起立性低血圧

立ち上がった瞬間にクラっとめまいがしたり、目の前が暗くなったり…。あなたもそんな経験はありませんか。その不快な症状、もしかしたら「起立性低血圧」という状態かもしれません。

実は、この状態は高齢者の約20%に認められるという報告もあるほど身近なものですが、単なる立ちくらみと軽く考えていると、転倒による骨折といった大きなケガにつながる危険性も潜んでいます。

この記事では、起立性低血圧の詳しい原因から、日常生活でできる具体的な対処法までを分かりやすく解説します。症状の裏に隠されたサインを見逃さず、安心して毎日を送るための第一歩として、ぜひご一読ください。

起立性低血圧の概要

立ち上がった瞬間に、クラっとめまいがしたり、目の前が暗くなったりした経験はありませんか。それは「起立性低血圧」という状態かもしれません。

私たちの体の中では、血液が常に巡っています。寝ていたり座っていたりする状態から急に立ち上がると、重力によって血液は足の方へと下がっていきます。

健康な人であれば、「自律神経」という体の調整役がすぐに働き、血管を締めたり心臓の拍動を速めたりして、脳へ送る血液が減らないように血圧を保ちます。

しかし、この調整がうまくいかないと、脳への血流が一時的に不足してしまい、立ちくらみが起こるのです。

具体的には、立ち上がってから3分以内に、血圧に以下のような変化が見られた場合に診断されます。

  • 上の血圧(収縮期血圧) 20mmHg以上、低下する
  • 下の血圧(拡張期血圧) 10mmHg以上、低下する

この状態は決して珍しいものではなく、高齢者の約20%に認められるという報告もあります。単なる立ちくらみと軽く考えがちですが、転倒による骨折などの大きなケガにつながるため注意が必要です。

また、近年の研究では、高齢者の起立性低血圧と、脳の細い血管に起こる病気(脳小血管病)との関連が調べられています。現時点では、両者の関係について、まだはっきりとした結論は出ていません。

しかし、症状の裏に他の病気が隠れている可能性も考えられるため、気になる症状があれば医療機関に相談することが大切です。

起立性低血圧の種類

起立性低血圧は、その原因によって大きく2つに分けられます。 背景に特定の病気が隠れているかどうかで分類することができます。

  • 本態性(ほんたいせい)起立性低血圧 特別な病気が原因ではなく、主に年齢を重ねることで起こるタイプです。 体を調整する自律神経の働きが、少しずつ衰えることが影響します。
  • 症候性(しょうこうせい)起立性低血圧 何らかの病気や飲んでいるお薬が原因となって起こるタイプです。 原因によって、さらに以下の3つのタイプに分けられます。
  • 神経の病気が原因のタイプ パーキンソン病や糖尿病などにより自律神経の働きが弱まることで起こります。 脊髄損傷のような神経系の病気でも見られることがあります。 最近の研究では、症状が出ていなくても血圧の状態に応じた治療を考えることの重要性が示唆されています。
  • お薬が原因のタイプ 血圧を下げる薬や、一部の心の病気の薬が原因となることがあります。 しかし、「薬のせいかも」と自己判断で飲むのをやめるのは大変危険です。 ある研究では、高齢者の方が血圧の薬を使い始めても、起立性低血圧が減ったという報告もあります。 これは、医師が心配するほどには、薬が立ちくらみを引き起こすリスクは高くない可能性を示しています。
  • 体の水分不足が原因のタイプ 脱水や出血などによって、体の中を流れる血液の量が少なくなることで起こります。 血液という「材料」そのものが足りないと、脳へ十分に届けられなくなります。

ご自身の立ちくらみがどのタイプなのかを知ることが、改善への第一歩となります。

起立性低血圧の原因

立ち上がった瞬間にクラっとする、あの不快な症状。 その原因は一つではなく、複数の要因が重なって起こることが多いです。

主な原因は、体の調子を自動で整える「自律神経」の働きの乱れです。 ストレスや不規則な生活、加齢などが引き金となり、自律神経のバランスが崩れます。 その結果、立ち上がった際の血圧コントロールが、うまく機能しなくなってしまうのです。

