「他の人より関節が柔らかい」「少しぶつけただけで、ひどいあざができる」「原因不明の慢性的な痛みに悩んでいる」。このような症状を、ご自身の「体質」だと諦めていませんか?その不調の裏には、まだ気づかれていない原因が隠れているかもしれません。
これらのサインは、約5,000人に1人が発症するとされる遺伝性の希少疾患「エーラス・ダンロス症候群」の可能性があります。この病気は、全身の組織を支えるコラーゲンが生まれつき弱いために起こり、国の指定難病にも定められています。
症状が全身に及ぶため診断が難しく、正しい情報にたどり着けない方も少なくありません。この記事では、13に分類される病気の型ごとの特徴から、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の状態を正しく理解する一助として、ぜひ最後までご覧ください。
エーラス・ダンロス症候群の概要
エーラス・ダンロス症候群は、全身の組織を結びつけ、支えている「結合組織」が、生まれつき弱くなっている遺伝性の病気です。
私たちの体の土台となるコラーゲンというタンパク質の、設計図(遺伝子)に変化があることが原因で発症します。
この病気には、主に以下のような特徴が見られます。
- とてもよく伸び、ビロードのように柔らかな感触です。
- しかし、非常に傷つきやすく、治りにくい傾向があります。
- 一般的な範囲を超えて関節が柔らかく動かせます。
- そのため、脱臼や亜脱臼を繰り返しやすくなります。
- 血管の壁がもろく、少しぶつけただけでもあざができます。
エーラス・ダンロス症候群は、約5,000人に1人の割合で見られる希少な病気で、日本では国の「指定難病」に定められています。
症状が皮膚や関節だけでなく全身に及ぶため、診断がつくまでに時間がかかってしまうことも少なくありません。そのため、まず身近な「かかりつけ医」が中心となり、治療の全体像を管理していくことが非常に重要です。
かかりつけ医が司令塔となり、皮膚科や整形外科、循環器科など、様々な専門家がチームとなって協力しながら治療を進めていきます。
エーラス・ダンロス症候群の種類
エーラス・ダンロス症候群は、実はひとつの病気ではありません。 症状の現れ方や原因となる遺伝子の違いで、種類が分かれます。
2017年に専門家が見直した国際的な分類では、13の型が知られています。 それぞれの型で注意すべき点や対処法が違うため、どの型かを知ることが重要です。
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主な種類(病型)
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特徴の例
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古典型
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皮膚がとてもよく伸び、傷跡が特徴的な形で残ります。
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関節(過可動)型
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全身の関節が非常に柔らかく、脱臼を繰り返しやすいです。
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血管型
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血管や内臓の組織がもろいため、特に注意が必要です。
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後側彎(こうそくわん)型
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生まれつき背骨が曲がり、関節も緩い傾向があります。
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この他にも、心臓の弁に症状が出るものなど、合計で13の型があります。
中でも、関節の症状が中心となる「関節(過可動)型」は、診断が難しい場合があります。 特に、まだ体が成長しているお子さんの場合、大人と同じ基準で判断することが困難です。
そのため専門家は、お子さん向けの診断の枠組みを考えています。 関節の柔らかさに加えて、皮膚の状態や他の症状をあわせて、慎重に判断する必要があるのです。 ご自身の症状がどの型に近いか気になる場合は、専門の医療機関にご相談ください。
エーラス・ダンロス症候群の原因
エーラス・ダンロス症候群は、遺伝子の情報に変化が起こることで発症する病気です。
私たちの体は、皮膚や関節、血管などをつなぎとめる「コラーゲン」という、とても大切なタンパク質でできています。
このコラーゲンを作るための「設計図」の役割を果たすのが遺伝子です。 エーラス・ダンロス症候群では、その設計図に変化があるため、正常なコラーゲンが作られにくくなります。
その結果、コラーゲンが関係する全身の組織がもろくなってしまうのです。 この病気には13のタイプ(病型)があり、どの遺伝子の設計図に変化があるかによって、症状の現れ方が異なります。
- 主にCOL5A1、COL5A2という遺伝子の変化が原因です。
