アンジェルマン症候群

お子さんの発達がゆっくりだと感じたり、理由もないのに頻繁に笑ったりする様子に、気づいたことはありませんか。その一見すると「幸福そうなふるまい」は、もしかしたら「アンジェルマン症候群」という生まれつきの病気が持つ、特徴の一つかもしれません。

アンジェルマン症候群は、およそ1万2,000人から2万人に1人の割合で発症するといわれる、遺伝子の変化による疾患です。国の指定難病にも定められており、主に神経の発達に影響があらわれ、知的な発達や運動機能に遅れが見られることがあります。

この記事では、アンジェルマン症候群の具体的な症状や原因、そして治療法について詳しく解説します。病気への正しい理解は、ご家族の不安を和らげ、適切なサポートへと繋がります。お子さんらしい生活を支えるための第一歩として、ぜひご一読ください。

アンジェルマン症候群の概要

アンジェルマン症候群は、生まれつきの遺伝子の変化によって起こる病気です。 主に神経の発達に影響があらわれ、知的な発達や運動機能に遅れが見られます。 およそ1万2,000人から2万人に1人の割合で発症するといわれています。 日本では国の指定難病や小児慢性特定疾病に定められている疾患です。

この病気には、以下のようなお子さんによく見られる特徴があります。

  • 楽しそうなふるまい 特に理由がなくてもよく笑ったり、興奮しやすかったりします。 これは「幸福そうな行動」として知られる、この病気の特徴です。
  • 発達がゆっくり進む 知的な発達や、歩くといった運動の発達がゆっくりです。 言葉の理解はできても、意味のある言葉を話すのが難しい傾向にあります。
  • 動きの特徴 体のバランスをとるのが苦手で、ふらふらと歩くことがあります(歩行失調)。 また、手足が小刻みに震える様子が見られることもあります。

生後6ヶ月ごろから発達の遅れが目立ち始めますが、この時期に診断は困難です。 1歳を過ぎると、上で述べたような特徴がよりはっきりと現れてきます。 原因は、お母さんから受け継いだ15番染色体にある遺伝子の機能不全です。 適切なサポートや治療を受ければ、その人らしい生活を送ることができます。 寿命は多くの人とほとんど変わらないとされています。

アンジェルマン症候群の種類

アンジェルマン症候群は、原因となる遺伝子の変化の仕方によって、いくつかの種類(型)に分けられます。 どの種類にあたるかは、専門的な遺伝学的検査で調べることが可能です。

根本的な原因は、お母さんから受け継いだ15番染色体の一部です。 この中にある「UBE3A」という遺伝子が、正しく働かなくなることで発症します。 この遺伝子が働かなくなるパターンは、主に4つあります。

種類(型)

原因のわかりやすい説明

割合の目安

欠失(けっしつ)型

母親由来の15番染色体の一部が、ごっそりとなくなっている状態です。

約70%

UBE3A遺伝子変異型

UBE3A遺伝子そのものに変化が起き、うまく働かなくなっている状態です。

約10~15%

父親性片親性ダイソミー型

本来は父母から1本ずつ受け継ぐ15番染色体を、2本とも父親から受け継いでいる状態です。

約5%

インプリンティング欠損型

遺伝子の働きを調整する仕組みに問題があり、UBE3A遺伝子のスイッチがオフになっている状態です。

約5%

これらの種類を特定するためには、分子遺伝学的検査が行われます。 「DNAメチル化解析」や「UBE3A遺伝子配列解析」という検査です。 これらの検査を組み合わせることで、約90%の方で原因を特定できます。

しかし、症状が典型的であっても、約10%の方は原因が特定できないこともあります。 原因の種類を特定することは、今後の症状の出方を予測するのに役立ちます。 また、ご家族が遺伝に関する相談(遺伝カウンセリング)を受ける際にも大切な情報となります。

