上腕骨内顆骨折

転んで手をついた、あるいは野球の投球などでひじを酷使した際に走る激しい痛み。それは「上腕骨内顆骨折」という、ひじの内側の骨が折れるケガのサインかもしれません。この骨折は比較的まれですが、近くの神経を傷つけると指にしびれが残るなど、決して侮れない症状を引き起こすことがあります。

一方で、治療法は一つではありません。例えば、60歳以上の方を対象としたある研究では、手術をしない治療法でも2年後の腕の機能に大きな差はなかったと報告されています。この記事では、骨折の原因や種類、そして手術の有無を含めた治療の選択肢について詳しく解説します。ご自身やご家族にとって最適な治療法を知るための一助としてください。

上腕骨内顆骨折の概要

上腕骨内顆骨折(じょうわんこつないかこっせつ)とは、ひじの内側にある出っ張った骨が折れるケガです。骨折全体のなかでは、比較的まれな骨折とされています。

この骨折は、転んでひじを強くぶつけたり、手をついたりしたときに起こります。また、野球の投球動作のように、手首を曲げる動きをくり返すスポーツでも発生することがあります。これは、筋肉が骨を強く引っ張ることで起こる骨折です。

治療の方法は、骨のずれの大きさや年齢などによって変わります。例えば、60歳以上の方の上腕骨の骨折に関するある研究では、手術をしなくても腕の機能が回復することが報告されました。手術で金属の板で固定する治療と、ギプスなどで固定する治療(保存療法)とを比較したところ、2年後の腕の機能に大きな差はみられなかったのです。

もちろん、骨折の状態は一人ひとり違うため、どの治療法が良いかは専門の医師による診断が不可欠です。ご自身の状態に合った治療法を、医師とよく相談して決めていくことが大切です。

上腕骨内顆骨折の種類

上腕骨内顆骨折は、折れ方や年齢によっていくつかの種類に分けられます。 どの種類の骨折かによって治療の方針が変わるため、分類はとても大切です。

主に「骨のずれの大きさ」と「年齢」という、2つの視点で分類されます。

1. 骨のずれの大きさによる分類

骨折した骨のかけらが、元の位置からどれくらい動いているかで分けます。

  • ずれが小さい骨折
  • 骨は折れていますが、かけらが元の位置からほとんど動いていない状態です。
  • ずれが大きい骨折
  • 骨のかけらが大きく動き、元の位置からずれてしまっている状態です。
  • ひじの関節が外れてしまう「脱臼」をともなうこともあります。
  • 関節内骨折
  • 折れた骨のかけらが、ひじ関節の中に入り込んでしまう状態です。
  • この場合、ひじの曲げ伸ばしが難しくなることがあります。

2. 年齢による分類(子どもと大人)

骨の成長が終わっているかどうかで、骨折の特徴や治療法が異なります。

子どもの骨折

大人の骨折

特徴

骨の端にある「成長軟骨」という

柔らかい部分で折れることがあります。

交通事故や転落など、より大きな

エネルギーで折れることが多いです。

治療法

手術では、細い針金(K-ワイヤー)

で骨を固定することが多いです。

金属の板(プレート)とネジで

固定する手術が一般的です。

子どもの骨折に関するある研究では、8歳以下の子どもの方が、9歳以上の子どもに比べて手術後のひじの動きが良くなる傾向が報告されています。

一方、大人の手術では、プレートを1枚使うか2枚使うかで、骨がつくまでの期間などに大きな差はないとされています。しかし、ひじの先端に近い骨折では、プレートを2枚使う方が合併症のリスクを高める可能性も指摘されています。

このように、骨折の状態は一人ひとり違うため、レントゲン写真などで詳しく確認し、その人に合った治療法を選ぶことが大切です。

上腕骨内顆骨折の原因

ひじの内側にある骨が出っ張っている上腕骨内顆骨折。 この骨折が起こる原因は、大きく2つのパターンに分けられます。 一つは「一度の大きな力」、もう一つは「小さな力の積み重ね」です。

1. 一度の大きな力で折れる場合

転んだり、どこかに強くぶつけたりしたときに起こる骨折です。 具体的には、以下のような状況で発生しやすくなります。

  • 転んで手をついたとき 地面からの強い衝撃が、手首からひじへと伝わって骨が折れます。
  • ひじを直接ぶつけたとき コンクリートの壁や床などに、ひじの内側を直接打ちつけます。

特に、成長期のお子さんは骨がまだ柔らかいため、大人より折れやすいです。 また、高齢の方は骨がもろくなっているため、軽い転倒でも骨折に至ります。

高齢者の骨折治療は複雑で、さまざまな研究が進められています。 例えば、肩に近い部分の骨折(上腕骨近位部骨折)の手術では、 使う部品が違っても治療結果に大きな差はないという報告もあります。 このように、年齢や骨の状態を考えて治療法を選ぶことが大切なのです。

2. 小さな力の積み重ねで折れる場合(剥離骨折)

スポーツなどで同じ動きを繰り返すことで、骨折することもあります。 これは「剥離骨折(はくりこっせつ)」と呼ばれる種類の骨折です。

ひじの内側には、手首を手のひら側に曲げるための筋肉がついています。 野球の投球やテニスのショットなどの動作を繰り返すと、 この筋肉が骨を何度も強く引っ張り、ついには骨の一部がはがれてしまいます。

