コケイン症候群

実際の年齢よりも早く体が老いていく「早老症」と呼ばれる病気が存在します。その一つである「コケイン症候群」は、日本では100万人に約2.7人しか発症しない、極めてまれな指定難病です。国内の患者数は、現在約50人と推定されています。

日光を浴びるだけで皮膚がひどくただれたり、特徴的な顔つきが見られたり、成長の発達が遅れたりと、その症状は全身に及びます。なぜこのような病気が起こるのでしょうか。この記事では、コケイン症候群の詳しい原因から症状、そして未来の希望となる治療法まで、その全体像を分かりやすく解説していきます。

コケイン症候群の概要

コケイン症候群は、生まれつきの遺伝子の働きが原因で起こります。 とてもまれな病気で、指定難病や小児慢性特定疾病にも認定されています。

この病気は「早老症(そうろうしょう)」の一つとして知られています。 早老症とは、実際の年齢よりも早く体の老化が進んでしまう病気です。

1936年にイギリスの医師であるコケイン氏によって初めて報告されました。 日本での発症頻度は100万人に約2.7人と、非常にまれな疾患です。 現在、日本には約50人の患者さんがいるとされています。

コケイン症候群の主な特徴には、以下のようなものがあります。

  • 日光への過敏さ(光線過敏症) 日光を浴びると、皮膚がひどく赤くなるなどの症状が出やすいです。
  • 特徴的な見た目 年齢を重ねたような特有のお顔つきや、小柄な体つきが見られます。
  • 成長・発達の遅れ 身長や体重がなかなか増えず、運動機能や知的な発達もゆっくりです。
  • 目や耳の障害 視力の低下や、音が聞こえにくくなる難聴を伴うことがあります。

症状の現れ方やその程度には個人差が大きく、いくつかの種類に分けられます。

コケイン症候群の種類

コケイン症候群は、症状が現れる年齢やその重さによって、いくつかの種類に分けられています。

どの種類に当てはまるかによって、病気の進み方や注意すべき点が異なります。 そのため、どの種類かを知ることは、これからの生活や治療の方針を決めるうえで、とても重要です。

主な種類は、以下の通りです。

  • I型(古典型) 生まれたときは他の赤ちゃんと変わらないように見えます。 しかし、生後2年くらいまでに、成長や発達の遅れが少しずつ現れ始めます。 日本でコケイン症候群と診断される患者さんのほとんどが、このI型です。
  • II型(先天性) 生まれたときから重い症状が見られる、最も症状が重い種類です。 体の成長がほとんど見られず、目の病気などを生まれつき持っていることもあります。
  • III型(遅発型) 症状が現れるのが2歳以降と比較的遅く、症状も軽いことが多い種類です。 体の成長や知的な発達は、他の種類に比べて良好な傾向があります。
  • XP/CS合併型 コケイン症候群の症状に加えて、別の病気の症状も持つことがあります。 「色素性乾皮症(XP)」という、同じく日光にとても弱い病気を合併する種類です。

これらの特徴を、下の表にまとめました。

種類(病型)

症状が現れる時期の目安

主な特徴

I型(古典型)

生後2年以内

最も多く見られる種類です。

成長や発達の遅れがだんだんと現れます。

II型(先天性)

生まれたときから

最も症状が重い種類です。

神経の発達がほとんど見られないこともあります。

III型(遅発型)

2歳以降

症状が比較的軽く、病気の進み方もゆるやかです。

XP/CS合併型

さまざま

日光に非常に弱い「色素性乾皮症」の症状もあわせ持ちます。

コケイン症候群の原因

コケイン症候群は、体の設計図である「遺伝子」の変化が原因です。 私たちの体は、たくさんの細胞が集まってできています。 その一つひとつの細胞の中に、体の作り方を記録したDNAがあります。

日光に含まれる紫外線などによって、このDNAが傷つくことは日常的です。 しかし健康な体には、傷ついた部分を自分で修理する機能があります。 この大切な働きを「DNA修復」と呼びます。

コケイン症候群の患者さんは、このDNA修復の働きが弱い状態です。 そのため、傷ついたDNAがうまく直されずに体に蓄積してしまいます。 DNAの修理に関わる主な原因遺伝子には、以下のものがあります。

  • CSA遺伝子(ERCC8遺伝子) 日本の患者さんの約55%で、この遺伝子の変化が原因とされます。
  • CSB遺伝子(ERCC6遺伝子) 日本の患者さんの約30%で、この遺伝子の変化が原因です。
  • その他の遺伝子 まれに、XPB、XPD、XPGといった遺伝子が関わることもあります。

これらの遺伝子は、DNAを修理するタンパク質を作るための設計図です。 遺伝子に変化があると、このタンパク質が正常に作られません。 その結果、DNAの修理がうまく進まなくなってしまうのです。

また、この病気は「常染色体潜性遺伝」という形式で伝わります。 これは、ご両親が共に原因遺伝子を一つずつ持っている場合に、 お子さんに症状が現れる可能性があるということです。 この場合、ご両親自身には症状が現れないことがほとんどです。

