尋常性魚鱗癬

「冬になると肌がひどく乾燥する」「保湿してもすぐにカサカサしてしまう」そんな頑固な肌の乾燥にお悩みではありませんか?その症状、もしかしたら単なる乾燥肌ではなく、生まれつきの肌質が原因の「尋常性魚鱗癬(じんじょうせいぎょりんせん)」かもしれません。

この病気は、肌のうるおいを保つ「フィラグリン」というタンパク質が遺伝的にうまく作れないことで、肌のバリア機能が低下し、魚のうろこのように白くカサカサとした皮膚がはがれ落ちるのが特徴です。生まれつきの体質によるもので、誰かにうつることは決してありません。

この記事では、尋常性魚鱗癬の詳しい原因や症状、そして日々の生活でできるスキンケアのポイントについて分かりやすく解説します。正しい知識を身につけ、つらい肌の乾燥と上手に付き合っていくための第一歩を踏み出しましょう。

尋常性魚鱗癬の概要

尋常性魚鱗癬(じんじょうせいぎょりんせん)は、生まれつきの肌の性質による病気です。 肌が乾燥して、まるで魚のうろこのように、白くカサカサとした皮膚がはがれ落ちることから、このような名前がついています。

私たちの肌には、外の刺激から体を守り、水分が逃げないようにする「バリア機能」という大切な働きがあります。 このバリア機能にとても重要なのが、「フィラグリン」という、肌のうるおいを保つためのタンパク質です。

尋常性魚鱗癬では、遺伝子の変化によって、このフィラグリンをうまく作ることができません。 そのため、肌のバリア機能が弱くなり、水分が保てずにひどく乾燥してしまうのです。

この病気には、以下のような特徴があります。

  • 症状がでる時期 多くの場合、生後数か月から1歳ごろまでに肌のカサつきが目立つようになります。
  • 季節による変化 空気が乾燥する冬になると症状がひどくなり、湿度が高い夏には少し良くなる傾向があります。

この病気は、肌の体質によるもので、風邪のように誰かからうつったり、誰かにうつしたりすることは絶対にありませんので、安心してください。

尋常性魚鱗癬の種類

「魚鱗癬」という病気には、実はたくさんの仲間がいます。 原因によって、大きく2つのグループに分けることができます。

  • 遺伝性魚鱗癬 生まれつき持っている遺伝子の特徴によって起こるタイプです。
  • 後天性(獲得性)魚鱗癬 大人になってから、体の病気やお薬などが原因で起こるタイプです。

今回ご説明している「尋常性魚鱗癬」は、遺伝性魚鱗癬の中で一番よく見られるものです。 ほかにも、遺伝性の魚鱗癬には下の表のような種類があり、それぞれ特徴が異なります。

魚鱗癬の主な種類

主な特徴

尋常性魚鱗癬(じんじょうせいぎょりんせん)

最も多いタイプです。症状は比較的軽く、ひじやひざの裏などはきれいなことが多いです。

伴性遺伝性尋常性魚鱗癬(はんせいいでんせい~)

男の子にだけ見られます。首やわきなどに、黒っぽく少し大きめのフケのようなものが出ます。

葉状魚鱗癬(ようじょうぎょりんせん)

生まれつき全身の皮膚が赤く、大きなうろこ状の皮膚でおおわれているのが特徴です。

水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症(すいほうがたせんてんせい~こうひしょう)

皮膚が赤くなるだけでなく、全身に水ぶくれができやすいタイプです。少しの刺激でもむけてしまいます。

このように、魚鱗癬と一言でいっても、種類はさまざまです。 見た目が似ていても、種類によって今後の経過や普段の生活で気をつける点が変わってきます。 自己判断で市販の保湿剤を試す前に、まずは皮膚科の専門医に相談して、正しい診断を受けることがとても大切です。

尋常性魚鱗癬の原因

尋常性魚鱗癬の原因は、肌のうるおいを守るための「体の設計図」にあります。 この設計図は「遺伝子(いでんし)」と呼ばれ、生まれつき持っているものです。

原因となるのは、「フィラグリン遺伝子」という、特定の設計図の変化です。 この設計図からは、「フィラグリン」という肌の健康に欠かせない、特別なタンパク質が作られます。

健康な肌と尋常性魚鱗癬の肌では、このフィラグリンの働きに大きな違いがあります。

健康な肌

尋常性魚鱗癬の肌

フィラグリン

十分に作られる

うまく作られない

バリア機能

外部の刺激から肌を守る、丈夫な壁(バリア)が作られる

壁がもろく、刺激を受けやすい

保湿機能

肌の水分を保つ「天然保湿因子」が作られ、うるおいを保つ

水分を保てず、すぐに乾燥する

このように、フィラグリンがうまく作られないことで、肌のバリア機能が低下します。 さらに、肌の水分がどんどん逃げてしまい、ひどく乾燥してしまうのです。 また、古い皮膚がうまくはがれずに表面にたまるため、うろこ状に見えます。

この病気はご家族から受け継がれることが多く、ご両親のどちらかがこの病気の場合、お子さんに伝わる可能性は理論上50%です。 しかし、ご両親に症状がなくても、新しく遺伝子に変化が起きて発症することもあります。

