West症候群

赤ちゃんの頭が急にカクンとうなずく、できていた寝返りができなくなる…。そんな気になる仕草はありませんか?一見すると何気ない動きも、実は「West症候群(点頭てんかん)」という、まれなてんかんのサインかもしれません。

この病気は主に生後3ヶ月から1歳の赤ちゃんに発症し、乳児期に起こるてんかん全体の約3割を占めるとも言われ、決して他人事ではありません。早期発見と迅速な治療がお子さんのその後の発達に大きく影響するため、まさに時間との勝負となります。

この記事では、West症候群の原因や特徴的な症状、診断方法から、近年注目される副作用の少ない「ケトン食」という新しい治療の選択肢まで詳しく解説します。大切な我が子の未来のために、まずは正しい知識を得ることから始めましょう。

West症候群の概要

West症候群は、主に生後3ヶ月から1歳くらいの赤ちゃんに発症する、まれな「てんかん」の一つです。発作の際に、急に頭をカクンとうなずくような動きをすることから「点頭(てんとう)てんかん」とも呼ばれています。

アメリカの報告では、赤ちゃん1,000人あたり約0.3人にみられるとされています。乳児期に起こるてんかん全体の約3割を占めるというデータもあり、決して他人事ではありません。

この病気の診断には、目安となる3つの大きな特徴があります。お子様の様子で気になることがないか、確認してみてください。

  • けいれん発作(てんかん性スパズム) 急に頭をカクンと前に落としたり、両手を広げて抱きつくような動きをしたりします。この発作が、短い間隔で何度も繰り返されるのが特徴です。
  • 発達の遅れや後戻り それまでできていた首のすわりや寝返り、あやした時の笑顔などが急にできなくなることがあります。
  • 特徴的な脳波(ヒプスアリティミア) 脳波検査を行うと、脳の活動が非常に乱れた特徴的な波形が確認されます。

治療にはホルモン剤(ACTH)が広く用いられてきました。しかし最近の研究では、「ケトン食」という特別な食事療法も注目されています。ケトン食はホルモン剤と同等の効果が期待できるうえ、副作用やけいれんの再発率が低い可能性が示されており、新しい治療の選択肢として考えられています。

West症候群の種類

West症候群は、原因が特定できるかによって大きく2つに分けられます。 この分類は、治療方針や今後の発達の見通しを考える上で重要です。 お子様がどちらのタイプなのかを知ることは、病気と向き合う第一歩です。

症候性(しょうこうせい)ウエスト症候群

脳の病気など、何らかの原因がはっきりと特定できるタイプです。 West症候群のお子さんのうち、7割から8割がこのタイプです。 原因は一人ひとり異なり、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 脳の形の異常 お母さんのお腹の中にいる間に、脳が作られる過程での異常です。 脳の表面のシワの作りが通常と違う「皮質異形成」などが知られます。
  • 遺伝子の変化 体の設計図である遺伝子に変化がある場合です。 結節性硬化症の原因となるTSC1やTSC2遺伝子がよく知られています。
  • 生まれる前後の脳へのダメージ 出生時の仮死状態など、脳に酸素が十分届かなかった場合です。
  • 染色体の異常 ダウン症候群などの染色体疾患に伴って発症することがあります。
  • その他 脳の感染症や、体のエネルギー代謝の異常なども原因となります。

症候性の場合、発作が始まる前から発達がゆっくりな傾向があります。

潜因性(せんいんせい)ウエスト症候群

現在の医療技術で検査をしても、原因が見つからないタイプです。 「潜んでいる」という字のごとく、原因が隠れている状態を指します。 原因がないのではなく、まだ特定技術が追いついていないと考えます。 発作が始まるまでは順調に発達していることが多く、治療の効果が比較的出やすい傾向にあります。

