お子さんの繰り返すまばたきや、止まらない咳払い。「わざとじゃない」と頭ではわかっていても、つい注意してしまい、後で自己嫌悪に陥る…そんな経験はありませんか?
その症状、もしかしたら「チック障害」かもしれません。チックは、しつけや育て方が原因ではなく、脳の機能的な特性によるもの。ご本人の意思ではコントロールが難しいのが特徴です。
実は、男の子に比較的多く見られる傾向や、近年の研究で指摘されている血液中のビタミンDとの関連性も報告されています。この記事では、チックの正しい知識と原因、ご家庭ですぐに実践できる対応方法から専門的な治療法までを、わかりやすく解説します。
チック障害の概要
チック障害は、自分の意思とは関係なく、体が動いたり声が出たりする状態がくり返し起こる病気です。「チック」や「チック症」とも呼ばれ、わざとやっているわけではありません。
これは、脳の機能的な特性が関係していると考えられており、医学的には「神経発達症」というグループに入ります。少し難しい言葉ですが、脳の働き方の「クセ」のようなものだと考えてみてください。
チックの症状には、次のような特徴があります。
具体的には、まばたきをくり返したり、顔をしかめたり、咳払いをしたりする症状がよく見られます。これらの症状は、ご本人がコントロールしようとしても、なかなか止められないのが特徴です。
チック症は、男の子に比較的多く見られる傾向があります。ある研究では、チック症の子どもは健康な子どもと比べて、男の子の割合が有意に高いことが報告されました。
また、最近の研究では、チック症のあるお子さんは血液中のビタミンD濃度が低い傾向にある、という報告もあります。しかし、ビタミンDの不足が直接の原因かどうかは、まだ詳しく研究が進められている段階です。
チック症は、正しい知識を持って適切に対応することで、症状を軽くし、日常生活を楽にすることが十分に可能な病気です。
チック障害の種類
チックの症状は、どのようにあらわれるかによって、いくつかの種類に分けられます。分類には、次の2つの見方があります。
- 症状のあらわれ方(動きか声か、単純か複雑か)
- 症状が続く期間
これらを組み合わせて、お子さんの状態を詳しく見ていきます。
症状のあらわれ方による分類
チックはまず、体の動きとして出る「運動チック」と、声や音として出る「音声チック」の2つに分けられます。
さらに、それぞれに短く単純なものと、長く複雑なものがあります。
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単純チック
(シンプルで短い動きや音)
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複雑チック
(複雑で長い動きや言葉)
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運動チック
(体の動き)
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・まばたき
・首をふる
・顔をしかめる
・肩をすくめる
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・とびはねる
・人や物にさわる
・においをかぐ
・自分をたたく
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音声チック
(声や音)
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・咳払い
・鼻をならす
・「んっ」「あっ」という短い声
・うなり声
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・意味のある言葉をくり返す
・他の人の言葉をまねる
・不適切な言葉を言う
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症状が続く期間による分類
チックの症状がどのくらいの期間続くかによって、診断名が変わります。これは治療の方針を考える上でとても重要です。
- 暫定的(一過性)チック症
運動チックか音声チック、またはその両方が出ますが、症状が出てから1年以内におさまります。
- 持続性(慢性)チック症
運動チックか音声チックのどちらか一方が、1年以上続きます。
- トゥレット症候群(トゥレット症)
複数の運動チックと、1つ以上の音声チックの両方が、1年以上続きます。
最近の研究では、症状が1年以内におさまる「暫定的チック症」のお子さんと、長く続く「トゥレット症候群」のお子さんでは、血液中のビタミンDの量に違いが見られたという報告もあります。
このようにチック症は、症状の種類や続く期間によって細かく分類され、それぞれのお子さんの状態に合わせた対応が必要になります。
チック障害の原因
チック障害がなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 いくつかの要因が、パズルのピースのように組み合わさって起こると考えられています。 まず大切なのは、しつけや育て方が原因ではないということです。 ご本人やご家族が、ご自身を責める必要はまったくありません。
主に、以下の3つの要因が複雑に関係していると考えられています。
- 体質的な要因(遺伝) ご家族にチック症の方がいると、ご本人も発症しやすい傾向があります。 これは「家族集積性」と呼ばれ、生まれ持った体質が関係していると考えられています。
- 脳の機能的な要因 脳の中で情報を伝える物質(神経伝達物質)のバランスが、一時的に乱れることが関係すると考えられています。 特に「ドーパミン」という物質の働きが注目されています。 最近の複数の研究をまとめた分析では、チック症のお子さんは血液中のビタミンD濃度が低い傾向にある、という報告も出ています。
- 環境的な要因 ストレスや心身の疲れ、睡眠不足などが症状の「きっかけ」になることがあります。 ただし、これらはチックを悪化させることはあっても、直接の原因ではありません。
このように、生まれ持った体質を背景にして、脳の機能的な特性や環境的な要因が影響しあい、チック症は発症すると考えられています。
チック障害の症状
チック障害の症状は、ご本人の意思とは関係なく、突然くり返し起こる「体の動き」や「声」のことです。これらは「動きのチック(運動チック)」と「声のチック(音声チック)」の2つに大きく分けられます。
