橈骨神経麻痺
「あれ?手首がだらんと下がって、指がうまく伸ばせない…。」そんな症状に悩んでいませんか?日常生活で物が掴みにくくなったり、細かい作業が困難になったりするそのお悩み、「橈骨神経麻痺(とうこつしんけいまひ)」が原因かもしれません。この麻痺は、腕から手首・指の動きを伝える大切な神経が機能しなくなることで起こり、骨折や長時間の圧迫(「ハネムーン症候群」など)が原因となることもあります。
「もう治らないのでは?」と諦めるのはまだ早いです。近年では、神経移行術という新しい治療法により、手首を伸ばせるようになった方が9割以上、指を伸ばせるようになった方も5割以上という報告があります。また、上腕骨骨折後のMIPO手術では、橈骨神経麻痺の発生率が約2.2%と低いことも示されています。本記事では、橈骨神経麻痺の原因から最新の治療法まで詳しく解説し、あなたの「困った」に希望の光を灯します。
橈骨神経麻痺の概要
「橈骨神経麻痺(とうこつしんけいまひ)」とは、腕から手首や指の動きを伝える、大切な神経が何らかの理由でうまく働かなくなってしまう状態です。この神経は、手首を反らせたり、指をまっすぐに伸ばしたりする筋肉に指示を送っています。そのため、この神経がうまく機能しないと、これらの動きが難しくなってしまいます。
具体的には、手首がだらんと下がってしまう「下垂手(かすいしゅ)」と呼ばれる状態になることがあります。親指を広げたり、動かしたりするのも困難になるかもしれません。このような変化は、日常生活のさまざまな場面で不便を感じる原因となります。例えば、物をしっかりと握れなかったり、文字を書いたり、パソコンを操作したりするような細かい作業がしにくくなったりすることが考えられます。
しかし、橈骨神経麻痺は、適切な診断と治療を受けることで症状の改善が期待できます。決して諦める必要はありません。近年、麻痺した神経の機能を取り戻すための新しい治療法も研究が進んでいます。特に「神経移行術」という手術は、健康な他の神経の一部を活用し、麻痺で動かなくなった手首や指の筋肉が再び動くように機能の回復を目指すものです。
ある研究によると、この神経移行術を受けた方々のうち、手首を伸ばせるようになった人は9割以上、指を伸ばせるようになった人は5割以上いたと報告されています。これは、以前から行われている「腱移行術」という手術と同等、あるいはそれ以上の効果が期待できるとされています。また、この研究では、橈骨神経麻痺になってからの期間が長くても、治療の結果に大きな差がないことも示されました。これは、発症から時間が経っていても、改善の希望があることを意味しています。
私たちは、皆さんの「困った」という気持ちに寄り添い、希望を持って治療に取り組んでいただけるようサポートします。橈骨神経麻痺でお悩みの方は、ぜひ専門の医療機関にご相談ください。これからも、より良い治療を目指した研究が進められています。
橈骨神経麻痺の種類
橈骨神経麻痺は、体のどこで神経がダメージを受けるか、その原因によっていくつかの種類に分かれます。この種類を正しく理解することは、患者さん一人ひとりに合った治療法を見つけるために、とても大切です。私たちは、皆さんの症状がどのタイプに当てはまるのかを丁寧に調べ、最適なアプローチを考えていきます。
大きく分けると、外からの力で起こる麻痺と、そうではない麻痺の2つがあります。
外からの力が原因で起こる麻痺(外傷性)
これは、骨が折れたり、腕が強く圧迫されたりするなど、外から神経に直接的な力が加わって発生する麻痺です。
- 骨折が原因の場合
- 骨が折れると、その近くを通る大切な神経も傷ついてしまうことがあります。
- 特に、二の腕の骨(上腕骨)の骨折は、橈骨神経がそのすぐそばを通っているため、麻痺が起こりやすいことが知られています。
- 最新の研究では、MIPO(ミポ)という特別な手術方法が注目されています。
- この手術は、神経にやさしい方法で行われるため、手術の後に橈骨神経麻痺が起こる可能性が低いと報告されています。
- 例えば、ある研究によると、MIPO手術を受けた方で橈骨神経麻痺になった人は約2.2%と、他の手術方法よりも少なかったと示されています。
- 圧迫が原因の場合
- 長時間同じ姿勢で腕を強く圧迫してしまうことで、神経がダメージを受けるケースです。
- 寝ている間に腕枕を長時間していたり、腕が何かに挟まってしまったりすることで起こることがあります。
