動脈硬化

「サイレントキラー」と呼ばれる動脈硬化をご存知ですか?血管が硬く、狭くなるこの病気は、自覚症状がないまま静かに進行し、心筋梗梗塞や脳梗塞といった命に関わる重篤な疾患を引き起こす可能性があります。

健康な動脈はゴムのようにしなやかですが、日頃の食生活や運動不足、喫煙といった生活習慣が原因で、水道管のように古くもろくなってしまうのです。さらに最近の研究では、生活習慣が「DNAメチル化」という細胞レベルの変化を引き起こし、病気の発生や進行に深く関わっていることも明らかになってきました。

手遅れになる前に、あなたの血管が抱えるリスクを知り、この恐ろしい病気から身を守るための知識をこの記事で手に入れましょう。

動脈硬化の概要

皆さん、体の中には「血管」という大切な道が張り巡らされています。その中でも特に太い「動脈」は、心臓から全身にきれいな血液を届ける高速道路のような役割をしています。健康な動脈は、ゴムホースのようにやわらかく、血液がスムーズに流れるように伸び縮みします。

ところが、この動脈が古くなった水道管のように硬くなったり、内側に油のカス(脂質)がたまって道が狭くなったり、もろくなったりする状態を「動脈硬化」と呼びます。動脈硬化が進むと、心臓は硬い動脈に血液を送り出すため、いつも以上に頑張らなければなりません。

また、道が狭くなると、血液の流れが悪くなり、体の隅々まで酸素や栄養が届かなくなります。その結果、心臓が動かなくなる「心筋梗塞」や、脳に血液が届かなくなる「脳梗塞」など、命に関わる大変な病気を引き起こしてしまうのです。

この動脈硬化は、日頃の食べ物や運動不足、タバコなどが原因となる生活習慣病の一つとして知られています。さらに最近では、世界中のたくさんの研究から、生活習慣が「DNAメチル化」という、体の細胞の設計図(DNA)に書かれた小さな目印が変化することに繋がり、それが病気の発生や進行に深く関わっていることが分かってきました。

特に、血管の内側に「プラーク」という油の塊ができて血管を狭くする「アテローム性動脈硬化」では、このようなDNAの変化が関係していることが明らかになっています。これは、皆さんの血管の健康を守る上で、とても大切な発見です。

動脈硬化は、自覚症状がないまま静かに進行することが多いため、「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれています。症状に気づいた時には、病気がかなり進んでしまっていることも少なくありません。だからこそ、日頃から健康診断で自分の血管の状態を知り、健康的な生活を送ることが、動脈硬化から身を守るためにとても大切です。

動脈硬化の種類

動脈硬化には、いくつか種類があることをご存じでしょうか。私たち医師も、どのタイプの動脈硬化なのかを判断し、一人ひとりに合った予防や治療法を考える上で、この分類をとても大切にしています。体の中のどこで、どのような変化が起きているかによって、動脈硬化は大きく3つのタイプに分けられます。

  • アテローム性動脈硬化(粥状動脈硬化) このタイプは、血管の内側に油のカスがたまり、 ドロドロの塊(プラーク)ができて血管が厚く硬くなり、 血液の通り道が狭くなるものです。 まるで高速道路が渋滞するように、血液の流れが悪くなります。 心臓の血管や脳の血管、足の血管に起こりやすいとされています。

最近の研究では、「TRAIL」や「TRAIL-R2」という物質が、 この動脈硬化の進行と深く関係していることが分かってきました。 これらの物質の量が、将来の心臓病や命に関わる病気のリスクを 予測する手がかりになる可能性も指摘されています。 私たち医師も、患者さんの体のサインを見逃さないよう注目しています。

