脂質代謝異常

健康診断の結果を見て、「コレステロール値が高い」「中性脂肪を指摘された」という経験はありませんか。自覚症状がほとんどないため「まだ大丈夫」と楽観視しがちですが、その状態こそ「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」と呼ばれる脂質代謝異常のサインかもしれません。

この状態を放置すると、気づかないうちに血管の老化である動脈硬化が進み、将来的に心筋梗塞や脳梗塞といった命を脅かす病気につながる危険があります。原因は食べ過ぎや運動不足だけでなく、約500人に1人が該当するとされる遺伝的な体質が隠れていることも。この記事では、脂質代謝異常の本当の原因と、ご自身でできる対策について詳しく解説します。

脂質代謝異常の概要

脂質代謝異常とは、血液の中に含まれる「あぶら」、 つまり脂質の量が多すぎたり少なすぎたりする状態のことです。 自覚できる症状がほとんどないため、健康診断で初めて気づく方が少なくありません。

私たちの体を構成する脂質には、主に次の3種類があります。

  • LDLコレステロール(悪玉コレステロール) 増えすぎると血管の壁にたまり、血管を硬く狭くする「動脈硬化」の原因になります。
  • HDLコレステロール(善玉コレステロール) 血液中の余分なコレステロールを回収し、動脈硬化を防ぐ働きを持つお掃除役です。
  • 中性脂肪(トリグリセリド) 体を動かす大切なエネルギー源ですが、増えすぎるとLDLを増やしHDLを減らしてしまいます。

これらの脂質バランスが崩れる原因は、食べすぎや運動不足だけではありません。 最近の研究では、体の調子を整えるビタミンDの不足も、 脂質代謝異常と関係することがわかってきています。

脂質代謝異常を放置すると、動脈硬化が静かに進みます。 そして将来、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気につながる可能性があります。 自分の体の状態を把握するため、定期的に健康診断を受けましょう。

脂質代謝異常の種類

ひとくちに脂質代謝異常といっても、実は原因となる脂質によって種類が分かれます。 ご自身の状態を正しく理解するため、まずはその種類を知ることが大切です。

主に、次の3つのタイプに分類されます。

種類

どんな状態?

高LDLコレステロール血症

「悪玉」のLDLコレステロールが基準値より多い状態です。

低HDLコレステロール血症

「善玉」のHDLコレステロールが基準値より少ない状態です。

高トリグリセリド血症

体のエネルギー源である中性脂肪が基準値より多い状態です。

これらのタイプは、生活習慣だけでなく、生まれ持った体質が関係することもあります。 例えば、遺伝的にコレステロール値が高くなりやすい「家族性高コレステロール血症」は、 約500人に1人いるとされ、決して珍しいものではありません。

また、最近の研究では、他の病気との関連も指摘されています。 アトピー性皮膚炎やニキビといった炎症を伴う皮膚の病気と、 血液中の脂質バランスが関係している可能性が示唆されているのです。 ただ、この関連性についてはまだ研究段階であり、さらなる解明が待たれます。

これらのタイプは、どれか1つだけでなく、複数を同時に指摘される方もいます。 健康診断の結果で、ご自身がどのタイプに当てはまるか把握することが第一歩です。

脂質代謝異常の原因

血液中のあぶら、つまり脂質のバランスが崩れる原因は、 一つだけではありません。 主に「生活習慣」と、生まれ持った「遺伝的な体質」です。 この2つは、それぞれが独立しているわけではありません。 両方が複雑に絡み合って、発症に関わることが多いのです。

① 日々の積み重ねが影響する「生活習慣」

脂質代謝異常の最も一般的な原因は、日々の暮らし方です。 以下のような習慣は、血液の脂質バランスを乱します。

  • 食べすぎや飲みすぎ 消費する以上に食べると、余ったエネルギーが体内で 中性脂肪に変わり、体に蓄えられてしまいます。
  • 脂肪分の多い食事 お肉の脂身やバターなどに含まれる「飽和脂肪酸」は、 悪玉(LDL)コレステロールを増やすことが知られています。
  • 運動不足 体を動かす機会が少ないと、エネルギーが消費されません。 それだけでなく、善玉(HDL)コレステロールも減りやすいです。
  • 糖分の多い食生活 甘いお菓子やジュースに含まれる糖分も、 体の中で中性脂肪に変わりやすい性質を持っています。

② 生まれ持った「遺伝的な体質」

生活習慣を改善しても、数値が良くならないことがあります。 その背景には、遺伝的な体質が隠れているかもしれません。

例えば「家族性高コレステロール血症」という病気があります。 遺伝的に悪玉コレステロールが非常に高くなるもので、 約500人に1人と、決して珍しいものではありません。

また、特定の遺伝子が肥満に関わることもわかってきました。 複数の研究を分析した信頼性の高い報告によると、 MC4Rという遺伝子のあるタイプを持つ人は、 そうでない人と比べて太りやすい傾向が示されています。 この遺伝子タイプは、血糖値も高くなりやすいとされます。

このように、ご自身の原因を正しく知ることが大切です。 それにより、適切な対策を立てることが可能になります。

脂質代謝異常の症状

脂質代謝異常は、ほとんどの場合で自覚できる症状がありません。 痛みやかゆみなどがないため、気づかないうちに血管が傷ついていきます。 そのため「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」とも呼ばれるのです。