さらに、それぞれのチックには、短く単純なものと、少し長く複雑なものがあります。
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単純なチック
(シンプルで短い動きや音)
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複雑なチック
(長く、意味があるように見える動きや言葉)
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動きのチック
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・まばたき
・顔をしかめる
・首を振る
・肩をすくめる
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・飛び上がる
・人や物にさわる
・自分を叩く
・物の匂いをかぐ
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声のチック
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・咳払い
・鼻をならす
・「んっ」「あっ」という短い声を出す
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・特定の言葉をくり返す
・場面に合わない不適切な言葉を言う
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多くの場合、3歳から8歳ごろに、まばたきなどの顔の周りの単純な動きから始まります。そして、症状の種類や場所は、時間とともに変わっていくことも少なくありません。
チックが起こる直前に、のどや体の一部に「むずむずする」「何かをしないといられない」といった違和感を感じることがあります。これを「前駆衝動(ぜんくしょうどう)」と呼び、この不快な感覚を解消するためにチックが出てしまうのです。
また、症状の強さや回数は、一日の中でも変わることがあります。緊張や疲れで症状が悪化することもあれば、逆にリラックスしている時に目立つこともあります。このように症状には波があるのが特徴です。
複数の研究をまとめた分析では、チック症は男の子に多く見られる傾向があることが報告されています。また、チック症のお子さんは、血液中のビタミンDが少ない傾向にあるという報告もありますが、詳しい関係はまだ研究が進められている段階です。
チック障害の検査・診断
チック障害の診断では、特別な機械を使った検査が必ず必要というわけではありません。 一番大切なのは、経験のあるお医者さんが、お子さんの様子を注意深く見て、ご本人やご家族のお話をじっくり聞くことです。
診断は、主に次のような流れで進められます。
- お話を聞くこと(問診)
いつから、どんなチック(まばたき、咳払いなど)が出ていますか?どんな時に症状が出やすいですか?ご本人が何に困っているか、などを詳しくうかがいます。
- 症状の観察
診察室での様子を見ながら、実際のチックの症状を確認します。リラックスしている時など、自然な状態での様子を見ることがとても大切です。
- 他の病気との見分け
チックと似た動きをする他の病気(てんかんなど)がないかを確認します。そのために、必要に応じて脳の波を調べる検査(脳波検査)や、頭の中の写真を撮る検査(MRIなど)を行うことがあります。
- 血液検査など
体全体の健康状態を確認するために、血液検査をすることもあります。最近の複数の研究をまとめた分析では、チック症のお子さんは血液中のビタミンDが少ない傾向にある、という報告も出ています。
これらの情報をすべて合わせて、専門の診断基準にもとづき、お医者さんがチック障害かどうかを慎重に判断します。 また、注意欠如・多動症(ADHD)や強迫症などが隠れていないかも一緒に確認し、一人ひとりに合った一番良い対応を考えていきます。
チック障害の治療
チック障害の治療で一番大切な目標は、症状を完全になくすことではありません。 チックの症状とうまく付き合いながら、ご本人が安心して日常生活を送り、自分らしく成長できるようにお手伝いをすることです。
治療は、症状の程度やご本人の困り具合に合わせて、いくつかの方法を段階的に組み合わせて行います。 基本的には、お薬を使わない方法から始めることが一般的です。
1. 心理教育と環境調整
まず、ご本人やご家族、学校の先生など、まわりの人たちがチック障害を正しく理解することが治療の第一歩です。 特に、次の点をみんなで知っておくことが大切です。
- わざとではないことを理解する チックは、脳の働き方のクセのようなもので、本人の意思では止められません。
- 症状を注意したり叱ったりしない 注意されると緊張してしまい、かえって症状が悪化することがあります。
- 安心できる環境を作る ストレスや疲れが症状のきっかけになることがあるため、リラックスできる時間と場所を確保することが重要です。
2. 行動療法
環境を整えても症状が改善せず、ご本人が困っている場合には行動療法を行います。 代表的なものに「ハビット・リバーサル(習慣逆転法)」があります。
これは、チックが出そうになる前の「むずむずする感じ」に気づく練習から始めます。 そして、チックの動きとは別の、目立たない動きをすることで、チックをやり過ごす方法を身につけていきます。 例えば、まばたきのチックが出そうになったら、代わりにゆっくりと目を閉じてみるといった練習です。
3. 薬物療法
行動療法などを行っても症状が重く、学校生活や友達との関係に大きな支障が出ている場合には、お薬を使った治療を考えます。
お薬は、脳の中の情報を伝える物質(特にドーパミン)の働きを調整し、チックの症状を和らげることを目指します。 ただし、日本では現在、チック症に対して正式に認められたお薬はないため、他の病気の治療薬を専門の医師の判断で慎重に使うことになります。
また、複数の研究をまとめた分析では、チック症のお子さんは健康なお子さんと比べて、血液中のビタミンDが少ない傾向にあることが報告されています。 ビタミンD不足が直接の原因かはまだ研究中ですが、バランスの良い食事や適度な日光浴は、心と体の健やかな成長にとって大切です。
どの治療法を選ぶかは、医師とよく相談しながら、一人ひとりの状況に合わせて決めていきましょう。