長引く鼻炎や原因不明の発熱、なんとなく続く倦怠感。「ただの風邪だろう」と見過ごしていませんか? その症状、もしかしたら体を守るはずの免疫が、誤って自分自身の血管を攻撃してしまう、ある特定の病気のサインかもしれません。
その病気は「多発血管炎性肉芽腫症」という国の指定難病です。特に鼻やのど、肺、腎臓といった重要な臓器の細い血管に炎症が起き、様々な不調を引き起こします。50代から60代での発症が多いとされていますが、どの年代でも起こりうる病気です。
かつては治療が難しいとされていましたが、医学の進歩により、今では早期に発見し、適切な治療を受ければ症状をコントロールできるようになりました。この記事では、多発血管炎性肉芽腫症の原因や症状、最新の治療法までを詳しく解説します。
多発血管炎性肉芽腫症の概要
多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせい にくげしゅしょう)は、国の指定難病の一つです。以前は「ウェゲナー肉芽腫症」という名前で呼ばれていました。
本来、体をウイルスなどから守るはずの免疫システムが、誤って自分の体を攻撃してしまう病気です。この病気では、特に鼻やのど、肺、腎臓などにある細い血管が攻撃の標的になります。
この病気の主な特徴は、以下の3つにまとめられます。
- 血管の炎症 全身の細い血管に炎症が起きて、血管の壁が傷つきます。
- 肉芽腫(にくげしゅ) 炎症が起きた場所に細胞が集まってできる「こぶ」のようなものです。 特に鼻やのど、肺にできやすい特徴があります。
- 腎臓の炎症 血液をろ過しておしっこを作る、腎臓のフィルター(糸球体)に炎症が起きます。
どの年代でも発症する可能性がありますが、55歳から65歳くらいで診断される方が多いです。しかし近年、日本の高齢化に伴って、75歳以上で診断される方も増える傾向にあります。研究では、高齢の患者さんでは特に腎臓や肺の症状が出やすい可能性も指摘されています。
以前は治療が難しい病気でしたが、現在は研究が進み、早期発見と治療が可能になりました。血液検査で「ANCA」という特殊な物質を調べることで、診断がつきやすくなっています。そして、免疫の働きを適切に抑えるお薬で、多くの方が症状をコントロールできるようになっています。
多発血管炎性肉芽腫症の種類
多発血管炎性肉芽腫症は、症状があらわれる場所や範囲によって、主に2つのタイプに分けられます。どのタイプにあてはまるかによって、治療の方針を考える上で重要な目安になります。
全身型
「全身型」は、病気の影響が体の広い範囲におよんでいる状態です。この病気で特に症状が出やすいとされる、以下の3つの場所に症状があらわれている場合などが「全身型」とされます。
- 上気道 鼻やのど、耳、目など
- 肺 息を吸ったり吐いたりする臓器
- 腎臓 血液からいらないものをこして、おしっこを作る臓器
限局型(げんきょくがた)
「限局型」は、病気の影響が体の一部分に限られている状態です。例えば、腎臓には症状がなく、鼻やのど、肺だけに症状がみられる場合などがこのタイプにあたります。
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タイプ
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特徴
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症状があらわれる場所の例
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全身型
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病気の影響が体の広い範囲におよぶ
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鼻・のど、肺、腎臓のすべて
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限局型
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病気の影響が体の一部分に限られる
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鼻・のどや肺など、一部の臓器にとどまる
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ただし、これはあくまで大まかな分類です。実際には、これ以外の場所に症状が出ることも少なくありません。例えば、お腹の痛みや下痢、吐き気といった消化器の症状や、手足のしびれなどの神経症状がみられることもあります。
ある研究では、血管の炎症が原因となる病気でお腹の症状が出る場合、体重減少や筋肉痛などが関連している可能性が示唆されています。このように、症状の組み合わせは一人ひとり違うため、専門の医師が体の状態を総合的にみて、どのタイプなのかを慎重に判断することがとても大切になります。
多発血管炎性肉芽腫症の原因
この病気がなぜ起こるのか、その詳しい原因はまだ研究中です。 しかし、いくつかの要因が複雑に関係して発症すると考えられています。
現在、最も有力な原因は「免疫システムの異常」です。 私たちの体には、細菌などから身を守る「免疫」という仕組みがあります。 しかし、この免疫が誤って自分の血管を攻撃してしまうのです。
特に、この病気の発症には「PR3-ANCA」という物質が深く関わります。 これは「自己抗体」の一種で、自分自身を攻撃する性質を持っています。
▼PR3-ANCAが血管を傷つける仕組み
- 体の中で「PR3-ANCA」という特殊な物質が作られます。 PR3は、体を守る白血球の中にある酵素の名前です。
- PR3-ANCAが、体を守るはずの白血球を刺激します。
- 刺激された白血球が血管の壁にくっつき、炎症を起こす物質を出します。
- その結果、血管が傷ついたり、肉芽腫というこぶができたりします。
ある研究では、このPR3-ANCAを持つ患者さんは症状が重くなりやすい、 あるいは治療薬が効きにくい傾向があることもわかってきました。
また、鼻やのどへの細菌感染が、この病気を発症させたり、 症状を悪化させたりする引き金になる可能性も指摘されています。 しかし、これもまだはっきりとは解明されていません。
多発血管炎性肉芽腫症の症状
この病気の症状は非常に多く、体のさまざまな部分にあらわれます。 はじめは風邪や副鼻腔炎と間違われることも少なくありません。
まず、多くの患者さんに見られるのが、全身にあらわれる症状です。 原因がはっきりしない不調が続く場合は、注意が必要です。
- 発熱 38℃以上の熱が続く
- 体重減少 食欲がないわけではないのに体重が減る
- 倦怠感 なんとなく体がだるい感じが続く
そして、この病気では特に「鼻・のど・耳」「肺」「腎臓」という 3つの場所に症状が出やすいという特徴があります。
