多汗症

「自分は汗っかきな体質だから」と、諦めていませんか?テストの答案や大切な書類が手の汗で濡れてしまったり、汗ジミが気になって着たい服を我慢したり。もし、そんな悩みが日常生活の負担になっているなら、それは「多汗症」という病気のサインかもしれません。

実は、多汗症は決して珍しいものではなく、日本人の約10人に1人が悩んでいると言われています。あなただけが抱える特別な問題ではないのです。汗による悩みは、周りの目が気になるなど、生活の質を下げてしまうだけでなく、心にも大きな負担をかけてしまいます。

しかし、もう一人で抱え込む必要はありません。多汗症は、医療機関で適切に治療できる病気です。この記事では、多汗症の種類や原因、そして具体的な治療法について詳しく解説します。あなたの悩みを解決する第一歩を見つけてみませんか。

多汗症の概要

「自分は汗っかきな体質だから」と思っていませんか? もし、暑さや運動とは関係なく、日常生活に困るほどたくさんの汗が出る場合、それは「多汗症」という病気の可能性があります。

多汗症は、ご自身の意思とは無関係に、手のひらや足のうら、わき、顔などから過剰な汗が出てしまう状態を指します。 実は、日本人の約10人に1人が多汗症で悩んでいると言われており、決して珍しい病気ではありません。

多汗症のつらさは、汗による不快感だけにとどまりません。 汗が原因で、生活の質(QOL)が大きく下がってしまうことがあります。

  • 学業や仕事での悩み テストの答案や大切な書類が、手の汗で濡れてしまう。
  • ファッションの悩み 汗ジミが気になり、着たい色の服をあきらめてしまう。
  • 人間関係の悩み 人と手をつなぐことや、握手をためらってしまう。
  • 周りの視線への悩み 「汗がすごい」と思われていないか、いつも気になってしまう。

このように、周りの目が気になったり、汗をかく自分自身を否定的に感じたりする心理的な負担は、症状と同じくらい患者さんを苦しめます。 皮膚の病気に関する研究でも、このような心理的なつらさが大きな問題だと指摘されています。

しかし、最も大切なのは、多汗症は治療ができる病気だということです。 1996年からは健康保険を使った治療も可能になり、様々な選択肢があります。 一人で悩まず、まずは医療機関に相談することが、悩みを解決する第一歩です。

多汗症の種類

ひとことで多汗症といっても、実はいくつかの種類に分けられます。 ご自身の汗がどのタイプなのかを知ることは、とても大切です。 適切な治療法を見つけるための、最初のステップになるからです。

多汗症は、主に2つの視点から分類されます。

  1. 汗をかく「場所」:体のどこに汗をかくか
  2. 汗をかく「原因」:なぜ汗をかくのか

1. 汗をかく「場所」による分類

  • 局所性多汗症(きょくしょせいたかんしょう) 手のひらや足のうらなど、体の決まった部分だけに汗が多いタイプです。 日本人に最も多いのが、この局所性多汗症です。 汗をかく場所によって、以下のように呼ばれます。 – 手掌(しゅしょう)多汗症:手のひら – 足蹠(そくせき)多汗症:足のうら – 腋窩(えきか)多汗症:わきの下 – 頭部・顔面多汗症:頭や顔
  • 全身性多汗症(ぜんしんせいたかんしょう) 特定の場所だけでなく、体の広い範囲で汗の量が増えるタイプです。

2. 汗をかく「原因」による分類

こちらは治療の方針を決める上で、非常に重要な分類です。

  • 原発性多汗症(げんぱつせいたかんしょう) 特別な病気など、はっきりした原因が見つからないタイプです。 多汗症で悩む方のほとんどが、この原発性にあたります。 子どもの頃や思春期に症状が出始めることが多いのが特徴です。
  • 続発性多汗症(ぞくはつせいたかんしょう) 他の病気や、飲んでいる薬の副作用が原因で起こるタイプです。 甲状腺の病気、糖尿病、更年期障害などが隠れている可能性もあります。 この場合は、汗の治療とあわせて、原因の治療がとても重要になります。