DNAの修復が妨げられることが原因であることは分かっています。 しかし、それがなぜ「早老」のような特有の症状につながるのか、 その詳しい仕組みは、今も世界中で研究が続けられています。

コケイン症候群の症状

コケイン症候群では、体のいろいろな部分に特有のサインが現れます。 生まれた直後から見られることもあれば、大きくなるにつれて気づかれることもあります。 症状は、年齢を重ねるにつれて少しずつ進んでいくのが特徴です。

主な症状には、次のようなものがあります。

  • 日光にとても弱い(光線過敏症) 健康な人なら平気な少しの日光でも、皮膚がひどく赤くなります。 場合によっては、やけどのように水ぶくれができてしまうこともあります。
  • 体の成長や発達の遅れ 身長や体重が、同じ年の子と比べてなかなか増えません。 そのため、体つきが小柄で、頭も小さい(小頭症)傾向があります。
  • 特徴的なお顔つき(早老様顔貌) お年寄りのような、年齢よりも大人びたお顔つきが見られます。 具体的には、目がくぼんでいたり、あごが小さかったりします。 また、ほっぺなどのお肉(皮下脂肪)が少ないのも特徴です。
  • 目や耳の症状 目の病気(網膜色素変性など)で、だんだん物が見えにくくなります。 また、耳の聞こえも悪くなり(感音性難聴)、補聴器が必要になることもあります。
  • 神経や体の動きの症状 手足の関節が硬くなって、動かしにくくなることがあります(関節拘縮)。 そのため、病気が進むと歩くことが難しくなる場合もあります。

この他にも、ひどい虫歯になりやすかったり、手足がいつも冷たかったりします。 さらに、腎臓や心臓の病気、糖尿病などを合併することもあるため、 定期的な体のチェックがとても大切になります。

コケイン症候群の検査・診断

コケイン症候群の診断は、パズルのピースを一つひとつ集めるように、 体に現れるサインと詳しい検査の結果をみて、慎重に行われます。

専門の医師は、まずお子さんの成長の様子や症状を丁寧に診察します。 その上で、「診断基準」という国が定めたチェックリストを使い、 病気の特徴に当てはまるかどうかを一つひとつ確認していきます。

診断は、主におおまかに以下の流れで進められます。

  1. 体に現れるサインの確認 コケイン症候群の患者さんのほぼ全員に見られる「主徴候」が、 2つ以上あるかどうかを確かめます。
  2. 遺伝子の検査による確定診断 診断をはっきりとさせるため、血液などを使って遺伝子を調べます。 原因となる遺伝子(CSA遺伝子やCSB遺伝子など)に、 この病気に特有の変化が見つかると、診断が確定します。

遺伝子検査で原因がはっきりしない場合でも、心配はいりません。 特徴的な症状がいくつも当てはまれば、診断がつくこともあります。

また、診断とあわせて、病気の進み具合を評価することも大切です。 そのために「重症度分類」という評価方法が用いられます。

これは、現在の体の状態を客観的に把握するためのものです。 具体的には、以下のような項目を点数で評価します。

  • 日光への弱さ どのくらいの日光で皮膚に症状が出るかを確認します。
  • 目や耳の状態 視力や聴力がどの程度か、詳しく調べます。
  • 体の動き 歩行や関節の動きに問題がないかなどを評価します。

この評価によって、お子さん一人ひとりの状態に合わせた、 今後の治療や生活のサポートを考えることができるのです。

コケイン症候群の治療

残念ながら、今の医学ではコケイン症候群を根本から治す方法はありません。 そのため治療は、今ある症状を和らげる「対症療法」が中心になります。 一つひとつの症状と向き合い、生活しやすくすることが目標です。

患者さん一人ひとりの状態に合わせて、次のような治療やケアを行います。

  • 日光から体を守る 光線過敏症の症状を抑えるため、日光をできるだけ避けます。 外出時には、帽子や長袖の服、日焼け止めクリームが必須です。
  • 目や耳の働きを助ける 見えにくさや聞こえにくさに対しては、眼鏡や補聴器を使います。 生活の質を保つために、とても大切なサポートです。
  • 体の動きを保つ練習 関節が硬くなるのを防ぐため、リハビリテーションを行います。 体の機能をできるだけ長く保ち、動きやすさを維持します。
  • 栄養をしっかり摂る 虫歯の治療や、栄養バランスの良い食事の工夫を行います。 口から食事を摂ることが難しい場合は、胃ろうなども考えます。
  • 合併症への備え 腎臓や心臓の病気、感染症などに早く気づけるようにします。 そのために、定期的に体全体のチェックを受けることが重要です。

未来の治療に向けた研究

根本的な治療法の開発を目指して、世界中で研究が進められています。 例えば、脳の働きに関する研究から、新しい治療のヒントが見つかっています。

脳の神経の働きを調整するケタミンという薬や、プレグネノロンという物質が、 コケイン症候群の症状を和らげるのでは、と期待されています。 これらは、他の病気の研究からその可能性が見出されたものです。

また、脳のエネルギー源である乳酸の役割を解明する研究も進んでいます。 脳がどのようにエネルギーを使うかを知ることは、治療法の開発に繋がります。 こうした基礎研究の積み重ねが、未来の希望の光となっているのです。