アンジェルマン症候群の原因

私たちの体は、とても精密な「設計図」をもとに作られています。 この設計図は「遺伝子」といい、「染色体」という束に保管されています。

アンジェルマン症候群は、この設計図の一部に変化が起こる病気です。 具体的には、46本ある染色体のうち15番染色体に原因があります。 この染色体の中にある「UBE3A」という遺伝子がうまく働かないのです。

人の遺伝子は、お父さんとお母さんから1つずつ受け継ぐのが基本です。 しかしUBE3A遺伝子には、脳では母親由来のものだけが働く特殊な性質があります。 父親から受け継いだUBE3A遺伝子は、脳内ではお休みしている状態です。

そのため、何らかの理由で母親由来のUBE3A遺伝子の機能が失われると発症します。 原因は主に4つのパターンに分けられ、専門的な遺伝学的検査で特定可能です。 研究によれば、これらの検査で約9割の方の原因がわかると報告されています。

原因のパターン

わかりやすい説明

割合の目安

欠失(けっしつ)

お母さん由来の15番染色体の一部が、設計図ごとなくなっている状態です。

約70%

UBE3A遺伝子変異

UBE3A遺伝子の情報そのものに変化があり、うまく働かなくなっています。

約10~15%

父親性片親性ダイソミー

15番染色体を2本ともお父さんから受け継ぎ、母親由来のものがない状態です。

約5%

インプリンティング欠損

遺伝子のスイッチを入れる「印」に異常があり、働きがオフになっています。

約5%

遺伝子の変化と聞くと、ご両親はご自身を責めてしまうかもしれません。 しかし、ほとんどの場合は遺伝ではなく、偶然に起こる変化が原因です。 それでも、約10%の方は今の検査では原因が特定できないこともあります。

アンジェルマン症候群の症状

アンジェルマン症候群の症状は、生まれた直後には分かりません。 生後6ヶ月頃から、発達の遅れが少しずつ目立ち始めます。 そして、1歳を過ぎると病気に特徴的な症状がはっきりしてきます。

症状の現れ方には個人差がありますが、主に3つの特徴があります。 お子さんの様子で気になる点がないか、確認してみましょう。

発達や動きに関する特徴

脳の神経の発達がゆっくりなため、発達や動きに特徴が現れます。

  • 発達の遅れ 首のすわりやお座り、歩き始めなどが同年代の子よりゆっくりです。 多くのご家族が最初に気づく変化かもしれません。
  • 言葉の遅れ 言葉を理解することはできても、意味のある言葉を話すのは難しいです。 これは「重度の言語障害」で、この病気の大きな特徴です。
  • 動きのぎこちなさ 体のバランスが取りにくく、ふらふらと歩くことがあります。 これを「歩行失調(ほこうしっちょう)」と呼びます。 また、手足が小刻みに震える様子が見られる場合もあります。

行動や様子の特徴

人との関わり方や普段の様子にも、いくつか特徴が見られます。

  • よく笑う、興奮しやすい 特に理由がなくても頻繁に笑ったり、楽しそうにしたりします。 これは「幸福そうな行動」として知られる、特徴的な様子です。
  • 落ち着きがない じっとしているのが苦手で、手をパタパタ動かすことがあります。 常に動き回っているように見えるかもしれません。
  • 睡眠の問題 夜なかなか寝付けない、または夜中に何度も目を覚まします。 睡眠のリズムが乱れやすい傾向にあるのも特徴です。

からだつきの特徴

てんかん発作や、お顔つきなど、身体にも特徴が見られます。

  • てんかん発作 多くの患者さんで、けいれんを伴うてんかん発作が見られます。 この症状に対しては、お薬による治療が必要になることが多いです。
  • 頭の大きさと顔つき 年齢に比べて頭のサイズが小さい「小頭症(しょうとうしょう)」が見られます。 また、突き出たあご、大きな口、歯と歯のすき間が広いなど、 お顔つきにも特徴が現れることがあります。

これらの症状がすべての方に当てはまるわけではありません。 症状の種類や程度は一人ひとり異なり、個人差が大きいものです。

アンジェルマン症候群の検査・診断

アンジェルマン症候群の診断は、専門家が定めた基準に沿って慎重に行います。 お子さんの日頃の様子や発達の状況を確認する診察が、最初のステップです。 診察と、原因を特定するための遺伝学的検査を組み合わせて診断を確定します。