具体的には、以下のような原因が考えられます。

  • 体の水分不足 下痢や嘔吐、夏場の汗などで脱水状態になると、体内を巡る血液の量そのものが減ってしまいます。 血液という材料が不足するため、脳へ十分に届けられなくなり、血圧が下がりやすくなります。
  • 特定の病気の影響 糖尿病やパーキンソン病など、自律神経の働きに影響を与える病気が原因となることがあります。 また、脊髄損傷のような特殊な状態では、症状が出る前から血圧管理の治療を考える重要性が示唆されています。
  • 長期間の臥床(がしょう) 病気やケガで長く寝たきりの生活を送ると、血圧を調整する体の機能が少しずつ衰えてしまいます。
  • お薬の影響 血圧を下げる薬や一部の心の病気の薬が、原因となる場合があります。 しかし、「薬のせいかも」と自己判断で飲むのをやめるのは、大変危険です。 ある研究では、高齢者が血圧の薬を飲み始めても、起立性低血圧が減ったという報告もあります。 これは、医師が心配するほどには、薬が立ちくらみを引き起こすリスクは高くない可能性を示しています。

このように原因は多岐にわたるため、気になる症状があれば自己判断せず、医師に相談することが大切です。

起立性低血圧の症状

立ち上がった時にクラっとするのは、とても不快な症状です。 これは、脳へ送られる血液が一時的に足りなくなることで起こります。 症状の出かたは人それぞれですが、ご自身の状態を正しく知るため、代表的な症状を確認してみましょう。

【よくみられる症状のチェックリスト】 脳への血流が減ることで、以下のような様々なサインが現れます。

  • 立ちくらみ・めまい・ふらつき フワフワするような感覚や、周りが回るようなめまいを感じます。
  • 目の異常 目の前が真っ暗になったり、視界がかすんだりすることがあります。
  • 意識が遠のく感じ 気を失いそうになったり(失神)、実際に意識を失い転倒したりする危険もあります。
  • 全身の不調 はっきりした原因のないだるさや、疲れやすさを感じることもあります。 吐き気や、なんとなく気分が悪いという症状も珍しくありません。
  • その他の症状 頭痛や、首すじから肩にかけての重苦しいこりを感じる人もいます。

これらの症状は、立ち上がって数分以内に現れるのが特徴です。 そして、横になって休むとすぐに楽になる傾向があります。 また、毎回同じ症状が出るとは限らず、日によって症状の強さが違うことも少なくありません。

軽い立ちくらみと軽く考えがちですが、注意が必要です。 症状が強く出ると転倒し、骨折などの大きなケガにつながります。

近年の研究では、高齢者の起立性低血圧が、物事を考えたり覚えたりする力(認知機能)に影響をおよぼす可能性も指摘されています。 これは、脳の細い血管に起こる病気との関連が考えられていますが、まだはっきりとした結論は出ていません。

しかし、気になる症状を放置するのは避けるべきです。 ご紹介した症状は、体からの重要なサインかもしれません。 「いつものことだから」と自己判断せず、一度医療機関へ相談することが大切です。

起立性低血圧の検査・診断

立ちくらみやめまいで医療機関を受診した場合、まず詳しい問診から行います。 これは、症状の背景にある原因を探るための、非常に重要な手がかり集めです。 いつ、どんな時に症状が出るか、他に病気があるかなどを丁寧に確認します。 飲んでいるお薬がわかる、お薬手帳もぜひお持ちください。

問診の後は、起立性低血圧かどうかを診断するための検査を行います。 それが「起立試験」という、体の変化を数字で確かめるための検査です。 寝た状態と立った状態の血圧を比較し、自律神経の働きを評価します。

