起立性調節障害

「朝、どうしても起き上がれない」「周りからはなまけていると誤解されてつらい」。もし、あなたやお子さんがこのような悩みを抱えているなら、それは気合の問題ではなく、「起立性調節障害」という体の病気が原因かもしれません。

この病気は、体の機能を自動で調整する自律神経の働きが、特に思春期の急激な成長に追いつかずに乱れることで起こります。立ち上がった際に血圧をうまく保てず、脳への血流が不足するため、強いだるさやめまい、頭痛など、つらい症状が全身に現れるのです。

この記事では、起立性調節障害がなぜ起こるのか、その詳しい原因と種類、そしてご家庭で今日から始められる具体的な対処法までを分かりやすく解説します。あなたの不調の正体を知り、改善への第一歩を踏み出しましょう。

起立性調節障害の概要

起立性調節障害は、体の機能を自動で調整してくれる「自律神経」の働きが、一時的にうまくいかなくなる体の病気です。

決して「なまけている」「気持ちが弱い」といった精神的な問題ではありません。ご本人や周りの方がそう誤解しやすい病気の一つです。

私たちの体には、体を自動で動かす司令塔のような自律神経が備わっています。寝ている状態から急に立ち上がっても、普通はめまいが起きません。

これは自律神経が瞬時に血管を締め、脳に送る血液が減らないように血圧を保ってくれるからです。しかし、この調整がうまく機能しないのが起立性調節障害です。

その結果、立ち上がった時に脳への血流が足りなくなり、立ちくらみやめまい、強いだるさなどの症状が起こります。

自律神経は血圧だけでなく、心臓や胃腸の働きなど、生命維持に欠かせない全身の機能を制御しています。そのため、自律神経の乱れは体の様々な不調につながるのです。

この病気は、体が急激に成長する思春期の子どもに多く見られます。体の大きな変化に、自律神経の機能が追いつかなくなることが原因の一つです。気になる症状があれば、一度専門の医療機関へ相談しましょう。

起立性調節障害の種類

起立性調節障害と一言でいっても、実は症状の出方には個人差があります。 そのため、体の反応のクセによって、いくつかの種類(サブタイプ)に分けられています。

どの種類に当てはまるかは、主に「新起立試験」という検査で判断します。 これは、横になった状態から立ち上がった後の血圧や心拍数の変化を詳しく調べる検査です。

どの種類にも共通しているのは、体を自動で調整する「自律神経のネットワーク」の働きがうまくいかないことです。 このネットワークの働きが乱れると、立ち上がった時に血圧を保つ反応が鈍くなってしまいます。

ある研究では、体の調節機能が弱っていると、立ち上がった後の血圧の回復に30秒以上かかることが示されています。 健康な状態であれば、立ち上がってもすぐに血圧は安定します。 しかし、この病気では回復に時間がかかり、脳への血流が足りなくなって様々な症状を引き起こすのです。

代表的な種類は、以下のとおりです。

種類(サブタイプ)

主な特徴

起立直後性低血圧(INOH)

立ち上がった瞬間に血圧がガクンと下がり、回復も遅れるタイプです。強い立ちくらみが特徴です。

体位性頻脈症候群(POTS)

血圧はあまり下がりませんが、心臓が血圧を保とうと頑張りすぎて、心拍数だけがとても速くなるタイプです。動悸やだるさを感じやすいです。

血管迷走神経性失神(VVS)

長く立っていたり、強いストレスを感じたりした時に、急に血圧が下がって意識が遠のくことがあります。

遷延性起立性低血圧(DOH)

立ち上がってから数分以上経った後、じわじわと血圧が下がってくるタイプです。

ご自身の症状がどの種類なのかを正しく知ることは、とても大切です。 種類に合わせた適切な治療や、日常生活での工夫を見つけるための第一歩になります。

起立性調節障害の原因

起立性調節障害は、一つの原因だけで起こるわけではありません。 体の仕組みや生活習慣、ストレスなど、複数の要因が重なって発症します。

この病気の中心にあるのは、体を自動で動かす「自律神経」の乱れです。 特に、脳や脊髄にある自律神経のネットワーク機能の不調が関係します。 このネットワークは、全身の血圧などを調整する司令塔の役割を持ちます。

ある研究では、体の調節機能が弱っていると、血圧の回復が遅れます。 立ち上がった後の血圧回復に30〜60秒もかかることが示されています。 健康な状態であれば30秒以内に回復するため、この差は大きいのです。 回復が遅れることで、脳への血流が不足し、つらい症状が出ます。

自律神経の働きが乱れる背景には、主に以下の要因が考えられます。

  • 体の急激な成長 思春期は、骨や筋肉が急速に成長する時期です。 この体の大きな変化に、自律神経の発達が追いつかず、 バランスが崩れやすくなります。
  • 生活習慣の乱れ 水分不足は血液の量を直接減らし、血圧を上がりにくくします。 また、運動不足では、足の筋肉のポンプ機能が十分に働きません。 そのため、心臓へ血液を戻す力が弱くなってしまいます。
  • 精神的なストレス 学校や家庭での悩みは、自律神経のバランスを大きく乱す原因です。 過度なストレスは、交感神経と副交感神経の切り替えを妨げます。
  • 遺伝的な要因 ご家族に同じような症状の方がいることもあります。 もともとの体質が影響している可能性も考えられます。

