上腕骨近位端骨折

転んで手や肩をついた後、腕の付け根に激しい痛みが走る…。それは「上腕骨近位端骨折」かもしれません。この骨折は決して珍しくなく、全骨折の約5%を占め、特に高齢の方にとっては足の付け根、手首に次いで3番目に多い骨折です。

「骨が折れたら、手術で治すのが一番」そう考えていませんか?しかし、最近の研究では、手術をしても、しなくても腕の機能回復に大きな差はないという結果が報告されています。さらに、手術を行うと合併症のリスクが約3.3倍にも高まるという衝撃的なデータもあるのです。

この記事では、上腕骨近位端骨折の症状や原因から、ご自身やご家族にとって後悔しない治療法を選ぶための重要なポイントまでを、専門的な知見を交えて詳しく解説します。

上腕骨近位端骨折の概要

上腕骨近位端骨折とは、腕の付け根の部分、つまり肩関節のすぐ近くで骨が折れてしまうことです。

この骨折は、すべての骨折の約4〜5%を占めており、決して珍しいものではありません。特に高齢の方の骨折では、足の付け根や手首に次いで、3番目に多い骨折となっています。

転んで手や肩をついたときに発生することがほとんどで、骨がもろくなる「骨粗しょう症」があると、より骨折しやすくなります。

▼上腕骨近位端骨折のポイント

  • 発生しやすい人
    骨粗しょう症を持つ高齢の女性に特に多いといわれています。
  • 主な原因
    ほとんどが転倒によるものです。
  • 若い人の場合
    スポーツや交通事故など、非常に強い力が加わった際に起こります。

治療には、手術をしない「保存治療」と、金属で固定する「手術治療」があります。

骨のずれが大きいと手術が考えられますが、手術をすれば必ず腕の動きが良くなるわけではありません。

最近の研究では、手術をしない治療と比べても、腕の動きの回復に大きな差はなかったと報告されています。

さらに、手術を行うと合併症が起こる可能性が、手術をしない場合に比べて約3.3倍高くなるというデータもあります。

そのため、骨折の状態や年齢、普段の生活の様子などを総合的に判断し、一人ひとりに合った治療法を慎重に選ぶことが大切です。

上腕骨近位端骨折の種類

上腕骨近位端骨折は、骨の折れ方によっていくつかの種類に分けられます。

どの種類の骨折かによって治療の方針が大きく変わるため、骨折の状態を正しく把握することがとても大切です。

この骨折は、主に骨がいくつのパーツ(骨片)に分かれたかによって分類されます。

  • 2パート骨折
    骨が2つのパーツに分かれた状態です。
  • 3パート骨折
    骨が3つのパーツに分かれた状態です。
  • 4パート骨折
    骨が4つ以上のパーツに分かれた状態です。

数字が大きくなるほど、骨折は複雑で重症であると判断されます。

特に「4パート骨折」のように骨が細かく砕けてしまった場合は、注意が必要です。

骨の頭の部分への血の流れが悪くなり、骨が栄養不足で弱ってしまう「骨頭壊死(こっとうえし)」という状態になる可能性も高くなります。

骨折の状態によっては手術が必要になりますが、その手術の方法にも種類があります。

例えば、骨折した部分に到達するためのアプローチ(皮膚を切って骨まで入っていく道筋)には、主に2つの方法があります。

  • 三角筋胸筋アプローチ(DPアプローチ)
    肩の前側にある筋肉と筋肉の間から入る方法です。
  • 三角筋分割アプローチ(DSアプローチ)
    肩の外側にある三角筋という筋肉を部分的に分けて入る方法です。

複数の研究結果をまとめた報告によると、筋肉を分けて入るDSアプローチは、筋肉の間から入るDPアプローチに比べて手術時間が短く、出血量も少ない傾向があるとされています。

また、DSアプローチは手術後の早い段階で日常生活の動作が改善しやすいというデータもあります。

ただし、長期的に見ると、どちらの方法でも最終的な肩の機能に大きな違いはないと報告されています。

このように、骨折の細かな種類や患者さんの体の状態に合わせて、最適な治療法が選択されます。

上腕骨近位端骨折の原因

上腕骨近位端骨折が起こる原因は、骨の強さが大きく関わるため、年齢によって異なります。

ご高齢の方と若い方では、骨折に至る状況がまったく違います。

高齢者の場合

ご高齢の方では、骨折のほとんどが「転倒」によって起こります。

研究データによると、この骨折の8〜9割は転倒が原因とされています。

  • 骨粗しょう症(こつそしょうしょう)
    ご高齢の方、特に女性は骨がもろくなる「骨粗しょう症」になっていることが多く、骨折の大きな原因となります。骨粗しょう症は、骨の中がスカスカになって強度が低下する病気です。そのため、家の中でつまずいたり、ベッドから落ちたりといった、比較的軽い転倒でも骨が折れてしまいます。統計上、女性は男性の3〜4倍もこの骨折を起こしやすいと報告されています。

若い方の場合

若い方の骨は密度が高く丈夫なため、軽い転倒で折れることはまれです。

交通事故や、ラグビーや柔道といった激しいスポーツ中の衝突など、非常に強いエネルギーが肩に加わったときに発生します。

  • 交通事故
  • ラグビーやアメリカンフットボール、柔道などのコンタクトスポーツ
  • スキーやスノーボードでの転倒

原因によって治療の選択は変わる

転倒の仕方や事故の状況によって、骨のずれ(転位)の程度も変わります。

骨が大きくずれている場合は手術が検討されますが、最近の研究では、手術と手術をしない治療(保存治療)を比べても、腕の動きの回復に大きな差はなかったと報告されています。

