角膜ジストロフィ
最近、目がかすんだり、以前より光をまぶしく感じたりすることはありませんか。単なる疲れ目やドライアイだと見過ごしているその不調、実は目のレンズ役である「角膜」が徐々に白く濁っていく「角膜ジストロフィ」という遺伝性の病気のサインかもしれません。
この病気は進行すると視力低下やまぶしさ、痛みを引き起こし、中には日本の指定難病になっている種類も存在します。しかし、初期には自覚症状がほとんどないことも多く、気づかないうちに進行してしまうケースも少なくありません。
この記事では、角膜ジストロフィの詳しい原因から症状の見分け方、さらには拒絶反応のリスクが低い最新の角膜移植手術までを徹底解説します。大切な視力を守るため、ご自身の状態と照らし合わせながら読み進めてみてください。
角膜ジストロフィの概要
私たちの目はカメラに似ており、黒目の部分「角膜」はレンズの役割をします。 角膜ジストロフィとは、この大切なレンズが濁ってしまう病気の総称です。 生まれつきの体の設計図(遺伝子)が主な原因で起こると考えられています。
角膜は本来、光をまっすぐ通すための、とてもきれいな透明の組織です。 しかし、この病気では角膜の中に異常な物質が少しずつたまってしまいます。 その結果、本来透明であるはずの角膜が、徐々に白く濁ってしまうのです。
角膜の濁りが進むと、以下のような症状が現れることがあります。
- ものがかすんで見える
- 視力が落ちてくる
- 光をとてもまぶしく感じる
- 目に痛みや、ゴミが入ったような異物感がある
ただし、症状の現れ方や進行する速さには、個人差がとても大きいです。 そのため、病気が始まってすぐの頃は自覚症状がほとんどないこともあります。
診断には、まず「細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)」という顕微鏡検査が基本です。 この検査で、角膜の濁りの特徴を詳しく観察します。 例えば、フックス角膜内皮ジストロフィという種類では、「角膜グッタ」という特徴的な濁りの有無が診断の鍵となります。
しかし、この病気には世界で統一された明確な診断基準がまだ確立されていません。 現在も、より客観的に評価するための研究が進められている段階です。 そのため、少しでも気になる症状があれば、まずは眼科専門医に相談することが大切です。
角膜ジストロフィの種類
角膜ジストロフィは、原因となる遺伝子の違いで分類されます。 また、目の表面にある透明な膜「角膜」のどこに濁りが現れるかでも分けられます。
角膜は外側から上皮、実質、内皮という層でできています。 濁りが生じる場所によって、病気の特徴や症状が異なります。 代表的な角膜ジストロフィには、以下のようなものがあります。
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種類 |
濁りができる場所 |
主な特徴 |
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顆粒状(かりゅうじょう)角膜ジストロフィ |
角膜の中層(実質) |
・パンくずのような点状の濁りが現れます。<br>・ゆっくりと進行し、視力やまぶしさに影響が出ることがあります。 |
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格子状(こうしじょう)角膜ジストロフィ |
角膜の中層(実質) |
・アミロイドという異常なたんぱく質がたまります。<br>・線状の濁りが格子のように見え、目の表面が傷つきやすいです。 |
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膠様滴状(こうようてきじょう)角膜ジストロフィ |
角膜の表面近く(上皮の下) |
・アミロイドがたまり、ゼラチンのような盛り上がりができます。<br>・日本では国の指定難病の一つです。 |
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フックス角膜内皮ジストロフィー |
角膜の一番内側(内皮) |
・角膜の水分を調整する内皮細胞が減少し、角膜がむくんで濁ります。<br>・進行すると水疱性角膜症に至ることがあります。 |
特にフックス角膜内皮ジストロフィーでは、治療法として角膜移植が考えられます。 角膜移植には、角膜全体を交換する全層角膜移植術(PK)があります。 また、機能が落ちた内皮だけを交換する角膜内皮移植術(DMEKやDSEK)もあります。
複数の研究報告をまとめると、内皮のみを交換する手術(EK)は、全層を交換する手術(PK)と比べて、5年後の移植片の生着率が高く、拒絶反応も少ない傾向にあります。 さらに、角膜移植以外の新しい治療法として、内側の膜を剥がすだけの手術(DSO)の研究も進んでいます。 このように種類によって性質が大きく異なるため、専門医による正確な診断がとても重要です。
角膜ジストロフィの原因
角膜ジストロフィの主な原因は、体の設計図である「遺伝子」の変化です。 私たちの角膜は、遺伝子の情報をもとに作られたタンパク質でできています。
遺伝子に何らかの変化があると、角膜で異常なタンパク質が作られます。 この異常なタンパク質が角膜の中に少しずつ溜まることが濁りの正体です。 原因となる遺伝子は、病気の種類によって異なり、いくつか特定されています。
遺伝の仕方も病気の種類によって様々で、代表的なものに以下があります。
- 常染色体優性遺伝 ご両親のどちらかが病気の場合、お子さんに受け継がれる可能性があります。
- 常染色体劣性遺伝 ご両親に症状がなくても、お二人ともが変化した遺伝子を持っていると、お子さんに症状が現れることがあります。
一方で、「フックス角膜内皮ジストロフィー」のように、原因となる遺伝子がまだはっきりと特定されていない種類も存在します。 しかし、原因が不明な病気でも、治療法の研究は世界中で進んでいます。
例えば海外では、角膜移植(DMEK)と新しい治療法を比較する臨床試験も行われています。 こうした研究は、将来のより良い治療法を見つけるための大切な一歩です。 遺伝に関するご不安があれば、まずは専門の医師に相談することが大切です。
