褥瘡

「床ずれ」として知られる褥瘡(じょくそう)。実は、高齢者施設にいる方の約10人に1人以上、骨折などで入院した患者さんの約5人に1人が経験すると報告されています。これは決して、特別な誰かの問題ではありません。一度できてしまうと治りにくく、ご本人にとって大きな苦痛となってしまいます。

「たかが皮膚の赤み」と見過ごしたそのサインが、実は悪化の始まりかもしれません。しかし、褥瘡は原因を正しく理解し、適切なケアを行うことで予防が期待できるものでもあります。この記事では、褥瘡のメカニズムからご家庭でできる予防法、そして初期症状の見分け方までを詳しく解説します。大切なご家族とご自身のために、今できることを始めましょう。

褥瘡の概要

褥瘡(じょくそう)は、一般的に「床ずれ」として知られています。 寝たきりなどで体が長時間圧迫されると、その部分の血の流れが悪くなります。 血は皮膚に栄養や酸素を運ぶ大切な役割を担っています。 そのため、血の流れが滞ると皮膚の組織が傷ついてしまうのです。

褥瘡は決して珍しいものではなく、高齢者施設にいる方の約10人に1人以上に見られます。 特にお尻の真ん中の骨(仙骨)やかかとなど、骨が出ている場所は注意が必要です。 ある調査では、褥瘡ができる場所として以下の部位が多く報告されています。

  • かかと
  • 全体の約34%
  • 仙骨(お尻の真ん中の骨)
  • 全体の約27%
  • 足
  • 全体の約18%

一度できてしまうと治りにくく、ご本人にとって大きな苦痛となります。 しかし、褥瘡は適切なケアによって予防が期待できるものでもあります。 例えば、骨折の手術を受けた方が早めにリハビリを始めることで、褥瘡ができる危険性を大きく減らせたという研究結果も報告されています。 まずは褥瘡について正しく知ることが、予防と早期発見の第一歩です。

褥瘡の種類

褥瘡(じょくそう)は、皮膚やその下の組織がどれだけ傷ついているか、その深さによって重症度が分けられます。 この分け方は「ステージ分類」と呼ばれ、見た目の状態で判断します。 傷が浅いうちに気づいて、適切なケアを始めることがとても大切です。

傷の深さによる分類(ステージ分類)

褥瘡の状態は、国際的な基準を基に主に以下のように分けられます。

ステージ

皮膚の状態

ステージⅠ

皮膚に赤みがあるものの、傷にはなっていません。指で押しても赤みが消えないのが特徴です。血の流れが悪くなっているサインです。

ステージⅡ

皮膚の表面がめくれたり、水ぶくれができたりします。この段階から痛みを感じやすくなります。

ステージⅢ

皮膚の下にある脂肪の層まで傷が達し、穴が開いたように見えることがあります。

ステージⅣ

傷がさらに深くなり、筋肉や骨が見える最も重い状態です。感染症を起こす危険性が非常に高くなります。

判定不能

黒いかさぶたのような壊死(えし)組織が傷をおおっており、中の深さがわかりません。見た目より深い傷が隠れている可能性があります。

深部組織損傷(DTI)

皮膚の色が紫色や暗い赤色に変化しますが、傷にはなっていません。しかし、皮膚の奥深くで組織が傷ついており、急激に悪化することがあるため注意が必要です。

高齢の方が生活する施設では、ステージⅠやステージⅡといった、比較的初期の段階で見つかる褥瘡が多くを占めます。 ある調査では、褥瘡が最もできやすい場所は、かかと(約34%)、次いでお尻の真ん中にある仙骨(せんこつ)(約27%)と報告されています。 褥瘡はご高齢の方だけの問題ではありません。 例えば、骨折の治療などで入院する整形外科の病棟でも、約5人に1人(18%)の割合で褥瘡が発生するという研究結果もあります。 これは性別に関係なく、誰にでも起こりうる皮膚のトラブルなのです。

