動脈瘤
みなさんの体の中の血管に、まるで時限爆弾のように潜む「サイレントキラー」をご存知でしょうか?それが、血管の壁が弱まり風船のように膨らむ「動脈瘤」です。ほとんど症状なく進行するため、知らないうちに命の危険が迫っていることも少なくありません。
特に冬の寒さには要注意です。最近の研究では、気温が1度下がるごとに心臓や血管の病気になる人が約1.2%増え、寒波が来ると病気になる危険が約1割以上高まることが報告されています。
この記事では、この見えない脅威である動脈瘤について、その正体から早期発見の重要性、そして最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の体を守るために、ぜひ最後までお読みください。
動脈瘤の概要
みなさんの体の中には、全身に血液を運ぶための大切な道路、つまり血管が張り巡らされています。元気な血管はゴムホースのようにしっかりしています。
しかし、動脈瘤(どうみゃくりゅう)は、この血管の壁が弱くなって、血液の力で風船のようにふくらんでしまう病気です。ちょうど、古い風船が膨らみすぎて、今にも破裂しそうな状態を想像してみてください。もし、このふくらみが破れてしまったら大変です。体の中で大出血が起こり、命にかかわることもあります。
動脈瘤は、脳の血管にできるものや、胸やお腹を通る体の中で一番太い血管、大動脈(だいどうみゃく)にできるものなど、体の色々な場所に発生します。特に大動脈に動脈瘤ができると、全身に大きな影響が出てしまうため、注意が必要です。
この病気は「サイレントキラー」とも呼ばれ、ほとんど症状が出ないまま進んでしまうことが特徴です。そのため、知らないうちに病気が進行していることも少なくありません。破裂してからでは手遅れになることもあるため、早めに発見し、適切な対策をとることがとても大切です。
私たちは、冬の寒い時期に動脈瘤に注意が必要だと考えています。最近の研究では、冬の寒さが動脈瘤の発生に関係することがわかってきました。
例えば、
- 気温が1度下がるごとに、心臓や血管の病気で亡くなる人が約1.6%増えます。
- 気温が1度下がるごとに、心臓や血管の病気になる人が約1.2%増えるという報告があります。
さらに、とても寒い日(寒波)が来ると、
- 心臓や血管の病気で亡くなる危険が約3割も高まります。
- 心臓や血管の病気になる危険も約1割以上高まることがわかっています。
このような寒さの影響を特に受けやすいのが、大動脈瘤です。寒い季節には、体を温かく保ち、血管に負担がかからないように心がけることが、みなさんの大切な命を守るために必要だと、私たちは考えています。
動脈瘤の種類
みなさんの体にある血管のふくらみ、つまり動脈瘤には、いくつかのタイプがあります。一言で動脈瘤といっても、その「種類」によって、できる場所や形、そしてどのようにしてできたかが異なります。私たちは、動脈瘤の種類をしっかり理解することが、患者さん一人ひとりに合った、より良い治療を選ぶための第一歩だと考えています。
動脈瘤は、大きく分けて次の3つの種類に分けられます。
- 真性動脈瘤(しんせいどうみゃくりゅう)
- 血管の壁全体が弱くなって、風船のように丸く膨らんでしまう動脈瘤です。
- 血管の壁そのものがもろくなることで起こります。
- 仮性動脈瘤(かせいどうみゃくりゅう)
- 血管の壁の一部が傷つき、そこから血液が漏れ出て、周りの組織が血液を包み込むようにしてできる動脈瘤です。
- 事故や怪我などで血管が傷つくことが原因になることがあります。
- 解離性動脈瘤(かいりせいどうみゃくりゅう)
- 血管の壁が内側から裂けて、本来血液が流れる道ではない壁の中に、血液が流れ込んで膨らんでしまう動脈瘤です。
- 血管の壁が二重に剥がれるような状態になります。
また、動脈瘤ができる体の場所によっても呼び方が変わります。
例えば、脳の血管にできる動脈瘤を「脳動脈瘤」と呼びます。脳動脈瘤の中でも、脳の主要な血管が枝分かれする場所にできる「前交通動脈瘤(ぜんこうつうどうみゃくりゅう)」というタイプがあります。前交通動脈瘤の治療においては、手術(クリッピング術)でしっかりと治療する方が、血管の中から行う治療(血管内治療)と比べて、動脈瘤がしっかりと閉じている期間が長く、後から再び治療が必要になることが少ないという研究結果も出ています。
私たちの体で一番太い血管である大動脈にできる動脈瘤は「大動脈瘤」と呼ばれ、全身に大きな影響が出ることがあるため、特に注意が必要です。
