巨大リンパ管奇形

生まれつき見られるお子さんの首や顔の”こぶ”。それは、全国の患者数が約600人と推定される、まれな難病「巨大リンパ管奇形」かもしれません。この病気は、リンパ液が溜まった袋がかたまりになる良性の疾患ですが、できた場所によっては気道を圧迫したり、食事を困難にしたりと、生活に深刻な影響を及ぼすことがあります。

完治が難しいとされる一方で、近年ではレーザー治療やICG検査を組み合わせた精密な治療法も登場しています。この記事では、巨大リンパ管奇形の原因から症状、そして手術や硬化療法をはじめとする最新の治療選択肢までを詳しく解説します。不安を抱えるご本人やご家族が、病気と向き合うための正しい知識を得る一助となれば幸いです。

巨大リンパ管奇形の概要

巨大リンパ管奇形とは、リンパ液という体液がたまった 「嚢胞(のうほう)」という袋が、大きなかたまりになる病気です。 多くは生まれつきのもので、全身のどこにでもできますが、 特に首や顔、わきの下によく見られます。

この病気は、がんのように他の場所へ広がることはなく、 性質としては「良性」に分類されます。 しかし、できた場所や大きさによっては、 生活に大きな影響をおよぼすことがあります。

  • 気道の圧迫 息がしにくくなることがあります。
  • 摂食・嚥下障害 食べたり飲んだりすることが難しくなります。
  • 機能障害 体を動かしにくくなることがあります。
  • 整容面の問題 見た目に大きく影響します。

これらの症状から治療が難しい「難治性」の病気とされ、 日本では難病に指定されています。 患者さんの数は全国で約600人と推定される、まれな病気です。

治療は手術でかたまりを取りのぞいたり、 薬を注入して袋を小さくする硬化療法が中心です。 最近では、より精密な治療を目指すための工夫も進んでいます。

  • レーザー治療 病気の部分だけをねらって光をあてる治療法です。 周りの正常な組織へのダメージを抑えられるため、 皮膚の表面や口の中にできた病変に特に有効です。
  • ICGL検査 特殊な色素を使い、リンパ管の状態を詳しく見る検査です。 手術などと組み合わせることで治療効果を高め、 追加の治療回数を減らせる可能性が報告されています。

完治は難しい場合も多く、生まれたときから生涯にわたり、 病気と向き合う長期的な療養が必要になります。

巨大リンパ管奇形の種類

巨大リンパ管奇形は、リンパ液がたまった袋 (嚢胞:のうほう)の大きさで主に分類されます。 袋の大きさによって治療法が変わるため、 ご自身のタイプを知ることが治療の第一歩です。

袋の大きさによって、主に3つのタイプに分けられます。

種類の名前

袋(嚢胞)の大きさ

特徴

マクロシスティック型

大きい(巨嚢胞性)

大きな袋が少数集まっています。

薬を注入する硬化療法が効きやすい傾向があります。

マイクロシスティック型

小さい(小嚢胞性)

小さな袋がスポンジのように集まっています。

硬化療法が効きにくいことがあります。

混合型

大小さまざま

大きな袋と小さな袋が混ざり合っています。

また、リンパ管だけでなく、血管の異常をともなう 混合型の脈管奇形(みゃっかんきけい)も見られます。 特に皮膚や口の中など、体の表面に近い部分に 病変がある場合は、レーザー治療が有効な選択肢です。

レーザー治療は、病気の赤い色にだけ反応する 特殊な光をあてて、悪い部分だけを治療する方法です。 周りの正常な組織へのダメージを抑えられる利点があります。

この治療は、手術や硬化療法など他の治療法と 安全に組み合わせて行うことも可能です。 医師は画像検査の結果などをふまえて、 どのタイプかを正確に診断し、治療計画を立てます。

巨大リンパ管奇形の原因

巨大リンパ管奇形がなぜできるのか、 そのはっきりとした原因はまだわかっていません。 しかし、多くの研究によって、その仕組みが 少しずつ明らかになってきています。

私たちの体には、リンパ液という水分を運ぶ 「リンパ管」という管が全身に張り巡らされています。 このリンパ管は、お母さんのお腹の中にいる 「胎生期(たいせいき)」という時期に作られます。

巨大リンパ管奇形は、このリンパ管を作る過程で 何らかの異常が起きることが原因と考えられています。 正常につながるはずのリンパ管の一部が途切れると、 リンパ液の流れがせき止められてしまいます。 行き場をなくしたリンパ液がその場所にたまり、 袋状の塊(嚢胞:のうほう)を作ってしまうのです。

ご自身のせいではないかと心配される方もいますが、 遺伝や妊娠中の生活習慣との関連は低いとされます。

  • 考えられている原因のまとめ
  • リンパ管の形成異常 お母さんのお腹の中で体が作られるときに、 リンパ管がうまく作られないことが原因です。
  • リンパ液の滞り リンパ液の流れがせき止められてしまい、 袋(嚢胞)ができてかたまりになります。
  • 遺伝子の変化 細胞の成長を調整する「PIK3CA」などの遺伝子に、 生まれた後に偶然変化が起きることも一因とされます。

