり方の強さによって、主に2つのタイプに分けられます。どちらのタイプかによって治療法が少し変わるため、正しく見極めることが大切です。

双極Ⅰ型障害

社会生活に大きな支障が出るほどの、激しい「躁(そう)状態」が特徴です。加えて、気分が深く落ち込む「うつ状態」も繰り返します。

躁状態のときは、周りの人が驚くような行動をとることがあります。例えば、何日も眠らずに活動し続けたり、大きな借金をして買い物をしたりします。ご本人は病気だという自覚がなく、入院による治療が必要になることも少なくありません。

双極Ⅱ型障害

Ⅰ型よりも症状が穏やかな「軽躁(けいそう)状態」と、「うつ状態」を繰り返すタイプです。「軽躁状態」のときは、いつもより少し調子が良く、活動的に過ごせるため、ご本人も周りの人も病気だとは気づきにくいことが特徴です。

しかし、その後に必ずうつ状態が訪れるため、長い目で見ると生活に支障が出てきます。

双極Ⅰ型障害

双極Ⅱ型障害

気分の高まり

激しい「躁状態」

穏やかな「軽躁状態」

社会生活への影響

大きい(入院が必要なことも)

比較的小さい(病気と気づかれにくい)

ご本人の自覚

ないことが多い

ない、または「調子が良い」と感じる

どちらのタイプでも、うつ状態の期間の方が長くなる傾向があります。気分の波だけでなく、対人関係の難しさに悩む方も少なくありません。近年の研究では、子ども時代の感情的な虐待やネグレクト(育児放棄)といったつらい経験が、成人後の対人関係の悪化と関連することが示されています。ご自身の気分の波で気になることがあれば、専門医にご相談ください。

双極性障害の原因

双極性障害は、心が弱いからなる病気ではありません。 また、特定の性格の人がなりやすいわけでもないのです。 現在では、脳の機能に主な原因があると考えられています。

原因は一つではなく、複数の要因が合わさって発症します。 主に次の3つが複雑に関係しているとされます。

1. 脳の機能的な特性 私たちの気分は、脳の働きによって調整されています。 双極性障害の方は、この気分を調整する脳の仕組みに、 生まれつき何らかの特性があると考えられています。

2. 遺伝的な要因 ご家族に双極性障害の方がいると、発症しやすいです。 しかし遺伝だけで病気が決まるわけではありません。 あくまで「病気になりやすい体質」が伝わる可能性です。

3. 環境的な要因(きっかけ) 生まれ持った体質に、ストレスなどの環境要因が加わり、 発症の引き金になることがあります。

近年の研究では、子どもの頃の体験も注目されています。 つらい体験が、病気の直接の原因になるわけではありません。 しかし、病気になった後の対人関係に影響するのです。

複数の研究を分析した報告によると、特に感情的な虐待や、 育児放棄(ネグレクト)を経験した場合に、 大人になってからの対人関係の悪化と関連がありました。 こうした要因が、その人の生きづらさにつながるのです。

このように、様々な要因が重なり発症すると考えられます。

双極性障害の症状

双極性障害は、気分が極端に高まる「躁(そう)状態」と、深く落ち込む「うつ状態」という両極端な状態を繰り返します。これは単なる気分の浮き沈みとは異なり、ご自身の意思ではコントロールが難しい、病的な脳の不調によるものです。

躁(そう)状態

気分が異常に高揚し、心と体にエネルギーが満ちあふれた状態です。ご本人は「絶好調だ」と感じることが多いですが、周りの人からは普段とは違う、少し異様な様子に見えることがあります。

  • 睡眠時間の極端な減少
  • ほとんど眠らなくても元気に活動できます。
  • 思考や会話の量の増加
  • 次々に考えが浮かび、普段より早口で話し続けます。
  • 万能感や誇大感
  • 自分は特別な人間で、何でもできるという気持ちになります。
  • 衝動的な行動
  • 高額な借金や買い物など、後先を考えない行動が増えます。
  • 易怒性(いどせい)の高まり
  • ささいなことで激しく怒り、攻撃的になることがあります。

特に、この攻撃的な態度は、周囲とのトラブルにつながり、対人関係を悪化させる一因となります。近年の研究では、子ども時代の感情的な虐待や育児放棄(ネグレクト)といったつらい体験が、大人になってからの対人関係の問題と関連する可能性も示唆されています。

うつ状態

躁状態とは対照的に、心と体のエネルギーが完全に尽きてしまったような状態です。うつ病の症状と似ていますが、躁状態の時の自分の行動に対する強い自己嫌悪が加わり、より一層つらく感じることがあります。