しかし、患者さんの数が多い「関節(過可動)型」は、まだ原因となる遺伝子が特定されていません。 そのため、血液検査などで病気を特定する「目印(バイオマーカー)」がなく、診断が難しいのが現状です。
特に、体がまだ成長しているお子さんの場合、大人と同じ基準では判断が難しいため、専門家が慎重に診断を進めます。
エーラス・ダンロス症候群の症状
エーラス・ダンロス症候群の症状は、原因となる遺伝子の違いで一人ひとり異なります。 主に「皮膚」と「関節」に特徴が現れますが、全身に及ぶことを理解しておくことが大切です。
皮膚の主な症状
体の土台となるコラーゲンがもろいため、皮膚はとても繊細で傷つきやすくなります。
- 皮膚の伸びやすさ(過伸展性) 皮膚をつまむと、ゴムのように普段では考えられないほど伸びます。
- 皮膚の弱さ(脆弱性) 少しぶつけたりこすったりしただけで、皮膚が裂けやすいです。
- 特徴的な傷あと(萎縮性瘢痕) 傷が治った後、紙のように薄く、しわしわで広がった跡になります。
- あざのできやすさ 血管も弱いため、軽くぶつけただけで内出血し、あざができます。
関節の主な症状
関節を支える組織が緩いため、さまざまな不調が起こりやすくなります。 多くの方が、慢性的な痛みに悩まされることが知られています。
- 関節の柔らかさ(関節過可動性) 指や肘、膝などが、正常な範囲を超えてぐにゃりと曲がります。
- 脱臼や亜脱臼の繰り返し 肩や膝などの関節が、日常のささいな動作で簡単にはずれます。
- 全身の慢性的な痛み 研究報告でも、肩や背中、骨盤などに長く続く痛みがみられます。
- 朝のこわばり 朝起きた時に関節が固まり、動かしにくいと感じることもあります。
- バランス感覚の低下 自分の手足の位置を感じるセンサー(固有受容感覚)の働きが鈍くなります。 そのため、ふらつきやすくなることが研究で示されています。
その他の注意すべき症状
この病気は、目に見える症状だけではありません。 慢性的な疲労感や消化器の不調など、外からは分かりにくい症状も多く報告されています。
また、病気のタイプによっては、心臓の弁や血管、腸などが裂けやすくなることもあります。 気になる症状があれば、どんな些細なことでも医師に相談することが重要です。
エーラス・ダンロス症候群の検査・診断
エーラス・ダンロス症候群の診断は、問診と丁寧な診察が中心です。 まだ原因がわからない型もあり、血液検査のような確定的な指標(バイオマーカー)がありません。 そのため、医師が症状を一つひとつ丁寧に確認していくことが重要になります。
診断の際には、2017年に示された国際的な診断基準を用います。 この基準には13種類ある型ごとに、診断に必要な症状が細かく定められています。
主な診察・検査の内容 診察では、主に以下の点を確認し、診断基準と照らし合わせていきます。
- 関節の評価 関節の柔らかさを「ベイトンスコア」という方法で点数化します。 ひじやひざ、指などが、どのくらい反るかなどを評価するものです。
- 皮膚の評価 皮膚がどのくらい伸びるか(過伸展性)を調べます。 また、傷あとが紙のように薄くなる(萎縮性瘢痕)特徴も確認します。
- その他の検査 必要に応じて、心臓や血管を調べる超音波(エコー)検査や、骨の状態を確認するレントゲン検査、原因遺伝子を調べる遺伝子検査などを行います。
特にお子さんの場合、もともと体が柔らかいため診断が難しいことがあります。 成人の基準をそのまま当てはめるのは、適切ではないからです。 研究報告では、お子さんの場合、ベイトンスコアが9点満点中6点以上であることが、関節の柔らかさの一つの目安とされています。
このように、診断は一つの検査だけで決まるわけではありません。 関節の状態、皮膚の特徴、その他の症状などを総合的に評価し、慎重に行われます。
エーラス・ダンロス症候群の治療
この病気を根本的に治す特別な治療法は、残念ながらまだありません。 そのため治療の目標は、今ある症状を和らげる「対症療法」が中心です。
日常生活での困りごとを減らし、自分らしく過ごせるように、様々な専門家がチームとなって一人ひとりに合った治療計画を立てていきます。
体の症状に対するアプローチ
症状に合わせて、次のようなケアを行います。
- 関節が緩い場合は、サポーターや装具で保護します。
- また、理学療法士などの専門家と一緒に、関節周りの筋肉を適切に鍛えるリハビリも重要です。
- 皮膚が傷ついた際は、組織が弱いため、皮膚に負担をかけないよう慎重に縫い合わせる必要があります。
- 慢性的な痛みに対しては、痛み止めの薬が使われます。
- しかし、薬だけに頼るのではなく、後述する心のケアも痛みの緩和に役立ちます。
- 特に「血管型」などでは、動脈瘤といった危険な変化がないか、定期的にCTやMRIなどの画像検査で確認します。
- 血圧を適切にコントロールするお薬が使われることもあります。
心のケアも大切な治療の一つ
長引く痛みや疲れは、生活の質(QOL)を下げてしまうことがあります。 最近の研究では、心のケアが症状を和らげる可能性も示されています。
ある研究報告では、心理的なサポートが生活の質を高め、痛みや疲労感を軽くするのに役立つ可能性が示唆されました。
- 物事のとらえ方や行動の癖を見直し、ストレスを軽くする練習です。
- 「今、ここ」の自分の状態に、優しく意識を向ける心のトレーニングです。
これらのアプローチは、病気と前向きに付き合っていくための大切な手段です。 ご自身の症状に合わせて、主治医とよく相談しながら最適な治療法を見つけていきましょう。