本態性低血圧症
原因不明のめまいや倦怠感、立ちくらみに悩んでいませんか?検査をしても特に異常が見つからず、つらい症状を「気のせい」と我慢している方も少なくないでしょう。
本態性低血圧症は、特定の病気が見当たらないにも関わらず、心身の不調を引き起こす低血圧の状態です。この記事では、本態性低血圧症の概要、体質や自律神経の乱れといった原因、主な症状、検査・診断方法、そして症状と向き合うための対処法を詳しく解説します。
ご自身の症状への理解を深め、日常生活でできる具体的な対策を見つけることで、快適な毎日を送るためのヒントが見つかるでしょう。
本態性低血圧症の概要
本態性低血圧症は、検査をしても特定の病気や原因が見つからないものの、さまざまな不調に悩まされる低血圧の状態を指します。
一般的に低血圧とは、上の血圧(収縮期血圧)が100mmHg未満、下の血圧(拡張期血圧)が60mmHg未満の状態が続くことをいいます。この血圧の基準値を下回る状態が続く中で、心臓病や内分泌系の病気、特定の薬剤の副作用といった明らかな原因が見当たらない場合に「本態性低血圧症」と診断されます。
身体にこれといった病変は見つからず、体質的な要素が大きく関わっていると考えられています。そのため、ご自身の体質と向き合い、症状とうまく付き合っていく視点が大切になります。
本態性低血圧症では、主に以下のような症状が現れることがあります。
・めまい
・立ちくらみ
・倦怠感
・頭痛
・肩こり
・吐き気
・動悸
・息切れ
これらの症状は、日常生活に大きな影響を及ぼし、つらさを感じる方が少なくありません。原因がはっきりしないために「気のせい」と軽く見過ごされがちですが、生活の質を低下させる要因となることもあるため、適切な理解と対処が重要です。
本態性低血圧症の種類
本態性低血圧症と一言で言っても、症状の現れ方や体質によって、いくつかのタイプに分けられます。ご自身の症状がどのタイプに当てはまるかを知ることは、日々の生活で気をつけるべき点を見つける上で役立ちます。
主な種類は以下のとおりです。
・体質性低血圧
体質性低血圧は、生まれつき血圧が低い傾向にあるタイプです。他の種類の低血圧と比較して、明確な症状が表れにくい特徴があります。しかし、疲れやすさやだるさを感じやすい方も少なくありません。このタイプは遺伝的な要素が関与している場合が多く、ご家族にも同様の体質の方がいらっしゃることもあります。
・起立性低血圧
座った状態や寝ている状態から、急に立ち上がったときに起こる低血圧です。立ち上がると、重力によって血液が下半身に集中しやすくなります。通常、私たちの体は自律神経の働きにより、この血圧の低下を感知して心拍数を上げたり血管を収縮させたりして、脳への血流を維持しています。しかし、起立性低血圧では、自律神経の反応が追いつかず、一時的に脳への血流が不足することで、めまいや立ちくらみ、ひどい場合は意識が遠のくなどの症状が現れます。
・食後低血圧
食後低血圧は、食事をした後に血圧が低下するタイプです。食後、消化活動のために胃や腸といった消化器官に血液が集中します。このとき、通常であれば、消化器官に集まる血液量が増えても、心臓が送り出す血液量を増やしたり、他の血管を収縮させたりすることで、全身の血圧を一定に保つよう調節されます。しかし、この調節機能がうまく働かないと、脳への血流が不足し、眠気やだるさ、めまいといった症状を引き起こすことがあります。
自己判断で症状を決めつけるのではなく、正確な診断と適切なアドバイスを受けるために、気になる症状があれば医療機関を受診してください。
本態性低血圧症の原因
本態性低血圧症は、特定の病気や薬剤など、明確な原因が見つからないにもかかわらず、低血圧の状態が続くことを指します。この「本態性」という言葉は、体質的な要素や生活習慣、自律神経の乱れなど、さまざまな要因が複雑に絡み合って血圧が低くなっている状態を意味します。単一の原因ではなく、複数の要因が複合的に影響し合っていると考えられています。
具体的には、以下の要因が関与している可能性が高いとされています。
・体質的な要因
本態性低血圧症の根底には、もともと血圧が低めに設定されている体質的な要素があります。これは、心臓から全身に送り出す血液の量(心拍出量)が少ない、あるいは血管が拡張しやすいなど、生まれつきの個人差として持っている特徴です。ご家族に低血圧の方がいる場合、体質的な要素が遺伝的に受け継がれている可能性も考えられます。
・自律神経の働き
血圧は、自律神経(交感神経と副交感神経)によって常に微調整されています。自律神経は、心臓の拍動や血管の収縮・拡張をコントロールし、血圧を適切に保つ役割を担っています。しかし、過度なストレス、不規則な生活、睡眠不足などが続くと、この自律神経のバランスが乱れてしまいます。すると、体が血圧を上げるべき時にスムーズに反応できなかったり、必要以上に血管が拡張したりして、低血圧の状態を引き起こすことがあります。