むしろ、手術を行うと合併症が起こる可能性が、手術をしない場合に比べて約3.3倍高くなるというデータもあります。

そのため、骨折の原因や骨の状態、年齢、普段の生活の様子などを総合的に判断し、一人ひとりに合った治療法を選ぶことが非常に重要です。

上腕骨近位端骨折の症状

転んだり肩をぶつけたりした後、腕の付け根に強い痛みが出るのが最も代表的な症状です。

骨が折れた腕は、自分で動かすことができなくなります。 そのため、痛くない方の手で腕を支えるような姿勢をとることが多くなります。

時間がたつにつれて、骨折した部分からの内出血が皮膚の下に広がります。 肩から胸、そして腕にかけて、広い範囲に紫色のアザ(皮下出血斑)が見られるようになります。

また、肩全体がパンパンに腫れてくることもあります。 しかし、この骨折は体の深い部分で起こるため、腫れがはっきりしない場合もあるので注意が必要です。

神経が傷つくことで起こる症状

肩の周りには、腕を動かすための大切な神経がいくつか走っています。 骨折の衝撃でこれらの神経が傷つくと、次のような症状が出ることがあります。

  • 感覚が鈍くなる
    肩の外側の皮膚を触っても、麻痺したように感じられます。これは「腋窩神経(えきかしんけい)」という神経が傷ついたサインかもしれません。
  • 力が入らない
    腕を上げたり、外側にひねったりする筋力が弱くなります。これも神経が傷ついたことで起こる症状の一つです。

見た目に骨のずれが分かりにくいことも少なくありません。 しかし、以下のような症状が一つでも当てはまる場合は、骨折を考えてすぐに病院を受診しましょう。

【骨折を疑う症状チェック】

  • 転んだ後、腕の付け根がひどく痛む
  • 腕を動かせない、または動かすと激痛が走る
  • 肩から腕にかけて、紫色のアザが広がってきた
  • 肩の周りの感覚が鈍い、または力が入らない

これらの症状から骨折の重症度を判断し、治療の方針を決めます。 手術をしない治療で改善することも多いですが、まずは専門医の診察を受け、ご自身の状態に合った治療法を選択することが重要です。

上腕骨近位端骨折の検査・診断

転んだり肩をぶつけたりした後、ひどい痛みで腕が動かせないときは、腕の付け根の骨が折れているかもしれません。

見た目の腫れが少なくても、骨折していることがあるため、まずは病院で正しい検査を受けることが非常に大切です。

骨の状態を正確に知るために、いくつかの画像検査を行います。

  • レントゲン検査
    まず基本となるのが、骨の写真を撮るレントゲン検査です。骨折があるかどうか、どのあたりで折れているのかを確認します。骨の様子をいろいろな角度から詳しく見るために、複数の方向から撮影することが一般的です。
  • CT検査
    レントゲンだけではわかりにくい骨のずれや、骨がいくつに砕けているかを詳しく調べるために行います。この情報は、手術をするか、手術をしない治療にするか、という治療方針を決める上で非常に重要です。最近の研究では、手術と手術をしない治療を比べても、腕の動きの回復に大きな差はなかったと報告されています。そのため、CT検査で骨折の状態を正確に把握し、一人ひとりに合った治療法を選ぶことがとても大切です。
  • MRI検査・超音波(エコー)検査
    この骨折では、肩を動かす大切な筋肉やスジ(腱板)を同時に傷つけてしまうこともあります。研究データによると、この骨折をした方の20~50%に腱板の損傷がみられたと報告されています。そのような損傷が疑われる場合に、骨以外の部分の状態も確認します。

これらの検査によって骨折の状態を正しく評価し、最適な治療へとつなげていきます。

上腕骨近位端骨折の治療

上腕骨近位端骨折の治療には、手術をしない「保存治療」と手術で骨を固定する「手術治療」の2つがあります。

どちらの方法を選ぶかは、骨のずれの大きさや骨の状態、年齢、普段の生活の様子などを総合的に考えて決めます。

手術をしない「保存治療」

骨のずれが小さい場合や、ご高齢の方、手術が体に大きな負担となる方などに選ばれることが多い治療法です。

  • 治療の進め方
    三角巾やアームスリングという腕をつるす道具で腕を固定し、骨が自然にくっつくのを待ちます。骨の状態を見ながら、痛みのない範囲で少しずつ肩や肘を動かす練習(リハビリ)を始めます。

最近の研究では、骨にずれがある場合でも、手術をした場合と腕の動きの回復に大きな差はなかったと報告されています。

また、手術を行うと合併症が起こる可能性が、手術をしない場合に比べて約3.3倍高くなるというデータもあります。

そのため、手術に伴うリスクを避けられるという大きなメリットがあります。

手術をする「手術治療」

骨のずれが大きい場合や、若い方、スポーツなど活発な生活に戻りたいと考える方に検討される治療法です。

手術方法

内容

金属による固定術

骨折した部分を元の位置に戻し、金属の板(プレート)や釘(髄内釘)で固定します。

人工関節置換術

骨がバラバラに砕けてしまった場合や、骨に栄養を送る血管が傷ついて骨が弱ってしまう可能性がある場合に、骨折した部分を人工の関節に入れ替えます。特に高齢者ではこの方法が選ばれることがあります。

特にご高齢の方で人工関節の手術を行う場合、けがをしてから早い段階で手術を行った方が、治療後の経過が良いというデータもあります。

どの治療法が良いかは一人ひとり異なります。医師とよく相談し、ご自身の希望や生活スタイルに合った方法を選びましょう。