急性上腸間膜動脈閉塞症

突然、これまでに経験したことのないほどの激しい腹痛に襲われたら、あなたはどうしますか?それは単なる胃腸の不調ではなく、命を脅かす緊急疾患「急性上腸間膜動脈閉塞症」の危険なサインかもしれません。

この病気は、腸へ血液を送る大切な動脈が血の塊などで詰まり、わずか数時間で腸が壊死してしまう、極めて死亡率の高い状態です。診断や治療の遅れが文字通り命取りとなり、たとえ一命を取り留めても、腸の広範囲切除により重い後遺症が残る可能性があります。

本記事では、この恐ろしい病気の原因や特徴的な症状、そして命を救うために一刻を争う治療法について詳しく解説します。あなたとあなたの大切な人を守るため、ぜひご一読ください。

急性上腸間膜動脈閉塞症の概要

急性上腸間膜動脈閉塞症は、命に関わる緊急性の高い血管の病気です。 この病気は死亡率が非常に高く、迅速な診断と治療が求められます。

お腹の中には、小腸や大腸に血液を送る上腸間膜動脈があります。 この大切な血管が血の塊などで突然詰まってしまうのがこの病気です。 血管が詰まると腸に血液が届かず、数時間で組織が死んでしまいます。 この状態を「壊死(えし)」と呼び、一度壊死すると元に戻りません。

この病気のサインは、突然の経験したことのないほどの激しい腹痛です。 お腹を触った所見と、ご本人が訴える痛みの強さが合わない特徴があります。 このギャップが診断を難しくさせ、治療の遅れにつながることもあります。

この病気の重要なポイントは以下のとおりです。

  • どんな病気? お腹の重要な血管が詰まり、腸が壊死する緊急性の高い病気です。
  • なぜ危険? 病気の進行が極めて速く、診断や治療の遅れが命取りになります。 死亡率も高いことが報告されている、非常に危険な状態です。
  • 治療が間に合っても 壊死した腸を広範囲に切除することがあります。 その結果、栄養を吸収できなくなる「短腸症候群」になる恐れもあります。

このように、診断から治療までを数時間以内に行う必要があります。 経験したことのない激しい腹痛を感じた際は、決して我慢しないでください。 すぐに救急車を呼ぶなど、迅速に医療機関を受診することが重要です。

急性上腸間膜動脈閉塞症の種類

この病気は、血管が詰まる原因によって大きく2つの種類に分けられます。 原因を正確に見極めることが、適切な治療を選ぶための第一歩です。 そのため、CT検査などで原因を調べ、治療方針を決めることが重要になります。

1. 塞栓症(そくせんしょう)

心臓など、お腹の血管以外の場所でできた血の塊が原因となるタイプです。 この血の塊が血流に乗り、お腹の大切な動脈を突然ふさいでしまいます。 日本では、この塞栓症が原因となるケースが多いことが知られています。

主な原因は「心房細動」という、心臓が不規則に震える不整脈です。 心臓が震えると血液の流れがよどみ、血の塊ができやすくなります。 心房細動をお持ちの方の激しい腹痛は、この病気を強く疑うサインです。

2. 血栓症(けっせんしょう)

お腹の血管(上腸間膜動脈)そのものが、内側から詰まるタイプです。 主な原因は、血管が硬くなる「動脈硬化」によって引き起こされます。 血管の壁が厚くなり、血液の通り道がだんだんと狭くなっていきます。

狭くなった場所に血の塊ができ、最終的に血管を完全にふさぎます。 もともと動脈硬化の危険因子がある方に起こりやすいと考えられます。

種類

血の塊ができる場所

主な原因

塞栓症

心臓など、お腹の血管以外の場所

心房細動(不整脈)

血栓症

お腹の血管(上腸間膜動脈)そのもの

動脈硬化

このように、原因によって血の塊ができる場所が全く異なります。 どちらのタイプかを見極めることが、命を救うための治療につながります。

急性上腸間膜動脈閉塞症の原因

この病気が起こる原因は、主に3つのタイプに分けられます。 原因によって治療法も変わるため、正確な見極めが重要になります。 それぞれの原因について、詳しく見ていきましょう。

1. 塞栓症(そくせんしょう)

心臓などでできた血の塊が、血流に乗って腸の血管まで飛んできて詰まるタイプです。 最も多い原因は「心房細動」という不整脈です。 心臓が小刻みに震えることで血液の流れがよどみ、血の塊ができやすくなります。

2. 血栓症(けっせんしょう)

腸の血管そのものが、動脈硬化によって内側から詰まってしまうタイプです。 長年の生活習慣などにより血管の壁が傷つき、厚く硬くなります。 その傷ついた場所に血の塊ができ、最終的に血管をふさいでしまいます。

3. 非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)

血管に血の塊が詰まっていないのに、腸への血流が極端に悪くなる状態です。 これは、大きな手術の後や心停止からの蘇生後など、体に強いストレスがかかったときに起こります。 また、血圧を上げるお薬(血管収縮薬)の使用が関連することもあります。

ある研究では、NOMIが疑われるサイン(激しい下痢やお腹の張り)が見られると、その後の経過が思わしくない可能性が示唆されています。 このことから、特に重い病気の治療中に見られるお腹の症状は、注意深い観察が必要な危険なサインと言えます。