起立性調節障害の症状

起立性調節障害の症状は、単なる立ちくらみだけではありません。 体の機能を自動で調整する自律神経の乱れが、全身に影響します。 自分に当てはまる症状がないか、チェックしてみましょう。

【あなたに当てはまる症状はありますか?】

  • 立ち上がるとき 立ちくらみがする、目の前が真っ暗になる、めまいがする。
  • 一日を通して感じる全身の症状 朝、どうしても起き上がれない。 体が鉛のように重く、すぐに疲れてしまう。 顔色が悪く、「青白い」と周りから言われる。 少し動いただけでも心臓がドキドキしたり、息が切れたりする。
  • 体の部分に現れる症状 しつこい頭痛に悩まされている。 吐き気がする、食欲がない、お腹が痛くなる。

これらの症状は、自律神経のネットワークがうまく働かないために起こります。 このネットワークは、血圧だけでなく胃腸の働きなども含めた全身を調整しています。 そのため、司令塔である自律神経が乱れると、様々な不調が現れるのです。

特に、立ち上がった時の血圧の回復が遅れることが大きな原因です。 健康な人なら30秒以内に安定しますが、この病気では回復に30秒〜60秒もかかります。 このタイムラグによって脳への血流が不足し、つらい症状を引き起こすのです。

また、症状の出方には波があり、午前中に最も強く、午後には楽になる傾向があります。 このため、「なまけている」と誤解されやすいですが、決して気持ちの問題ではありません。 体の仕組みの問題であり、誰にでも起こりうる体のSOSサインなのです。

起立性調節障害の検査・診断

起立性調節障害が疑われる場合、まず他の病気がないかを確認することが診断の第一歩です。 症状が似ている貧血や心臓の病気など、重大な病気が隠れていないかを確かめる必要があります。 そのために、医師による診察や血液検査、心電図検査などを丁寧に行います。

他の病気の可能性が低いと判断された後、起立性調節障害の診断を確定するために、主に以下のステップで検査を進めます。

【診断までの主な流れ】

検査ステップ

内容

STEP1:問診

症状の種類や、いつ・どんな時に症状が出るかを詳しくお聞きします。下のチェックリストのような項目を確認します。

STEP2:新起立試験

横になって安静にした後、立ち上がってからの血圧と心拍数の変化を測定します。診断の決め手となる重要な検査です。

□ 問診で症状をチェックしてみよう 問診では、あなたの体が発しているSOSサインを一緒に探します。 次のような症状がないか、確認してみましょう。

  • 立ちくらみや、めまいがする
  • 朝、どうしても起きられない
  • 気分が悪くなることがある
  • 頭痛や、お腹の痛みがよくある
  • 疲れやすく、体がだるく感じる

特に診断の決め手となるのが「新起立試験」です。 この検査では、体を自動で調整する「自律神経のネットワーク」の働きを調べます。 横になって10分間安静にした後、立ち上がってから10分後までの血圧と心拍数の変化を詳しく測定します。

ある研究では、体の調節機能が弱っていると、血圧の回復に30秒〜60秒もかかると報告されています。 健康な状態であれば30秒以内に回復するため、この回復の遅れが脳への血流不足を招き、つらい症状を引き起こすのです。 この検査結果を分析し、起立性調節障害のどの種類(サブタイプ)に当てはまるかを正確に診断します。 正しい診断が、あなたに合った治療への大切な一歩となります。

起立性調節障害の治療

起立性調節障害の治療は、まずお薬を使わない方法から始めます。 体の土台を整えることが、症状改善への一番の近道だからです。 生活を見直してもつらい症状が続く場合に、お薬の治療を考えます。

お薬を使わない治療法(非薬物療法)

日常生活のちょっとした工夫が、治療の大きな柱となります。 ご家庭でできる主な方法を、なぜそれが必要なのかと合わせて解説します。

  • 水分と塩分をしっかりとる 体の中をめぐる血液の量を増やし、血圧を保つために大切です。 1日に1.5〜2リットルの水分を目安に、こまめに飲みましょう。 食事で適度な塩分をとることも、血圧を維持する助けになります。
  • 生活リズムを整える 夜ふかしを避け、毎日決まった時間に寝起きすることが基本です。 朝起きたら太陽の光を浴びると、体のリズムが整いやすくなります。 自律神経のオン・オフの切り替えをスムーズにする効果があります。
  • 立ちくらみを防ぐ運動習慣 特に効果的なのが、座ったままできる「足首の曲げ伸ばし運動」です。 立ち上がる前に1分間、足首をパタパタと動かしてみましょう。 ふくらはぎの筋肉がポンプのように働き、血液を心臓へ押し戻します。

ある研究では、この運動の効果がはっきりと示されています。 運動をしない場合、立ち上がると血圧が平均17.5mmHgも低下しました。 しかし運動後では、血圧低下はわずか1.0mmHgに抑えられたのです。 この運動は、心臓に負担をかけずに血圧低下を防ぐ、安全で有効な方法です。

お薬を使う治療法(薬物療法)

生活習慣の改善を続けても症状がよくならない場合に検討します。 あくまで、つらい症状を和らげるための「サポーター」です。

血圧を上げる働きのあるお薬(ミドドリン塩酸塩など)を使い、 立ちくらみや強いだるさといった症状の緩和を目指します。 お薬を使いながらも、基本となる生活習慣の改善は続けましょう。 どの治療があなたに合っているか、まずは専門の医師にご相談ください。