  • 細動脈硬化 主に血圧が高い状態が長く続くことで、体の隅々にある 細い血管の壁が厚く硬くなるタイプです。 例えるなら、細い水道管が硬くなってしまうようなイメージです。 このタイプの動脈硬化が進むと、脳の中で出血が起こる「脳出血」や、 腎臓の働きが悪くなる「腎硬化症」などにつながることがあります。
  • メンケベルグ型動脈硬化(中膜硬化) このタイプでは、血管の真ん中の層にカルシウムがたまり、 血管全体が硬くなってしまいます。 特に足の血管によく見られます。

最近の研究から、「リポタンパク質(a)」という特定の油の成分が高い人は、 このような血管の石灰化が進みやすいことが明らかになっています。 このことが、心臓にある大動脈弁が硬くなる「石灰化性大動脈弁疾患」という病気の発症や悪化に影響し、 重い症状や命に関わるリスクを高める可能性もあるのです。 特に若い方でこの傾向が見られることが報告されています。

動脈硬化の種類によって、体のどこに影響が出やすいか、 そしてどんな病気につながるかが異なります。 自分の体の状態を知り、それに合った予防や治療を行うことが、 皆さんの健康を守る上でとても大切になります。

動脈硬化の原因

動脈硬化は、体の中の血管が硬くなったり、通り道が狭くなったりする病気です。この状態が進むと、心臓や脳など、大切な臓器にきれいな血液が十分に届かなくなってしまいます。

主な原因の一つは、血液の中に悪い油の成分(コレステロールや中性脂肪)が多すぎることです。これらの悪い油が血管の壁にたまりやすくなり、血管を傷つけてしまいます。特に、リポタンパク質(a)という特別な油の成分が高いと、動脈硬化が早く進むことが、多くの研究でわかっています。

このリポタンパク質(a)が高い方は、心臓の弁が硬くなる「石灰化性大動脈弁疾患」という病気になりやすいことが報告されています。生まれつきリポタンパク質(a)が高い方もいらっしゃいます。私たち医師も、子どものうちから血管の変化が始まる可能性も考え、皆さんの体の状態を注意深く見ています。

高血圧や糖尿病、タバコを吸うことも、血管に大きな負担をかけ、動脈硬化を進行させる原因となります。健康な血管は柔らかくしなやかですが、これらの影響で硬くもろくなってしまうのです。

また、腎臓の病気である「ネフローゼ症候群」も、動脈硬化を早める原因になることがあります。この病気では、血液が固まりやすくなったり、コレステロールが増えたりすることで、血管に負担がかかります。小児や若年の方でも、ネフローゼ症候群が心筋梗塞という心臓の病気を引き起こすことがあると報告されています。私たち医師は、このような体の変化を注意深く見守っています。

さらに、TRAIL(トレイル)という、私たちの体を守ろうとする働きを持つ物質が少なかったり、TRAIL-R2(トレイルアールツー)という、逆に血管の病気を進めてしまう別の物質が増えすぎたりすると、血管の病気や心臓病、命に関わる病気のリスクが高まることが、たくさんの研究からわかってきました。これらの物質の量を調べることは、将来の病気を予測する手がかりになる可能性もあります。

皆さんの日頃の生活習慣は、血管の健康に大きく影響します。健康的な生活を送ることで、動脈硬化の進行を遅らせ、大切な体を守ることができます。

動脈硬化の症状

皆さん、動脈硬化は体の「サイレントキラー」と呼ばれるように、初期には症状がほとんどありません。そのため、気づかないうちに病気が進んでしまうことがとても心配です。症状が出てきたときには、病気がかなり進んでいることも少なくありません。だからこそ、自分の体の小さな変化にも気づき、早めに受診することが大切です。