動脈瘤は、すでに破裂しているか、まだ破れていないかによって、その危険性や治療の緊急性が大きく変わってきます。破裂した場合は非常に危険で、すぐに治療が必要となることがほとんどです。
私たちは、動脈瘤の種類や状態を詳しく知ることが、安全で効果的な治療を選ぶ上で非常に大切だと考えています。
例えば、脳動脈瘤を血管の中から治療する際、血をサラサラにするお薬(抗血小板剤)を使うことがあります。そのお薬の種類によっては、治療後に脳の血管が詰まってしまう危険が少し高まることがあると報告されています。新しい種類のお薬を使うことで、この危険を減らせる可能性も研究されています。 また、頭を開けて動脈瘤を治す手術では、頭蓋骨のどこを開けるか、いくつかの方法があります。しかし、どちらの方法を選んでも、治療の成功率や合併症の起きやすさに大きな違いはないという研究結果も出ています。患者さんの状態に合わせて最適な方法が選ばれるのです。
さらに、非常にまれで治療が難しい種類の動脈瘤もあります。「蛇行拡張型椎骨脳底動脈瘤(だこうかくちょうがたついこつのうていどうみゃくりゅう)」と呼ばれるもので、これは脳の奥深くの重要な部分にできます。この動脈瘤は、手術や血管の中から治療する方法、あるいは薬で様子を見る方法など、どの治療法を選んだとしても、残念ながら良い結果が得られにくく、命にかかわる危険も高いことがわかっています。そのため、一人ひとりの患者さんの状態に合わせた、とても慎重な治療計画が大切だとされています。
このように、動脈瘤には様々な種類があり、それぞれの特徴を知ることが、病気を理解し、適切な治療を受けるための大切な一歩となります。ご自身の動脈瘤の種類について疑問がある場合は、遠慮なく私たち医師に詳しく尋ねてくださいね。
動脈瘤の原因
なぜ、元気な血管が動脈瘤になってしまうのでしょうか。 私たちの体の中では、いくつかの理由で血管の壁が弱くなり、ふくらんでしまいます。 血管の壁が弱くなると、血液の流れによって内側から強い力がかかり続けることで、その部分が膨らんでしまうのです。
まず、最も大きな原因は「動脈硬化」です。 これは、血管が硬くなったり、血管の中にコレステロールなどの「あぶら」がたまったりする病気です。 血管の道が狭くなったり、血管の壁がもろくなったりして、動脈瘤ができやすくなります。
また、血圧が高い「高血圧」も大きな原因です。 血圧が高いと、血管の壁にはいつも強い力がかかっています。 この力が長く続くことで、血管の壁は少しずつ傷つき、動脈瘤ができやすくなるのです。
他にも、以下のような生活習慣病が動脈瘤の原因となります。
- 糖尿病
- 血糖値が高い状態が続き、血管が傷ついてしまいます。
- 脂質異常症
- 血液中の脂質(あぶら)が多いと、血管に負担がかかります。
- 喫煙
- タバコの煙が血管を傷つけ、動脈瘤のリスクを高めます。
そして、私たちが特に注目しているのが「寒さ」です。 寒い環境にいることや、急に気温が下がることが、動脈瘤のできやすさに関係するとわかってきました。 最近の研究では、外の気温が1度下がるごとに、心臓や血管の病気になる人が約1.2%も増えることが報告されています。 さらに、とても寒い日(寒波)が来ると、心臓や血管の病気になる危険は13.8%も高まることがわかっています。 特に、大動脈瘤は寒い影響を受けやすい病気の一つです。 気候帯や年齢、その人の住む国の生活水準なども、寒さが血管に与える影響に関係があると言われています。 寒い時期には、体を温かく保ち、血管に負担がかからないように心がけることが大切です。 普段から健康に気をつけ、血管を元気にしておくことが、動脈瘤から体を守る第一歩となります。 定期的な健康診断で、自分の体の状態を知ることもとても大切です。
動脈瘤の症状
みなさんの大切な血管にできる動脈瘤は、ほとんど症状を出さないまま静かに大きくなることが多い病気です。そのため、私たちは動脈瘤を「サイレントキラー」、つまり「静かなる殺人者」と呼ぶことがあります。元気な血管はしっかりしていますが、動脈瘤ができてしまっても、なかなか自分では気づきにくいのです。健康診断などで偶然見つかることがほとんどです。
もし動脈瘤が大きく膨らんでしまったり、破れてしまったりすると、一変してとても恐ろしい症状が突然現れます。この場合、命に関わる緊急事態となりますので、すぐに病院に行く必要があります。破裂したときにどんな症状が出るかは、動脈瘤が体のどこにできたかによって違ってきます。