ご自身のタイプを知るために、以下の表も参考にしてください。

分類方法

種類

特徴

汗をかく場所

局所性多汗症

手、足、わきなど、体の決まった部分に汗をかく

全身性多汗症

体の広い範囲で汗をかく

汗をかく原因

原発性多汗症

原因不明で若い頃から症状がある。多汗症のほとんどがこのタイプ

続発性多汗症

他の病気や薬が原因。急に汗が増えた場合は注意が必要

多汗症の原因

汗がたくさん出てしまうのは、体の活動を活発にする交感神経が、過剰に働いてしまうためです。 しかし、なぜ交感神経が敏感になってしまうのか、その原因ははっきりとはわかっていません。

考えられる原因は、汗をかく範囲によっていくつかの種類に分けられます。

汗をかく範囲

主な原因の例

全身に汗をかく

(全身性多汗症)

・甲状腺の病気や糖尿病などが隠れている

・更年期障害の影響

・飲んでいるお薬の副作用

体の一部に汗をかく

(局所性多汗症)

・原因がはっきりしない(原発性)

・精神的な緊張や不安

・神経の障害

多くの患者さんを悩ませるのが、原因がはっきりしない「原発性局所多汗症」です。 これには、遺伝的な要因が関わっている可能性が考えられています。 ご家族に同じ症状の方がいることも多く、研究も進められています。

また、汗をかくこと自体が、心の大きな負担になることも少なくありません。 「周りの目が気になる」「どうして自分だけ汗をかくんだろう」と感じてしまうのです。

皮膚の病気に関する研究でも、このような心理的なつらさが問題だと指摘されています。 周りの人に理解してもらえない孤独感が、さらに交感神経を刺激します。 そして、もっと汗をかいてしまうという悪循環に陥ることがあるのです。 この悪循環を断ち切るためにも、まずは専門の医療機関で相談することが大切です。

多汗症の症状

多汗症の症状は、単に汗をかきやすいことだけではありません。 汗が原因で生活に困ったり、心が苦しくなったりすることも含まれます。

汗は、主に以下の場所に多く見られます。 それぞれの場所で、どんな困りごとが起きるか見てみましょう。

  • 手のひら・足のうら テストの紙が汗で濡れてしまい、書いた字がにじんでしまう。 スマホの画面がうまく操作できなかったり、本が読みにくかったりする。 友達と手をつなぐことや、握手をためらってしまう。 靴の中が蒸れて、においが気になったり、サンダルが滑ったりする。
  • わきの下 服に汗ジミができるのが気になり、着たい色の服をあきらめてしまう。 汗のにおいが心配で、人と近くで話すときに不安を感じる。
  • 頭や顔 暑くもないのに顔から汗が流れ落ちて、周りの目が気になる。 髪が汗で濡れてしまい、ヘアスタイルがすぐに崩れてしまう。 給食など温かいものを食べると、特に汗が目立ってしまう。

このような汗の症状は、ご自身の意思とは無関係にあらわれます。 そのため「どうして自分だけ?」と、自分自身を否定的に感じてしまうことがあります。

皮膚の病気に関する研究でも、こうした心理的なつらさが大きな問題だと指摘されています。 汗という目に見える症状は、周りの目が気になるという不安につながりやすいのです。 もし汗のことで困っていたり、つらい気持ちを抱えていたりするなら、それは大切なサインです。 一人で悩まず、専門の医療機関へ相談してみてください。

多汗症の検査・診断

「自分は汗っかきなだけかも」と悩む必要はありません。 多汗症は、病院できちんと診断できる病気のひとつです。 診断は、あなたの汗の悩みを解決するための大切な第一歩です。