一度の力は小さくても、負担が積み重なることで骨折につながるのです。 スポーツをするお子さんは特に注意が必要なケガと言えます。

上腕骨内顆骨折の症状

ひじの内側を骨折すると、体はSOSのサインを出します。 骨が折れた場所には、はっきりとした症状があらわれます。 自分でチェックできる、主な症状をみていきましょう。

【骨折の基本的なサイン】

  • 強い痛み ひじの内側が、ズキズキと強く痛みます。 腕を動かそうとすると、痛みがもっとひどくなります。
  • ひどい腫れ 折れた骨の周りでは、出血が起こり炎症が広がります。 そのため、ひじの内側がパンパンに腫れあがります。
  • 青あざ(皮下出血) 骨が折れると、近くの細い血管も傷つきます。 内側で血がにじみ、皮膚が青紫色に見えることがあります。
  • 動かせない 痛みや腫れがひどいため、ひじを曲げたり伸ばしたりできません。 無理に動かそうとすると、さらに骨がずれる危険もあります。

【特に注意が必要なサイン:神経のトラブル】

この骨折で注意したいのは、骨のすぐ近くを通る神経の損傷です。 神経が傷つくと、次のような症状が出ることがあります。

  • 薬指や小指がしびれる
  • 指が思うように動かせない
  • 手を握る力が弱くなる

これらの症状は、神経が圧迫されたり傷ついたりしている証拠です。 治療が遅れると、しびれや動かしにくさが残ることもあります。

合併症をできるだけ少なくし、ひじの機能をしっかり回復させることが大切です。 ある研究では、適切な治療でひじの動く範囲が正常に戻ることが示されています。 気になる症状があれば、自分で判断せず、すぐに病院を受診してください。

上腕骨内顆骨折の検査・診断

ひじを痛めて病院に来ると、まずはお話を聞かせていただきます。 いつ、どこで、どのようにケガをしたのかを詳しく教えてください。 その後、ひじの状態を優しく見て、触って確かめます。 痛いのに動かすのは辛いと思いますが、骨や神経の状態を知るための大切な診察です。

次に、骨の状態を詳しく見るためにレントゲン検査を行います。 レントゲンは、骨の「健康診断書」のようなもので、骨折の診断には欠かせません。 この検査によって、骨折しているかどうかをはっきりと確認します。

【レントゲン検査で見るポイント】

  • 骨折の場所と折れ方 骨のどの部分が、どのように折れているかを見ます。
  • 骨のかけらの位置 折れた骨のかけらが、関節の中に入っていないかを確認します。
  • 骨のずれの大きさ 骨が元の位置からどれくらいずれているかは、治療法を決める上で重要です。
  • 関節の外れ(脱臼) ひじの関節が一緒に外れていないかをチェックします。

これらの情報をもとに、ギプスで治すか、手術が必要かを判断します。 特に子どもの骨折では、年齢がその後の回復に影響することがあります。 ある研究では、8歳以下の子どもの方が手術後のひじの動きが良いと報告されています。 年齢によって骨の成長の仕方が違うため、将来を見すえた治療計画が大切なのです。

レントゲンだけでは分かりにくい複雑な骨折の場合は、 CT検査で骨を輪切りにした画像を撮り、さらに詳しく調べることもあります。 正確な診断が、後遺症なく治すためのとても重要な第一歩となります。

上腕骨内顆骨折の治療

上腕骨内顆骨折の治療法は、骨のずれの大きさで決まります。 大きく分けて「手術をしない治療」と「手術をする治療」の2つです。 どちらの方法を選ぶかは、骨折の状態や年齢などをみて慎重に判断します。

手術をしない治療(保存療法)

骨のずれがほとんどない、またはごくわずかな場合に選ばれる方法です。 まず、医師が手を使ってずれた骨を優しく元の位置に戻します。 その後、ギプスや添え木で腕を固定し、骨がくっつくのを待ちます。 固定する期間は、だいたい1ヶ月くらいが目安になります。

手術療法

骨のずれが大きい場合や、神経を傷つけている場合に手術を行います。 手術では、金属の板(プレート)やネジを使って骨を直接固定します。 これにより、骨を正しい位置でしっかりとくっつけることができます。

最近の研究では、手術で使うプレートが1枚でも2枚でも、 骨がうまくくっつかないリスクに大きな違いはないと報告されています。 しかし、ひじの先端に近い骨折では、プレートを2枚使う方が 合併症のリスクを高める可能性も指摘されており、慎重な判断が求められます。

治療法

このような場合に選ばれます

主な治療内容

手術をしない治療

(保存療法)

・骨のずれがほとんどない

・手で正しい位置に戻せる

ギプスや添え木で

約1ヶ月間固定する

手術療法

・骨のずれが大きい

・手で元に戻せない

・神経や血管を傷つけている

金属の板やネジなどで

骨を直接固定する

どちらの治療法を選んでも、骨がくっついた後のリハビリがとても大切です。 関節が固まったり、筋力が落ちたりするのを防ぐために行います。 自己判断で動かさず、専門家の指示に従ってリハビリを進めましょう。