下肢静脈瘤

夕方になると足が重くだるい、夜中に突然こむら返りで目が覚める。そんなつらい症状を、単なる疲れや年齢のせいだと諦めていませんか?その不調、実は足の血管にある血液の逆流を防ぐ「弁」が壊れてしまう「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)」という病気のサインかもしれません。

下肢静脈瘤は、血管がボコボコと浮き出る見た目の変化だけでなく、足のだるさやむくみ、痛みなどを引き起こします。自然に治ることは少なく、放置すると皮膚に湿疹や変色が起きるなど、症状が悪化してしまう可能性もあります。

幸い、この病気は適切な検査と治療で改善が期待でき、近年では体への負担が少ない治療法も進んでいます。この記事では、下肢静脈瘤の詳しい原因からご自身でできるチェック項目、最新の治療法までを解説します。気になる症状の正体を知り、早期対策への第一歩としましょう。

下肢静脈瘤の概要

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)とは、足の血管が病気の状態になることです。 「下肢」は足、「静脈瘤」は血管がこぶのように膨らんだ状態を指します。

私たちの体では、心臓から出た血液が足の先まで届き、また心臓へ戻ります。 このとき、足の血液は重力に逆らって心臓へ戻らなければなりません。 そのために、足の血管(静脈)には血液の逆流を防ぐ「弁」という扉があります。

この弁が壊れてうまく閉じなくなると、血液が心臓へ戻れずに逆流します。 逆流した血液が足にたまってしまうことで、血管が膨らみ、こぶになるのです。 見た目に血管が浮き出ていなくても、次のような症状があれば注意が必要です。

【下肢静脈瘤でみられる症状のチェックリスト】

  • 足のだるさ、重さ 夕方になると、足が重く感じたり、だるさが強くなったりします。
  • 足のむくみ 靴下の跡がくっきりと残る、朝より夕方のほうが靴がきつく感じます。
  • こむら返り 夜中や朝方に、ふくらはぎが急につって、痛みで目が覚めることがあります。
  • 皮膚のかゆみや湿疹 すねのあたりにかゆみや湿疹ができ、なかなか治らないことがあります。
  • 皮膚の色の変化 症状が進むと、皮膚が茶色っぽく黒ずんで硬くなることがあります。

これらの症状は、自然に良くなることは少なく、放置すると悪化する傾向があります。 しかし、下肢静脈瘤は適切な検査と治療によって症状の改善が期待できる病気です。 近年では体への負担が少ない治療も進んでいますので、早めの相談が大切です。

下肢静脈瘤の種類

下肢静脈瘤は、原因となる血管や見た目の違いから、主に4つの種類に分けられます。 ご自身の足の状態がどのタイプに近いか、確認してみましょう。 これらは単独の場合もあれば、いくつかの種類が混ざって現れることもあります。

  • 伏在型(ふくざいがた)静脈瘤 足の表面近くにある「伏在静脈」という太い血管の弁が壊れて起こります。 これは最も多いタイプで、血管がミミズのようにボコボコと浮き出て見えます。 だるさやむくみといった症状が出やすく、治療が必要になる場合がほとんどです。 近年の研究では、レーザーや高周波、医療用接着剤による治療が高い成功率を示し、 体への負担が少ない選択肢として確立されています。
  • 側枝型(そくしがた)静脈瘤 伏在静脈から木の枝のように分かれた先の血管(側枝静脈)がこぶになった状態です。 多くの場合、伏在型静脈瘤と一緒に見られます。
  • 網目状(あみめじょう)静脈瘤 皮膚のすぐ下にある、直径2〜3mmほどの細い血管です。 青い血管が網目のように透けて見えるのが特徴です。
  • クモの巣状(くものすじょう)静脈瘤 直径1mm以下の、さらに細い血管が赤紫色に広がります。 見た目がクモの巣のように見えることから、この名前がついています。

注意点として、血管が浮き出ていなくても症状が現れる場合があります。 これを「潜伏性下肢静脈瘤」といい、足のだるさやむくみ、こむら返りがサインです。 見た目だけで判断せず、気になる症状があれば専門のクリニックに相談しましょう。

下肢静脈瘤の原因

下肢静脈瘤の根本的な原因は、静脈の中にある「弁」の働きが悪くなることです。 足の血液が心臓へ戻るためには、重力に逆らって上っていく必要があります。 そのために、私たちの足には2つの大切な仕組みが備わっています。

  1. ふくらはぎの筋肉ポンプ 歩く時などに、ふくらはぎの筋肉がギュッと縮みます。 この力が血管を押し、血液を心臓へ送り出すポンプの役目をします。
  2. 静脈の弁 一度、心臓へ向かった血液が重力で逆戻りしないように、 血管の中に「弁」という扉がついて逆流を防いでいます。

しかし、何らかの理由でこの弁が壊れてうまく閉じなくなると問題が起きます。 血液が足のほうへ逆流してしまい、行き場を失った血液が血管にたまります。 その結果、血管が風船のように膨らみ、こぶのようになるのです。

では、なぜ弁は壊れやすくなるのでしょうか。 それには、日常生活に潜むいくつかの要因が関係しています。

【弁が壊れやすくなる主な要因】

  • 長時間の立ち仕事や座りっぱなし 同じ姿勢が続くと、筋肉ポンプが働かず血液が足に停滞します。 これにより、弁には常に強い圧力がかかり続け、壊れやすくなります。
  • 加齢による血管の衰え 年齢を重ねると、肌の弾力が失われるのと同じように、 血管の壁や弁も弾力を失い、弱くなってしまいます。
  • 遺伝的な体質 ご家族に下肢静脈瘤の方がいる場合、 血管の壁や弁が弱い体質を受け継いでいる可能性があります。
  • 妊娠や出産 女性ホルモンの影響で血管が柔らかくなることに加え、 お腹が大きくなることで足からの血流が圧迫され、弁に負担がかかります。
  • 肥満による足への負担 体重が増えると足への負担が増し、お腹の脂肪が血管を圧迫します。 これも血流を悪化させ、弁に負担をかける原因となります。

