びまん性脳腫脹・浮腫

ご家族が頭を強く打った後、「脳が腫れている」と説明され、不安を感じていませんか。びまん性脳腫脹・浮腫は脳全体が腫れる危険な状態で、特に小児では頭部外傷後の5〜40%に発生すると報告されています。

この記事では、びまん性脳腫脹・浮腫が起こる原因や注意すべき症状、そして集中治療室で行われる治療法を詳しく解説します。薬物療法から減圧開頭術といった外科手術、脳梗塞治療後にみられるケースにも触れていきます。

病態への正しい知識を得ることは、現在の状況や今後の治療方針を把握し、医師からの説明をより深く理解する一助となります。

びまん性脳腫脹・浮腫の概要

びまん性脳腫脹・浮腫とは、脳全体が過剰な水分によって腫れあがる状態です。

脳は硬い頭蓋骨で覆われているため、腫れても逃げ場がありません。そのため、脳が腫れると内部の圧力(頭蓋内圧)が急激に高まり、脳そのものが強く圧迫されてしまいます。

この圧迫が続くと、脳の一部が正常な位置からずれてしまう「脳ヘルニア」という危険な状態に移行します。脳ヘルニアは生命維持に不可欠な部分を圧迫するため、意識障害や呼吸停止といった、命に直結する深刻な事態を引き起こすことがあります。

この状態は、特に小児や若年層が重い頭部外傷を負った後に起こりやすいとされます。これは、成人に比べて子どもの脳の血流を調節する機能がまだ未熟なためと考えられています。そのため、重症化したケースでは、残念ながら厳しい経過をたどることも少なくありません。

しかし、脳そのものの損傷が軽く、腫れが主な問題である場合には、迅速かつ適切な治療によって後遺症を残さずに回復することも十分に期待できます。

薬物治療などではコントロールが難しい極めて重症な脳の腫れに対しては、頭蓋骨の一部を一時的に取り外して脳への圧力を逃がす「減圧開頭術」という外科手術が選択肢になります。

ただし、この手術はあくまで救済的な治療という位置づけです。特に小児の場合、どのようなタイミングで、どのような方法の手術を行うのが最善かについては、まだ世界中で研究が続けられている段階です※。早期の手術が良好な結果につながる可能性も報告されていますが、その効果や安全性に関する明確なデータはまだ限定的であり、今後のさらなるエビデンスの蓄積が求められています※。

びまん性脳腫脹・浮腫の種類

びまん性脳腫脹・浮腫は、脳全体が腫れあがる状態を指す言葉で、現在では厳密な分類はされずに使われるのが一般的です。

以前は、脳の血管が拡張して血液量が増える「脳腫脹」と、脳の組織そのものに水分がたまる「脳浮腫」とは区別されていました。しかし、実際の患者さんの脳では、この両方が同時に起こっているケースが珍しくありません。そのため、臨床の現場ではこれらをまとめて「びまん性脳腫脹・浮腫」と呼んでいます。

ただし、どのような仕組み(メカニズム)で脳が腫れているのかを理解することは、治療方針を考える上で重要です。脳浮腫が起こる仕組みは、主に次の2つのタイプに分けられます。

種類

特徴

血管原性(けっかんげんせい)浮腫

・脳の血管を守るバリア(血液脳関門)が壊れる

・血管の中から血液成分(水分)が脳組織へ漏れ出す

細胞毒性(さいぼうどくせい)浮腫

・脳の神経細胞自体がエネルギー不足などに陥る

・細胞が水分を過剰に吸い込んでパンパンに腫れる

実際には、この2つのタイプが複雑に絡み合って発生することも少なくありません。

例えば、高山病が悪化して起こる「高地脳浮腫(HACE)」は、血管から水分が漏れ出す「血管原性浮腫」と、細胞自体が腫れる「細胞毒性浮腫」の両方の特徴を併せ持つことがわかっています※。

このように水分のたまり方は異なりますが、どちらのタイプであっても脳が腫れて頭蓋骨の中の圧力が高まるという危険な状態に変わりはありません。そのため、脳への圧迫を少しでも早く取り除くための治療が不可欠となります。

びまん性脳腫脹・浮腫の原因

びまん性脳腫脹・浮腫は、頭部への強い衝撃が最も多い原因ですが、脳の病気や感染症、さらには高山病のような特殊な環境も引き金となります。

頭部への強い衝撃(外傷)