- これは、「ハネムーン症候群」や「土曜の夜の麻痺」などと呼ばれることもあります。
外からの力が原因ではない麻痺(非外傷性)
こちらは、体の中で起こる問題によって生じる麻痺です。外からの強い力が加わったわけではありません。
- 絞扼(こうやく)性神経障害
- 神経が体の特定の場所で、筋肉や靭帯(じんたい)の隙間などでギュッと締め付けられてしまうことで起こります。
- 肘のあたりで神経が圧迫されると、麻痺の症状が出ることがあります。
- 炎症や病気が原因の場合
- ウイルス感染や、体の免疫システムが自分自身を攻撃してしまう自己免疫疾患などが原因で、神経自体に炎症が起こり、麻痺を引き起こすこともあります。
- ごくまれなケースですが、神経の近くにできたできもの(腫瘍)が神経を圧迫してしまい、麻痺の症状が出ることがあります。
このように、橈骨神経麻痺には様々な種類があり、それぞれ原因が異なります。原因をしっかり見極めることが、適切な治療への第一歩となります。
橈骨神経麻痺の原因
橈骨神経麻痺は、腕から手首、指の動きを伝える大切な神経が、何らかの理由でダメージを受けることで起こります。原因を知ることは、予防や適切な治療に繋がるためとても重要です。この神経が傷つく原因は一つではなく、いくつかのパターンがあります。
1.神経が「ぐっすり」圧迫されること
長時間にわたって腕の神経が圧迫されると、血流が悪くなり、神経の機能が一時的に低下することがあります。まるでホースが踏まれて水が出なくなるような状態です。
- 長い時間の圧迫
- 深い眠りについたり、酔って腕を不自然な姿勢で長時間圧迫したりすることで起こります。
- 例えば、腕枕をしたまま朝まで寝てしまうと、翌朝に手が動かしにくくなることがあります。
- これは「ハネムーン症候群」や「土曜の夜の麻痺」など、その状況を表す名前でも呼ばれています。
- 日常生活の中で、無意識に神経を圧迫してしまう可能性があることを知っておくことが大切です。
2.強い力が神経を直接傷つけること
転倒や事故などで腕や肘に強い衝撃が加わると、神経自体が直接的に傷つくことがあります。
- 骨折による損傷
- 腕の骨、特に二の腕の骨(上腕骨)が折れると、そのすぐそばを通る橈骨神経もダメージを受けやすいです。
- 骨の破片が神経に触れたり、骨折による腫れが神経を圧迫したりすることで麻痺が起こることがあります。
- 上腕骨骨折の治療では、神経への負担を最小限にする手術方法が研究されています。
- 新しい手術方法とその効果
- 低侵襲経皮プレート固定術(MIPO)という特別な手術方法が注目されています。
- この手術は、小さな傷でプレートを挿入し、神経への影響を少なく抑える工夫がされています。
- ある研究では、MIPO手術は他の骨折治療法と比較して、術後の橈骨神経麻痺の発生率が2.2%と低いことが示されています。
- また、MIPOは全体的な合併症発生率も2.1%と低いことが報告されています。
- これは、患者さんの負担を減らし、より安全に骨折を治療し、橈骨神経麻痺のリスクを低くする可能性を示しています。
3.医療処置や体の変化によるもの
まれに、医療処置が原因となったり、体の内部の変化によって神経が影響を受けたりすることもあります。
- 医療行為の影響
- 手術中に、意図せず神経が圧迫されることがあります。
- また、まれに注射の際に神経に触れてしまい、一時的に麻痺が起こる可能性もあります。
- 病気による圧迫
- ごくまれですが、神経の近くにできたできもの(腫瘍)が、神経を押し付けて麻痺を引き起こすこともあります。
このように、橈骨神経麻痺にはさまざまな原因があります。もし手首や指の動きに異変を感じたら、放置せずに専門の医療機関にご相談ください。早期に原因を見つけ、適切な対応を始めることが大切です。
橈骨神経麻痺の症状
橈骨神経麻痺になると、腕から手にかけて様々な困った症状が現れます。この神経は、健康な状態であれば、手首をグッと反らせたり、指をまっすぐに伸ばしたりする動きを助ける大切な役割を担っています。また、手の甲の一部に触れた感覚も伝えています。この神経がうまく働かなくなると、普段当たり前にできていた動きが難しくなるのです。私たちは、皆さんの「困った」という気持ちに寄り添い、詳しく説明していきます。
具体的に、どのような症状が見られるのか確認していきましょう。
- 手首がだらんと垂れ下がる(下垂手)
