急性下肢動脈塞栓症
突然の足の激痛や冷たさ、しびれ。「ただの疲れかな?」と見過ごしていませんか。その症状、もしかするとあなたの足と命を脅かす「急性下肢動脈塞栓症」の危険なサインかもしれません。この病気は、心臓などでできた血の塊が足の動脈に詰まることで突然発症します。
恐ろしいのは、その進行の速さです。発症からわずか4〜6時間で足の組織が壊死し始め、治療が遅れると足を切断する可能性は5〜30%、命を落とす危険性も10〜28%にのぼります。まさに、数時間で運命が決まる「時間との勝負」なのです。
この記事では、あなたの未来を守るために、この恐ろしい病気の原因から、見逃してはならない初期症状「5P」、そして最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身や大切な人を守る知識として、ぜひ最後までお読みください。
急性下肢動脈塞栓症の概要
急性下肢動脈塞栓症は、心臓などでできた血の塊(血栓)が、血流にのって足の動脈に流れ着き、突然詰まってしまう病気です。
血管という血液の通り道が、急にせき止められてしまうと、その先にある足の細胞に酸素や栄養が届かなくなります。この病気は非常に緊急性が高く、まさに時間との勝負です。
発症から4〜6時間以内に治療を開始しないと、足の細胞が死んでしまい(壊死)、元に戻らない変化が起こる可能性があります。
この病気の主な特徴は以下のとおりです。
- 突然の発症
何の前触れもなく、急に足の痛みや冷たさ、色の変化などが現れます。 - 深刻な事態
治療が遅れると、足を切断する可能性が5〜30%あります。また、命に関わることもあり、死亡率は10〜28%にのぼるとされています。
足や命を守るためには、いかに早く血流の低下を発見し、治療を始められるかが何よりも重要です。
しかし、足の見た目や脈を触る診察だけでは、血流の状態を正確に判断するのが難しい場合もあります。そのため、より精密に体の状態を調べる新しい検査技術の研究が進んでいます。
例えば、近赤外線分光法(NIRS)という、体に特殊な光を当てて血の流れを調べる検査があります。この検査は体を傷つけることなく、血流の低下を早期に発見できると期待されています。
急性下肢動脈塞栓症の種類
急性下肢動脈塞栓症は、血管が詰まる原因によって、主に2つの種類に分けられます。 原因が違うと治療の戦略も少し変わるため、この分類はとても重要です。
- ① 飛んできて詰まるタイプ(塞栓症) 心臓などでできた血の塊が、血の流れに乗って足の動脈まで運ばれて、突然詰まってしまうタイプです。「塞栓」とは、どこか遠くから流れてきたものが詰まることを意味します。主な原因は心房細動という不整脈で、日本の報告では全体の約45%を占めます。
- ② その場で固まって詰まるタイプ(血栓症) 動脈硬化でもともと細くなっていた足の血管そのもので血の塊ができ、完全に詰まってしまうタイプです。血管の壁が傷つき、そこにかさぶたができるように血が固まって詰まります。脱水などがきっかけになることもあり、全体の約35%がこのタイプです。
どちらのタイプでも、詰まりを取り除く緊急治療が必要です。近年では、血管の中から詰まりを治すカテーテル治療という選択肢があります。
ある研究では、詰まりをドリルなどで削り取る治療と、風船(バルーン)で血管を広げる治療を組み合わせる方法が検討されました。この組み合わせ治療は、再治療の必要性や、足を切断するリスクを減らせる可能性が示されています。
急性下肢動脈塞栓症の原因
急性下肢動脈塞栓症は、足の血管に「血の塊(血栓)」が詰まることで起こります。この血の塊がどこで、どのようにしてできるのかによって、原因は大きく2つに分けられます。
心臓から血の塊が飛んでくる「塞栓症」
心臓など、足とは別の場所でできた血の塊が、血流に乗って運ばれ、足の動脈を突然ふさいでしまうタイプです。
最も多い原因は「心房細動」という不整脈です。 心臓の部屋が小刻みに震えることで、血液の流れがよどみ、血の塊ができやすくなります。日本の調査では、このタイプが全体の約45%を占めると報告されています。
足の血管そのもので血が固まる「血栓症」
動脈硬化によって、もともと細くなっていた足の血管が、何らかのきっかけで完全に詰まってしまうタイプです。
血管の壁が傷つき、そこにかさぶたができるように血の塊が発生します。 脱水で血液がドロドロになることも引き金となります。このタイプは全体の約35%とされています。
動脈硬化で血管が狭くなる病変は、この病気の重要な背景です。 そのため、根本的な原因である動脈硬化の治療も大切になります。
ある研究では、詰まりを削り取る治療(アテレクトミー)と、風船(バルーン)で血管を広げる治療を組み合わせる方法が検討されました。 この併用治療は、再治療の必要性や、足を切断するリスクを減らせる可能性が示されています。
原因を正確に突き止めることが、適切な治療への第一歩となります。
急性下肢動脈塞栓症の症状
急性下肢動脈塞栓症の症状は、前触れもなく、突然現れるのが特徴です。 足の血管が血の塊で詰まり、血流が止まることで起こります。 さっきまで何ともなかった足に、急に異変が起きるのです。
この病気の代表的な症状は「5P」と呼ばれています。 ご自身の足の状態を確認するための、大切なSOSサインです。