転倒や交通事故などによる頭部外傷は、この病態を引き起こす最も一般的な原因です。

特に、脳の血流をコントロールする機能がまだ十分に発達していない小児(乳幼児から中学生)に起こりやすく、報告によっては頭部外傷を負った子どもの5〜40%に生じるとされています。

大人の脳であれば耐えられる衝撃でも、子どもの脳では血流を調節する機能が未熟なため、血管が過剰に反応してしまい、脳が腫れやすいと考えられています。

さまざまな病気による二次的な影響

頭部外傷以外にも、脳にダメージを与えるさまざまな病気が、二次的に脳の腫れを招くことがあります。

原因となる主な病気や状態と、脳が腫れる仕組みは以下のとおりです。

原因となる病気や状態

脳が腫れる主な仕組み

脳血管障害

(脳梗塞、脳出血)

・脳の血管が詰まったり破れたりする

・脳細胞が酸素や栄養不足に陥り、機能不全から腫れる

脳腫瘍

・腫瘍そのものが脳を圧迫する

・腫瘍周囲の血管がもろくなり、水分が漏れ出す

感染症

(髄膜炎、脳炎)

・ウイルスや細菌に対する体の免疫反応

・脳の血管や細胞に強い炎症が起こり、腫れる

低酸素脳症

(心停止後など)

・脳全体への酸素供給が途絶える

・脳細胞がエネルギーを作れなくなり、細胞内に水分を溜め込んで腫れる(細胞毒性浮腫)

重積けいれん発作

・けいれんが長く続くことで脳が過剰に活動する

・エネルギーを大量に消耗し、低酸素脳症と似た状態になる

特殊な環境要因

ケガや病気だけでなく、特殊な環境が原因となるケースもあります。

代表的なものが、高山病が重症化した際に起こる**高地脳浮腫(HACE)**です。これは、標高の高い場所の低酸素環境に体が適応できず、命に危険が及ぶ重篤な状態を指します。

高地脳浮腫では、脳の血管から水分が漏れ出す「血管原性浮腫」と、脳細胞自体がエネルギー不足に陥って腫れる「細胞毒性浮腫」の両方のメカニズムが同時に発生することがわかっています※。

びまん性脳腫脹・浮腫の症状

びまん性脳腫脹・浮腫の症状は、脳が腫れて硬い頭蓋骨の内部の圧力(頭蓋内圧)が高まることで引き起こされます。

初期には頭痛や吐き気といった症状がみられ、状態が悪化すると意識障害や呼吸停止など、命に直結する危険なサインが現れるようになります。

脳への圧迫によって現れる症状

脳への圧迫が強まるにつれて、症状は段階的に重くなっていきます。

進行度

主な症状

初期症状

・我慢できないほどの激しい頭痛

・吐き気、繰り返す嘔吐

・目の奥が痛む感覚

進行した場合の

危険な症状

・意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍くなる(意識障害)

・突然けいれん発作を起こす

・手足が動きにくくなる(麻痺)

・呼吸が浅くなったり、止まったりする(呼吸抑制)

特に注意が必要なケース

原因や年齢によっては、特徴的な症状の現れ方をすることがあります。

  • 頭部外傷後、時間差で症状が現れる
    ケガをした直後は特に問題がないように見えても、数分から数日経ってから急に頭痛や嘔吐が始まることがあります。少しでも様子がおかしいと感じたら、すぐに医療機関を受診してください。
  • 言葉で訴えられない乳幼児のサイン
    自分で不調を訴えられない小さなお子さんの場合、以下のような変化が危険なサインとなります。
  • 理由もなく機嫌が悪く、激しくぐずる
  • ミルクの飲みが悪い、吐いてしまう
  • いつもよりうとうとと眠りがちになる
  • 頭のてっぺんの柔らかい部分(大泉門)がパンパンに張って硬くなる

また、脳梗塞のような病気が原因の場合、その治療経過にも影響を及ぼします。例えば、血栓を取り除く治療の後に脳浮腫が起こると、一度は改善しかけた麻痺などの神経症状を再び悪化させ、その後の機能的な回復を妨げる一因になることが報告されています※。

びまん性脳腫脹・浮腫の検査・診断

びまん性脳腫脹・浮腫の診断は、一刻を争うため、主に頭部CT検査によって迅速に行われます。脳全体が腫れている状態では、脳が圧迫されて生命維持の中枢がダメージを受ける「脳ヘルニア」という危険な状態にいつ移行してもおかしくないためです。

意識障害や我慢できないほどの頭痛、繰り返す嘔吐といった危険なサインで受診した場合、救急外来などではまず頭部CT検査が行われます。この検査は撮影時間が短く、脳の腫れの程度や脳ヘルニアの有無、原因となっている脳出血や脳腫瘍がないかをその場で迅速に評価できます。