・生活習慣
日々の生活習慣も、血圧に大きく影響を与えます。以下の習慣は低血圧を招く要因となることがあります。
・運動不足: 筋肉、特に下半身の筋肉が衰えると、重力によって下半身にたまった血液を心臓に戻すポンプ機能が弱まります。全身の血流が悪くなり、血圧の低下につながります。
・食生活の偏り: 栄養バランスの悪い食事や、極端な塩分制限は、体内の水分量や電解質のバランスを崩し、結果的に血液量の減少や血管の機能低下を招くことがあります。
・水分不足: 体内の水分が不足すると、血液量そのものが減少します。血液量が少なくなると、全身に十分な血液を送り届けられなくなり、血圧が下がってしまいます。
これらの要因が単独でなく、複合的に絡み合って症状を引き起こしているケースが多いのが本態性低血圧症の特徴です。そのため、自身の体質を理解し、日々の生活習慣を見直すことが、症状との付き合い方を考える上で重要になります。
本態性低血圧症の症状
本態性低血圧症は、血圧が低いことで全身に十分な血液が行き渡りにくくなり、さまざまな身体の不調につながります。特に、脳や筋肉、内臓への血流が一時的に不足することで、患者さんの日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
ここでは、本態性低血圧症でよく見られる症状と、それがなぜ起こるのかを解説します。
・立ちくらみやめまい
急に立ち上がったときや長時間立ち続けていると、重力によって血液が下半身に滞留しやすくなります。健康な体であれば、自律神経がすぐに働き、血管を収縮させて血圧を維持し、脳への血流を確保します。しかし、本態性低血圧症ではこの調節機能が追いつかず、脳へ供給される血液量が一時的に減るため、目の前が白くなる、ふらつくといった症状が現れるのです。
・全身倦怠感、だるさ
体全体の細胞が必要とする酸素や栄養素は、血液によって運ばれます。血圧が低い状態が続くと、全身の細胞への血液供給が滞りがちになるため、エネルギー不足に陥りやすくなります。これが、体全体に力が入りにくく、常に疲れているような感覚や、朝起きられないといった症状につながると考えられます。特に午前中は、自律神経の働きがまだ十分に活性化していないため、症状が強く現れる傾向にあります。
・頭痛、首や肩のこり
血流の低下は、脳だけでなく、首や肩の筋肉にも影響を与えます。筋肉への血行が悪くなると、酸素や栄養素が不足し、疲労物質が溜まりやすくなります。これにより、筋肉が硬直しやすくなり、慢性的な頭痛や首、肩のこりを感じる場合があります。
・吐き気、食欲不振
消化器系も血液によってその働きを支えられています。血圧が低いと、胃や腸などの消化器官への血流も不十分になり、消化機能が低下します。その結果、胃の不快感、吐き気、食欲不振といった症状が見られることがあるのです。
・動悸、息切れ
全身に十分な血液を送り届けようと、心臓がいつも以上に活発に働くことがあります。これは、血圧の低下を補おうとする体の自然な反応といえます。このとき、心臓がドキドキと感じられたり(動悸)、少し体を動かしただけで息が切れたりする(息切れ)といった症状につながる可能性があります。
・手足の冷え
血圧が低いと、血液を体の末端まで十分に送ることが難しくなります。特に手足の指先などは血管が細く、冷えやすいため、血行不良の影響を受けやすい場所です。そのため、手足が冷たく感じられる症状が現れることがあります。
・集中力や思考力の低下
脳は、全身の中でも特に多くの酸素と栄養素を必要とする臓器です。脳への血流が不足すると、脳の活動が低下し、集中力が続かなくなったり、物事を考えるスピードが遅くなったりするなど、認知機能に影響が出ることがあります。
これらの症状は、一人ひとり現れ方や程度に個人差があり、日によって症状の強さが変わることも珍しくありません。もし、日常生活に支障をきたすほど症状が強い場合は、早めに医療機関を受診し、医師に相談することが重要です。
本態性低血圧症の検査・診断
本態性低血圧症の診断では、まず、他の病気が原因で低血圧になっている可能性がないかを慎重に見極めることが最も重要です。これは「除外診断」とも呼ばれ、患者さんの症状を正しく理解するための第一歩となります。
医師は患者さんの症状や生活習慣を詳しく聞き取り、身体の状態を丁寧に確認するほか、さまざまな検査を通して総合的に判断を下します。
検査と診断は、主に以下のステップで進められます。
・1. 問診
