半盲

歩いていると人や物にぶつかりやすい、食事の際に片側のおかずを見落としてしまう。もし、このような経験が頻繁に起こるなら、それは単なる不注意ではなく、視野の半分が見えなくなる「半盲」のサインかもしれません。視力検査では異常がないにもかかわらず、多くは脳卒中や脳腫瘍といった「脳」のトラブルが原因で発症します。

実際に、半盲を抱える方の約9割が、生活の中で物にぶつかるといった困難を経験するというデータもあります。「なぜか見えない範囲がある」という不安を解消するために、この記事では半盲の詳しい種類や原因、リハビリテーションから最新の治療の可能性まで、専門的な情報をわかりやすく解説します。ご自身の状況を理解し、適切な対処法を見つけるための一助としてください。

半盲の概要

半盲(はんもう)とは、見える世界の右半分、または左半分が突然見えなくなってしまう状態を指します。

片目だけの問題ではなく、両方の目の同じ側が見えなくなるのが特徴です。

この症状は、多くの場合、目そのものの病気が原因ではありません。 目で見た情報を映像として処理する「脳」に、何らかの問題が起きることで発生します。 そのため、視力検査では異常がないのに、視野の一部だけが欠けてしまうのです。

半盲を引き起こす主な原因には、以下のような脳の病気やケガが挙げられます。

  • 脳卒中
  • 脳の血管が詰まったり(脳梗塞)、破れたり(脳出血)する病気です。
  • 頭のケガ(頭部外傷)
  • 事故などで頭を強く打ち、脳がダメージを受けることです。
  • 脳腫瘍
  • 脳の中にできる「できもの」のことです。

また、非常に稀ですが「脳アミロイドーマ」という病気が原因になることもあります。 これは脳にアミロイドベータというタンパク質の塊ができる珍しい病変です。 ある研究報告では、この病気を持つ人の多くが、視野の問題だけでなく、けいれん発作を最も一般的な症状として発症することが知られています。

視野が半分欠けてしまうと、日常生活に大きな影響が出ます。 例えば、歩いている時に人や物にぶつかりやすくなったり、食事の際に片側にあるおかずに全く気づかなかったりします。 実際に、半盲の方の約9割が、生活の中で物にぶつかるなどの困難を経験するというデータもあります。

半盲の種類

半盲は、脳のどの部分がダメージを受けたかによって、見えなくなる範囲が変わります。 そのため、主に以下の3つの種類に分けられます。 どのタイプかを知ることは、原因となっている脳の場所を特定する重要な手がかりになります。

同名半盲(どうめいはんもう)

両方の目の、同じ側(右半分だけ、あるいは左半分だけ)が見えなくなる状態です。 例えば「右同名半盲」の場合、右目で見ても左目で見ても、視野の右側が欠けて見えます。 半盲の中では、このタイプが比較的多くみられます。

異名半盲(いめいはんもう)

両方の目で、それぞれ異なる側が見えなくなる状態です。 これにはさらに2つのタイプがあります。

  • 両耳側半盲(りょうじそくはんもう) 両方の目の外側(耳側)が見えなくなるタイプです。 目の神経が交差する「視交叉(しこうさ)」という場所が圧迫されることで起こります。 この視交叉を圧迫する原因の一つに「下垂体腺腫」という脳腫瘍があります。 まれに下垂体腺腫は、他の腫瘍と合併して見つかることも報告されています。
  • 両鼻側半盲(りょうびそくはんもう) 両方の目の内側(鼻側)が見えなくなる状態ですが、これは非常にまれです。

四分盲(しぶんもう)

視野全体の4分の1が欠けてしまう状態です。 右上、右下、左上、左下といったように、視野の一部分だけが見えなくなります。

種類

見えなくなる範囲の例

脳のダメージが疑われる場所のヒント

同名半盲

両目の右半分、または左半分

視交叉より後ろ(後頭葉など)

