構音障害

「最近、ろれつが回らない」「言葉が不明瞭になった」。そんな経験はありませんか。年齢のせい、あるいは単なる話し方の癖だと見過ごしてしまいがちですが、その症状は「構音障害」かもしれません。実はこの構音障害、脳卒中などの深刻な病気のサインとして現れることがあるのです。

ある研究報告によると、脳卒中を経験し、食べ物が飲み込みにくくなる嚥下障害がある方のうち、実に半数以上(54.5%)に構音障害もみられたとされています。これは、話すことと飲み込むことが密接に関係しており、発音の問題が他の身体機能の危険信号となりうることを示しています。

この記事では、構音障害の様々な原因から、見逃してはいけない症状、そして適切な治療法までを詳しく解説します。ご自身の状態を正しく理解し、大切な健康を守るための第一歩として、ぜひ読み進めてください。

構音障害の概要

構音障害(こうおんしょうがい)とは、言いたいことは頭に浮かんでいるのに、うまく言葉を発音できない状態です。唇や舌、あごなどの動きがスムーズにいかないため、ろれつが回らなかったり、発音が不明瞭になったりします。

この症状は、似ている他の状態と区別することが大切です。それぞれの特徴をみていきましょう。

状態の種類

特徴

具体的な例

構音障害

発音の問題

「さかな」が「しゃかな」に聞こえる

失語症

言葉の問題

言葉が思い出せない、相手の話が理解できない

音声障害

声の問題

風邪をひいた時のように声がかすれる

構音障害は、子どもから大人まで誰にでも起こりえます。特に、脳卒中のような病気が原因で起こることも少なくありません。

ある研究では、脳卒中の後、食べ物がうまく飲み込めなくなる嚥下(えんげ)障害がある方では、半数以上(54.5%)に構音障害もみられたという報告があります。話すことと飲み込むことは、舌やのどの同じ筋肉を使うため、同時に障害が起こりやすいのです。気になる症状があれば、放置せずに専門医に相談しましょう。

構音障害の種類

構音障害とひとことで言っても、その原因は一つではありません。 原因によっていくつかの種類に分けられています。 原因が違えば、症状の現れ方や対処法ももちろん変わってきます。 ご自身の状態を正しく理解するため、主な種類を見ていきましょう。

種類

主な原因

具体的な症状の例

器質性(きしつせい)構音障害

口や舌、あごの形の問題(口蓋裂や、がんの手術後など)

・特定の音(サ行など)がうまく作れない

・鼻に抜けるような、こもった声になる

運動障害性(うんどうしょうがいせい)構音障害

脳や神経、筋肉の病気(脳卒中、パーキンソン病など)

・ろれつが回らず、言葉が不明瞭になる

・話すスピードやリズムが乱れやすい

聴覚性(ちょうかくせい)構音障害

聞こえの問題(難聴など)

・お手本となる正しい音を聞き取れず、発音が不正確になる

機能性(きのうせい)構音障害

明確な身体的な原因がないもの

・発音するときの癖(例:「さかな」が「たかな」になるなど)

薬剤性(やくざいせい)構音障害

特定のお薬の副作用

・薬の影響で、一時的にろれつが回りにくくなる

これらのうち、特に脳や神経の病気が原因となる運動障害性構音障害は複雑です。 このタイプの中には、自分の意思とは関係なく口やのどが動いてしまう「運動過多性(うんどうかたせい)構音障害」というものがあります。

この状態では、声がふるえたり、急に声が出にくくなったりします。 ある研究レビューでは、このような症状に対する工夫が報告されています。 例えば、心と体を落ち着かせるリラクセーションの練習を行うことです。

また、声のトーンを少し低くして話す練習をすることも有効な場合があります。 こうした行動面からのアプローチは、不随意な動きを和らげる助けとなり、症状を改善する可能性が示されています。

このように、構音障害には様々な種類があります。 どのタイプに当てはまるかを知ることが、適切な対応への大切な第一歩です。 気になる症状があれば、自己判断せずに専門の医療機関に相談しましょう。

構音障害の原因

構音障害がなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 原因は大きく分けて、体の「形」の問題と「動き」の問題があります。 その他にも、いくつかの原因が考えられます。

原因の種類

どんな状態?

具体的な原因の例

器質性(きしつせい)

話す器官(唇、舌、あごなど)の形に問題がある状態

・生まれつきの口蓋裂

・口の中のがんの手術後

・事故などによる顔のケガ

運動障害性(うんどうしょうがいせい)

話す器官を動かす神経や筋肉に問題がある状態

・脳卒中(脳梗塞、脳出血)

・パーキンソン病

・筋萎縮性側索硬化症(ALS)

その他

上記以外の原因

・難聴(聴覚性)

・原因不明の癖(機能性)

・薬の副作用(薬剤性)

これらの原因の中で、特に注意が必要なのが「運動障害性」です。 これは、脳卒中やパーキンソン病など、脳や神経の病気が原因です。

代表的な病気である脳卒中に関する、ある研究報告があります。 脳卒中の後で食べ物が飲み込みにくくなる「嚥下(えんげ)障害」が起きた方のうち、半数以上(54.5%)に構音障害もみられたとされています。

さらに、その研究では脳卒中そのものの危険因子も示されました。 高血圧や、心臓の病気である心房細動は、脳卒中のリスクを高めます。 これらの病気は、間接的に構音障害を引き起こす原因ともいえるのです。

このように、構音障害の背景には様々な病気が隠れている場合があります。 「ろれつが回らない」と感じたら、原因を特定するためにも、早めに専門の医療機関を受診することが非常に重要です。

構音障害の症状

構音障害の症状は、原因によって実にさまざまです。 共通するのは「言いたいことがあるのに、うまく発音できない」という点です。 具体的にどのように聞こえるかは、原因によって大きく異なります。