【足のSOSサイン・セルフチェック】
- 痛み(Pain) 突然、経験したことのないような激しい痛みが足に起こります。 安静にしていても痛みは治まらず、持続するのが特徴です。
- 蒼白(Pallor) 血が通わなくなるため、足の皮膚がろう人形のように青白くなります。 時間が経つと、紫色やまだら模様になることもあります。
- 脈拍消失(Pulselessness) 普段なら触れることのできる足の脈が、感じられなくなります。 足の付け根や足首の内側、足の甲などで確認できます。
- 知覚まひ(Paresthesia) 足の感覚が鈍くなり、触ってもよくわからなくなります。 正座の後のような、ジンジンとした強いしびれとして感じることもあります。
- 運動まひ(Paralysis) 足に力が入らなくなり、自分の意思で動かせなくなります。 足首や足の指を曲げ伸ばしできない、といった状態になります。
これらの症状は、発症から4~6時間で神経や筋肉に起こります。 元に戻らない変化(壊死:えし)が始まるサインでもあります。 一つでも当てはまる場合は、絶対に様子を見ないでください。 時間を置かずに、ただちに医療機関を受診することが命と足を守るために極めて重要です。
急性下肢動脈塞栓症の検査・診断
急性下肢動脈塞栓症は、まさに時間との戦いです。 そのため、診断も迅速かつ正確に行う必要があります。 診断は、お話を聞く問診、身体の診察、そして画像検査などを組み合わせて進めます。
問診と身体診察
まず、症状について詳しくお話を伺います。 いつから、足のどの部分に、どんな症状があるかを確認します。 その後、次のような点を直接診察し、足からのSOSサインを見つけ出します。
- 視診 左右の足を丁寧に見比べて、皮膚が青白くなっていないかを確認します。
- 触診 足に直接触れ、冷たさや脈拍の有無を確かめます。
- 感覚と動きの確認 足の感覚が鈍くなっていないか、思い通りに動かせるかを調べます。
体の中を詳しく調べる検査
身体の診察で病気が疑われる場合、診断を確定し治療方針を決めるための検査に進みます。
- 血管エコー(超音波)検査 体にゼリーを塗り、機械を当てるだけの痛みのない検査です。 血管の中を直接観察し、血流が途絶えている場所や血の塊を探します。
- 造影CT検査 「造影剤」というお薬を点滴し、血管を鮮明に映し出します。 血の塊の正確な場所や範囲を立体的に把握でき、治療計画に不可欠です。
- 心臓の検査 血の塊の発生源が心臓であることも多いため、心電図や心エコー検査を行います。 不整脈(心房細動など)や、心臓の中に血の塊がないかを確認します。
- 近赤外線分光法(NIRS) 近年、より早く足の危険を察知する新しい技術も使われています。 体に特殊な光を当て、筋肉の酸素状態をリアルタイムで監視する検査です。 体を傷つけず、血流の悪化を継続的に評価できるのが大きな利点です。 これまでの診察では判断が難しい場合でも、この検査で血流低下を早期に発見できると期待されています。 複数の研究を分析した報告でも、NIRSが血流の悪い場所を見つけ出すのに有効な手段だと結論づけられています。 左右の足の測定値に差が出たり、数値が低かったりした場合は、血流不足の重要なサインとなります。 このサインを基に、より詳しい検査や治療を急ぐ判断につながります。
これらの検査結果を総合的に評価し、診断を確定させ、一刻も早く治療を開始します。
急性下肢動脈塞栓症の治療
急性下肢動脈塞栓症の治療は、時間との勝負です。 足の細胞が元に戻らない変化を起こすのを防ぐためです。 発症から6時間以内に血流を元に戻すことが目標となります。
治療はまず、これ以上血液が固まるのを防ぐお薬(抗凝固薬)の点滴から開始します。 その上で、詰まった血の塊を取り除き、血の流れを再開させるための治療を急ぎます。 主な治療法には、カテーテル治療と外科手術があります。
カテーテル治療(血管内治療)
- 内容 足の付け根などからカテーテルという細い管を血管の中に入れ、詰まった場所まで進めます。
- 方法 カテーテルを通して血の塊を溶かす薬を注入したり、掃除機のように吸い取ったりします。
近年では、カテーテル治療の技術が大きく進歩しています。 カテーテルの先についた風船(バルーン)で、狭くなった血管を内側から広げる治療も行われます。
さらに、動脈硬化のゴミ(プラーク)を削り取る「アテレクトミー」という治療も選択肢の一つです。 ある研究では、このアテレクトミーとバルーン治療を組み合わせることで、治療後に再び血管が詰まる可能性や、足を切断するリスクを減らせる可能性が示されています。 患者さんの状態に合わせて最適な方法を選び、足を守ることを目指します。
外科手術(血栓除去術)
- 内容 血管が詰まっている部分の近くの皮膚を切り、血管を直接取り出します。
- 方法 血管を切開し、中にある血の塊を直接、物理的に取り除く方法です。
下肢切断術
残念ながら発見が遅れ、足の組織がすでに広い範囲で回復不可能な状態(壊死)になってしまった場合、命を守るためにやむを得ず足を切断する手術が必要になることもあります。
どの治療法を選択するかは、患者さんの全身の状態や、血管が詰まった場所、発症からの時間などを総合的に見て慎重に判断します。