異名半盲

・両耳側:両目の外側

・両鼻側:両目の内側

視交叉の周辺

四分盲

右上、右下、左上、左下のいずれか

視放線や後頭葉の一部

このように、視野のどの部分が見えにくいかによって、脳のどのあたりに問題があるかを推測できます。

半盲の原因

半盲は、目そのものではなく、目で見た情報を脳へ伝える道筋に問題が起きて発症します。 この「目から脳への情報の通り道」を視覚経路(しかくけいろ)と呼びます。 視覚経路が何らかの理由でダメージを受けることが、半盲の直接の原因となります。

半盲を引き起こす原因は様々ですが、最も多いのは脳卒中です。

  • 脳卒中(脳梗刺・脳出血) 脳の血管が詰まったり(脳梗塞)、破れたり(脳出血)する病気です。 脳の細胞に栄養や酸素が届かず、ダメージを受けてしまいます。 特に、映像を処理する後頭葉(こうとうよう)という部分が傷つくと、半盲が起こりやすくなります。 脳卒中が原因の半盲は重い後遺症となりやすく、自然に回復することは稀とされています。

脳卒中の他にも、以下のような原因が考えられます。

  • 脳腫瘍 脳にできた腫瘍が、視覚情報を伝える神経の通り道を圧迫することで起こります。
  • 頭のケガ(頭部外傷) 事故などで頭に強い衝撃を受け、脳が直接傷つくことで発症します。
  • 脳の病気や手術 多発性硬化症といった神経の病気や、脳の手術が原因になることもあります。
  • 認知症 ある研究では、認知症の方に見られる視野の問題として、半盲が最も一般的であると報告されています。

このように、半盲は様々な脳のトラブルがきっかけとなって起こる症状です。 原因を正確に突き止めることが、適切な対応への第一歩となります。

半盲の症状

半盲の最も代表的な症状は、視野の半分が見えなくなる「視野欠損」です。 これは片目だけの問題ではなく、多くの場合、両方の目に影響が及びます。

視野が半分見えなくなることで、日常生活において次のような困難が生じます。 ご自身やご家族に当てはまることがないか、確認してみましょう。

【日常生活で起こりやすいことのチェックリスト】

  • □ 見えない側にある人や物にぶつかる 歩いている時や、角を曲がる時などによく起こります。
  • □ テーブルの上の物を倒したり落としたりする 見えない側にあるコップや食器に気づかず、手をぶつけてしまいます。
  • □ 食事の際に片側だけ食べ残す お皿の半分が視野に入らないため、そこにある食べ物を認識できません。
  • □ 本や新聞が読みにくい 行を読み飛ばしたり、次の行の先頭が見つけられなかったりします。
  • □ 道路の横断が怖い 見えない方向から来る車や自転車に気づくのが遅れ、危険なことがあります。

また、視野が欠けること以外にも、以下のような症状が現れることがあります。

  • 空間認識の障害 物の位置や自分との距離感がつかみにくくなります。 階段の段差がわからなかったり、コップに水を注ぐのが難しくなったりします。
  • 幻視(げんし) 実際にはない光や模様、具体的な物などが見える症状です。 これは精神的な問題ではなく、脳の視覚に関わる部分が傷ついたことで起こる現象です。 特に脳卒中などで急に発症した場合に見られやすいと言われています。

さらに、ある研究では、認知症の方において最もよく見られる視野の異常が半盲であり、特に左側の視野が見えにくくなるケースが多かったと報告されています。 ご自身やご家族に思い当たる症状があれば、早めに専門医に相談することが大切です。

半盲の検査・診断

半盲が疑われる場合、まず「どのように見えているか」を正確に評価します。 そして、原因となっている脳のトラブルを突き止める検査も同時に行います。 これらの検査を組み合わせ、的確な診断と適切な治療へとつなげます。