  • 持続する気分の落ち込み
  • 1日中、気分が重く沈み、何をしても晴れません。
  • 興味や喜びの喪失
  • 今まで楽しめていたことに、全く興味がわかなくなります。
  • 強い疲労感・倦怠感
  • 常に体がだるく、少し動くだけでもひどく疲れてしまいます。
  • 食欲や睡眠の変化
  • 食欲が全くない、または過食になることがあります。
  • 寝つけない、または寝過ぎてしまうこともあります。
  • 自己否定や絶望感
  • 「自分には価値がない」と感じ、将来に希望が持てなくなります。

混合状態

躁状態とうつ状態の症状が、同時に、または短時間で入れ替わるように現れる、非常に不安定な状態です。例えば、「気分はひどく落ち込んでいるのに、頭の中は考えでいっぱいで落ち着かない」といった状態になります。

行動を起こすエネルギーはあるのに、気持ちは絶望的であるため、自分を傷つける行動につながる危険性が極めて高くなります。ご本人も周りの方も、特に注意が必要な時期です。

双極性障害の検査・診断

双極性障害は、血液検査や脳の画像検査ではわかりません。 そのため、医師が患者さんのお話を丁寧に聞く「問診」が、 診断において最も重要なプロセスとなります。 これまでの気分の波や生活の様子を詳しくお伺いします。

特にご本人だけでなく、ご家族からのお話が診断の鍵です。 なぜなら、双極性障害は診断が非常に難しい病気だからです。 多くの方が気分の落ち込む「うつ状態」で初めて受診します。 そのため、最初は「うつ病」と診断されることも少なくありません。

実際、うつ病と診断されていた方のうち1〜2割ほどが、 後になって双極性障害だったと判明することがあります。 正しい診断に至るまで、平均4〜10年かかるとも言われます。 これは、診断の決め手となる「躁状態」に理由があります。

ご本人は気分が高揚している時期を「絶好調だ」と感じます。 病的な状態だと認識していないことが多いため、 医師にその時期のことを話さないケースがほとんどなのです。 そこで、ご家族など周りの方からの客観的な情報が、 正確な診断のために非常に役立ちます。

また問診では、子どもの頃のつらい体験が、 今の対人関係にどう影響しているかなども参考にします。 ご自身やご家族に、以下のような経験がないか振り返ってみましょう。

双極性障害の可能性があるサイン

□ すごく元気で、ほとんど眠らなくても平気で活動できた時期がある

□ 気分が落ち込んだ後、以前よりも調子が良くなりすぎることがある

□ 20代前半までにうつ病と診断されたことがある

□ 血縁者に双極性障害の人がいる

□ 後から考えると無謀な買い物や計画で、周囲を困らせたことがある

うつ病の治療を続けてもなかなか良くならない場合、 これらのサインに心当たりがあれば、双極性障害の可能性も考えられます。 気になることがあれば、ぜひ一度専門の医療機関にご相談ください。

双極性障害の治療

双極性障害の治療目標は、気分の波を上手にコントロールし、 穏やかで安定した日常生活を取り戻すことです。 治療は「薬物療法」と「心理・社会的療法」が両輪です。 これらを組み合わせて、根気よく進めていくことが大切です。

薬物療法

治療の中心となるのは、お薬を使った治療です。 主に、気分の波を穏やかにする働きのあるお薬が使われます。 ご自身の判断でお薬をやめると再発しやすくなるため、 医師の指示通りに服薬を続けることがとても重要です。

主な薬の種類

働き

気分安定薬

躁状態とうつ状態の大きな波を小さくし、再発を防ぐ治療の基本となるお薬です。

抗精神病薬

激しい躁状態の興奮を鎮めたり、つらい気持ちを和らげたりする目的で使われます。

うつ病で使われる抗うつ薬は、双極性障害の方が使うと、 逆に気分を不安定にし、躁状態を引き起こすことがあります。 そのため、原則として抗うつ薬は使いません。

心理・社会的療法

お薬の治療と並行して、病気と上手につきあう方法を学びます。 お薬が波を抑える土台なら、こちらは再発を防ぐ知恵です。

  • 心理教育
  • ご自身の病気やお薬について、正しく理解するための時間です。
  • 再発のサインに自分で気づき、早めに対処できるようになることが目標です。
  • 対人関係・社会リズム療法
  • 生活リズムの乱れは、気分の波に影響します。
  • 睡眠や食事の時間を整え、脳が安心できる環境を作ります。
  • また、過去のつらい経験が対人関係の難しさにつながることがあります。
  • 研究では、子どもの頃の体験が大人になってからの対人関係の悪化と関連することが示されています。
  • 人との関わり方を見直し、ストレスを減らす練習も回復に役立ちます。
  • 認知行動療法
  • うつ状態の時に陥りやすい、否定的な考え方のクセに気づきます。
  • よりバランスの取れた考え方ができるよう練習していく治療法です。