医師が患者さんの現在の症状だけでなく、いつから、どのような時に、どの程度の強さで症状が現れるのかを詳しくお聞きします。これまでの病歴、現在服用している薬、ご家族に低血圧の方がいるかどうかも大切な情報です。特に、日常生活での困りごとや、どのような時に症状が強く出るかなど、患者さんの具体的な状況を把握することで、診断の手がかりを探すことができます。
・2. 身体診察
問診で得られた情報をもとに、医師が直接、患者さんの体の状態を診察します。血圧測定では、横になった状態と立ち上がった状態での変化も注意深く確認されます。心臓や肺の音を聴診器で確認したり、全身の状態を細かく観察したりするのも身体診察の一環です。
・3. 血液検査・尿検査・心電図検査
低血圧は、貧血、甲状腺機能の異常、腎臓病、心臓病といった他の病気が原因で起こることも少なくありません。これらの検査は、見過ごされがちな病気が隠れていないかを調べるために行われます。もし、このような他の病気が見つかれば、本態性低血圧症の治療よりも、その病気の治療が優先される場合もあるでしょう。
・4. 起立試験
座った状態や寝た状態から立ち上がったときに、血圧がどれくらい変化するかを測定する検査です。これにより、本態性低血圧症のタイプの一つである「起立性低血圧」であるかどうか、また、その症状の重症度を客観的に評価することが可能です。自律神経の働きが血圧調整にどう影響しているかを評価する重要な手がかりとなります。
これらの検査結果と問診での聞き取り内容を総合的に判断し、他の病気による低血圧ではないと確定した場合に「本態性低血圧症」と診断されます。
本態性低血圧症の治療
本態性低血圧症には、現在のところ根本的に病気を治す治療法は見つかっていません。そのため、つらい症状を和らげ、日々の生活を快適に送るための「対症療法」が治療の中心となります。ご自身の体質と向き合い、症状に合わせた工夫を日常生活に取り入れることが、何よりも大切です。
治療は、大きく分けて「生活習慣の改善」と「薬物療法」の2つから成り立っています。
生活習慣の改善
本態性低血圧症の治療の土台となるのは、日常生活の見直しです。ご自身の体質や自律神経の働きに寄り添い、少しずつ生活習慣を整えることが、症状の軽減につながると考えられています。
具体的な生活習慣の改善策は次のとおりです。
・水分・塩分をしっかり摂る
体内の水分量が不足すると、血液の量が減り、血圧がさらに下がりやすくなります。特に、汗をかきやすい夏場や運動時は、意識的に水分を摂ることが重要です。また、適度な塩分摂取は、体内の水分を保持する役割があるため、低血圧の改善に役立つことがあります。ただし、心臓や腎臓に持病がある場合は、塩分摂取量について医師に確認してください。
・規則正しい生活リズムと十分な睡眠
私たちの血圧は、自律神経によってコントロールされています。不規則な生活や睡眠不足は、自律神経のバランスを乱し、血圧の不安定につながります。毎日決まった時間に起床・就寝し、質の良い睡眠を確保することで、自律神経の働きが安定し、症状の緩和が期待できるでしょう。
・無理のない範囲での適度な運動
ウォーキングなどの軽い運動は、全身の血行を促進し、下半身の筋肉を鍛えるのに役立ちます。下半身の筋肉は、重力で下がりがちな血液を心臓に戻すポンプの働きを助け、全身の血流改善につながるとされています。ただし、症状が強い場合は、無理をせず、医師と相談しながら始めるようにしてください。
・動作をゆっくり行う
特に「起立性低血圧」の症状がある方は、急に立ち上がると、めまいや立ちくらみが起こりやすくなります。これは、体勢の変化に自律神経の血圧調整が追いつかないためです。ベッドから起き上がる際や、座った状態から立ち上がる際には、一度ゆっくりと腰をかけたり、手すりにつかまったりして、段階的に動作を行うよう心がけましょう。また、長時間の立ち仕事を避ける、座っている時間を増やすなどの工夫も有効です。
薬物療法
生活習慣の改善だけでは症状のつらさが解消されない場合や、日常生活に大きな支障が出ている場合には、薬を使った治療も選択肢の一つとなります。
薬物療法の目的は、低くなった血圧を一時的に上げ、それによって引き起こされるつらい症状を和らげることです。
・使用される薬
主に昇圧剤(血圧を上げる作用のある薬)が用いられます。昇圧剤は、血管を収縮させたり、心臓の働きを助けたりすることで、血圧の上昇を促します。
・薬物療法の注意点
薬の服用は、必ず医師の診断と指示に基づいて行われます。自己判断で薬の種類や量を変更したり、服薬を中断したりすることは、症状の悪化につながる危険性があります。もし、薬の効果が感じられない、または副作用が気になる場合は、必ず主治医に相談してください。
本態性低血圧症の治療は、一人ひとりの症状や生活背景に合わせて異なります。症状に悩んでいる場合は、無理をせずに医療機関を受診し、医師と相談しながらご自身に最適な治療法を見つけていくことが、心身の安定につながる大切な一歩です。