種類

特徴

症候性ウエスト症候群

・脳の異常や遺伝子の変化など、原因が特定できる<br>・全体の約7~8割を占める<br>・発作が始まる前から、発達がゆっくりなことがある

潜因性ウエスト症候群

・現在の検査では原因を特定できない<br>・発作が始まるまでは、順調に発達していることが多い<br>・症候性に比べて治療の効果が出やすい傾向がある

West症候群の原因

West症候群がなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 お子さん一人ひとり異なり、非常に多くの種類があります。 現在の医療では、約7〜8割で原因を特定できるとされます。

原因を詳しく突き止めることは、治療方針を決める大切な一歩です。 原因は、主に次の3つのグループに分けて考えることができます。

  • 脳に何らかの変化が起きた場合 お母さんのお腹の中で脳が作られる過程でのトラブルや、 生まれた時に脳へ酸素が十分に届かなかったことなどです。 また、頭のケガや脳の感染症が原因になることもあります。
  • 体の設計図(遺伝子や染色体)に変化がある場合 West症候群の原因として、最も多いのが「結節性硬化症」です。 これはTSC1やTSC2という遺伝子の変化によって起こります。 最近の研究では、これらの遺伝子が脳腫瘍の発生だけでなく、 てんかん発作が起こる仕組みにも関わることがわかってきました。 その他、ダウン症候群などの染色体の病気も原因の一つです。
  • 体のエネルギー工場(代謝)に異常がある場合 食べ物からエネルギーを作ったり、不要なものを体の外に出したり、 といった体の基本的な働きに、生まれつき問題がある病気です。

このように原因は多岐にわたるため、MRIなどの詳しい検査で、 お子さんの体の状態を丁寧に調べていくことがとても重要になります。

West症候群の症状

West症候群の症状は、多くの場合で生後3ヶ月から1歳まで、 特に生後6ヶ月ごろに現れ始めることが一般的です。 最も特徴的な症状は、「てんかん性スパズム」と呼ばれる発作です。

てんかん性スパズム(点頭てんかん)

この発作は、脳の異常な電気信号によって起こるけいれんです。 動きが小さく一瞬で終わるため、見過ごされやすい傾向があります。 しゃっくりや、何かに驚いた時の動きと間違われることもあります。 時には胃の不調や便秘など、神経以外の病気と誤解されることもあり、 注意深い観察がとても大切になります。

けいれん発作の主な特徴

  • タイミング 眠りから覚めた直後や、ミルクを飲んだ後などに起こりやすいです。
  • 動き 急におじぎをするように頭をカクンと前に曲げます。 両腕をバンザイするように広げたり、抱きつくように縮めたりします。
  • 繰り返し 数秒から数十秒の間隔で、同じような動きを何回も繰り返します。 この一連の発作は「シリーズ形成」と呼ばれています。

発達への影響

けいれん発作だけでなく、お子さんの発達にも変化が見られます。 これもWest症候群の重要なサインの一つです。

  • 発達の遅れや後退 それまでできていた首のすわりやおすわりができなくなります。 あやした時に笑いかけるといった反応が急に鈍くなることもあります。
  • 不機嫌 はっきりした理由がないのに、機嫌が悪かったり泣き続けたりします。

これらの症状は、適切な治療で発作を抑えることが何より重要です。 発作を早く止めることは、その後の発達への影響を抑えるためです。 また、治療法によって発作の再発率が大きく異なるという研究報告もあり、 治療の選択は、その後の経過にも影響を与える可能性があります。 気になる様子があれば、動画で記録して医師に相談することをお勧めします。

West症候群の検査・診断

West症候群の診断は、まず発作の様子を詳しく確認することから始まります。 特徴的なけいれんが疑われる場合、いくつかの検査を組み合わせて判断します。 診断を確定し、原因を突き止めることが、適切な治療への第一歩となります。

診断の中心となるのが「脳波検査(のうはけんさ)」です。 これは、頭に小さな電極を貼り付け、脳の電気活動を記録する検査です。 お子さんが痛みを感じることはありませんので、ご安心ください。

