スタージ・ウェーバー症候群
約5万人から10万人に1人という、まれな病気をご存知でしょうか。スタージ・ウェーバー症候群は、生まれつき血管に異常が生じ、顔の赤いあざ(ポートワイン母斑)や、てんかん発作、失明リスクのある緑内障といった症状を引き起こす難病です。
この病気の原因は遺伝ではなく、お腹の中で偶然に起こる遺伝子の変化によるものです。さらに、患者さんの約10%は特徴的な顔のあざが見られず、見た目だけでは判断が難しいという事実もあります。
この記事では、スタージ・ウェーバー症候群の詳しい症状から原因、そして日々進歩を続ける最新の治療法までを詳しく解説します。病気への理解を深め、希望の光を見つける一助となれば幸いです。
スタージ・ウェーバー症候群の概要
スタージ・ウェーバー症候群は、生まれつき血管に異常が見られる病気です。 神経と皮膚に関わる「神経皮膚症候群」という病気のグループの一つで、 主に、顔の皮膚、脳、そして目に特徴的な症状があらわれます。
この病気が持つ主な特徴は、以下の3つのポイントにまとめられます。
- 顔の症状 ポートワイン母斑とよばれる、平らで赤いあざが顔にできます。
- 脳の症状 脳の表面をおおう膜の血管に異常(軟膜毛細血管奇形)が起こります。 これが原因で、てんかん発作や発達の遅れが見られることがあります。
- 目の症状 目の圧力(眼圧)が高くなる緑内障という病気を合併しやすいです。
これらの症状は、お母さんのお腹の中で体が作られる途中で起こります。 一部の細胞の遺伝子(GNAQ遺伝子)だけに変化が生じるためです。 そのため、ご両親から遺伝する病気ではないことがわかっています。
発症する頻度は約5万人から10万人に1人と、比較的まれな病気です。 てんかんや発達の遅れのほか、頭痛や体の麻痺などが起こることもあります。 だからこそ、早い段階で診断し、継続的な観察と管理がとても大切です。
最近では、病気の進行を予測したり治療の効果を判断したりするための 「目印(バイオマーカー)」を見つける研究が進んでいます。 この研究が進むことで、将来、さらに効果的な治療が見つかると期待されます。
スタージ・ウェーバー症候群の種類
スタージ・ウェーバー症候群は、症状の現れ方が一人ひとり異なります。 主な症状は「脳」「皮膚(顔の赤いあざ)」「目」の3つですが、 これらの症状が、どの組み合わせで現れるかによって分類されます。 この分類は、今後の治療方針を決める上でとても重要になります。
症状の組み合わせによって、大きく2つのタイプに分けられます。
- 完全型 脳、皮膚、目の3つすべてに症状が見られる最も典型的なタイプです。 具体的には、脳の血管の異常、顔の赤いあざ(ポートワイン母斑)、 そして緑内障などの目の症状がそろっている状態を指します。
- 不全型 脳・皮膚・目の3つのうち、1つまたは2つの症状だけが見られます。 例えば、この病気の特徴である顔の赤いあざが見られないこともあり、 実際に患者さんの約10%は、顔にあざがないことが報告されています。 そのため、見た目だけでは判断が難しいケースもあります。
症状の組み合わせの例を、以下の表にまとめました。
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種類 |
脳の症状 (けいれんなど) |
皮膚の症状 (顔の赤いあざ) |
目の症状 (緑内障など) |
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完全型 |
○ |
○ |
○ |
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不全型 |
○ |
× |
○ |
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不全型 |
○ |
○ |
× |
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不全型 |
× |
○ |
○ |
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不全型 |
○ |
× |
× |
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不全型 |
× |
○ |
× |
このように、スタージ・ウェーバー症候群といっても症状の現れ方は様々です。 どのタイプにあてはまるかを正確に知ることが、適切な治療への第一歩です。 専門の医師による詳しい検査を受け、診断を確定させることが大切です。
スタージ・ウェーバー症候群の原因
この病気の原因は、長い間はっきりとわかっていませんでした。 しかし、近年の研究によって、その仕組みが明らかになってきています。 原因は、お母さんのお腹の中で体が作られていく、ごく初期の段階にあります。
私たちの体を作る設計図である「遺伝子」に、偶然、変化が起こることが原因です。
- 原因となる遺伝子 GNAQ(ジーナック)という名前の遺伝子です。
- 変化の種類 「体細胞変異」とよばれる、体の一部の細胞だけに起こる変化です。
- 遺伝について ご両親から受け継がれるものではなく、遺伝する病気ではありません。
GNAQ遺伝子は、細胞が正しく働くための「信号」を送る大切な役割を担います。 しかし、この遺伝子に変化が起きると、信号のコントロールがうまくいきません。 その結果、血管を作るための命令に異常が生じてしまうのです。
このコントロールを失った信号が、脳や皮膚、目の細い血管を異常に作らせます。 この血管の異常が、顔の赤いあざや、てんかん、緑内障などの症状につながります。 原因の解明は、将来の新しい治療法を開発するための大きな一歩となっています。
スタージ・ウェーバー症候群の症状
スタージ・ウェーバー症候群の症状は、主に3つの場所にあらわれます。 それは「皮膚」「脳」「目」で、生まれつきの血管の異常が原因です。 ただし、すべての症状が全員に出るわけではなく、あらわれ方は様々です。
主な症状を、あらわれる場所ごとに見ていきましょう。
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場所 |
主な症状 |
具体的な内容とポイント |
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皮膚 |
ポートワイン母斑 (赤あざ) |
・生まれつきある、ワイン色の平らな赤あざです。 ・顔の片側(約75%)にできることが多いですが、 両側(約15%)や、あざがない場合(約10%)もあります。 |