角膜ジストロフィの症状
角膜ジストロフィの症状は、病気の種類や進行度で人それぞれです。 初期にはほとんど症状がなく、ご自身では気づかないことも少なくありません。 病気が進むにつれて、少しずつ生活の中で不便を感じるようになります。
代表的な症状には、以下のようなものがあります。
- 視力の変化 ものがかすんで見える、視力が落ちてきた、といった症状が現れます。 特に「フックス角膜内皮ジストロフィー」という種類では特徴があります。 角膜の水分を調整する細胞の働きが悪くなり、角膜がむくみます。 そのため、朝起きた時に最もかすみが強く、時間が経つと少し改善します。
- 光をまぶしく感じる(羞明:しゅうめい) 太陽の光や室内の照明が、以前よりもまぶしく感じられる状態です。 角膜の濁りが光を乱反射させることが原因で起こります。 目を開けているのがつらくなり、車の運転などに影響が出ることもあります。
- 目の痛みや異物感 目にゴミが入ったようなゴロゴロとした感じや、痛みを感じることがあります。 進行すると角膜の表面に水ぶくれができる「水疱性角膜症」に至ります。 この状態になると、強い痛みを伴うことも珍しくありません。
これらの症状は、ドライアイなど他の病気と似ていることもあります。 しかし、原因が全く違うため、専門医による正確な診断がとても重要です。
複数の研究報告をまとめた調査によると、診断の基本は細隙灯顕微鏡検査です。 この特殊な顕微鏡で、角膜の濁りの特徴を詳しく観察します。 例えば、フックス角膜内皮ジストロフィーでは、「角膜グッタ」という特徴的な濁りが診断の鍵となります。
症状の進み方はゆっくりな場合が多いですが、気になる症状があれば自己判断せず、眼科専門医へ相談しましょう。
角膜ジストロフィの検査・診断
「目がかすむ」「光がまぶしい」などの症状で眼科を受診すると、まず詳しい検査で角膜の状態を調べます。 診断の基本は「細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査」です。 目に細い光を当て、医師が顕微鏡で角膜を拡大して観察します。
この検査で、角膜のどの層に、どんな濁りがあるかを詳しく見ます。 例えば、フックス角膜内皮ジストロフィーという種類が疑われる場合、診断の鍵となる「角膜グッタ」という特徴的な濁りがないかを探します。
より正確な診断のために、必要に応じて以下の検査を追加します。
- 角膜内皮細胞検査 角膜の水分を調整するポンプ役の細胞の形や数を調べます。 この細胞が弱ったり減ったりしていないかを確認する大切な検査です。
- 前眼部OCT(光干渉断層計)検査 角膜の断面を撮影し、むくみの厚さや濁りの深さを数値で評価します。 病気の進行度を客観的に知るために、非常に役立つ検査です。
- 遺伝子検査 原因が体の設計図(遺伝子)にあると考えられる場合に実施します。 血液を採って、特定の遺伝子に変化がないかを調べます。
これらの検査結果を総合して診断しますが、実はこの病気には、世界で統一された明確な診断基準がまだ確立されていません。 そのため医師は、過去の多くの研究で使われてきた分類法などを参考に、一人ひとりの状態を丁寧に評価し、診断を確定します。
角膜ジストロフィの治療
角膜ジストロフィの治療法は、病気の種類や進行度で変わります。 治療の目的は、見え方を改善し、痛みやまぶしさなどの症状を和らげることです。 症状が軽い場合と、進行した場合で治療法が大きく異なります。
症状が軽い場合の治療
症状が軽い初期の段階では、まずつらい症状を軽くする治療を行います。
- 点眼薬による治療 目の乾きやゴロゴロ感を和らげるために、人工涙液などを使います。 角膜を保護するヒアルロン酸ナトリウム点眼液も有効です。 ただし、これらは病気そのものを治すわけではありません。
- レーザー治療(PTK) 角膜の表面近くに濁りがある場合に検討される治療法です。 エキシマレーザーという特殊なレーザーで、濁った部分だけを削り取ります。
- 遮光眼鏡 光をとてもまぶしく感じる症状(羞明:しゅうめい)が強い方に有効です。 特殊なレンズで光を和らげ、日常生活での不快感を減らします。
進行した場合の治療(角膜移植術)
病気が進んで視力が大きく落ちた場合、角膜移植が根本的な治療となります。 濁った角膜を、提供されたきれいな角膜(ドナー角膜)と交換する手術です。 手術には、角膜全体を交換する方法と、悪くなった部分だけを交換する方法があります。
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移植方法 |
特徴 |
5年後の拒絶反応のリスク(目安) |
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全層角膜移植(PK) |
角膜のすべての層を交換する、昔ながらの方法です。 |
11.0%~28.7% |
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パーツ移植(EK) |
悪くなった内側の層だけを交換する方法です。体への負担が少なく、視力の回復も早い傾向にあります。 |
DMEKの場合: 1.7%~2.6% |
海外の複数の研究報告をまとめると、パーツ移植(EK)は全層移植(PK)に比べて、5年後の拒絶反応のリスクが低いことがわかっています。 拒絶反応とは、体が新しい角膜を「異物だ」と攻撃してしまうことです。 パーツ移植の方が、移植した角膜がうまく体になじむ可能性が高いのです。
新しい治療の動き
近年、角膜移植以外の新しい治療法も研究されています。 例えば「デスメ膜剥離術(DSO)」は、患者さん自身の細胞の力を利用する方法です。 角膜の一番内側の膜を剥がし、自分の細胞の再生を促して透明性を取り戻します。 海外では、このDSOとパーツ移植(DMEK)のどちらがより良いかを比べる臨床試験も進められています。 どの治療法が最適か、専門の医師が角膜の状態を詳しく見て判断します。 不安な点や疑問があれば、遠慮なく医師に相談しましょう。













