脊髄腫瘍

「最近、手足がしびれる」「階段の上り下りがつらい」…そんな体の変化を、年のせいだと見過ごしていませんか?その症状、実は約10万人に1人から2人が発症するといわれる珍しい病気、「脊髄腫瘍」のサインかもしれません。脳腫瘍の5分の1以下の頻度ですが、特に40歳代以下の方に多いという特徴があります。

この記事では、見過ごされがちな脊髄腫瘍の初期症状から、まだほとんど解明されていない原因、そして手術後の入院期間を短くする可能性のある最新の治療法までを詳しく解説します。大切な体からのサインを見逃さないためにも、ご自身の状態と照らし合わせながらぜひご一読ください。

脊髄腫瘍の概要

背骨の中には、脳からの命令を手足に伝えたり、感覚を脳に伝えたりする大切な神経の束「脊髄(せきずい)」が通っています。この脊髄や、その周りの組織にできる「できもの」をまとめて脊髄腫瘍と呼びます。

腫瘍が少しずつ大きくなることで、重要な神経である脊髄が圧迫されてしまいます。その結果、手足のしびれや痛み、体を動かしにくいといった様々な症状が現れ始めます。脊髄から直接できる腫瘍と、他の臓器のがんが転移してくる場合があります。

脊髄腫瘍は、約10万人に1人から2人が発症するといわれる比較的珍しい病気です。これは、脳にできる腫瘍と比べても5分の1から10分の1程度の頻度です。若い方からご高齢の方まで発症しますが、特に40歳代以下の方に多い傾向があります。

治療の基本は、神経の圧迫を取り除くための手術です。手術の方法にもいくつか種類があり、最近の研究では、手術の方法によって体への負担が異なる可能性が示唆されています。

例えば「椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ)」という方法は、別の「椎弓切除術(ついきゅうせつじょじゅつ)」という方法に比べて、入院期間が短くなる傾向があります。さらに、手術後に背骨が変形するリスクも低いと報告されており、患者さんの体への負担を減らすための研究が続けられています。

脊髄腫瘍の種類

脊髄腫瘍は、腫瘍ができた場所によって大きく4つの種類に分けられます。腫瘍がどこにできるかで、症状や治療の進め方が大きく変わってきます。

腫瘍の種類

できる場所

特徴

硬膜外(こうまくがい)腫瘍

脊髄をおおう硬膜の外側

全体の約15%を占めます。肺がんなど他の臓器のがんが転移してきた悪性の腫瘍が多い傾向にあります。

硬膜内髄外(こうまくないずいがい)腫瘍

硬膜の内側で脊髄の外側

最も多いタイプで約70%です。神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)など、比較的性質がおとなしい良性の腫瘍が大半です。

髄内(ずいない)腫瘍

脊髄そのものの中から発生

全体の5〜15%ほどと比較的まれです。上衣腫(じょういしゅ)や星細胞腫(せいさいぼうしゅ)が代表的です。

砂時計型(すなどけいがた)腫瘍

硬膜の内側と外側にまたがる

腫瘍が砂時計のような形をしています。ほとんどが神経鞘腫という種類の腫瘍です。

このように、腫瘍の種類によって治療法、特に手術の方法は慎重に選ばれます。手術では背骨の一部を切り開いて腫瘍を取り除きますが、その方法にも種類があります。

最近の研究では、手術の方法によって体への負担が変わる可能性が示されています。例えば「椎弓形成術」という方法は、別の「椎弓切除術」に比べて入院期間が短くなる傾向があります。さらに手術後に背骨が変形するリスクも低いと報告されており、患者さんの負担を減らすための研究が進められています。

脊髄腫瘍の原因

脊髄腫瘍がなぜできてしまうのか、その明確な原因は残念ながらまだほとんどわかっていません。そのため、ご自身の生活習慣やご家族を責める必要は全くありません。

また、お子さんへ遺伝するのではと心配される方もいますが、ほとんどの脊髄腫瘍は遺伝しないと考えられています。

脊髄腫瘍の原因は、腫瘍がどこから発生したかによって、大きく2つのタイプに分けて考えられます。

  • 原発性(げんぱつせい)脊髄腫瘍
    脊髄や、脊髄を包む膜、神経など、もともとそこにあった細胞が何らかのきっかけで腫瘍に変化したものです。なぜ細胞が変化してしまうのか、その詳しい仕組みはまだ研究の途中です。
  • 転移性(てんいせい)脊髄腫瘍
    体の他の臓器にできたがん細胞が、血液の流れに乗って脊髄やその周りの骨へ運ばれ、そこで大きくなったものです。この場合は、もとになったがんが原因といえます。特に、硬膜の外側にできる腫瘍に多いタイプです。
    原因となりやすいがんには、以下のようなものがあります。
  • 肺がん
  • 乳がん
  • 前立腺がん
  • 大腸がん
  • 腎がん

このように、脊髄腫瘍とひとことで言っても、その原因の考え方はさまざまです。ご自身の状態を正しく知り、適切な治療につなげることが何よりも大切です。

脊髄腫瘍の症状

脊髄腫瘍の症状は、腫瘍が神経を圧迫することで起こります。 多くの場合、症状はゆっくりと進行するのが特徴です。 そのため、年のせいだと見過ごしてしまうことも少なくありません。