褥瘡の原因

褥瘡(じょくそう)、いわゆる「床ずれ」ができる原因は一つではありません。 体の外から加わる「力」と、ご自身の体の「状態」が合わさって発生します。

褥瘡を引き起こす直接的な原因は、皮膚に加わる3つの良くない力です。

  • 圧迫
  • 寝たきりなどで同じ姿勢が続くと、体の重みで皮膚が押しつぶされます。
  • これにより血の流れが止まり、皮膚に栄養や酸素が届かなくなり傷みます。
  • ズレ
  • ベッドの背中を上げた時、体はずり落ちようとしますが皮膚は残りたがります。
  • この時、皮膚の下で骨と皮膚がずれてしまい、血管が引っ張られてしまいます。
  • 摩擦
  • シーツの上で体を引きずったり、衣服がこすれたりすることも原因になります。
  • 皮膚の表面が繰り返しこすられることで、だんだんと傷ついてしまうのです。

また、ご自身の体の状態も、褥瘡のできやすさに大きく関係します。

  • 栄養状態が悪い
  • 栄養が足りないと皮膚が弱くなり、少しの力でも傷つきやすくなります。
  • また、やせて脂肪や筋肉が減ると骨が出っ張り、圧迫されやすくなります。
  • 皮膚が湿っている
  • 汗やおしっこなどで皮膚がふやけていると、バリア機能が低下します。
  • その結果、わずかな摩擦や圧迫でも、すぐに傷ができてしまいます。
  • ご病気やお薬の影響
  • 糖尿病などで血の流れが悪くなっていると、褥瘡ができやすくなります。
  • お薬の副作用で体の抵抗力が落ちている方も注意が必要です。

57万人以上の患者さんのデータをまとめた信頼性の高い分析研究があります。 その結果、特に「ご高齢であること」が褥瘡のできやすさと強く関連していました。 また、「体の状態を点数で評価する方法(ブレーデンスケール)」の点数が低いことも、大きな危険因子であることがわかっています。 この評価は、栄養状態や皮膚の湿り気、自分で動けるかなどを確認するものです。 つまり、外からの力だけでなく、ご自身の体の状態を把握することが大切なのです。

褥瘡の症状

褥瘡(じょくそう)は、最初は皮膚のわずかな変化として現れます。 この「最初のサイン」に気づけるかどうかが、悪化を防ぐための分かれ道です。

褥瘡のはじまり:消えない皮膚の赤み

褥瘡の最も初期のサインは、皮膚が赤くなることです。 しかし、一時的に圧迫されて赤くなるのとは、全く意味が異なります。 見分けるための簡単な方法があるので、ぜひ試してみてください。

【指で押して確認する方法】

  1. 赤くなっている部分を、指で3秒ほど軽く押してみます。
  2. 指を離したとき、押した部分が白くなり、すぐに赤みに戻れば血の流れは保たれています。
  3. もし、指を離しても赤みが消えないままであれば、それは褥瘡の初期段階(ステージⅠ)の可能性があります。血流が止まっている危険なサインです。

症状の進行とステージ

褥瘡は、皮膚や組織の傷の深さによって、いくつかの段階(ステージ)に分けられます。 ある研究によると、高齢者施設などではステージⅠやステージⅡが多くみられます。 これは、初期段階で発見されることの重要性を示しています。

ステージ

主な症状

ステージⅠ

指で押しても消えない赤みが皮膚にある状態です。まだ皮膚は傷ついていません。

ステージⅡ

皮膚の表面がむけたり、水ぶくれができたりします。この段階から痛みが出やすいです。

ステージⅢ

皮膚の下にある脂肪の層まで傷が達し、穴が開いたようにくぼんでしまいます。

ステージⅣ

傷がさらに深くなり、筋肉や腱、骨が見える最も重い状態です。感染の危険も高まります。

褥瘡ができやすい場所

褥瘡は、骨が出っ張っていて圧力がかかりやすい場所にできやすい傾向があります。 高齢者施設での調査では、特に以下の部位に褥瘡が発生しやすいと報告されています。

  • かかと
  • 全体の約34%
  • おしりの真ん中(仙骨部)
  • 全体の約27%
  • 足
  • 全体の約18%

その他にも、おしりの横のでっぱった骨(大転子部)や肩甲骨、ひじ、後頭部も注意が必要です。 もしご自身やご家族にこのような症状を見つけたら、悪化する前にできるだけ早く医師や看護師に相談しましょう。