- 自分の力で手首を持ち上げることができず
- 手のひらが常に下を向いてしまう状態になります。
- これが「下垂手」と呼ばれる代表的な症状です。
- 物を持ち上げる、ドアノブを回すなどの動作がとても難しくなります。
- 指をまっすぐに伸ばせない
- 人差し指から小指まで、すべての指をまっすぐに伸ばすのが困難になります。
- 特に、指の付け根から伸ばす動きができなくなることが多いです。
- 指を伸ばせないと、鍵を開ける、文字を書くといった細かい作業がしにくくなります。
- 親指を広げられない
- 親指を横に大きく開く動きが難しくなります。
- これにより、物をつまんだり、しっかりと握ったりすることが困難になります。
- 例えば、ボタンを留める、ペンを持つといった日常動作に影響が出ることがあります。
- 手の甲の感覚が鈍い、しびれる
- 手の甲の親指側から薬指の半分くらいまでの範囲で
- 触った感じが鈍くなったり、ピリピリとしたしびれを感じたりすることがあります。
- 冷たいものや熱いものを感じにくくなることもあるため、注意が必要です。
これらの症状があると、日常生活の多くの場面で不便を感じることになります。しかし、症状が長く続いたとしても、決して諦める必要はありません。私たち医師は、皆さんが希望を持って治療に取り組んでいただけるよう、全力でサポートします。
最近の研究では、橈骨神経麻痺で手首や指の動きが悪くなった場合でも、新しい治療法で改善する可能性が示されています。例えば、「神経移行術」という手術では、健康な他の神経の一部を使って、麻痺で動かなくなった手首や指の筋肉が再び動くように機能の回復を目指します。
ある研究によると、この神経移行術を受けた方々のうち、手首を伸ばせるようになった人は9割以上いました。さらに、指を伸ばせるようになった人も5割以上いたと報告されています。この効果は、これまで行われてきた「腱移行術」という別の手術と同じくらい、またはそれ以上とされています。
また、この研究では、橈骨神経麻痺になってからの期間が長くても、治療の結果に大きな差がなかったことも示されました。これは、もし症状が出てから時間が経っていても、「もう治らないのでは」と諦める必要がない、という希望のメッセージだと私たちは考えています。
私たちは、皆さんの症状をしっかりと見極め、最適な治療法を一緒に考えていきましょう。より多くの患者さんに役立つ治療法を見つけるため、さまざまな医療機関が協力して研究を進めていく必要性も提言されています。これからも、より良い治療を目指した研究が続けられています。
橈骨神経麻痺の検査・診断
橈骨神経麻痺かもしれないと不安を感じて来院される患者さんの気持ちに、私たちはいつも寄り添っています。手首や指の動きに異変を感じたら、「もしかして病気かも」と心配になるのは当然のことです。正確な診断は、適切な治療への大切な第一歩となります。
私たちは、皆さんの症状を詳しくお聞きすることから診断を始めます。いつから、どのような症状が始まり、日常生活でどのような困りごとがあるのか、じっくりお話を伺います。
その上で、実際に体の状態を丁寧に診察し、必要な検査を行います。主な検査は以下の通りです。
- 問診と身体診察
- まずは、手首や指が動かしにくい、感覚がおかしいといった症状を確認します。
- 特に、自分の力で手首を持ち上げられず、だらんと垂れ下がってしまう「下垂手」という特徴的な状態がないかを診察します。
- また、人差し指から小指までをまっすぐに伸ばせるかなども確認します。
- これらの診察を通して、神経のどの部分が影響を受けているのかを慎重に探っていきます。
- 筋力評価
- 手首や指の筋肉の力を、細かく評価します。
- 例えば、物をどれくらいの力で握れるか、指をどれくらい動かせるかなどを確認します。
- この筋力評価には、筋力評価スケール(Muscle Research Council scale)という専門的な指標を用いることがあります。
- 筋力の回復具合を客観的に測ることは、病気の重さや今後の回復の見込み、そして治療の効果を判断する上で非常に大切な情報となります。
- 最新の研究でも、手術治療の効果を評価する際に、この筋力の回復が重要な評価基準となっていることが示されています。
- 電気生理学的検査
- 神経がどこで、どのくらい傷ついているのかを詳しく調べる検査です。
- 「神経伝導速度検査」では、神経が電気信号を伝える速さを測ります。
