頚椎症性神経根症

しつこい肩こりや、腕から指先にかけての痛みやしびれ。「ただの疲れ」や「年のせい」だと思っていませんか?その不調、実は加齢や生活習慣によって首の骨が変形し、神経を圧迫する「頚椎症性神経根症」のサインかもしれません。

特に注意したいのが、腕の痛みより先に現れることもある肩甲骨周りのしつこい痛みです。ある研究では、この病気の患者さんの約7割が経験するともいわれ、見過ごされがちな重要な初期症状です。スマホやPCの長時間利用が当たり前となった現代では、発症の若年化も指摘されています。

この記事では、頚椎症性神経根症の詳しい原因から症状の種類、そして手術をしない保存療法までを分かりやすく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、つらい不調を改善するための第一歩を踏み出しましょう。

頚椎症性神経根症の概要

頚椎症性神経根症は、首の骨である「頚椎」の変形が原因です。 加齢などにより、神経の根元である「神経根」が圧迫されます。

私たちの首は、7個の骨が積み重なってできています。 骨と骨の間には、クッションの役割をする「椎間板」があります。

年齢を重ねると、この椎間板の水分が減って硬くなったりします。 また、骨のふちにトゲ(骨棘:こっきょく)ができることもあります。

このような変化で神経の通り道が狭くなり、神経が圧迫されます。 その結果、首から肩、腕、指先にかけて痛みやしびれが生じます。

この病気は現代社会において、決して珍しいものではありません。 研究では、発症する年齢が若くなっていることも指摘されています。

漢方医学では、この状態を「痺症(ひしょう)」と呼びます。 体のエネルギーや血液の巡りが滞ることが原因と考えるのです。 体の冷えや長時間の緊張なども、巡りを悪くする要因とされます。

頚椎症性神経根症の種類

頚椎症は、神経がどこで圧迫されるかによって種類が分かれます。 圧迫される場所によって、症状の出方や治療法が大きく異なります。 そのため、ご自身の状態を正しく知ることがとても大切です。

主に以下の3つのタイプに分けられます。

  • 頚椎症性神経根症(けいついしょうせい しんけいこんしょう) 脳から背骨を通る太い神経(脊髄)から枝分かれした部分。 この「神経根」が圧迫される、最も一般的なタイプです。 片側の首から肩、腕、指にかけて痛みやしびれが出ます。 研究では、腕の痛みより先に肩甲骨周りの痛みが現れることも。 「ただの肩こり」だと思わず、注意が必要です。
  • 頚椎症性脊髄症(けいついしょうせい せきずいしょう) 神経の大元である「脊髄」そのものが圧迫されるタイプです。 手足のしびれや、歩きにくさといった症状が出ることがあります。 ボタンがかけにくいなど、指先の細かい動きが難しくなるのも特徴です。 神経根症よりも、影響が広範囲に及ぶ可能性があります。
  • 頚椎症性筋萎縮症(けいついしょうせい きんいしゅくしょう) はっきりとした痛みやしびれは少なく、筋力低下が目立ちます。 腕や手の特定の筋肉がやせて、力が入らなくなるタイプです。

これらのタイプは、単独で起こることもあれば、併発する場合もあります。 また、似たような症状を起こす他の病気も存在します。 自己判断はせず、専門の医療機関で正確な診断を受けることが重要です。

頚椎症性神経根症の原因

頚椎症性神経根症の原因は一つではありません。 加齢による首の変化を土台として、生活習慣が引き金となります。 原因を正しく理解し、ご自身の生活を見直すことが大切です。

主な原因は、年を重ねることで起こる首の骨の変化です。 骨と骨の間でクッションの役割をする「椎間板」の水分が減少します。 弾力を失った椎間板は潰れて、神経の通り道を狭くします。 また、骨のふちにトゲ(骨棘:こっきょく)ができることもあります。

このような土台に、日々の生活習慣が加わって発症します。

  • 長時間の同じ姿勢 スマホやパソコン作業で、首が前に出る姿勢は危険です。 首への負担が増え、筋肉の緊張や血行不良を招きます。
  • 体の冷え 体が冷えると、首周りの筋肉が硬くなりやすいです。 血の巡りが悪化し、痛みやしびれの原因になります。
  • 精神的な緊張 ストレスは無意識に体をこわばらせ、首に力が入ります。 漢方医学では、このような緊張状態が続くと考えます。 エネルギーや血液の流れが滞る「気血瘀滞(きけつおたい)」という状態です。