褥瘡の検査・診断

褥瘡(じょくそう)の検査は、特別な機械を使わず、まず目で見て触れることから始まります。 医師や看護師が、骨が出っ張っている部分を中心に皮膚の状態を丁寧に観察します。 この時、赤みや傷、水ぶくれがないかなどを確認することが診断の第一歩です。

初期のサインを見抜く「指押し法」

皮膚に赤みがある時、それが一時的なものか、褥瘡のはじまりかを見分ける方法があります。 これは「指押し法」と呼ばれ、ご自宅でも簡単に確認できます。

  1. 赤くなっている部分を、指で3秒ほど軽く押します。
  2. 指を離したあとの、皮膚の色の変化を観察します。

指を離した時に皮膚が白くなり、すぐに赤色に戻れば血の流れは正常です。 一方で、指を離しても赤みが消えないままの場合は、血流が滞っている危険なサインです。 これは初期の褥瘡(ステージⅠ)の可能性が高いため、すぐに相談が必要です。

褥瘡のリスクを評価する方法

褥瘡を予防するため、どのくらい「褥瘡になりやすい状態か」を評価する基準があります。 代表的なものに「ノートンスケール」があり、5つの項目を点数で評価します。

評価項目

4点

3点

2点

1点

体の状態

良い

普通

不良

とても悪い

意識の状態

はっきり

ぼんやり

混乱

ぐったり

活動性

歩ける

杖で歩ける

車いす

寝たきり

動きやすさ

制限なし

少し不自由

とても不自由

動けない

失禁

なし

ときどき

尿失禁

尿・便失禁

合計点が低いほど、褥瘡が発生する危険性が高いと判断されます。 複数の研究をまとめた信頼性の高い分析によると、骨折などで入院する整形外科の患者さんの約18%に褥瘡がみられたと報告されています。 また、褥瘡のできやすさに性別による大きな差はないこともわかっています。 このような評価をもとに、一人ひとりに合った予防計画を立てることが非常に大切なのです。

褥瘡の治療

褥瘡(じょくそう)の治療で大切なのは、次の2つを同時に進めることです。 それは、できてしまった傷を治すことと、原因を取り除いて再発を防ぐことです。 治療は主に「圧迫の除去」「傷の手当て」「全身状態の管理」の3本柱で行います。

  • 1. 圧迫を取り除く(除圧)
  • 褥瘡の一番の原因である圧迫をなくすことが、治療のスタートです。
  • 体位変換
  • 定期的に体の向きを変えて、同じ場所に圧力がかかり続けないようにします。
  • 体圧分散寝具の使用
  • 体の重さを広い範囲に散らしてくれる、特別なマットレスやクッションを使います。
  • 2. 傷の手当て(創傷ケア)
  • 傷の状態に合わせて、丁寧に手当てをしていきます。
  • 洗浄
  • 傷口をきれいに洗い、細菌が増えるのを防ぎます。
  • ドレッシング材
  • 傷を保護し、治りやすい環境を作るためのシートです。
  • 研究では、傷を適度に湿らせる湿潤ドレッシング材が、従来のガーゼより治りを早めることがわかっています。
  • 特に銀イオンを含むものや、アルギン酸ドレッシング材などが有効と報告されています。
  • 壊死組織の除去
  • 治りを邪魔する黒い組織(壊死組織)は、医師の判断で取り除くことがあります。
  • 3. 全身状態の管理
  • 体の内側から治る力を高めることも、非常に重要です。
  • 栄養管理
  • 傷の修復には、たんぱく質などの栄養が不可欠です。
  • 栄養状態を良くして、体が本来持つ治癒力をサポートします。
  • リハビリテーション
  • 体を動かすと血の流れが良くなり、褥瘡の改善につながります。
  • ある研究では、骨折手術後に早めにリハビリを始めた方で、褥瘡の発生や合併症が減り、入院期間も短くなったと報告されています。

これらの治療は医師や看護師、栄養士などがチームとなり、一人ひとりに合った計画を立てて進めます。