成人アトピー性皮膚炎

我慢できないかゆみと、良くなったり悪くなったりを繰り返す湿疹。「子どもの病気」というイメージが強いアトピー性皮膚炎ですが、実はある調査で20代の約10人に1人がこの病気に悩んでいると報告されており、大人にとって決して珍しい病気ではありません。

なぜ大人のアトピーは治りにくいのでしょうか。その原因は、生まれ持った皮膚のバリア機能の弱さやアレルギー体質に加え、ストレスや生活習慣の乱れといった、大人特有の要因が複雑に絡み合っているからです。

この記事では、成人アトピー性皮膚炎の原因や種類、そして症状を上手にコントロールするための治療法について詳しく解説します。ご自身の状態を正しく理解し、つらい症状と向き合っていくためのヒントを見つけてください。

成人アトピー性皮膚炎の概要

アトピー性皮膚炎は、強いかゆみを伴う湿疹が、良くなったり悪くなったりを繰り返す皮膚の病気です。子どもの病気というイメージが強いかもしれませんが、決してそんなことはありません。

ある調査では20代の約10人に1人がこの病気であると報告されており、大人にとっても非常に身近な皮膚疾患の一つと言えます。成人アトピー性皮膚炎には、大きく分けて2つのタイプがあります。

  • 小児期発症型 子どもの頃に発症し、症状が大人になっても続く、あるいは一度治まってから再発するタイプです。
  • 成人期発症型 子どもの頃は症状がなく、大人になってから初めて症状が出るタイプです。

この病気の背景には、アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)や、皮膚のうるおいを守る「バリア機能」の低下が関係しています。バリア機能が弱い皮膚は乾燥しやすく、ホコリや汗などのわずかな刺激でも炎症を起こしてしまいます。

最近の研究では、皮膚の免疫バランスの乱れも注目されています。例えば、特定の乳酸菌(プロバイオティクス)を摂ることが、症状を和らげる可能性が報告されています。特に中等症から重症の方で、症状の改善が見られたという研究結果もあります。

アトピー性皮膚炎は完治を目指すというより、症状を上手にコントロールし、快適な毎日を送ることを目標とする病気です。

成人アトピー性皮膚炎の種類

大人のアトピー性皮膚炎は、実はみんな同じではありません。 いつ症状が出始めたか、どこに湿疹が出やすいかなどによって、いくつかの種類に分けられます。 ご自身のタイプを知ることは、適切な治療法を見つけるための大切な手がかりになります。

主に、次の3つの視点から分類されます。

  • 発症した時期
  • 症状が強く出る場所
  • 症状の重さ(重症度)

それぞれの特徴を、もう少し詳しく見ていきましょう。

発症時期や症状の出方による分類

  • 小児期発症・持続型 子どもの頃に発症したアトピー性皮膚炎が、治りきらずに大人まで続いているタイプです。
  • 成人期発症・再発型 子どもの頃は症状がなかった、または一度治ったのに、大人になってから発症・再発するタイプです。 ストレスや生活環境の変化がきっかけになることも少なくありません。
  • 顔面・頸部(けいぶ)型 顔や首、胸や背中といった上半身に症状が強く出ます。 人目につきやすい場所のため、精神的なつらさを感じる方も多いです。
  • 痒疹(ようしん)型 とてもかゆみが強い、硬いイボのような湿疹が、腕や足にたくさんできるタイプです。 治りにくく、かき壊すことで、さらに悪化しやすい特徴があります。

症状の範囲や炎症の強さから「軽症」「中等症」「重症」といった重症度も判断します。 最も重い状態は「紅皮症(こうひしょう)」と呼ばれ、全身の皮膚が真っ赤になることもあります。

最近の研究では、特定の乳酸菌(プロバイオティクス)を摂ることが、症状を和らげる可能性が報告されています。 特に、中等症から重症の方で、症状の改善が見られたという結果もあります。 ただし、治療の基本は、医師の指導のもとで行う正しいスキンケアと薬物療法です。

成人アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎がなぜ起こるのか、原因は一つではありません。 いくつかの要因が、パズルのピースのように複雑に組み合わさって発症すると考えられています。

原因は大きく2つに分けて考えることができます。

  • 体の内側にある問題(体質的な要因)
  • 体の外からの刺激(環境的な要因)

体質的な要因

生まれつき持っている体の性質が、症状の出やすさに関係します。 ご自身の体質を知ることは、大切な第一歩です。

  • 皮膚のバリア機能の低下 私たちの皮膚には、外からの刺激や細菌の侵入を防ぐ「バリア機能」があります。 しかし、アトピー性皮膚炎の方の皮膚は、このバリア機能が弱い傾向にあります。 皮膚のうるおいを保つ力が弱く、わずかな刺激でも炎症が起きやすい状態です。
  • アトピー素因 アレルギー反応を起こしやすい体質のことです。 ご自身やご家族に、気管支ぜんそくやアレルギー性鼻炎などがある場合がこれにあたります。 アレルギーの原因物質に反応する「IgE抗体」を作りやすいという特徴があります。

環境的な要因

もともと持っている体質に、生活の中の様々な刺激が加わることで症状は悪化します。 大人になってから発症する場合は、特に環境要因が大きく影響します。

  • 刺激となるもの ダニ・ホコリ・花粉などのアレルゲンや、汗や衣類の摩擦などが刺激になります。 また、化粧品や紫外線、髪の毛の接触なども症状を悪化させることがあります。
  • 生活習慣の乱れ 仕事のストレスや睡眠不足、食生活の乱れは、皮膚の免疫バランスを崩す大きな原因です。 最近の研究では、腸内環境が皮膚の状態に関わることも注目されています。 ある研究では、特定の善玉菌(プロバイオティクス)を摂ることが、症状を和らげる可能性が示されました。 特に、乳酸菌の一種である「ラクトバチルス・サリバリウス」などは、中等症から重症の方の症状改善に役立つという報告があります。