加齢という避けられない変化に、これらの生活習慣が重なります。 その結果、神経が圧迫され、つらい症状が現れるのです。

頚椎症性神経根症の症状

神経の通り道が狭くなり、神経の根元が圧迫されることで起こります。 体からの重要なサインを見逃さないことが、とても大切です。

主な症状は、首から肩、腕、指先にかけての痛みやしびれです。 多くの場合、左右どちらか片側だけに症状が現れるのが特徴です。

特に注意したいのが、肩甲骨の内側や周りに現れるしつこい痛みです。 ある研究では、この病気の患者さんの約7割が経験するとされます。 腕の痛みより数週間も早く、この痛みが先に出ることもあるのです。 「ただの肩こり」と軽く考えず、重要な初期サインと捉えましょう。

ご自身の状態と照らし合わせて、チェックしてみてください。

【主な症状のチェックリスト】

  • 首や肩甲骨周りの痛み じわじわとした痛みや、重だるさが続きます。
  • 腕から指先への放散痛 電気が走るような、ピリッとした痛みが広がります。
  • 手や指のしびれ ジンジン、ビリビリとした不快な感覚が起こります。
  • 筋力の低下 手に力が入りにくく、物をよく落とすようになります。
  • 感覚のまひ 指先の感覚が鈍くなり、ボタンを留めるなどの細かい作業が難しくなります。

また、首を後ろに反らしたり、痛む側に傾けたりすると症状が悪化します。 これは、動作によって神経の通り道がさらに狭くなるためです。

症状の強さは人それぞれで、軽い違和感から激痛まで幅があります。 一つでも当てはまる場合は、自己判断せずに専門の医療機関へご相談ください。

頚椎症性神経根症の検査・診断

首や腕の痛みで医療機関にかかると、まず原因を正確に探します。 たくさんの神経の中から、どの神経が圧迫されているか特定します。 これが、その後の治療方針を決める上で、とても重要になるのです。

診断は、主にお話を聞くことと、画像で詳しく見ることで進みます。 パズルのピースを一つひとつ集めるように、診断を確定させます。

1. 問診と神経学的診察 最初に、医師が症状について詳しくお話をうかがいます。 いつから、どんな時に、どこが痛むかなどを教えてください。 次に、腕や指の感覚、力の入り具合などを調べる診察をします。

このとき「スパーリングテスト」という手技を行うことがあります。 首を傾けて軽く圧を加え、症状が再現されるかを確認するものです。 ある研究では、このテストの診断精度について報告されています。 痛みが出た場合、この病気の可能性が高いとされています。 しかし、痛みが出なくても病気を否定することはできません。 あくまで診断のための、重要なヒントの一つとして扱います。

2. 画像検査 診察で得た情報をもとに、体の内部を詳しく見る検査です。 原因となっている場所を、目で見て確かめるために行います。

– レントゲン(X線)検査 首の骨全体の並びや変形、骨のトゲなどを確認します。 まず、骨の状態を大まかに把握するための基本的な検査です。

– MRI検査 レントゲンでは映らない、神経や椎間板を見るための検査です。 磁気の力で、神経が圧迫されている場所を直接特定できます。 診断を確定する上で、非常に有効な情報が得られます。

これらの検査結果を総合的に判断し、診断を確定します。 場合によっては、原因の神経に麻酔薬を注射することもあります。 この「神経根ブロック」で痛みが和らげば、そこが原因だとわかります。

頚椎症性神経根症の治療

頚椎症性神経根症の治療は、まず症状を和らげることから始まります。 そして、体が本来持つ自然な回復力を最大限に引き出すことを目指します。

実は、多くの場合、手術をせずに症状は改善に向かいます。 研究では、安静を保つことで60~90%の方が改善するとされます。 そのため、焦らず「保存療法」から始めるのが一般的な進め方です。

1. 保存療法 神経の炎症を抑え、症状を和らげるための治療法です。 いくつかの方法を組み合わせて、回復を後押しします。

  • 安静と装具療法 痛みを引き起こす姿勢、特に首を後ろにそらす動きは避けます。 必要に応じて「頚椎カラー」という装具を使い、首を固定します。 首の動きを制限することで、神経への負担を減らすのが目的です。
  • 薬物療法 痛みを抑える消炎鎮痛剤や、筋肉のこわばりをほぐす薬を使います。 傷ついた神経の回復を助けるビタミンB12なども用いられます。
  • ブロック注射 痛みがとても強い場合に検討される方法です。 痛みの原因である神経の近くに、直接麻酔薬などを注射します。

2. 手術療法 保存療法を3ヶ月ほど続けても改善しない場合に手術を考えます。 腕や手の麻痺が進む場合も、手術を検討するタイミングです。

近年では、体への負担が少ない内視鏡を使った手術も行われます。 例えば「片側二孔内視鏡手術(UBE)」という方法があります。 この手術は、良好な視野を確保しつつ、首の筋肉へのダメージを抑えます。

ただし、この方法は適応となる症例が限られるという側面もあります。 また、術者には高い技術が求められ、誰でも行えるものではありません。 どの治療法が最適かは、専門の医師による慎重な判断が必要です。