例えば、脳の血管に動脈瘤ができた場合、破裂すると、これまでに経験したことのないような、とても激しい頭痛が突然襲ってきます。そのほかにも、意識がぼんやりしたり、手足が動かしにくくなったりする麻痺の症状が出ることもあります。
また、体の中で一番太い血管である大動脈に動脈瘤ができた場合は、破裂すると、お腹や胸、背中に突然の激しい痛みが起こります。冷や汗が出てきて、意識を失ってしまうこともあります。このような突然の激しい痛みや、いつもと違う体の変化を感じたら、迷わず救急車を呼んでください。すぐに医療機関を受診することが、みなさんの命を守るためにとても大切です。
私たちは、特に冬の寒い季節には、動脈瘤により注意が必要だと考えています。寒い環境にいる時間が長くなったり、急に寒波が来たりすると、血管への負担が大きくなることが研究でわかっています。実際、気温がたった1度下がるだけでも、心臓や血管の病気になる人が約1.2%も増えるという報告があります。
さらに、寒い冬に特に注意が必要な「寒波」が来ると、心臓や血管の病気になる危険はなんと約13.8%も高まることがわかっています。特に、大動脈瘤は、この寒さの影響を強く受ける病気の一つです。寒さによって血管がぎゅっと縮んでしまい、血圧が高くなりやすいため、動脈瘤に大きな負担がかかって破裂の危険性が高まることがあるのです。
寒さの影響の受けやすさは、住んでいる地域の気候や年齢、また暮らしている国の生活環境によっても変わってきます。私たちは、寒い時期には体を温かく保ち、血管に優しい生活を心がけることが、みなさんの大切な体を守るために重要だと考えています。症状がなくても、健康チェックを定期的に行い、寒さ対策もしっかりと行いましょう。
動脈瘤の検査・診断
私たちは、動脈瘤を早期に見つけることがとても大切だと考えています。動脈瘤は「サイレントキラー」とも呼ばれ、体の奥で静かに大きくなることがほとんどです。そのため、症状がないうちに検査で見つけることが、みなさんの命を守るための第一歩となります。
動脈瘤があるかもしれない、と医師が考えた場合には、それが本当に動脈瘤なのか、どこに、どのくらいの大きさでできているのかを詳しく調べるために、いくつかの検査を行います。これらの検査は、動脈瘤の状態を正確に知るために、非常に重要な役割を果たします。
動脈瘤を見つける主な検査
動脈瘤の検査には、主に次の3つの方法があります。
- CT検査(シーティー検査)
- エックス線を使って、体を輪切りにした写真(断面図)を撮る検査です。
- 特に「造影剤(ぞうえいざい)」という特別な薬を注射しながら撮影すると、血管の中の様子がはっきりと映し出されます。
- 動脈瘤がどこにあるのか、どんな形をしているのか、大きさがどのくらいなのかを確認できます。
- MRI検査(エムアールアイ検査)
- 強い磁気の力を使って、体の内部を詳しく調べる検査です。
- CT検査とは違う方法で、動脈瘤だけでなく、その周りの脳の状態なども詳しく見ることができます。
- 治療の方法を決めるための、よりたくさんの情報が得られます。
- 脳血管造影検査(のうけっかんぞうえいけんさ)
- 通常、足の付け根の血管から、細くて柔らかい管(カテーテル)を入れます。
- その管を脳の血管まで進め、造影剤を流しながらエックス線で撮影します。
- 動脈瘤の形や、血管とどうつながっているかをとても細かく確認できます。
- この検査は、手術などの治療方法を選ぶ上で、最も詳しい情報を得るために役立ちます。
難しい動脈瘤と向き合う
検査で動脈瘤が見つかった場合、その場所や大きさ、形、そしてどれくらい破裂する危険性があるかなどを、医師が総合的に判断して診断します。しかし、動脈瘤の中には、治療が非常に難しいものもあります。
例えば、「蛇行拡張型椎骨脳底動脈瘤(だこうかくちょうがたついこつのうていどうみゃくりゅう)」と呼ばれる種類の動脈瘤があります。これは脳の奥深く、とても大切な部分にできるものです。残念ながら、この動脈瘤は、どんな治療法を選んだとしても、とても難しい病気だとわかっています。
研究によると、このような動脈瘤に対して、頭を開けて行う手術、血管の中から行う治療、あるいは薬で様子を見る治療など、どの方法を選んだとしても、良い結果が得られるのは半数ほどに留まります。高い確率で病状が改善しないこともあり、また、約2割の方が亡くなってしまうという厳しい結果が出ています。