種類

原因のイメージ

主な背景・状況

塞栓症

他の場所から血の塊が飛んでくる

心房細動(不整脈)など

血栓症

血管の壁が傷んでその場で詰まる

動脈硬化、生活習慣病など

NOMI

血管は詰まらず血流が減る

大きな手術後、重い病気の治療中

急性上腸間膜動脈閉塞症の症状

この病気のサインは、多くの場合、突然あらわれることが特徴です。 「これまでに経験したことのない激しい腹痛」が最も重要なサインです。 しかし、お腹を触っても痛みの強さに見合う所見がないこともあります。 ご本人が訴える痛みと、医師の診察所見に差があることが特徴です。

時間が経つにつれて腸への血流が足りなくなり、様々な症状がみられます。

主な初期症状

初期にあらわれやすい症状には、以下のようなものがあります。

  • 突然の激しい腹痛 ほとんどの場合、前触れもなく、突然お腹が激しく痛みます。
  • 吐き気や嘔吐 腸の動きが悪くなるため、食べたものが逆流しやすくなります。
  • 激しい下痢やお腹の強い張り これらは腸の血流が極端に不足している危険なサインかもしれません。 ある研究では、これらの症状がその後の経過に影響する可能性も示唆されています。

進行した場合の症状

病気が進行し、腸の組織が壊死すると、全身に危険な症状が広がります。 持続する腹痛やお腹が硬くなるサインは、病気の進行を示唆しています。 このような状態は、治療方針の見直しが必要になる緊急事態です。

症状の段階

主な症状

医師からの補足

初期症状

・突然の激しい腹痛<br>・吐き気、嘔吐<br>・血便や激しい下痢<br>・お腹の強い張り

痛みの割にお腹を触っても異常が少ないことがあります。特に下痢やお腹の張りは危険なサインの可能性があります。

進行症状

・お腹全体が硬くなる<br>・血圧が下がる(ショック)<br>・意識がもうろうとする

腸が壊死し、腹膜炎を起こしているサインです。命に関わる危険が非常に高い状態で、一刻を争います。

この病気は進行が非常に早いため、ためらわずに医療機関を受診しましょう。 当てはまる症状が一つでもあれば、すぐに救急車を呼ぶことが重要です。

急性上腸間膜動脈閉塞症の検査・診断

この病気は一刻を争うため、素早く正確な検査と診断が命を救います。 ご本人が訴える激しい腹痛に反して、お腹を触っても異常が乏しいです。 このギャップが診断を難しくさせ、迅速な検査の重要性を高めています。 特に心臓の不整脈(心房細動)がある方の激しい腹痛は、特に危険なサインです。

診断を確定させるため、主に以下の検査を迅速に行います。

画像検査

診断の中心となるのは、体の中を詳しく見る画像検査です。

  • 造影CT検査 診断の正確さや安全性が比較的高く、素早く行える検査です。 そのため、この病気が疑われる場合、まず初めに行うことが推奨されます。 腕の血管から造影剤というお薬を注射し、血管の形を鮮明に写し出します。 この検査で、血管が詰まっている場所や腸のダメージ具合を評価できます。

血液検査

画像検査と同時に、全身の状態を把握するために血液検査も行います。 腸の細胞がダメージを受けると、血液の中に特定の物質が増加します。 そのため、病気の進行度を判断する上で重要な手がかりとなります。

検査で調べること

血液の状態からわかること

LDHなどの酵素

腸の細胞が壊れると血液中に漏れ出します。この数値で腸のダメージの大きさが分かります。

血液ガス分析

血液が酸性に傾く「アシドーシス」を調べます。腸が壊死すると、全身に影響が及ぶサインです。

原因を調べる検査

なぜ血管が詰まったのか、その原因を探る検査も非常に大切です。 心臓でできた血の塊が原因となることが多いため、心電図検査や心臓の超音波(エコー)検査で、心臓に異常がないかを調べます。

これらの検査結果を総合的に判断し、診断が確定され次第、すぐに治療が開始されます。 診断後も腹痛が続く場合は、病気が進行しているサインかもしれません。 その際は、ためらわずに医師や看護師に伝えることが重要です。

急性上腸間膜動脈閉塞症の治療

この病気は命に関わる緊急事態であり、一刻も早く治療を始める必要があります。 診断がついたら、すぐに治療方針を決定し、命を救うための処置を開始します。 治療法は、腸が生きているか、すでに機能を失っているかで大きく変わります。

腸の組織が死んでしまう「壊死(えし)」が起きているかどうかが、運命の分かれ道です。 CT検査などで腸の状態を詳しく調べ、様々な専門分野の医師が協力して治療法を決めます。

腸が壊死している場合:開腹手術

もし腸がすでに壊死してしまっている場合は、お腹を開ける手術が必要です。 これを「開腹手術」といい、命を救うための標準的な治療法となります。 手術では、血管を詰まらせた血の塊を取り除き、壊死した腸を切除します。

腸が壊死していない場合:血管内治療

腸への血流が悪いものの、まだ壊死には至っていない段階で発見できた場合。 この場合は、体への負担が少ない「血管内治療」という選択肢があります。 足の付け根などからカテーテルという細い管を血管に入れ、治療を行います。

治療法

どんな治療?

血栓溶解術

カテーテルからお薬を注入し、血の塊(血栓)を溶かします。

血栓吸引術

詰まっている血の塊を、カテーテルで直接吸い出します。

血管形成術

バルーン(風船)などで、狭くなった血管を内側から広げます。

治療によって命が助かっても、腸を広く切除すると後遺症が残ることもあります。 栄養をうまく吸収できなくなる「短腸症候群」という状態です。 また、治療後も腹痛が続く場合は、病気が進行しているサインかもしれません。 決して我慢せず、すぐに医師に伝えることが、その後の経過を左右します。