① 見え方の範囲を調べる「視野検査」

視野検査は、見える範囲のどこが、どのくらい見えないのかを調べる検査です。 ゲームのような感覚で受けられるものが多く、主に以下の2種類があります。

検査の種類

内容

静的視野検査

一点を見つめ、周りに光が見えたらボタンを押します。

視野の感度を細かく測定するのに適しています。

動的視野検査

中心に向かって動く光が見えた時点でボタンを押します。

視野全体の広がりを把握するのに役立ちます。

ただし、認知機能に不安がある方の場合、検査の信頼性が低くなることがあります。 ある研究では、認知症の方はそうでない方と比べて、視野検査の結果が全体的に悪くなることが報告されています。 これは、検査に集中することが難しくなり、正確な反応がしにくくなるためと考えられています。

② 原因を特定する「画像診断」

半盲の多くは脳の病気が原因で起こるため、脳の状態を詳しく調べる画像診断が非常に重要です。

  • MRI検査 磁力を使って脳の断面を詳しく撮影します。 脳梗塞や脳腫瘍といった、脳の細かな変化を見つけるのが得意です。
  • CT検査 X線を使って脳の断面を撮影します。 撮影時間が短いため、脳出血や頭のケガなどを素早く調べるのに向いています。

③ 日常生活への影響を評価

診断がついた後は、生活の中で何に困っているかを評価することも大切です。 この評価は、その後のリハビリテーションの方針を決める重要な情報となります。 半盲の方が失われた視野を補うための目の動きは、自然に身につくことは稀です。 しかし、専門家による訓練によって、見えない側を意識的に見る動きなどを習得できることがわかっています。 そのため、読書や歩行など、場面ごとの困りごとを詳しく評価することが、効果的なリハビリにつながるのです。

半盲の治療

半盲の治療は、まず原因となった脳卒中や脳腫瘍などの病気を治すことが基本です。 しかし、脳のダメージによって失われた視野は、完全には元に戻らないことも少なくありません。 そのため、残された視野を最大限に活用し、生活しやすくするためのアプローチが重要になります。

主な治療やリハビリには、以下の3つの柱があります。

① 見る練習をする「視覚リハビリテーション」

見えない側に素早く目を動かし、視野を補う練習を「視覚スキャニング訓練」と呼びます。 この訓練は、日常生活の様々な場面に合わせて行うことが効果的だと報告されています。

  • 物を探す練習 見えない側に意識的に目を配り、効率的に物を探す訓練をします。
  • 読書の練習 行の始まりを見つけたり、読み飛ばしを防いだりする目の動かし方を学びます。
  • 安全に歩く練習 人や障害物にぶつからないよう、周囲を広く見るための訓練をします。

ある研究によると、こうした場面ごとに適した効率的な目の動かし方は、自然に身につくことが少ないとされています。 そのため、専門家の指導のもとで正しい目の動かし方を繰り返し練習することが、安全な生活への近道となります。

② 道具や工夫で補う「代償手段」

リハビリと並行して、便利な道具を使ったり、生活を少し工夫したりすることも有効です。

  • プリズム眼鏡 特殊なレンズを使い、見えない側の景色を見えている視野の端に映し出すメガネです。 これにより、視野の端に人や物が近づいてきたことに気づきやすくなります。
  • 日常生活の工夫 食事の際は、見えない側にあるお皿を意識的に確認したり、テーブルを回したりします。 歩くときは、見えている側に人と並んで歩くと、より安全になります。

③ 新しい可能性を探る「薬物療法」

半盲の治療はリハビリが中心ですが、薬による治療の可能性も研究されています。 例えば、脳卒中が原因の半盲の患者さんを対象にしたある研究報告があります。

「フルオキセチン」という薬を使ったグループでは、使わなかったグループに比べて、視野の回復に良い傾向が見られました。 特に、全く見えなかった部分が完全に見えるようになった人の割合は、薬を使ったグループで60%にのぼったとされています。(使わなかったグループでは14%)

この治療はまだ研究段階ですが、将来の新しい選択肢として期待されています。 どの方法がご自身に合っているかは、症状や原因によって異なります。 主治医やリハビリの専門家とよく相談し、最適な治療方針を決めていきましょう。