どの治療法を選んだとしても、残念ながら結果に大きな違いはないことがわかっています。そのため、私たち医師は、一人ひとりの患者さんの状態に合わせて、とても慎重な治療計画を立てることが大切だと考えています。動脈瘤について気になることや不安なことがあれば、いつでもご相談ください。
動脈瘤の治療
動脈瘤が見つかったとき、私たちは患者さんの体の状態、動脈瘤がどこにあるのか、大きさや形、そして破裂しているかいないかなど、さまざまなことを詳しく調べてから、治療の方針を一緒に考えていきます。動脈瘤の治療には、大きく分けて3つの方法があります。
- 手術
- 血管内治療(カテーテル治療)
- 薬などを使って様子を見る治療(保存的治療)
どの治療法を選ぶのが一番良いかは、患者さん一人ひとりの状態によって異なります。私たち医師は、それぞれの治療法について、良い点や注意すべき点を丁寧に説明し、患者さんとご家族が納得した上で決めていくことを大切にしています。
1. 手術で直接治す方法
手術では、頭の一部を一時的に開いて、動脈瘤を直接治します。代表的な方法に「クリッピング術」があります。これは、動脈瘤の根元を小さな金属のクリップで挟み、血液が流れ込まないようにして、破裂を防ぐ方法です。
例えば、脳の主要な血管が枝分かれする場所にある「前交通動脈瘤」の場合、手術(クリッピング術)は血管の中から行う治療と比べると、動脈瘤がしっかりと閉じている状態を長く保ちやすいことがわかっています。また、再び治療が必要になったり、動脈瘤が再発したりする可能性が低いという報告もあります。
手術の方法も日々進化しており、頭の小さな範囲を切開して行う「ミニ開頭術」も選択肢の一つです。どの場所を切開しても、治療の成功率や合併症の起きやすさに大きな違いはないという研究結果もあり、患者さんの状態に合わせて最適な方法を選ぶことができます。
2. 血管内治療(カテーテル治療)
血管内治療は、太ももの付け根などにある血管から、細くて柔らかい管(カテーテル)を入れて、血管の中から動脈瘤を治す方法です。頭を開く手術に比べると、体への負担が少ないと考えられています。
この治療では、動脈瘤の中に細い金属のコイルを詰めて血液が入らないようにしたり、「フローダイバーター」という特殊な網状の筒状の器具を血管の中に置いて、動脈瘤に流れる血液の量を減らしたりする方法があります。
フローダイバーターを使った治療では、治療後に血栓という血の塊ができるのを防ぐために、血をサラサラにするお薬(抗血小板薬)を服用します。このお薬の種類によっては注意が必要です。例えば、アスピリンというお薬だけを使うと、血栓による合併症が起こる可能性が少し高くなることがあります。これに対して、プラスグレグやチカグレロルといった種類のお薬を単独で使う治療は、コーティングされたフローダイバーターや、すでに破裂してしまった動脈瘤の治療において、効果が期待できるという研究結果も出ています。
3. 薬などを使って様子を見る治療(保存的治療)
すぐに手術や血管内治療が必要ない場合や、これらの治療が難しい場合に、動脈瘤の様子を定期的に観察しながら、生活習慣を改善していく治療法を「保存的治療」と呼びます。
この治療では、血圧を適切に管理したり、たばこをやめたりするなど、動脈瘤が大きくなったり破裂したりする危険性を減らす生活を送ることがとても大切です。私たちは、定期的に検査を行いながら、動脈瘤の状態を注意深く見ていきます。
しかし、動脈瘤の中には、治療が非常に難しいものもあります。例えば、「蛇行拡張型椎骨脳底動脈瘤」と呼ばれる、脳の奥深くの重要な部分にできる特殊な動脈瘤があります。この動脈瘤は、どのような治療法を選んだとしても、良い結果が得られにくい傾向があることがわかっています。
研究によると、このような動脈瘤に対して、手術、血管内治療、あるいは薬で様子を見る治療など、どの方法を選んだとしても、良い結果が得られるのは約5割に留まります。高い確率で病状が改善しないこともあり、また、約2割の方が亡くなってしまうという厳しい結果も出ています。治療法による良好な転帰率や死亡率に統計的に大きな差はないとされています。そのため、私たち医師は、患者さん一人ひとりの体の状態や生活背景に合わせて、とてもきめ細やかな治療計画を立てることが非常に重要だと考えています。
どの治療法を選ぶのが患者さんにとって一番良い選択なのか、ご自身の動脈瘤について気になることや不安なことがあれば、いつでも私たち医師にご相談ください。一緒に最適な治療法を見つけていきましょう。