この検査では、「ヒプスアリティミア」という特徴的な波形を探します。 これは、脳の活動が非常に乱れていることを示す、診断の重要な手がかりです。 しかし、この特徴的な波形は、常に現れるわけではありません。

そのため、ビデオで撮影しながら一晩かけて脳波を記録することもあります。 これを「長期ビデオEEGモニタリング」と呼びます。 発作の瞬間の様子と脳波を同時に確認でき、より確実な診断に繋がります。

脳波検査で診断のめどがついたら、次になぜ発作が起きるのかを探ります。 原因を特定することで、一人ひとりに合った治療法を選べるようになります。 原因究明のために、主に以下の検査が行われます。

  • 画像検査(MRIなど) 強力な磁石と電波を使い、脳の断面を詳しく撮影する検査です。 発作の原因となりうる、脳の構造的な異常がないかを確認します。
  • 遺伝子検査 血液などから体の設計図である遺伝子を調べる検査です。 結節性硬化症の原因となるTSC1やTSC2遺伝子の変化などが知られます。
  • 血液・尿・髄液検査 体のエネルギーを作る仕組み(代謝)に異常がないかなどを調べます。 髄液検査では、背中に細い針を刺して脳の周りを流れる液体を採ります。
  • 皮膚の診察 「ウッズランプ」という特殊な光を皮膚にあてて診察します。 結節性硬化症などで見られる、目では分かりにくい皮膚の変化を見つけます。

これらの検査結果を専門医が総合的に評価し、診断を確定していきます。

West症候群の治療

West症候群の治療は、時間との勝負です。 けいれん発作をできるだけ早くコントロールすることが、脳の発達を守るための鍵となります。 治療の開始が早いほど、その後の発達への良い影響が期待できるため、迅速な対応が何よりも大切です。

治療は、お子さんの状態や原因となっている病気に合わせて、専門の医師が慎重に計画を立てます。 主な治療法には、お薬による「薬物療法」や、特別な食事内容にする「食事療法」があります。

主な治療法

  • 薬物療法
  • ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)療法 けいれんを抑えるために使われる代表的なお薬です。 古くから行われている標準的な治療法の一つです。
  • ビガバトリン こちらもけいれんを抑えるお薬です。 特に、脳の病気である「結節性硬化症」が原因の場合に選ばれます。
  • その他のお薬 上記の治療で効果が十分でない場合に、他の抗てんかん薬などが使われることもあります。
  • 食事療法(ケトン食療法) 近年、新しい治療の選択肢として注目されているのが「ケトン食」という食事療法です。 これは、炭水化物を減らして脂肪分の多い食事にすることで、けいれんを起きにくくする治療法です。 ある研究では、ケトン食療法はACTH療法と同等の発作抑制効果が期待できると報告されました。 さらに、ケトン食療法は副作用が少なく、治療後の再発率が低い可能性も示されています。 お薬を使わない治療の選択肢として、その重要性が高まっています。

治療法

特徴

主な注意点

ACTH療法

・けいれんを抑える効果が期待できる代表的な治療法

・免疫力の低下や高血圧、不機嫌などの副作用<br>・治療後に再発することがある

ビガバトリン

・結節性硬化症が原因の場合に特に有効性が期待できる

・視野が狭くなる副作用の可能性があるため、定期的な眼の検査が必要

ケトン食療法

・ACTH療法と同等の効果が期待できる<br>・副作用や再発が少ないという研究報告がある

・医師や管理栄養士の厳密な管理のもとで行う必要がある<br>・ご家族の協力が大切になる

どの治療法を選択するかは、West症候群の原因や、お子さん一人ひとりの体の状態によって異なります。 治療による効果と副作用のバランスを丁寧に見ながら、医師がお子さんにとって最適な方法を判断します。 気になることは何でも相談し、一緒に治療を進めていきましょう。