また、治療後の経過を慎重に追う上でも、画像検査は欠かせません。
例えば、太い血管が詰まる脳梗塞に対して、カテーテルで血栓を取り除く「血栓回収療法」という有効な治療があります。しかし、この治療によって血流が再開した影響で、かえって脳の腫れ(脳浮腫)が悪化することがあるのです。

実際に、治療後に脳浮腫が悪化すると、一度は改善に向かった手足の麻痺などが再び悪くなったり、その後の回復を妨げたりする一因となります。ある研究では、この治療後の脳浮腫が、血栓回収療法によって得られるはずだった機能改善の効果を約10.6%も減らしてしまう可能性が報告されています※。
だからこそ、治療後も注意深く脳の状態を観察し、脳浮腫を早期に発見して対応することが極めて重要といえます。

CT検査で全体像を把握した上で、原因をさらに詳しく探るために、次のような検査が追加されることもあります。

検査の種類

目的

頭部MRI検査

・CTではわかりにくい、ごく小さな脳の損傷(脳挫傷)や脳梗塞の初期の変化などをより鮮明に評価する

・緊急性が低い場合に、より詳細な情報を得るために行われる

血液検査

・脳の腫れが髄膜炎などの感染症によって引き起こされている可能性を調べる

なお、髄膜炎の診断で通常行われる腰椎穿刺(ようついせんし)は、この病態が疑われる場合には原則として行いません。これは、すでに圧力が高まっている頭蓋骨の中から髄液を抜くことで、急激な圧力変化が起こり、脳が下方向にずり落ちる「脳ヘルニア」を人為的に引き起こしてしまう危険が非常に高いためです。

びまん性脳腫脹・浮腫の治療

びまん性脳腫脹・浮腫には、脳の腫れそのものを根本的に治す特効薬は存在しません。そのため、治療の最大の目的は、今起きている脳の腫れをいかにコントロールし、頭蓋骨の中の圧力を下げて、脳へのダメージを最小限に食い止めるかにあります。

治療は時間との戦いであり、主に以下の方法を組み合わせて、集中治療室(ICU)で厳密な管理のもとに行われます。

治療法

目的と内容

全身管理

・命の土台を支えるための、すべての治療の基本です。

・人工呼吸器による呼吸管理や、血圧、体温、栄養状態などを常に最適な状態に保ちます。

・脳のエネルギー消費を増大させるけいれん発作を防ぐ薬も使用します。

薬物療法

・脳の圧力を下げるための中心的な治療です。

・浸透圧の差を利用して、脳にたまった余分な水分を血管内に引き戻す作用のある薬剤(高張グリセロール、マンニトールなど)を点滴で投与します。

過換気療法

・人工呼吸器を使って一時的に呼吸の回数を増やし、血液中の二酸化炭素濃度を下げる治療法です。

・これにより脳の血管が収縮し、脳に流れ込む血液量を減らすことで、緊急避難的に頭蓋内圧を下げる効果を狙います。

外科的治療

(減圧開頭術)

・薬物療法などを行っても脳への圧迫がコントロールできない場合に検討される、いわば「最後の砦」ともいえる救命のための手術です。

・頭蓋骨の一部を一時的に取り外して脳の逃げ場を作ることで、直接的に脳への圧力を取り除きます。

特に小児の重症例では、救命のために減圧開頭術が行われることがあります。しかし、どのようなタイミングで、どのような方法の手術を行うのが最善かについては、まだ世界中で研究が続けられている段階です。早期の手術が良好な結果につながる可能性も報告されていますが、その効果や安全性に関する明確なデータはまだ限定的であり、今後のさらなるエビデンスの蓄積が求められています※。

また、原因によっては、治療がさらに複雑になるケースもあります。

例えば、太い血管が詰まる広範囲の脳梗塞に対して、カテーテルで血栓を取り除く「血栓回収療法」は有効な治療法です。しかし、この治療によって血流が再開した影響で、かえって脳の腫れ(脳浮腫)が悪化することがあるのです。

ある研究では、この治療後の脳浮腫が、血栓回収療法によって得られるはずだった機能改善の効果を約10.6%も減らしてしまう可能性が報告されています※。

このように、治療は原因や重症度に応じてさまざまな方法を組み合わせて行われます。たとえ軽症に見えても、急激に状態が悪化する危険性をはらんでいるため、専門的な医療機関での迅速な診断と治療が何よりも重要です。