このように、この病気は体の成長過程で偶然に起こる リンパ管の異常が根本にあります。 誰のせいでもなく起こりうる病気なのです。

巨大リンパ管奇形の症状

巨大リンパ管奇形の症状は、体のどこにできるかで大きく異なります。 多くの場合、生まれつき症状があらわれ、生活に様々な影響をおよぼします。

一番多くみられるのは、首や顔、口の中です。 これらの場所にできると、次のような症状が出ることがあります。

  • 呼吸の問題 空気の通り道である「気道(きどう)」が、こぶによって圧迫されます。 そのため、息がしにくくなることがあり、注意が必要です。 症状が重い場合は、呼吸を助けるための処置が必要になることもあります。
  • 食事や会話の問題 食べ物をうまく飲み込めなかったり、言葉が話しにくくなったりします。 特に舌に小さな袋(嚢胞)がたくさんできるタイプでは、これらの症状が強く出ます。 このような症状を少しでも良くするための治療法も、研究が進められています。
  • 見た目の変化 こぶによって顔が大きく腫れたり、形が変わったりすることがあります。

そのほかの場所にできた場合にも、様々な症状があらわれます。

  • 目やまぶた 物が見えにくくなったり、目が前にとびだしてきたりします。
  • 耳 聞こえが悪くなることがあります。
  • お腹の中 お腹が痛くなったり、吐き気がしたりします。
  • 皮膚 体の表面にできると、リンパ液がもれ出たり、出血することがあります。 カエルの卵のような、小さなぶつぶつができることも特徴です。

どの場所にできた場合でも、こぶの中で急にばい菌が入ったり(感染)、 出血が起きたりすることがあります。 その際は、急に腫れて痛みが出たり、皮膚が赤くなったりしますので、 早めに病院へ相談することが大切です。

巨大リンパ管奇形の検査・診断

巨大リンパ管奇形が疑われる場合、まず詳しい検査を行います。 こぶの正体や大きさ、場所などを正確に知ることが、 安全で適切な治療への第一歩となるからです。

検査の中心は、体の内側を写真に撮るような「画像検査」です。 これらの検査で、こぶの状態を詳しく調べていきます。

主な画像検査

  • 超音波(エコー)検査 体にゼリーを塗り、機械をあてて中の様子を見ます。 お腹の中の赤ちゃんを見るときと同じで、体に負担が少ない検査です。 リンパ液の袋(嚢胞:のうほう)の状態を手軽に確認できます。
  • CT・MRI検査 体を輪切りにしたような、とても詳しい写真が撮れる検査です。 こぶの正確な位置や大きさ、どこまで広がっているかを把握します。 特にMRI検査は、神経や血管など大切な組織との関係がわかるため、 治療の方針を決めるうえで、非常に重要な情報となります。

診断を確定させるための検査

画像検査だけでは診断が難しいときは、さらに詳しい検査をします。

  • 穿刺(せんし) こぶに細い針をさして、中の液体を少しだけ抜き取ります。 抜き取った液体がリンパ液であることを確認するための検査です。
  • 病理検査(びょうりけんさ) 手術で取りのぞいた組織の一部を、顕微鏡で詳しく調べます。 これにより、病気の最終的な診断を確定させることができます。
  • リンパ管造影検査(りんぱかんぞうえいけんさ) 特殊な薬を使い、リンパ管の流れを「見える化」する検査です。 最近では、ICGという緑色の色素を使う方法が注目されています。 ある研究では、このICG検査を組み合わせた治療は、 治療効果を高め、追加の治療回数を減らせる可能性が示されました。

これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりに合った 最適な治療法を慎重に決めていきます。

巨大リンパ管奇形の治療

巨大リンパ管奇形の治療は、病気を完全に治すことだけでなく、 呼吸や食事のしづらさ、痛みといった症状を和らげることも目標です。 患者さん一人ひとりの状態に合わせて、 いくつかの治療法を組み合わせて慎重に進めます。

主な治療法には、次の4つの柱があります。

  • 外科的切除(手術) 病気の原因となっているリンパ液の袋(嚢胞)を、 メスを使って切り取り、取りのぞく方法です。 ただし、神経や血管など大切な組織と複雑に絡み合っていると、 すべてを取りきるのが難しい場合もあります。
  • 硬化療法 リンパ液がたまっている袋に、直接お薬を注入します。 このお薬が袋の中でわざと軽い炎症を起こすことで、 袋を内側からくっつけて、小さくする治療法です。
  • レーザー治療 皮膚の表面や口の中の粘膜など、浅い場所の病変に有効です。 病気の赤い色にだけ反応する特殊な光(レーザー)をあて、 悪い部分だけを熱で変化させて治療します。 周りの正常な組織へのダメージを抑えられるのが利点です。 手術や硬化療法など、他の治療法と安全に組み合わせられます。
  • 薬物療法 細胞が異常に増えるのを抑える飲み薬(mTOR阻害薬など)を使い、 体の中から病気の勢いをコントロールする効果が期待されます。

最近では、より正確な治療を目指す工夫も進んでいます。 例えば、手術や硬化療法の際に「ICGリンパ管造影」という 検査を組み合わせることがあります。 特殊な緑色の色素でリンパ管を光らせることで、 悪い部分の場所を正確に見つけながら治療ができます。 ある研究では、この方法を使った方が治療効果が高まり、 追加で治療が必要になる回数が減ったと報告されています。

これらの治療法から、病気の場所や大きさ、症状などを総合的にみて、 医師が一人ひとりに最も適した治療計画を立てていきます。