これらの要因が一つだけでなく、複数重なることで発症リスクは高まります。

下肢静脈瘤の症状

下肢静脈瘤のサインは、見た目の変化だけではありません。 足のだるさや痛みなど、生活の質を下げる症状も現れます。 ご自身の足の状態と比べて、当てはまるものがないか確認しましょう。

見た目に現れるサイン

血液の逆流が続くと、血管や皮膚に変化が起きます。 症状は段階的に進んでいくことが多く、放置すると悪化します。

  • 皮膚から血管が透けて見える 初期のサインとして、青や赤紫色の細い血管が見えます。 クモの巣や網目のように広がるのが特徴です。
  • 血管がボコボコと浮き出る 病気が進むと、太い血管がミミズのように膨らみます。 これは、血管に血液がたまって、こぶ状になっている状態です。
  • 皮膚の状態が悪くなる さらに悪化すると、血液のよどみで皮膚に栄養が届かなくなります。 治りにくい湿疹やかゆみ、皮膚が茶色く変色するなどの変化が起こります。

感覚として現れるサイン

見た目に大きな変化がなくても、つらい症状を感じることがあります。 これを「潜伏性下肢静脈瘤」といい、実は多くの方が経験します。

こんな症状はありませんか?

なぜ起こるの?

夕方になると足が重くだるい、疲れやすい

血液のよどみで、足に老廃物がたまるためです。

足がむくんで靴がきつくなる

血管から水分がしみ出して、足がパンパンになるためです。

寝ている時や朝方に足がつる(こむら返り)

血行不良で筋肉に酸素や栄養が不足するためです。

足がズキズキ痛む、ほてる

膨らんだ血管が炎症を起こしたり、神経を刺激したりするためです。

これらの症状は、足の血管が「助けて!」と出している危険信号です。 一つでも気になるサインがあれば、専門の医療機関へご相談ください。

下肢静脈瘤の検査・診断

足のだるさや血管の見た目を正確に診断するため、検査は欠かせません。 特に、見た目だけではわからない血管内部の問題を調べるためです。 下肢静脈瘤の診断で最も中心となるのが「超音波(エコー)検査」です。

この検査は、痛みや放射線を浴びる心配のない、とても安全な方法です。 肌にゼリーを塗り、超音波を出す機械をそっと当てるだけで行えます。 検査時間は片足で15分ほど、両足でも30分程度で終わることがほとんどです。

超音波検査では、主に次の3つのことを詳しく調べます。

  • 血管の形と太さ 原因となっている血管が、どのくらい太くなっているのか、 また、こぶ(瘤)の状態をミリ単位で正確に測定します。
  • 血液の逆流 下肢静脈瘤の根本原因である、血液の逆流があるかを確認します。 どの血管の、どの部分で逆流が起きているかを突き止めます。
  • 血栓(けっせん)の有無 血管の中に、危険な血のかたまり「血栓」がないかを確認します。 血栓は、肺に飛ぶと命に関わる病気を引き起こすこともあるため、 とても重要な確認項目です。

これらの検査結果を総合的に評価し、下肢静脈瘤かどうかを確定診断します。 病気の進行度や種類を正確に把握することで、最適な治療法を選びます。 近年の研究では、レーザーや高周波治療などが高い成功率を示しています。 正確な診断は、適切な治療への第一歩となるのです。

下肢静脈瘤の治療

下肢静脈瘤の治療は、症状や血管の状態、生活習慣に合わせて選びます。 治療は大きく2種類に分けられます。 症状を和らげる「保存的治療」と、原因を根本から治す「根治的治療」です。

保存的治療

医療用の弾性ストッキングを履き、足を外側から適度に圧迫する方法です。 足にたまった血液を心臓へ戻す手助けをし、だるさやむくみを軽くします。 ただし、これは症状を和らげる対症療法であり、病気自体を治すものではありません。

根治的治療

原因となっている壊れた血管をふさぎ、血液の逆流を止める治療です。 近年は、体への負担が少ない「血管内治療」が主流となっています。 細い管(カテーテル)を血管の中に入れ、内側から悪い血管を治療します。

治療法

特徴

血管内レーザー焼灼術(EVLA)

レーザーの熱で血管を焼いてふさぐ方法です。<br>新しい世代のレーザーは、より少ない熱で治療でき、<br>高い成功率が報告されています。

血管内高周波焼灼術(RFA)

高周波の熱で血管を焼いてふさぐ方法です。<br>レーザー治療に比べ、術後の痛みや神経のしびれが<br>少ない傾向にあります。

血管内接着剤閉鎖術(グルー治療)

医療用の接着剤で血管をふさぎます。<br>熱を使わないため、神経を傷つける心配が少なく、<br>他の治療法と比べても劣らない成功率が期待できます。

硬化療法

薬剤を注射して血管を固めます。<br>主に細い血管や、他の治療の補助として行います。

これらの治療法は、それぞれに長所と短所があります。 例えば、高周波治療はレーザー治療に比べて術後の痛みが少ない反面、 皮膚に茶色い色素沈着が起こりやすいという報告もあります。

どの治療が最適かは、超音波検査で血管の太さや場所を正確に調べた上で、 専門の医師が患者さんの希望も伺いながら総合的に判断します。 気になる症状があれば、まずは専門のクリニックに相談することが大切です。