最初に現れることが多いのは、痛みやしびれといった症状です。 腫瘍ができた場所に応じて、手足や胴体などに出ます。 腫瘍が大きくなり、神経の圧迫が強まると様々な症状が現れます。

日常生活に隠れる症状のサイン

日常生活の中で、以下のような変化に気づくことがあります。 ご自身の状態と照らし合わせてみてください。

症状の種類

具体的な症状の例

運動の症状

・手足に力が入りにくくなる

・階段の上り下りで足がもつれる

・お箸がうまく使えない、字が書きにくい

・シャツのボタンがかけにくい

感覚の症状

・触った感じや、熱さ・冷たさが分かりにくい

・手袋をしているような、感覚が鈍い感じがする

・ポケットの中の鍵や小銭を手探りで区別しにくい

排尿・排便の症状

・尿や便が出にくくなる、時間がかかる

・トイレが近くなったり、我慢できず漏らしたりする

・便秘がひどくなった

症状は腫瘍の場所で変わる

症状の出かたは、腫瘍が脊髄のどの高さにできたかで異なります。 神経の通り道の上流で問題が起きるほど、影響は広範囲に及びます。

腫瘍ができた場所

症状が出やすい範囲

首(頸髄:けいずい)

手、腕、足など、四肢全体に症状が出やすいです。

胸(胸髄:きょうずい)

お腹周りの帯状の痛みや、足の症状が出やすいです。

腰(腰髄:ようずい)

足のしびれや脱力、お尻周りの感覚異常が出やすいです。

また、腫瘍によって背骨の構造が弱くなり、バランスが崩れることもあります。 その結果、背中が丸まったり(後弯症)、横に曲がったり(側弯症)する変形が起こる場合もあります。 気になる症状があれば、早めに専門の医療機関へ相談することが何よりも大切です。

脊髄腫瘍の検査・診断

脊髄腫瘍が疑われる場合、まずは詳しい検査で体の状態を正確に把握することが治療の第一歩です。 診断において中心的な役割を果たすのが、MRI(磁気共鳴画像)検査です。 これは強力な磁石と電波の力を使い、体の断面を詳しく撮影する検査です。

MRI検査では、次のような情報を正確に得ることができます。

  • 腫瘍の正確な位置 脊髄の中にあるか外にあるか、どの高さにあるかを確認します。
  • 腫瘍の大きさや形 腫瘍がどのくらいの大きさで、どんな形をしているかを見ます。
  • 脊髄への影響 大切な神経の束である脊髄が、どのくらい圧迫されているかを調べます。

さらに腫瘍の種類を詳しく推測するために、造影剤というお薬を注射しながら撮影する「造影MRI検査」も一般的です。 また、骨の状態や、腫瘍と骨の位置関係を詳しく見るためには、CT検査を組み合わせることもあります。

これらの精密な検査による正しい診断は、その後の治療方針を決めるうえで非常に重要です。 例えば、手術が必要な場合、背骨の一部を開く方法にもいくつかの種類があります。 最近の研究では、「椎弓形成術」という方法は、別の「椎弓切除術」という方法に比べて入院期間が短くなる傾向が報告されました。 さらに、手術後に背骨が変形してしまうリスクも低い可能性が示されています。 ご自身の状態に合った最適な治療を選ぶためにも、まずは検査で腫瘍の状態を正確に知ることが何よりも大切なのです。

脊髄腫瘍の治療

脊髄腫瘍の治療は、腫瘍の種類やできた場所、体の状態を考えて進めます。 いくつかの方法の中から、その人に最も合ったものが選ばれます。

治療の基本は、手術で腫瘍を取り除くことです。 しかし、腫瘍のできた場所によって手術の難しさは大きく変わります。 例えば、脊髄の外側にできた腫瘍は、比較的取り除きやすいです。 一方で、大切な神経の束である脊髄の中にできた腫瘍(髄内腫瘍)は、神経を傷つけないよう、非常に丁寧な手術が求められます。

手術では、背骨の一部を開いて腫瘍を取り除きます。 この背骨の開き方には、主に2つの方法があります。

  • 椎弓切除術(ついきゅうせつじょじゅつ) 背骨の後ろ側の骨(椎弓)を切り取ってしまう方法です。
  • 椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ) 椎弓をドアのように一度開き、手術後に元に戻して固定する方法です。

いくつかの研究をまとめて分析した報告があります。 それによると、椎弓形成術の方が体への負担が少ない可能性が示されました。 具体的には、椎弓切除術に比べて入院期間が短くなる傾向にあります。 さらに、手術の後に背骨が曲がってしまうリスクも低いと報告されています。

また、手術以外の治療法が選ばれることもあります。

治療法

どんな治療か

対象となる場合

放射線治療

放射線をあてて、腫瘍を小さくしたり、大きくなるのを抑えたりします。

・他の臓器のがんが転移してきた腫瘍

・手術で腫瘍を全部取りきれなかった時

化学療法

いわゆる「抗がん剤」を使って、腫瘍の勢いを抑える治療です。

腫瘍の種類によって行われます。

症状を和らげる治療

痛み止めのお薬を使ったり、尿が出にくい症状を助ける治療をしたりします。

痛みや排尿のトラブルが強い時

どの治療法が最適かは、一人ひとりの状態によって本当に様々です。 担当の先生とよく相談して、ご自身が納得できる治療を選ぶことが大切です。