尋常性魚鱗癬の症状

尋常性魚鱗癬の症状は、生まれてすぐに見られるわけではありません。 多くの場合、生後数か月から1歳ごろに肌のカサつきとして気づかれ始めます。

主な症状は、強い乾燥と「鱗屑(りんせつ)」と呼ばれる皮膚の状態です。 鱗屑とは、古い皮膚がうまくはがれずに表面に残り、うろこ状になったものです。 色は灰色がかった白色から褐色で、細かく、少しめくれているように見えます。

症状は全身のどこにでも出るわけではなく、あらわれやすい場所が決まっています。

症状が出やすい場所

症状が出にくい場所

具体的な場所

・すね

・腕や足の外側

・お腹や背中

・顔

・わきの下

・ひじやひざの裏側

特徴

皮膚の伸び縮みが少ない場所に出やすいです。

関節の内側など、皮膚がやわらかい場所には出にくい傾向があります。

頭皮に症状が出た場合は、乾いた細かいフケが目立つこともあります。 また、空気が乾燥する秋や冬になると症状が悪化しやすくなります。 一方で、湿度が高い夏になると、症状が少し軽くなる方が多いです。

尋常性魚鱗癬の方は、他の皮膚トラブルを一緒に起こすことがあります。 これは、原因であるフィラグリン不足で、肌のバリア機能が弱いためです。

  • アトピー性皮膚炎 アレルギー物質などの刺激が肌に入りやすいため、湿疹を繰り返すことがあります。
  • 毛孔性苔癬(もうこうせいたいせん) 二の腕や太ももなどの毛穴が角質で詰まり、ザラザラした手触りになります。
  • 手掌足底角化症(しゅしょうそくていかくかしょう) 手のひらや足のうらの皮膚が厚くなり、シワがくっきりと目立つようになります。

尋常性魚鱗癬の検査・診断

尋常性魚鱗癬の診断では、痛い検査をすることはほとんどありません。 主に、お医者さんがお話を聞き、肌の状態をじっくり見ることで診断します。

お医者さんは、次の2つの方法で、肌の状態を丁寧に調べていきます。

  • 問診(もんしん) お話を聞くことです。
  • 視診(ししん) 目で見て肌の状態を確かめることです。

まず問診では、いつから肌がカサカサし始めたかなどを質問します。 ご家族に同じような肌質の方がいるかどうかも、大切な情報になります。 アトピー性皮膚炎など、他のアレルギーの病気がないかも確認します。

次に視診で、うろこ状の皮膚が体のどこに出ているかを観察します。 すねや腕の外側など、症状が出やすい場所をしっかりと確認します。 ひじやひざの裏など、症状が出にくい場所も見ることで診断はより確実になります。

【診断のステップ】

ステップ

どんなことをするの?

1. 問診

いつからか、ご家族はどうか、などのお話を聞きます。

2. 視診

肌のカサつきやうろこの状態を、目で直接見て確かめます。

3. 追加の検査

他の病気の可能性も考えられる時に、詳しく調べます。

ほとんどの場合、問診と視診だけで診断がつきます。 しかし、他の肌の病気と見分けるのが難しいときには、追加で検査をします。

  • 皮膚生検(ひふせいけん) 皮膚をほんの少しだけ取って、顕微鏡で中をのぞく検査です。 肌の一番外側が、異常に厚くなっていないかなどを確認します。
  • 遺伝子検査 血液などを使って、原因となる「フィラグリン遺伝子」を調べる検査です。 この検査で、診断をはっきりと確定させることができます。

肌の乾燥が気になる場合は、自己判断で様子を見ずにご相談ください。 まずは皮膚科の専門のお医者さんに診てもらうことが、一番の近道です。

尋常性魚鱗癬の治療

尋常性魚鱗癬は、生まれつきの肌の性質による病気です。 そのため、今の医療では残念ながら病気そのものを完全になくすことはできません。

治療の目標は、肌の乾燥をできるだけ軽くし、快適な毎日を送ることです。 治療の中心となるのは、「お薬による治療」と「毎日のスキンケア」の2本柱です。

【主な治療法】

治療の種類

具体的な内容

塗り薬(外用薬)

肌のうるおいを守り、硬くなった皮膚を柔らかくします。治療の基本となります。

飲み薬(内服薬)

塗り薬だけでは良くならない、とても症状が重い場合にだけ使うことがあります。

お薬による治療と合わせて、ご自宅での毎日のスキンケアが非常に大切になります。 お薬の効果を最大限に引き出すためにも、正しいスキンケアを続けましょう。

【ご自宅でできるスキンケアのポイント】

  • お風呂の入り方 熱すぎるお湯は、肌のうるおい成分を奪ってしまいます。 少しぬるいと感じるくらいの温度のお湯にしましょう。 体を洗うときは、ゴシゴシこすらず優しく洗うことが大切です。 保湿成分が入った入浴剤を使うのも良い方法です。
  • 保湿のタイミング お風呂からあがったら、タオルで優しく水分を押さえるように拭きます。 そして、肌が乾ききる前の5分以内に、保湿剤を全身に塗りましょう。
  • お部屋の環境 空気が乾燥しやすい冬は、特に症状が悪化しやすくなります。 加湿器などを上手に使い、お部屋の湿度を適切に保つよう心がけましょう。

この病気は、季節や体調によって症状が変化することもあります。 皮膚科の医師とよく相談しながら、その時の肌の状態に合った治療やケアを、根気よく続けていくことが何よりも大切です。