成人アトピー性皮膚炎の症状

成人アトピー性皮膚炎の症状は、単なる肌荒れとは大きく異なります。 最大の特徴は、生活の質を著しく下げる「強いかゆみ」を伴う湿疹です。 この湿疹は、良くなったり悪くなったりを慢性的に繰り返す傾向があります。

皮膚にあらわれる症状は、状態によって様々に変化しながら現れます。 ご自身の状態がどれにあたるか、確認してみましょう。

  • カサカサとした乾燥 皮膚のうるおいを守るバリア機能が低下し、粉をふいたように乾燥します。 すべての症状の基本となる状態で、わずかな刺激にも敏感になります。
  • 赤いブツブツ(丘疹:きゅうしん) 炎症によって、皮膚に赤みを帯びた小さな盛り上がりができます。 強いかゆみを伴うことが多く、この段階で治療を始めることが大切です。
  • じゅくじゅくとした状態 強いかゆみに耐えきれずにかき壊すと、透明な液体(浸出液)が出てきます。 この液体が固まると、黄色いかさぶたになることもあります。
  • ゴワゴワと厚い皮膚(苔癬化:たいせんか) 長期間、炎症とかき壊しを繰り返した結果、皮膚が硬く厚くなった状態です。 一度この状態になると、元のなめらかな皮膚に戻るには時間がかかります。

症状が出やすい場所にも、大人ならではの特徴があります。

特徴

詳細

左右対称

体の右側と左側の同じような場所に症状が出やすい傾向があります。

上半身中心

特に顔、首、胸、背中といった上半身に強く症状が出ることが多いです。

特に顔や首は人目につきやすいため、症状が精神的なつらさにつながることも少なくありません。 症状の重さは、医師が湿疹の範囲や炎症の強さを客観的に評価します。 それに加え、生活への影響(睡眠障害など)も考慮して総合的に判断します。

成人アトピー性皮膚炎の検査・診断

アトピー性皮膚炎の診断は、特別な機械を使うわけではありません。 医師がお話をじっくり聞き、皮膚の状態を丁寧に観察することが基本です。 まるで探偵のように、いくつかの手がかりを集めて診断を確定します。

診断には、主に日本皮膚科学会が定めた基準を参考にします。 以下の3つの特徴がそろっているかを確認することが第一歩です。

【アトピー性皮膚炎 診断の3つのポイント】

  • かゆみ 我慢できないような強いかゆみがあることが、最も大切な特徴です。
  • 特徴的な湿疹と場所 カサカサ、赤いブツブツなど、特徴的な湿疹がみられます。 顔や首、ひじやひざの裏など、左右対称に出やすいのもポイントです。
  • 良くなったり悪くなったりを繰り返す 症状が長い間続いたり、一度良くなってもぶり返したりします。

これらの特徴に加えて、診断の参考にする項目がいくつかあります。 例えば、ご自身やご家族がぜんそくや花粉症などにかかったことがあるか(アトピー素因)も重要な手がかりの一つです。

また、必要に応じて血液検査を行い、診断の助けとすることもあります。 アレルギー反応の強さ(IgE抗体)や、アレルギーに関わる白血球(好酸球)の数などを調べることで、体の状態を客観的に評価できます。

これらの情報をパズルのように組み合わせ、総合的に判断して診断を下します。

成人アトピー性皮膚炎の治療

成人アトピー性皮膚炎の治療目標は、完治が難しいからこそ、つらい症状を上手にコントロールし、穏やかな毎日を送れるようにすることです。

治療の基本は、以下の3つのアプローチを組み合わせることです。

  • 薬物療法 炎症やかゆみという「火事」を直接消し止めます。
  • スキンケア 皮膚のバリア機能という「壁」を補強し、刺激から守ります。
  • 悪化要因の対策 症状を引き起こす「火種」を日常生活から取り除きます。

これらを車の両輪のように、バランスよく進めることが大切です。 治療の中心は薬物療法で、症状に合わせて様々な薬を使い分けます。

薬の種類

主な役割と薬の例

外用薬(塗り薬)

皮膚の炎症を直接抑えます。ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などが基本です。皮膚の乾燥を防ぐ保湿剤も欠かせません。

内服薬(飲み薬)

強いかゆみを和らげます。抗ヒスタミン薬などが使われます。塗り薬だけでは改善が難しい場合は、体の内側から免疫の働きを調整する薬が用いられることもあります。

注射薬

塗り薬や飲み薬で十分な効果が得られない重症の場合に検討されます。炎症やかゆみの原因物質の働きをピンポイントで抑えます。

これらの治療と並行し、生活習慣を見直すことも重要です。 最近の研究では、特定の善玉菌(プロバイオティクス)を食事に取り入れることが、症状緩和に役立つ可能性も報告されています。

特に、中等症から重症の方において、特定の乳酸菌(ラクトバチルス・サリバリウスなど)を摂ることで、皮膚の状態が改善したというデータもあります。 ただし、自己判断で特定の食品だけを摂るのではなく、まずは医師に相談し、治療の基本である薬物療法やスキンケアと合わせて考えましょう。

治療は根気強く続けることが大切です。 医師とよく相談しながら、ご自身に合った治療法を一緒に見つけていきましょう。