網膜静脈閉塞症
目のかすみや視力低下、視野の異常に不安を感じていませんか?それは、目の奥にある血管が詰まる「網膜静脈閉塞症」が関係しているかもしれません。この病気は、適切な対応が遅れると重い視力障害につながる可能性もあるため、早期の発見と治療が重要です。
この記事では、網膜静脈閉塞症の概要から、目のかすみや飛蚊症といった具体的な症状、高血圧や糖尿病などの原因、そして最新の検査・治療法までを詳しく解説します。ある研究では、ビタミンDの不足が発症リスクを約14.5倍も高める可能性が報告されています。
ご自身の目の状態を正しく理解し、適切な行動へつながる知識を得ることで、不安を軽減し、目の健康を守るための一歩を踏み出せるでしょう。
網膜静脈閉塞症の概要
網膜静脈閉塞症とは、目の奥に位置する網膜の血管(静脈)が詰まってしまう病気です。この閉塞により、視覚に様々な問題が生じます。
網膜は、カメラのフィルムに例えられるほど繊細な組織で、目で捉えた光を脳へ伝える重要な役割を担っています。静脈が詰まると、網膜から血液が適切に流れ出なくなり、行き場を失った血液が血管の外に漏れ出したり、網膜に水分が溜まってむくみ(黄斑浮腫)を引き起こします。これにより、光を感じ取る網膜の働きが妨げられ、以下のような症状が現れることがあります。
・目のかすみ
・視力低下
・視野の異常(見えにくい部分がある)
適切な治療が遅れると、重い視力障害や失明に至る恐れもあるため、早期に病気を見つけ、適切な処置を受けることが重要です。
治療法にはいくつか選択肢がありますが、中には副作用のリスクを伴うものもあります。例えば、黄斑浮腫の治療でデキサメタゾンという薬剤を眼に注射した場合、一時的に眼圧が高くなる可能性が指摘されています。スウェーデンでの研究では、網膜静脈閉塞症関連の黄斑浮腫がある方のうち、約43.5%で眼圧が上昇する(続発性眼圧亢進)ことが報告されています※。特に、男性や治療前の眼圧が高い方は、この副作用が起きやすい傾向があるようです※。しかし、多くの場合は点眼薬で対処できるため、過度な心配はいりません。侵襲的な手術が必要となるケースはほとんどありません※。
網膜静脈閉塞症の種類
網膜静脈閉塞症は、網膜の血管が詰まる部位によって、主に次の2つのタイプに分類されます。どちらのタイプかによって、現れる症状や視力への影響が異なるため、正確な診断が重要です。
網膜静脈閉塞症の2つのタイプは、以下のとおりです。
タイプ | 詰まる血管の部位と特徴 | 症状と視力への影響
中心性網膜静脈閉塞症(CRVO) | 網膜の中央を走る、比較的太い主要な静脈が閉塞します。これにより、網膜全体の血流が悪化してしまうことが特徴です。 | 急激かつ広範囲にわたる視力低下や、視野の中心が見えにくくなるなどの重い症状が出やすい傾向にあります。重症化すると、深刻な視力障害につながる可能性もあります。
分枝網膜静脈閉塞症(BRVO) | 網膜内で枝分かれしている細い静脈の一部が閉塞します。閉塞した部位によって、視力への影響が変わります。 | 詰まる場所によっては、自覚症状がほとんどないこともあります。一方で、網膜の中心部(黄斑)に近い血管が閉塞すると、視野の一部が欠けたり、物が歪んで見えたりする症状が現れることがあります。CRVOに比べて症状が軽いケースが多いものの、放置すると黄斑浮腫などの合併症のリスクがあるため注意が必要です。
網膜静脈閉塞症の発症には、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が深く関わるとされていますが、特定の薬剤との関連性についても研究が進んでいます。例えば、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療に用いられるヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤と網膜静脈閉塞症のリスク増加が指摘されることがあります。しかし、ある研究では、腫瘍壊死因子(TNF)阻害剤(こちらも自己免疫疾患の治療薬です)と比較しても、中心性網膜静脈閉塞症や分枝網膜静脈閉塞症のリスクが増加するという明確な証拠は見出されていません※。この研究結果は、JAK阻害剤の安全性評価における重要な知見の一つといえます。
ご自身の目の状態を正しく理解し、適切な治療へと繋げるためには、医師による正確な診断が不可欠です。気になる症状がある場合は、早めに眼科を受診しましょう。
網膜静脈閉塞症の原因
網膜静脈閉塞症が発症する主な原因は、一つに特定されるものではありません。多くの場合、複数の要因が複雑に絡み合い、網膜の静脈が詰まりやすくなる状態を作り出します。
この病気の背景には、以下のような病気や状態が深く関わっていると考えられています。
主要な原因 | 網膜静脈閉塞症との関連性
高血圧 | 長期間にわたる血圧の高い状態は、網膜の細い血管に継続的な負担をかけます。 血管の内壁が傷つき、硬くなる「動脈硬化」を加速させるため、血液の流れが悪くなり、静脈が閉塞しやすくなります。
脂質異常症 | 血液中のコレステロールや中性脂肪が増加すると、血管の壁にプラークと呼ばれる塊が蓄積します。 これにより血管が狭くなったり、弾力性が失われたりして、血栓(血液の塊)ができやすい環境を作ります。