ご自身の状態を理解するため、原因別の症状の特徴を見ていきましょう。

構音障害のタイプ

具体的な症状の例

運動障害性

(脳や神経の病気が原因)

・ろれつが回らず、言葉が不明瞭になる

・話すスピードや声の大きさが不安定になる

・声がふるえたり、しぼり出すような声になったりする

器質性

(口や舌の形の問題が原因)

・空気が鼻に漏れて、こもったような声になる(開鼻声)

・特定の音(サ行やカ行など)が正しく作れない

機能性

(発音の癖などが原因)

・特定の音を言いやすい別の音に置き換えてしまう

(例:「さかな」→「たかな」)

・年齢が上がっても、いわゆる「赤ちゃんことば」が抜けない

聴覚性

(聞こえの問題が原因)

・お手本となる正しい音を聞き取れず、発音全体が不正確になる

特に注意が必要なのは、脳卒中などの病気が原因となる運動障害性構音障害です。 このタイプの中には、意思とは関係なく声帯がふるえる「振戦(しんせん)」や、筋肉がこわばってしまう「ジストニア」が起こるものもあります。

ある研究では、脳卒中後に食べ物が飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害がある方では、半数以上(54.5%)に構音障害もみられたと報告されています。 さらに、嚥下障害のある方は、誤嚥(ごえん)による肺炎などの呼吸器感染症のリスクが、そうでない方に比べて2倍から4倍も高くなることがわかっています。

「ろれつが回らない」という症状は、単なる発音の問題だけではありません。 命に関わる病気のサインや、肺炎のリスクが隠れている可能性もあります。 気になる症状があれば、放置せずに専門の医療機関に相談しましょう。

構音障害の検査・診断

「うまく話せない」「ろれつが回らない」と感じたとき、原因をきちんと突き止めるために、いくつかの検査を行います。 検査の目的は、単に発音の問題を調べるだけではありません。 命に関わる病気が隠れていないかを確認し、安全を守るためでもあります。

まず、医師が発音に関係する部分を直接見て、形や動きを調べます。 口や舌、あごなどがスムーズに動くかを確認するためです。 次に、脳や神経の病気が原因でないかを慎重に判断します。

ある研究では、脳卒中後に食べ物が飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害がある方では、半数以上(54.5%)に構音障害もみられたと報告されています。 さらに、嚥下障害のある方は、誤嚥(ごえん)による肺炎などの呼吸器感染症のリスクが、そうでない方に比べて2倍から4倍も高くなることがわかっています。 そのため、隠れた病気を見逃さないことが非常に重要なのです。

医師の診察の後は、言葉のリハビリの専門家である「言語聴覚士(げんごちょうかくし)」が、より詳しい検査を行います。

  • 会話の観察 普段の会話の様子から、話すスピードや声の大きさ、リズムなどを確認します。
  • 発音のテスト 「あいうえお」や「ぱぴぷぺぽ」など、一つひとつの音を声に出してもらい、どの音が言いにくいのか、どのように誤って発音しているのかを細かく調べます。
  • 単語や文章の音読 短い単語や文章を読んでもらい、言葉がどのくらいはっきりと伝わるかを評価します。

これらの検査結果を総合的に判断し、構音障害の種類や程度を診断します。 その上で、一人ひとりに合った治療やリハビリの計画を立てていきます。

構音障害の治療

構音障害の治療は、原因を特定し、一人ひとりに合った方法を選ぶことが大切です。 目標は、単に正しく発音できるようになることだけではありません。 伝えたいことが相手にしっかり届く、円滑なコミュニケーションを目指します。

治療は主に、原因へのアプローチと言葉のリハビリを組み合わせて進めます。

原因となっている病気や状態へのアプローチ

まず、構音障害を引き起こしている根本的な原因に対処します。

  • 口やあごの形が原因の場合 手術で形を整えたり、歯科で発音を助ける装置を作ったりします。
  • 脳や神経の病気が原因の場合 パーキンソン病や脳卒中など、もとになる病気の治療が最も重要です。 例えば、パーキンソン病の治療で行う「深部脳刺激療法(DBS)」があります。 ある研究では、使う電極の種類を工夫することで、構音障害のような副作用の改善が期待できると報告されています。

一方で、ふるえを抑える「集束超音波治療(MRgFUS)」という方法もあります。 この治療では、逆に一時的な副作用として構音障害が現れることもあります。 このように、原因疾患の治療と構音障害は密接に関わっています。

言葉のリハビリテーション(構音訓練)

治療の中心は、言葉の専門家である「言語聴覚士(ST)」とのリハビリです。 症状に合わせて、以下のような訓練を丁寧に行います。

  • 話すための準備運動 口や舌、唇をスムーズに動かすための体操をします。
  • 呼吸のトレーニング 息の強さや長さをコントロールして、はっきりした声を出す練習です。
  • 正しい発音の練習 一つひとつの音を正しく作る練習や、ゆっくり話す工夫を学びます。

特に、自分の意思とは関係なく声がふるえてしまうタイプの方もいます。 ある研究レビューでは、心と体を落ち着かせるリラックスの練習や、少し低い声で話す練習が有効な場合があると示されました。 これらの行動面の工夫が、症状を和らげる助けとなる可能性があります。

コミュニケーションを助ける工夫

症状によっては、完全に元通りに話すことが難しい場合もあります。 その際は、訓練と並行して、コミュニケーションを助ける方法も考えます。 例えば、筆談や、会話を助けるアプリや機器の利用も有効な手段です。

大切なのは、一人で悩まず、医師や言語聴覚士に相談することです。 ご自身の状態に合った治療法を一緒に見つけていきましょう。