動脈硬化の症状は、血管が硬くなり、血液の流れが悪くなることで起こります。どこで血液の流れが悪くなるかによって、現れる症状は大きく変わります。

  • 心臓の血管に問題が起きた場合
  • 心臓に栄養を運ぶ血管が狭くなると、「狭心症(きょうしんしょう)」という状態になります。
  • 運動した時や階段を上った時に、胸が締め付けられるような痛みを感じるかもしれません。
  • 少し休むと楽になることが多いです。
  • 血管が完全に詰まってしまうと、「心筋梗塞(しんきんこうそく)」という命に関わる大変な病気になります。
  • 突然、激しい胸の痛みや息苦しさ、冷や汗が出ることが特徴です。
  • 小学生や若い世代では珍しい病気ですが、腎臓の病気である「ネフローゼ症候群」をお持ちのお子さんや若者では、心臓の血管が詰まる「心筋梗塞」が起こりやすいことが、世界中の研究で分かってきています。
  • 脳の血管に問題が起きた場合
  • 脳の血管が詰まったり破れたりすると、「脳梗塞(のうこうそく)」や「脳出血(のうしゅっけつ)」が起こります。
  • 片方の手足が動きにくくなったり、言葉がうまく話せなくなったりする症状が現れます。
  • 一時的に手足がしびれたり、目が見えにくくなったりして、すぐに治まる「一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)」は、脳梗塞のサインかもしれません。
  • 足の血管に問題が起きた場合
  • 足の血管が狭くなると、「閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)」という病気になります。
  • 歩いていると足が痛くなったり、しびれたりしますが、休むとまた歩けるようになるのが特徴です。
  • 病気が進むと、足の指に傷が治りにくくなったり、色が黒くなってしまったりすることもあります。

私たち医師も、症状が出る前に動脈硬化のリスクを知ることを大切にしています。動脈硬化の進行度や、将来心臓病になるリスクは、血液中の「TRAIL(トレイル)」や「TRAIL-R2(トレイルアールツー)」という特定の物質の量と関連があることが、大規模な研究で分かってきました。これらの物質の量が少ない、または多すぎる場合に、命に関わる病気のリスクが高まることが示されています。

皆さんの健康を守るためにも、症状がないうちから健康診断で血管の状態をチェックし、もし気になることがあれば、いつでもご相談ください。

動脈硬化の検査・診断

動脈硬化は、ご自身ではほとんど症状がないまま、静かに進行していく病気です。そのため、「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれています。症状に気づいた時には、病気がかなり進んでしまっていることも少なくありません。だからこそ、症状がないうちから、自分の血管の状態を知ることがとても大切です。将来、心臓の病気や脳卒中など、命に関わる重い病気を引き起こさないためにも、私たち医師は定期的な検査をおすすめしています。

動脈硬化を見つけるための検査には、いくつかの方法があります。これらの検査を通して、皆さんの体の中の血管が健康かどうかを詳しく調べていきます。

  • 血液検査
  • 腕から少し血液を採らせてもらう検査です。
  • 血管を傷つけやすい悪い油(コレステロールや中性脂肪)の値、
  • 血糖値が高くないかなどを確認します。
  • これらの数値が高いと、動脈硬化が進みやすいサインとなります。
  • 血圧脈波(けつあつみゃくは)検査
  • 手と足の血圧を同時に測る検査です。
  • 横になっているだけで終わり、痛みはありません。
  • この検査で、皆さんの血管がどのくらい硬くなっているか、
  • 血液の通り道が狭くなっていないかを知ることができます。
  • 超音波(エコー)検査
  • 首にある頸動脈(けいどうみゃく)や足の血管に、
  • ゼリーを塗って小さな機械を当てて見ます。
  • 血管の壁の厚さや、血管の中に油の塊(プラーク)がないか、
  • 血液がスムーズに流れているかなどを、画面に映して確認します。
  • CTやMRIなどの画像検査
  • 体の奥にある血管の状態を、さらに詳しく知りたい時に行います。
  • これらの検査を組み合わせることで、全身の動脈の健康状態を
  • 総合的に評価することができます。

これらの検査結果をもとに、私たち医師は動脈硬化がどのくらい進んでいるのか、そしてどの血管に特に注意が必要なのかを診断します。そして、その診断結果に基づいて、患者さん一人ひとりに最も合った治療計画を一緒に考えていきます。