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部位
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主な症状
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鼻・のど・耳
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・膿のような鼻水や鼻血が続く
・鼻の形が変わる(鞍鼻:あんび)
・治りにくい中耳炎、耳が聞こえにくくなる
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肺
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・血の混じった痰(たん)が出る
・咳が長く続く
・少し動いただけでも息が苦しい
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腎臓
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・尿に血が混じる、泡立ちが気になる
・足がむくむ
※腎臓の症状は自覚しにくいため特に注意が必要です。
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さらに、血管は全身を巡っているため、下記のような症状もあります。
- 目 目の痛みや充血、視力の低下などが見られます。 特に「ぶどう膜炎」や「強膜炎」といった目の炎症は、 全身の病気が隠れているサインのことがあり、注意が必要です。 ある研究では、目の炎症と他の臓器の炎症には、 共通の仕組みが関係している可能性も指摘されています。
- 消化器 お腹の痛みや下痢、吐き気などの症状が出ることがあります。 体重減少や筋肉痛を伴う場合は、お腹の中の血管に 炎症が起きているサインかもしれないという研究報告もあります。
- その他 足などにできる赤い点々(紫斑)、手足のしびれ(多発性単神経炎)、 複数の関節の痛みなど、症状は多岐にわたります。
これらの症状は、現れる順番や強さも人それぞれです。 気になる症状があれば、早めに専門の医療機関に相談しましょう。
多発血管炎性肉芽腫症の検査・診断
この病気の診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 患者さんのお話や診察の結果、そして複数の検査を組み合わせて、 パズルのピースを合わせるように総合的に判断していきます。
診断のために行われる、代表的な検査は以下のとおりです。
- ANCA(アンカ)検査 この病気の診断で、特に重要な手がかりとなる検査です。 体を守る免疫が、間違って自分を攻撃してしまう物質(自己抗体)がないか調べます。 特に「PR3-ANCA」という種類が陽性だと、この病気の可能性が高まります。 ある研究では、このPR3-ANCAを持つ方は症状が重くなる傾向があることも示唆されています。 そのため、診断だけでなく治療方針を決める上でも重要な情報になります。
- 炎症反応 CRPの値や白血球の数を見て、体の中でどのくらい炎症が起きているかを確認します。
- 画像検査 胸のレントゲンやCT検査を行い、肺や鼻の周りに炎症や肉芽腫がないかを調べます。 臓器の中の状態を詳しく見ることで、病気の広がりを把握できます。
- 組織の検査(生検) 診断を確定させるために、とても大切な検査です。 症状が出ている鼻の粘膜や皮膚、腎臓などの組織をほんの少しだけ取ります。 その組織を顕微鏡で詳しく観察し、血管の炎症などを直接確認します。
この病気は体の様々な場所に症状が出るため、複数の専門医が協力して診断にあたることが重要です。 例えば、飲み込みにくさといった症状がある場合は、リウマチ専門医と耳鼻咽喉科医が連携します。 このように専門家チームが各検査結果を慎重に評価し、最終的な診断を行います。
多発血管炎性肉芽腫症の治療
多発血管炎性肉芽腫症の治療は、病気の勢いを抑え込み、 症状がおだやかになった良い状態を長く保つことが目標です。 治療は、大きく分けて2つの段階を踏んで進めていきます。
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治療の段階
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目的
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寛解導入(かんかいどうにゅう)療法
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まずは病気の活発な炎症をしっかりと抑え込みます。
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寛解維持(かんかいいじ)療法
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症状が落ち着いた「寛解」という状態を維持し、再発を防ぎます。
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「寛解」とは、病気の活動がおさまって、症状が安定した状態のことです。 まずは寛解導入療法で病気の勢いを鎮め、 その後、寛解維持療法で良い状態をキープするイメージです。
治療の中心となるお薬
治療の中心となるのは、免疫の働きを適切に調整するお薬です。
- 副腎皮質ステロイド とても強い抗炎症作用があり、まずは病気の勢いを抑えるために使われます。
- 免疫抑制薬 シクロホスファミドやアザチオプリンといったお薬です。 誤って自分を攻撃している、過剰な免疫の働きを抑えます。
- 生物学的製剤 リツキシマブというお薬で、免疫に関わる特定の細胞だけを狙い撃ちします。 研究では、ご高齢の方を含め、ステロイドの量を減らしながら使える 有効な選択肢であることが示されています。
- 新しいお薬 アバコパンというお薬も登場しました。 ステロイドを減らしたり、使わずに治療を進めたりできる場合があります。
治療を進めるうえで大切なこと
治療は、患者さん一人ひとりの年齢や体の状態に合わせて進めます。 特にご高齢の方では、体の状態(フレイル)を丁寧に評価し、 お薬の効果と副作用のバランスを慎重に考えて治療法を選びます。
また、免疫を抑える治療中は感染症にかかりやすくなります。 そのため、インフルエンザなどのワクチン接種や、 特殊な肺炎(ニューモシスチス肺炎)の予防がとても大切です。
この病気では、のどの症状から食べ物が飲み込みにくくなる 「嚥下障害(えんげしょうがい)」が起こることもあります。 その場合は、耳鼻咽喉科など他の専門家と協力して治療を進めることが重要です。
診断されたらできるだけ早く治療を始め、 良い状態を保つために、少なくとも1~2年は治療を続けることが一般的です。