【起立試験のながれ】

  • STEP1:安静時の測定 まず、あお向けに寝てリラックスした状態で血圧と脈拍をはかります。
  • STEP2:立ち上がった後の測定 次に立ち上がってもらい、その直後、1分後、3分後と測定します。 時間をおって血圧がどう変わるかを、注意深く観察するのです。 報告によると、約3分間の検査で9割ほどの起立性低血圧がわかります。

この起立試験の結果、立ち上がってから3分以内に以下の変化がみられると、「起立性低血圧」と診断されます。

血圧の種類

低下の基準

上の血圧(収縮期血圧)

20mmHg以上、低下する

下の血圧(拡張期血圧)

10mmHg以上、低下する

また、上の血圧が90mmHg未満になる場合も診断の基準となります。 これらの数字は、脳へ送る血液が不足しやすくなっているサインです。

さらに、症状の裏に心臓の病気や貧血などが隠れていないか調べるため、心電図や血液検査などの追加検査を行うこともあります。

特にご高齢の方では、起立性低血圧が脳の細い血管の病気(脳小血管病)と関連する可能性が研究されています。現時点では、両者の関係について、まだはっきりとした結論は出ていません。しかし、将来の健康を守るためにも、症状を正しく評価することが大切です。気になる症状があれば、自己判断せずに専門の医療機関へご相談ください。

起立性低血圧の治療

立ちくらみの症状を和らげ、安心して毎日を送れるようにすることが治療の目標です。 治療は、まずお薬を使わない「生活習慣の工夫」から始めます。 それでも症状が良くならない場合に、「お薬による治療」を考えます。 これは、症状を抑えるだけでなく、転倒による大きなケガを防ぐためにも重要です。

1. お薬を使わない工夫(非薬物療法)

日常生活の中でできることから始めることが、治療の第一歩です。 普段から血圧が下がりにくい体づくりを意識していきましょう。

【日常生活でできる工夫】

  • ゆっくりとした動作を心がける 寝たり座ったりした状態から急に立ち上がらないようにしましょう。 一度、ベッドの端に座るなど一呼吸おいてから動くのがコツです。 特に、朝起きた時やトイレの後、食事の後は注意が必要です。
  • 水分・塩分をきちんと摂る 体の水分が不足すると、血液の量も減り血圧が下がりやすくなります。 のどが渇いたと感じる前に、こまめに水分を補給しましょう。 医師の判断のもと、適度な塩分を摂ることも助けになります。
  • 食事の摂り方を工夫する 食後に症状が出やすい方は、一度に食べる量を少し減らしましょう。 その代わりに、食事の回数を増やす「分割食」が役立ちます。
  • 適度な運動を続ける ふくらはぎの筋肉は、下半身の血液を心臓に戻すポンプの役割をします。 「第二の心臓」とも呼ばれるこの筋肉を、ウォーキングなどで鍛えましょう。
  • その他の工夫 足を締め付けるタイプの弾性ストッキングを履くことも有効です。 また、寝るときにベッドの頭側を少し高くするのも良い方法です。

2. お薬による治療(薬物療法)

生活習慣を工夫しても症状が改善しない場合は、お薬の力を借ります。 血圧を上げるお薬や、体の中の血液量を増やすお薬などが使われます。

高血圧で降圧薬を飲んでいる方は、お薬が原因かと心配になるかもしれません。 しかし、自己判断でお薬をやめるのは非常に危険です。 最近の研究では、医師がお薬の種類や量を調整することで、むしろ立ちくらみが減ったという報告もあります。 これは、お薬による立ちくらみのリスクは、これまで心配されていたほど高くない可能性を示唆しています。

また、脊髄損傷のような特殊な状態の患者さんを対象とした研究もあります。 その研究では、症状が出ていなくても血圧の状態に応じて治療を考えることの重要性が示唆されています。 気になる症状や不安なことがあれば、必ず主治医に相談してください。