しかし、まれに体にSOSのサインが現れることがあります。 特に、遺伝的な要因が強い場合に見られる症状があります。

  • 腱黄色腫(けんおうしょくしゅ) コレステロールの塊で、黄色いしこりのように見えます。 アキレス腱が異常に太くなったり、手の甲やひじにできたりします。
  • 角膜輪(かくまくりん) 黒目のふちに、白く濁ったリング状のサインが現れる状態です。

また、中性脂肪が極端に高いと、急性膵炎を引き起こすことがあります。 みぞおちや背中に突然の激痛が走り、命に関わる危険な状態です。

最近の研究では、お子さんの皮膚との関連も調べられています。 アトピー性皮膚炎と脂質異常症の関連が示唆されたのです。 ただ、この関係性はまだ研究段階で、さらなる解明が待たれます。

脂質代謝異常で最も注意すべきなのは、無症状で進行する動脈硬化です。 これが原因で、命を脅かす病気につながる可能性があります。

関連する病気

主な症状

狭心症・心筋梗塞

階段を上るなど体を動かすと、胸が締め付けられる。

脳梗塞

突然、手足がしびれたり麻痺したり、言葉がもつれる。

閉塞性動脈硬化症

歩くと足が痛み、少し休むと痛みが和らぐ。

はっきりした症状が出た時は、病気がかなり進んでいるサインです。 だからこそ、症状がない段階で、健康診断の結果を確認することが大切です。

脂質代謝異常の検査・診断

脂質代謝異常には、ほとんどの場合で自覚できる症状がありません。 そのため、診断の第一歩は健康診断などで行う「血液検査」です。 症状がないからと安心せず、定期的な検査で体の状態を知りましょう。

検査は、基本的に朝食をとる前の空腹時に採血して行います。 食事の影響を受けない、体の素の状態を正確に調べるためです。 主に以下の3つの項目を調べて、脂質のバランスを確認します。

  • LDLコレステロール(悪玉コレステロール) 血管の壁にたまり、動脈硬化を進める原因になります。
  • HDLコレステロール(善玉コレステロール) 余分なコレステロールを回収する、血管のお掃除役です。
  • トリグリセリド(中性脂肪) 体を動かすエネルギー源ですが、多すぎると問題になります。

これらのうち、一つでも基準から外れると「脂質異常症」と診断されます。

検査項目

診断基準(空腹時)

病気の名前

LDLコレステロール

140mg/dL 以上

高LDLコレステロール血症

HDLコレステロール

40mg/dL 未満

低HDLコレステロール血症

トリグリセリド(中性脂肪)

150mg/dL 以上

高トリグリセリド血症

non-HDLコレステロール

170mg/dL 以上

高non-HDLコレステロール血症

※出典:日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版

non-HDLコレステロールは、悪玉以外の動脈硬化の原因となる脂質も含む数値です。 より広くリスクを評価するために、近年注目されています。

血液検査は、将来の健康リスクを知る手がかりにもなります。 最近の研究では、特定の脂質(PI 32:1など)を詳しく調べることで、 加齢などで筋肉が衰える「サルコペニア」のなりやすさが、 高い精度でわかる可能性が報告されました。 脂質の検査は、全身の健康状態を知る重要な機会なのです。

必要に応じて、動脈硬化の進み具合を調べる追加検査も行います。 首の血管の状態を直接見る「頸動脈エコー検査」などがその一つです。 これらの結果を総合的に判断し、一人ひとりに合った治療を考えます。

脂質代謝異常の治療

脂質代謝異常の治療は、将来の心筋梗塞や脳梗塞を防ぐことが目的です。 診断されたからといって、すぐに薬物療法が始まるわけではありません。 治療の基本であり最も大切なのは、まず生活習慣を見直すことです。

治療は主に、以下の3つの柱を組み合わせて行われます。

  • 食事療法 食事のバランスを整え、脂質の摂り方を改善します。
  • 運動療法 体を動かしてエネルギーを消費し、脂質代謝を活発にします。
  • 薬物療法 生活習慣の改善だけでは不十分な場合に、お薬でサポートします。

食事療法

食事の改善は、ご自身で始められる治療の第一歩です。 まずは、摂取する総カロリー量を見直すことから始めましょう。 コレステロールや飽和脂肪酸を多く含む、肉の脂身やバターは控えめに。 代わりに、野菜やきのこ、海藻に含まれる食物繊維を積極的に摂ります。 食物繊維は、余分な脂質の吸収を穏やかにする働きが期待できます。

運動療法

ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動が治療の中心です。 これに加えて、筋力トレーニングを組み合わせることも大切です。 近年の研究では、筋トレが脂質代謝の改善に有効だと示されています。 特に高齢の方では、筋肉量の維持と適切な栄養摂取が健康の鍵です。 運動と栄養を組み合わせ、筋肉の衰えを防ぐ視点も重要になります。

薬物療法

食事や運動を続けても、脂質の数値が目標まで下がらないことがあります。 その場合に、お薬による治療(薬物療法)を検討します。 しかし、お薬はあくまで治療のサポート役であることを忘れないでください。 薬物療法を始めた後も、生活習慣の改善を続けることが非常に大切です。 個々の状態によって治療方針は違うため、医師とよく相談しましょう。