クリッペル・トレノネー症候群
生まれつきある赤いあざや、何気なく見過ごしているかもしれない左右の手足の差。もしかすると、それは「クリッペル・トレノネー症候群」という病気のサインかもしれません。この病気は血管や骨の成長に異常が起こるもので、国内の患者数は約1,500人と推定される希少な指定難病です。
見た目は似ていても原因が異なり、心臓に大きな負担をかけるタイプの病気と正確に見分けることが非常に重要になります。この記事では、クリッペル・トレノネー症候群の正しい知識から、原因、具体的な症状、そして近年登場した新しい治療法まで、専門的な内容を分かりやすく解説していきます。
クリッペル・トレノネー症候群の概要
クリッペル・トレノネー症候群は、生まれつき血管や骨、皮膚などに異常が見られる病気です。多くの場合、次の3つの特徴的な症状が組み合わさって現れます。
- 赤いあざ(毛細血管奇形) 皮膚の表面にできる、平らで赤いあざです。ワインの色に似ているため「ポートワイン母斑」とも呼ばれ、地図のような形に見えることが多いです。
- 血管の異常(静脈奇形) 血液が心臓へ戻る通り道である静脈が、こぶのように膨らんだり、蛇のように曲がりくねったりします。この影響で、痛みや腫れが出たり、血の塊(血栓)ができやすくなったりします。
- 手足の成長の偏り(片側肥大) 片方の腕や足が、もう片方と比べて太く、または長くなる症状です。骨だけでなく、その周りにある脂肪などの組織(軟部組織)も過剰に成長するために起こります。
この病気は、お母さんのお腹の中で体の組織が作られる時期に、血管やリンパ管が正しく形成されないことが原因と考えられています。
日本では、よく似た症状を示す「パークスウェーバー症候群」と区別が難しい場合があるため、両者をあわせて「クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群」という名前で国の指定難病に登録されています。国内の患者さんは約1,500人と推定されており、まれな病気の一つです。
クリッペル・トレノネー症候群の種類
クリッペル・トレノネー症候群には、症状がとてもよく似ている病気があります。 それは「パークス・ウェーバー症候群」という名前の病気です。 専門の医師でも見分けるのが難しい場合があるほど、この2つは似ています。 そのため、国の指定難病制度では1つのグループとして扱われることもあります。
しかし、実際には原因や症状の現れ方が異なる、別の病気です。 治療の方針も変わってくることがあるため、違いを正しく知ることが重要です。 最も大きな違いは、異常が起きている血管の種類と血液の流れの速さです。
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クリッペル・トレノネー症候群 |
パークス・ウェーバー症候群 |
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血管の異常 |
血液の流れが比較的ゆっくり (低流速:ていりゅうそく) |
血液の流れが速い (高流速:こうりゅうそく) |
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主な原因 |
PIK3CA遺伝子の変異が多い |
RASA1遺伝子の変異が多い |
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体への影響 |
症状がある手足の痛みや腫れが中心 |
心臓に負担がかかりやすい |
クリッペル・トレノネー症候群は、静脈など流れが遅い血管の異常が中心です。 一方でパークス・ウェーバー症候群は、「動静脈瘻(どうじょうみゃくろう)」が特徴です。 これは、本来は直接つながらない動脈と静脈がつながってしまう状態を指します。
動脈の血液は心臓から送り出されるため、勢いが強く、速く流れます。 その血液が静脈に直接流れ込むと、全体の血流がとても速くなります。 勢いよく血液が心臓に戻ってくるため、心臓は休みなく働く必要があります。 この状態が続くと、心臓に大きな負担がかかってしまう可能性があります。
このように、似ているようで体への影響が大きく異なることがあります。 だからこそ、専門医による正確な診断が、適切な治療への第一歩となります。
クリッペル・トレノネー症候群の原因
この病気の原因は、お母さんのお腹の中で体がつくられるときに起こる、遺伝子の小さな変化にあると考えられています。
近年の研究により、多くの患者さんでPIK3CAという遺伝子に変化が見つかっています。 遺伝子は、体のあらゆる部分をつくるための「設計図」です。 この設計図の一部に、後天的な変化が起こることが原因とされます。
この遺伝子の変化は「体細胞モザイク変異」と呼ばれる特殊なタイプです。 これは、体のすべての細胞で起こるのではなく、一部の細胞だけで遺伝子が変化することを指します。
- 体細胞モザイク変異とは? 体の一部分の細胞だけで、遺伝子の設計図に変化が起きている状態です。 そのため症状も全身ではなく、片方の手足など、体の限られた範囲に現れます。
PIK3CA遺伝子は、細胞の成長や血管の形成を調整する役割を持っています。 この遺伝子に変化が起きることで、血管や骨、脂肪などが過剰に作られてしまいます。 これが、手足の成長の偏りや血管の異常につながるのです。