特に、脳の血管が狭くなるタイプの動脈硬化(医学的には「頭蓋内動脈硬化性狭窄症」といいます)が見つかった場合の治療については、大切な研究結果があります。以前は、狭くなった血管を広げるために、細い管(カテーテル)を入れて広げる手術(「経皮的血管形成術」)や、その部分に「ステント」という網状の筒を入れる方法も選ばれることがありました。

しかし、多くの研究をまとめて調べた報告(メタアナリシス)では、お薬による「積極的内科療法」の方が、脳卒中や命に関わる病気のリスクを減らす上で、より効果的であることが分かってきました。この研究によると、手術を受けるグループよりも、お薬でしっかり治療するグループの方が、治療を始めてから30日以内の脳卒中や命に関わる病気のリスクが低いという結果が出ています。さらに、30日以降の長期的な目で見ても、手術が積極的にお薬で治療することに対して、特別なメリットがあるわけではないことも示されています。

つまり、脳の血管が狭くなっている場合でも、すぐに手術をするのではなく、まずは生活習慣の改善と、お薬をしっかり飲む「積極的内科療法」を続けることが非常に重要だということです。私たち医師は、このような最新の医学的な知見を踏まえ、皆さんの体の状態に最も適した治療法を一緒に考えていきます。ご自身の血管の状態を早く知り、適切な治療を進めるためにも、ぜひ定期的な健康診断を受け、気になることがあればいつでも医療機関にご相談ください。

動脈硬化の治療

動脈硬化の治療は、病気の進み方や、体のどの血管に影響が出ているかで変わってきます。まず、どんな動脈硬化でも一番大切になるのは、日々の生活習慣を見直すことです。

血管が硬くなるのを遅らせたり、悪い状態を良くしたりするには、血管への負担を減らすことがとても重要です。栄養バランスの取れた食事を心がけ、体を動かす習慣をもちましょう。もしタバコを吸う習慣があれば、やめることが血管にとって一番良いことです。

次に、お薬を使った治療があります。血液をサラサラにする薬、血圧を落ち着かせる薬、コレステロールの値を調整する薬などがあります。これらの薬は、動脈硬化の原因となる状態をコントロールするために使われます。医師の指示に従い、きちんと飲み続けることが大切です。

そして、動脈硬化が進んで血管が狭くなったり、完全に詰まってしまったりした場合には、手術やカテーテルという細い管を使った治療を考えることもあります。しかし、すべての動脈硬化で手術が最善とは限りません。

特に、脳の血管が動脈硬化で狭くなっている状態(頭蓋内動脈硬化性狭窄症)の治療については、以前から議論がありました。血管を広げるための手術(経皮的血管形成術やステント留置術)と、お薬をしっかり使って生活習慣を改善する「積極的な内科的治療」のどちらが良いのか、ということでした。

そこで、世界中のたくさんの研究をまとめて調べた結果(メタアナリシス)が、私たち医師の治療の考え方に大きな影響を与えています。この研究では、合計989人もの患者さんのデータが詳しく分析されました。

その結果、「積極的な内科的治療」を行ったグループの方が、治療を始めてからの30日以内に脳卒中になったり、命に関わる病気になるリスクが低かったのです。また、治療を続けている期間全体で見ても、「積極的な内科的治療」の方が良い結果を示しました。

手術を受けるグループでは、手術を受けた直後に脳卒中になる危険性が高かったこともわかっています。さらに、30日を過ぎてから長期的に見ても、手術が内科的治療に比べて特別なメリットがあるわけではないことも明らかになりました。

この大切な発見から、私たちは、脳の血管が狭くなっている方でも、すぐに手術を考えるのではなく、まずは生活習慣の改善とお薬による「積極的な内科的治療」をしっかりと続けることが非常に大切だと考えています。もちろん、一人ひとりの病状に合わせて、どんな治療が一番良いかを皆さんと一緒に考えていきます。ご心配なことがあれば、いつでもご相談ください。