まず医師は、お子さんによく見られる特徴がないか、詳しく診察します。 特に、以下の症状は診断の重要な手がかりとなります。

  • 発達の状況 言葉の発達がゆっくりで、意味のある言葉を話すのが難しい。
  • 行動の特徴 理由がなくてもよく笑ったり、楽しそうに興奮したりする。
  • 動きの特徴 体のバランスをとるのが苦手で、ふらつくように歩く(歩行失調)。
  • てんかん発作 けいれんを伴う発作がみられる。

これらの特徴からアンジェルマン症候群が疑われる場合、診断を確定します。 そのために、血液を使った遺伝学的検査で15番染色体の状態を調べます。 検査は、原因を突き止めるために段階的に進められることが一般的です。

  • DNAメチル化検査 遺伝子の働きを調整する「しるし」の異常を調べる検査です。 研究によると、この検査だけで約8割の方の原因がわかります。
  • UBE3A遺伝子配列解析 メチル化検査で異常がなくても、遺伝子そのものに変化がないか調べます。 この詳しい検査で、さらに約1割の方の原因が特定できるとされます。

これらの検査を組み合わせることで、約9割の方で遺伝子の変化が見つかります。 しかし、症状が典型的でも、約1割の方は原因が特定できないこともあります。 医師は診察の結果と検査結果をあわせて、最終的な診断を確定します。

アンジェルマン症候群の治療

今の医学では、アンジェルマン症候群を根本から治す方法はありません。 しかし、症状を和らげ、毎日を過ごしやすくするための治療はあります。 治療の目標は、ご本人とご家族がより快適な生活を送れるようにすることです。 様々な専門家がチームを組み、お子さんの成長を一緒に支えていきます。

治療は主に、以下の3つの柱で進められます。

  • お薬による治療
  • リハビリテーション(療育)
  • 生活の中でのケアと合併症への対応

お薬による治療

てんかん発作は、この病気のお子さんの多くに見られる症状です。 発作を予防し、回数を減らすために「抗てんかん薬」を使います。 また、睡眠リズムが乱れやすい場合は、眠りを助けるお薬も使われます。

ただし、お薬を使う際には注意も必要です。 特徴的な体の震えをてんかん発作と間違えないことが大切です。 専門の医師が慎重に判断し、お薬を使いすぎないように調整します。

リハビリテーション(療育)

お子さんの発達をサポートするために、リハビリテーションが重要です。 「療育(りょういく)」とも呼ばれ、遊びや訓練を通して能力を伸ばします。

  • 理学療法 バランスをとって歩く練習など、基本的な運動能力を高めます。 足首が不安定な場合は、特別な靴や装具を使うこともあります。
  • 作業療法 着替えや食事など、日常生活に必要な動作の練習をします。 手先を上手に使えるように、遊びを取り入れながら訓練します。
  • 言語療法 言葉で気持ちを伝えるのが難しいため、他の方法を探します。 絵カードやジェスチャー、タブレット端末などを使って、 意思を伝える練習をすることが、とても大切になります。

生活の中でのケアと合併症への対応

成長とともに見られることがある、体の変化にも丁寧に対応していきます。

  • 食事の問題 食べ物が胃から食道へ逆流したり、便秘になったりしやすいです。 食事の工夫やお薬で、お腹の調子を整えます。
  • 骨や関節の問題 背骨が横に曲がる「側弯症(そくわんしょう)」に注意が必要です。 コルセットのような装具を使ったり、手術を考えたりします。
  • 目の問題 左右の目の向きがずれる「斜視(しゃし)」が見られることがあります。 眼科で定期的に診察を受け、必要なら治療を行います。

これらの治療は、お子さんの成長に合わせて内容を見直していきます。 ご家族だけで悩まず、医療チームと一緒に歩んでいくことが大切です。