遺伝子の病気と聞くと、親から子へ受け継がれることを心配されるかもしれません。 しかし、この変化は受精卵が分裂する過程で偶然起こるものです。 そのため、親から子へ遺伝する可能性は極めて低いと報告されています。
クリッペル・トレノネー症候群の症状
この病気の症状は、生まれつき、あるいは幼い頃から現れることが多く、人によって程度はさまざまです。主な症状として、次の3つの特徴が挙げられます。
- 赤いあざ(毛細血管奇形) 皮膚の表面にできる、平らな赤いあざです。ワインの色に似ているため「ポートワイン母斑」とも呼ばれます。
- 血管やリンパ管の異常 血液が心臓へ戻る静脈が、こぶのように膨らんだりします。また、体の水分を運ぶリンパ管の流れが悪くなり、手足がむくむこともあります。
- 手足の成長の左右差(片側肥大) 片方の腕や足が、もう片方より太く、または長くなります。骨だけでなく、周りの脂肪や筋肉も一緒に大きくなることで起こります。
これらの基本的な症状が原因で、生活の中でさまざまな問題が起こる可能性があります。
- 痛みや炎症 血管のこぶやむくみが原因で、痛みや熱っぽさを感じます。
- 歩きにくさ 足の長さに大きな差があると、歩き方が不安定になります。姿勢が悪くなり、腰や背骨に負担がかかることもあります。
- 出血や血の塊(血栓) 異常な血管はもろく、出血しやすくなることがあります。また、血の流れが悪い部分では血の塊ができやすくなります。
- 感染症 皮膚のバリア機能が弱まり、小さな傷から細菌が入りやすくなります。重い感染症につながることもあるため注意が必要です。
症状はゆっくりと進行することがあるため、継続的な観察がとても大切です。
クリッペル・トレノネー症候群の検査・診断
この病気の診断は、専門の医師による丁寧な診察から始まります。 そして、体の見えない部分を詳しく調べるための検査を行います。 診察と検査の結果をパズルのように組み合わせ、診断を確定します。
診断の基本は、以下の3つの特徴的な症状があるかを確認することです。
- 赤いあざ(ポートワイン母斑) 皮膚に地図のような形で広がる、平らな赤いあざです。
- 血管やリンパ管の異常 血管がこぶのように膨らんだり、手足がむくんだりします。
- 手足の成長の左右差(片側肥大) 片方の腕や足が、もう片方より太く、または長くなります。
これらの症状をより詳しく評価するために、次のような検査が行われます。 体の内部で何が起きているのかを、正確に知ることが目的です。
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検査の種類 |
この検査でわかること |
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超音波(エコー)検査 |
体に機械をあて、血管の形や血液の流れをリアルタイムで見ます。痛みはなく、体への負担が少ない検査です。 |
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MRI検査 |
強い磁石の力で、体の断面を鮮明な画像にします。筋肉や脂肪、血管の異常を詳しく評価できます。 |
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CT・X線検査 |
骨の長さの違いや形を正確に測ります。左右の足の長さが何センチ違うかなどを確認するのに役立ちます。 |
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遺伝子検査 |
血液や皮膚の一部を採り、体の設計図である遺伝子を調べます。原因と考えられるPIK3CA遺伝子の変化を確認します。 |
これらの診察と検査の結果を総合的に見て、専門医が診断を下します。 似ているけれど治療法が異なる病気と見分けるためにも、正確な診断は非常に重要です。 気になる症状があれば、まずは専門の医療機関へ相談してください。
クリッペル・トレノネー症候群の治療
この病気を根本から完全に治す治療法は、まだ確立されていません。 そのため治療は、今ある症状を和らげることが目的の中心となります。 また、将来起こりうる合併症を防ぐため、生涯にわたるケアが必要です。
治療は一つではなく、患者さん一人ひとりの状態に合わせて進められます。 さまざまな方法を組み合わせて、最適な治療計画を立てていきます。
- 圧迫療法 弾性のあるストッキングや包帯で、症状のある手足を圧迫します。 血液やリンパ液の流れを助け、むくみや痛みを軽くする基本の治療です。
- お薬による治療 痛みが強い場合には、痛み止めの飲み薬が使われます。 また、血液が固まりにくくなる異常や貧血に対してお薬を使うこともあります。
- 血管や組織への直接的な治療 症状の原因となっている部分に、直接アプローチする方法です。 異常な血管に薬を入れて固める「硬化療法」などがあります。 皮膚の赤いあざには「レーザー治療」が行われることもあります。
- 手足の長さの違いに対する治療 左右の足の長さに差があり、歩きにくい場合に検討されます。 靴の中敷きや靴底で高さを調整する「補高装具」が基本です。 場合によっては、骨の成長を調整する手術を行うこともあります。
近年、病気の原因に直接働きかける「分子標的薬」も登場しました。 「シロリムス」というお薬が2024年に承認され、新たな選択肢です。 どの治療が最適か、専門の医師とよく相談して決めることが大切です。