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脳 |
てんかん発作 |
・最も多い症状で、患者さんの75~90%に起こります。 ・特に赤ちゃんの頃に初めて発作を起こすことが多いです。 ・お薬で発作を抑えるのが難しい場合もあります。 |
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発達の遅れや 行動の問題 |
・言葉の遅れや知的な発達がゆっくりになることがあります。 ・てんかん発作の重さや、脳の血管異常の広さに関係します。 |
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運動まひ |
・脳の血管に異常がある側とは反対側の手足に、 力が入りにくくなる「片麻痺」が起こることがあります。 |
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頭痛・片頭痛 |
・繰り返し起こる頭痛も、特徴的な症状の一つです。 ・患者さんの30~45%に見られます。 |
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目 |
緑内障 |
・目の圧力(眼圧)が高くなる病気です。 ・患者さんの30~70%に合併し、失明の原因にもなります。 ・生まれつきの場合と、成長してから発症する場合があります。 |
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脈絡膜血管腫 |
・目の奥にある膜に血管のかたまりができます。 ・視力が下がったり、見える範囲が狭くなったりします。 |
これらの症状は、神経と皮膚に影響が出る「神経皮膚症候群」の特徴です。 特に、てんかん発作が起こりやすいことは、この病気の大きな特徴です。 症状の進行を防いでより良い生活を送るためには、早期発見が大切です。 そして、専門の医師による継続的な観察と管理を始めることが重要になります。
スタージ・ウェーバー症候群の検査・診断
この病気の診断は、いくつかの検査を組み合わせて慎重に行います。 症状を詳しく確認し、脳や目の状態を正確に把握することが大切です。 パズルのピースを一つずつ集めるように、情報を集めて診断します。
主な検査には、次のようなものがあります。
- 画像検査(MRIなど) 脳の中を写真のように詳しく見て、血管の状態を調べる検査です。 脳の表面に、症状の原因となる血管の異常がないかを確認します。
- 目の検査 目の圧力(眼圧)が高くなる緑内障などがないかを調べます。 目の奥の状態も詳しく観察し、視力を守るために大切な検査です。
- 脳波検査 てんかん発作が見られる場合に行う、脳の電気信号を調べる検査です。 脳のどの部分から異常な信号が出ているかを特定するのに役立ちます。
これらの検査結果と症状を、国の定める診断基準にあてはめます。 「基本所見」と「症状」の2つのグループを組み合わせて判断します。
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分類 |
項目 |
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A. 基本所見 |
1. 脳のMRI検査で血管の異常が認められる 2. 顔に赤あざ(ポートワイン母斑)がある 3. 目の奥の血管腫または緑内障がある |
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B. 症状 |
1. てんかん 2. 発達の遅れ 3. 手足のまひ 4. 視力や見える範囲(視野)の異常 5. 片頭痛 |
Aのグループから1つ以上、Bのグループから2つ以上で確定診断です。
この病気は、早く診断して適切な対応を始めることがとても重要です。 最近の研究では、「バイオマーカー」という目印を見つける研究が進んでいます。 これは、病気の状態や治療への反応を知るための特別な「しるし」です。 将来、この目印によって、より早い診断や個人に合った治療が期待されます。
スタージ・ウェーバー症候群の治療
この病気をすっかりなくしてしまう方法は、残念ながらまだ見つかっていません。 そのため治療は、あらわれている症状を軽くして、うまく付き合っていくことが目標です。 一人ひとりの症状に合わせて、専門の先生たちがチームを組んで治療を進めます。
症状ごとに行われる治療
皮膚、脳、目にあらわれる主な症状と、それに対する治療法は以下の通りです。
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症状 |
主な治療法 |
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てんかん発作 (脳の症状) |
・けいれんを抑えるお薬(抗てんかん薬) ・お薬で効果が不十分な場合の手術 |
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ポートワイン母斑 (顔の赤あざ) |
・レーザー治療 |
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緑内障など (目の症状) |
・目の圧力を下げる手術 ・お薬による治療 |
てんかん発作への新しい挑戦
てんかん発作には、まず「抗てんかん薬」というけいれんを抑えるお薬を使います。 しかし、お薬だけでは発作を十分に抑えられない難しいケースも少なくありません。 その場合は、脳の異常な部分を取り除く手術を考えることもあります。
最近の研究では、病気の原因となる「体の信号の異常」をねらう治療が進んでいます。 mTOR(エムトール)阻害剤やカンナビジオール(CBD)といった新しいお薬が、 関連する他の病気でてんかん発作を減らす効果を示し、注目されています。
目の症状への新しい可能性
目の圧力が上がる緑内障には、手術が中心となります。 また、目の奥にできる血管のかたまりや、それに伴う緑内障に対して、 もともと血圧を下げるために使われる「プロプラノロール」という飲み薬が、 症状を改善させる可能性がある、という研究結果が報告されました。 この研究では、患者さんの94%で目の圧力が下がったとされています。
このように、治療法は日々進歩しており、選択肢も増えています。 どの治療が最適かは、症状の重さや年齢によって一人ひとり異なります。 専門の先生としっかり相談しながら、一番良い方法を見つけていきましょう。













