高安動脈炎

原因不明のだるさや立ちくらみ。もしあなたが15歳から35歳の女性で、そんな不調が続いているなら、それは単なる疲れではないかもしれません。その影には、見過ごされがちな深刻な病気が隠れている可能性があります。

「高安動脈炎」は、心臓につながる太い血管に炎症が起きる自己免疫疾患です。患者の約9割を若い女性が占め、腕の脈が弱くなることから、かつては「脈なし病」とも呼ばれていました。初期症状が風邪に似ているため、診断が遅れやすいという特徴があります。

最も注意すべきは、神経難病の「多発性硬化症」と症状が酷似し、見分けがつきにくい点です。本記事では、この複雑な病気の原因から正しい診断、最新の治療法までを分かりやすく解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら、ぜひお読みください。

高安動脈炎の概要

高安動脈炎は、心臓から全身へ血液を送る最も太い血管「大動脈」や、その枝分かれした血管に炎症が起きる病気です。

炎症が続くと血管の壁が厚くなり、血液の通り道が狭くなることがあります(狭窄)。また、逆に壁がもろくなり、こぶのように膨らむこともあります(動脈瘤)。腕の脈が弱くなることがあるため、以前は「脈なし病」とも呼ばれていました。

原因はまだはっきりしていませんが、体を守るはずの免疫が、誤って自分の血管を攻撃する「自己免疫疾患」の一つと考えられています。

この病気には、以下のような特徴があります。

  • かかりやすい人 15歳から35歳くらいの若い女性に多く、患者さんの約9割が女性です。 アジア人に多いことも知られています。
  • 注意すべき他の病気 神経の病気である「多発性硬化症(MS)」と症状や検査画像が似ている場合があります。 実際に、高安動脈炎と多発性硬化症を同時に発症する例も報告されています。 そのため、専門医による慎重な診断が不可欠です。

高安動脈炎の種類

高安動脈炎は、血管に起きる炎症の病気「血管炎」の一つです。 血管炎は、炎症が起きる血管の太さによって分類されます。 高安動脈炎は、心臓につながる最も太い血管に炎症が起きるため、「大血管炎」に分けられます。

さらに、炎症が体のどの場所の血管に起きるかによって、症状の現れ方が異なるため、いくつかの型に分類されます。

型の分類

炎症が起きやすい血管の場所

Ⅰ型

大動脈から腕や頭へ向かう血管

Ⅱa型

心臓から上に向かう大動脈(上行大動脈)とその枝

Ⅱb型

上行大動脈と、胸の大動脈(胸部下行大動脈)とその枝

Ⅲ型

胸からお腹にかけての大動脈とその枝

Ⅳ型

お腹の大動脈(腹部大動脈)とその枝

Ⅴ型

胸からお腹の全体の大動脈とその枝(広範囲型)

例えば、Ⅰ型では腕や頭への血流が悪くなることがあります。 そのため、腕のだるさやめまい、立ちくらみなどの症状が出やすくなります。 Ⅳ型では腎臓へ向かう血管に影響が及び、血圧が高くなることもあります。

また、高安動脈炎は他の病気と間違われやすい点にも注意が必要です。 特に、神経の病気である「多発性硬化症(MS)」と症状やMRIなどの検査画像が非常に似ていることが知られています。

ある研究では、多発性硬化症と診断された患者さんの中に、実は高安動脈炎などの血管炎を合併していたケースが報告されています。 このように、症状だけでは判断が難しい場合があるため、専門医が他の病気の可能性も考えながら、慎重に診断を進めることが重要です。

高安動脈炎の原因

残念ながら、高安動脈炎がなぜ起こるのか、そのはっきりとした原因はまだわかっていません。 しかし、世界中の研究からいくつかの可能性が考えられています。

現在、最も有力だと考えられているのは「自己免疫」の異常です。 私たちの体には、ウイルスや細菌から身を守る「免疫」という仕組みがあります。 この免疫が、何かの間違いで自分の正常な血管を敵だと判断し、攻撃してしまうのが自己免疫疾患です。 高安動脈炎も、この自己免疫疾患の一つではないかと考えられています。

その他にも、原因の候補として以下のものが挙げられます。

  • 感染症 特定のウイルスや細菌に感染したことがきっかけとなり、免疫のシステムに異常が起きるのではないか、という説です。
  • 遺伝的な要因 ある研究では、特定の遺伝子を持っていると高安動脈炎にかかりやすいことが報告されています。 ただし、親から子へ必ずうつる遺伝病というわけではありません。

これらの要因が一つだけでなく、複数からみ合って発症すると考えられています。 原因を特定するため、今も世界中で研究が続けられています。

高安動脈炎の検査・診断

高安動脈炎が疑われる場合、いくつかの検査を組み合わせて慎重に診断します。 40歳以下の若い方で、原因不明の腕のだるさやめまいなどがある場合に、この病気の可能性を考えます。