診断では、まずお医者さんがあなたの話をじっくり聞きます。 これを「問診(もんしん)」といい、以下のようなことをお伺いします。

  • いつから症状がありますか? 子どもの頃からか、大人になってからかで原因を探ります。
  • 体のどの部分に汗をかきますか? 汗をかく場所で、多汗症のタイプを見分けます。
  • 日常生活でどんなことに困っていますか? 治療が必要なレベルかどうかを判断する、大切な情報です。
  • ご家族に同じ症状の方はいらっしゃいますか? 多汗症は遺伝が関係することもあるため、参考にします。
  • 治療中の病気や飲んでいるお薬はありますか? 他の病気や薬が原因の「続発性多汗症」の可能性を調べます。

次に、問診でお聞きした内容をもとに、診断基準に当てはまるかを確認します。 特に、原因がはっきりしない「原発性局所多汗症」には、以下のチェックリストが使われます。

【原発性局所多汗症のセルフチェック】 原因不明の汗が6ヶ月以上続いていることに加え、以下の6項目のうち2つ以上当てはまるか確認します。

チェック項目

□ 最初に症状が出たのが25歳以下である

□ 左右対称に汗をかく(両手、両わきなど)

□ 寝ている間は汗が止まっている

□ 1週間に1回以上、多汗の症状で困る

□ 家族にも同じような症状の人がいる

□ 汗のせいで日常生活に支障が出ている

さらに、汗の量が生活にどのくらい影響しているか、重症度を客観的に評価します。 そのために「HDSS(多汗症疾患重症度評価尺度)」という指標がよく使われます。

【多汗症の重症度スコア(HDSS)】

スコア

自覚症状と日常生活への支障

1

汗は全く気にならず、生活に支障はない

2

汗は我慢できるが、生活に時々支障がある

3

汗はほとんど我慢できず、生活に頻繁に支障がある

4

汗は我慢できず、生活に常に支障がある

このスコアが3以上の場合、生活の質が大きく下がっていると考えられるため、積極的な治療が勧められます。 汗の悩みは一人で抱え込まず、まずは専門の医療機関へご相談ください。

多汗症の治療

多汗症の治療目標は、汗の量を減らすことだけではありません。 汗が原因で自分を責めてしまう心を、軽くすることも大切な目標です。

汗が多いことで周りの目が気になったり、自分を否定的に感じたりする心理的な負担は、専門的にも「自己スティグマ」と呼ばれ、症状と同じくらい患者さんを苦しめます。 皮膚の病気に関する研究でも、こうした心のつらさを和らげることが重要だと指摘されています。

治療で症状が良くなることは、自信を取り戻すための大きな一歩です。 治療法は一つではなく、症状の場所や程度に合わせて様々な選択肢があります。 主な治療法を下の表にまとめましたので、見ていきましょう。

治療の種類

主な治療法

対象の場所

特徴

塗り薬

塩化アルミニウム液

エクロックゲル®

ラピフォート®ワイプ

アポハイドローション®

わき

手のひら

足のうら

お家で手軽に始められる治療です。

汗の出口にフタをしたり、汗を出す命令をブロックしたりします。

保険が使えるお薬もあります。

飲み薬

抗コリン薬

(プロ・バンサイン®など)

全身

体全体の汗を抑える効果が期待できます。

口が渇くなどの副作用もあるため、お医者さんとの相談が大切です。

注射

ボツリヌス注射

わき

汗を出す神経の働きを弱める注射です。

わきの多汗症では保険が使えます。

効果は数ヶ月続くため、定期的な治療が必要です。

その他の治療

イオントフォレーシス

手のひら

足のうら

水に手足を浸して、弱い電気を流す治療です。

定期的に病院へ通う必要があります。

交感神経遮断術(手術)

手のひら

顔など

汗を出す命令を送る神経の働きを止める手術です。

他の場所の汗が増える可能性もあるため、慎重に検討します。

どの治療法があなたに合っているかは、一人ひとり異なります。 まずは専門の医療機関を受診し、お医者さんとよく相談しながら、あなたに合った治療法を見つけていきましょう。