- これにより、神経のダメージの有無や程度、損傷している場所を特定できます。
- 「筋電図検査」では、筋肉の電気的な活動を記録し、神経からの指令が筋肉に適切に伝わっているかを確認します。
- 画像検査
- 骨折がないかを確認するため、X線(レントゲン)検査を行います。
- また、神経が骨や周囲の組織に圧迫されていないか、神経自体に異常がないかなどを詳しく調べるために、MRI検査を行うこともあります。
- これらの画像で、麻痺の原因となっている問題を見つける手助けをします。
私たちは、これらの検査結果を総合的に判断し、皆さんの橈骨神経麻痺の状態を正確に診断します。そして、一人ひとりに最適な治療方針を一緒に考えていきます。早期に原因を見つけ、適切な対応を始めることが、症状改善への大切な一歩となるのです。
橈骨神経麻痺の治療
橈骨神経麻痺の治療は、麻痺がどうして起こったのか、そしてどのくらい困っているかによって、さまざまな方法があります。早く手首や指を動かせるようになるためにも、あなたにぴったりの治療法を見つけることがとても大切です。私たちは、皆さんが安心して治療に取り組めるよう、一緒に最適な道を探していきます。
1. 自然な回復を待つ治療(保存的治療)
麻痺が軽い場合や、一時的に神経が圧迫されたことが原因の場合には、手術をせずに自然に回復するのを待つことがあります。これを「保存的治療」と呼びます。
- 安静にして腕を休ませる
- 神経が回復しやすいように、腕をなるべく使わないようにします。
- リハビリテーション
- 手首や指を正しい位置で支える装具を使ったりします。
- マッサージや電気を使った治療、軽い運動などを行います。
- これらは、神経が元に戻るのを助け、筋肉が弱ってしまうのを防ぎます。
2. 手術による治療
骨折が原因で神経が傷ついたり、圧迫が続いて回復が見込めない場合、または早く機能を取り戻したい場合には、手術を検討します。
- 骨折を治す手術
- 腕の骨が折れて橈骨神経に影響が出ている時は、骨折を治すことが大切です。
- 最近の研究では、骨折を手術でしっかり治した方が、手や腕の機能が早く、より良く回復することがわかっています。
- 特に「MIPO(ミポ)手術」という方法が注目されています。
- この手術は、骨折を治すだけでなく、他の手術方法と比べて、術後に橈骨神経麻痺が起きる危険性がとても低いことが報告されています。
- ある研究では、MIPO手術を受けた方の術後橈骨神経麻痺の発生率は約2.2%と低いことが示されています。
- また、MIPO手術は全体の合併症(手術で起こる困ったこと)も2.1%と少なく、骨がくっつかない(偽関節)割合も0.65%と、非常に良い結果が出ています。
- さらに、手術後の腕や肩の使いやすさを示すスコア(DASHスコアやASESスコア)も、MIPO手術を受けた方の方が良いというデータも出ています。
- 神経を引っ越しさせる手術(神経移行術)
- 神経が大きく傷ついて、回復が難しいと判断された場合には、「神経移行術」という手術を行うことがあります。
- これは、体の他の元気な神経の一部を、麻痺してしまった神経に繋ぎ合わせる手術です。
- こうすることで、手首や指を伸ばす機能を回復させることを目指します。
- ある研究によると、正中神経という別の神経からの移行術を行った結果、手首を伸ばせるようになった方が92.59%、指を伸ばせるようになった方も56.52%と、多くの方が改善しています。
- この手術は、今まで行われてきた「腱(けん)移行術」という別の手術と同じくらい、またはそれ以上の良い結果が期待できるとされています。
- また、この研究では、麻痺になってからの期間が長くても、治療の結果に大きな差がないこともわかりました。
- これは、症状が出てから時間が経っていても、改善の希望があることを意味しています。
- 今後、さらに多くの医療機関が協力して、どの手術方法が一番良いのかを研究していくことが大切だと考えられています。
あなたに合った治療を見つけるために
どの治療法を選ぶかは、神経がどのくらい傷ついているか、麻痺の様子、どれくらい時間が経っているか、そしてあなたの普段の生活によって大きく変わってきます。まずは、専門の医師に相談して、あなたの状態に一番合った治療計画を一緒に立てていきましょう。諦めずに治療を続けることが、回復への大切な一歩となります。