診断の際には、アメリカリウマチ学会が定めた診断基準が世界的に使われます。 以下の6つの項目のうち、3つ以上あてはまると高安動脈炎の可能性が高まります。

診断のチェック項目

1. 症状が始まった年齢が40歳以下である

2. 腕や足を使うとだるくなる、痛くなる

3. 腕の脈(上腕動脈)の拍動が弱い

4. 左右の腕で測った血圧の上の値に10mmHg以上の差がある

5. 鎖骨のあたりやお腹で血管の雑音が聞こえる

6. 画像検査で血管が狭くなっているのが見える

これらの項目を確かめるために、次のような検査を行います。

  • 血液検査 体の中で起きている炎症の強さを調べます。 CRPや赤血球沈降速度(ESR)といった数値で確認します。
  • 画像検査 CTやMRI、超音波(エコー)検査で血管の状態を見ます。 血管の壁が厚くなっていないか、血液の通り道が狭くなっていないかなどを直接確認できます。

高安動脈炎の診断で特に注意が必要なのは、他の病気と間違われやすい点です。 特に、神経の病気である「多発性硬化症(MS)」とは症状やMRIの画像がとても似ていることがあります。

ある研究では、多発性硬化症と診断された患者さんの中に、実は高安動脈炎などの血管の病気が隠れていたという報告もあります。 そのため、専門の医師が他の病気の可能性も考えながら、集めた検査結果をパズルのように組み合わせて、総合的に診断することが非常に重要です。

高安動脈炎の症状

高安動脈炎の症状は、病気の進み具合によって大きく2つの段階に分かれます。 最初は体全体に炎症が起きるサインとして、次に血管が狭くなることで起きる特徴的なサインとして現れます。

ステップ1:全身にあらわれる初期の症状

病気が活動を始めると、まず体全体に炎症反応による症状が出ることが多いです。 これらは風邪や他の病気の症状と似ているため、見過ごされやすい点に注意が必要です。

  • 発熱 微熱が続くなど、原因のはっきりしない熱が出ます。
  • 全身のだるさ(倦怠感) 体が炎症と戦うためにエネルギーを消耗し、強い疲れを感じます。
  • 体重の減少 特に食事制限をしていないのに、体重が減っていきます。
  • 関節や筋肉の痛み 体のあちこちの関節や筋肉に痛みを感じることがあります。

これらの症状は、高安動脈炎に特有のものではありません。 そのため、原因不明の体調不良が長く続く場合は、専門医への相談が大切です。

ステップ2:血管が狭くなってからあらわれる症状

炎症によって血管の壁が厚くなると、血液の通り道が狭くなったり詰まったりします。 これにより、血液が届きにくくなった場所に応じて、様々な症状があらわれます。

症状があらわれる場所

具体的な症状

腕

・脈が弱くなる、または触れなくなる

・腕を上げるとだるい、疲れやすい

・左右の腕で測った血圧の値に10mmHg以上の差が出る

足

・歩くと足が痛くなり、休むと楽になる(間欠性跛行)

頭・首・目

・めまい、立ちくらみ、気を失うことがある(失神)

・首の血管(頸動脈)に痛みを感じる

・視力が落ちる、ものが二重に見える

心臓・腎臓

・血圧が高くなる(特に腎臓の血管が狭くなった場合)

・胸の痛み、息切れ(心臓の血管が狭くなった場合)

例えば、腕の脈が弱くなるのは、腕へ向かう血管が狭くなっているサインです。 また、腎臓へ向かう血管が狭くなると、体は血圧を上げて血液を送ろうとするため、高血圧になることがあります。 これらの症状は、どの血管に問題が起きているかを知るための重要な手がかりとなります。

高安動脈炎の治療

高安動脈炎の治療目標は、大きく分けて2つあります。 一つは血管で起きている炎症(火事)を鎮めることです。 もう一つは、血管が傷ついて機能しなくなるのを防ぐことです。

治療の中心は、薬を使って体の中から炎症を抑える薬物療法です。 病気の勢いや症状の強さに合わせて、治療計画を立てていきます。 約20%の患者さんは自然に良くなることもありますが、自己判断は禁物です。

薬を使った治療(薬物療法)

主に4種類の薬を組み合わせて、血管の炎症をコントロールします。

  • ステロイド 体の炎症を強力に抑える、治療の主役となる薬です。 はじめは多めの量でしっかりと炎症を抑え、症状が落ち着くにつれて、少しずつ量を減らしていきます。
  • 免疫抑制剤 ステロイドだけでは効果が不十分な場合などに使います。 免疫が自分の血管を攻撃する、その過剰な働きにブレーキをかける薬です。
  • 生物学的製剤 炎症を引き起こす特定の物質だけを狙い撃ちする比較的新しい薬です。 従来の治療で効果が得られにくい場合に検討されます。
  • 抗血小板薬 血管が狭くなると、血の塊(血栓)ができやすくなります。 血液をサラサラにして、血栓が血管に詰まるのを防ぐ目的で使われます。

手術による治療(外科的治療)

薬の治療で炎症が治まっても、すでに血管が狭くなったり、こぶ(動脈瘤)ができてしまったりした場合には、手術による治療も考えます。 狭くなった血管を風船で広げる「血管内治療」や、新しい血液の通り道を作る「バイパス手術」などがあります。

治療を始める前に知っておきたいこと

高安動脈炎の治療で非常に大切なのは、始める前の正確な診断です。 特に、神経の病気である「多発性硬化症(MS)」とは、症状やMRIの画像がとても似ていることが知られています。

ある研究では、多発性硬化症と診断された患者さんの中に、実は高安動脈炎などの血管の病気が隠れていたという報告もあります。 これらの病気は使う薬が異なるため、専門医が慎重に診断することが、適切な治療への第一歩となります。