糖尿病 | 血糖値が高い状態が長く続くと、全身の細い血管、特に網膜の毛細血管がダメージを受けやすくなります。 血管壁が厚くなったり、もろくなったりすることで、血液の流れが滞り、閉塞のリスクが高まります。
加齢 | 歳を重ねるごとに、私たちの血管は自然と硬くなり、柔軟性が失われていきます。 これは、血管が物理的に詰まりやすくなるだけでなく、血液が固まりやすくなるなど、様々な変化をもたらし、閉塞を引き起こす要因となります。
緑内障(高眼圧) | 眼圧(眼球の内圧)が高い状態が続くと、視神経だけでなく、網膜を走る血管も圧迫されます。 特に静脈は圧迫に弱く、血流が滞ることで閉塞が起こりやすくなると考えられています。
血液疾患 | 血液が異常に固まりやすい体質(血栓性素因)や、赤血球が過剰に増える病気など、血液自体の状態に問題がある場合も、血栓ができやすくなります。 この血栓が網膜の静脈に到達し、閉塞を引き起こすことがあります。
ビタミンDの不足も網膜静脈閉塞症のリスク因子に
近年、意外な要因として注目されているのが、特定の栄養素、特にビタミンDの不足です。
ある系統的レビューとメタ分析では、ビタミンD欠乏が網膜静脈閉塞症の発症リスクを約14.5倍も増加させる可能性があると報告されています※。実際、この研究では網膜静脈閉塞症の患者さんの血中ビタミンDレベルは、健康な人に比べて平均1.91ng/mL低いことが示されました※。
ビタミンDは、骨の健康維持だけでなく、血管の機能や炎症の抑制にも深く関わっていることがわかっています。そのため、ビタミンDの不足が血管の健康を損ない、網膜静脈閉塞症の発症リスクを高めている可能性が指摘されています※。この知見は、網膜静脈閉塞症の予防や治療戦略において、ビタミンDの補充が新たな役割を果たす可能性を示唆するといえるでしょう。
網膜静脈閉塞症の症状
網膜静脈閉塞症では、目の奥にある網膜の静脈が詰まることで、急な視力低下や視野の異常といった症状が突然現れることがあります。多くの場合、目の痛みを感じることはありません。
網膜静脈閉塞症で見られる主な症状は次のとおりです。
・急激な視力低下
静脈が詰まると、網膜への血液の流れが悪くなり、光を感じ取る網膜の細胞に十分な酸素や栄養が届かなくなります。この状態が、物の見え方が急に悪くなる「急激な視力低下」として自覚されることがあります。特に、視力にとって非常に重要な役割を担う網膜の中心部分「黄斑(おうはん)」に影響が及ぶと、物の形や色を正確に見分ける機能が大きく損なわれるため、視力低下がより顕著になる傾向にあります。
・視野の欠けやぼやけ
血管が閉塞した部分の網膜は、血液の漏れやむくみ(黄斑浮腫)によって正常に機能しなくなります。その結果、視界の一部が暗く見えたり、見えなくなったりする「視野の欠け」や、全体的に物がぼやけて見える状態が現れる可能性があります。これは、ちょうど写真の一部が欠けていたり、カメラのフィルムが曇っていたりするようなイメージです。
・変視症(物が歪んで見える)
網膜の中心部である黄斑に水分が溜まり、むくみ(黄斑浮腫)が生じると、網膜の構造が変化してしまいます。カメラのレンズが歪むと物が歪んで見えるように、網膜が歪むことで、まっすぐな線が曲がって見えたり、物が実際より大きくまたは小さく見えたりする症状(変視症)が現れることがあります。
・飛蚊症(目の前に虫やゴミのようなものが見える)
網膜の静脈が詰まると、血管から血液が漏れ出し、出血が起こることがあります。この血液成分が、眼球内部を満たす透明なゼリー状の組織である「硝子体(しょうしたい)」に流れ出ると、にごりとなって浮遊します。このにごりが影となり、目の前を虫やゴミが飛んでいるように見える(飛蚊症)として自覚されることがあります。
これらの症状は、網膜のどの部分の静脈が閉塞したか、また閉塞の程度によって現れ方や重症度が異なります。特に、視力にとって非常に重要な役割を果たす黄斑部に影響が及ぶと、日常生活に支障をきたすほどの重い視力低下につながる可能性があります。痛みがないからといって放置せず、上記のような症状に気づいたら、ためらわずに早めに眼科を受診することが大切です。
網膜静脈閉塞症の検査・診断
網膜静脈閉塞症の診断では、眼科での専門的な検査が極めて重要です。目の奥にある網膜の状態を詳しく調べることで、病気のタイプや重症度を正確に特定し、患者さん一人ひとりに最適な治療計画を立てていきます。
診断のために、主に次の検査が行われます。
・問診と視力検査
・いつから、どのような症状が現れているかを詳しく伺います。現在の視力を測定し、病状によって視機能がどの程度影響を受けているかを確認します。
・眼底検査
・医師が専用の器具を使い、直接、目の奥にある網膜の状態を観察する検査です。網膜の血管が詰まっている部位、出血の有無、網膜のむくみ(黄斑浮腫)などの異常がないかを確認できます。
・眼底写真
・眼底カメラで網膜の写真を撮影し、病変部の詳細な記録を残します。これは病気の進行具合を客観的に評価するため、大切な情報源となります。
・光干渉断層計(OCT)
・光を用いた高解像度画像診断装置で、網膜の断面図を撮影する検査です。網膜のむくみの程度や、網膜の層構造がどのように変化しているかを詳細に評価できます。
・蛍光眼底造影検査
・造影剤を腕の静脈から注射し、網膜の血管に造影剤が流れていく様子を専用のカメラで連続的に撮影します。血流の状態、血管の閉塞部位、血管からの液漏れの有無をより詳細に把握することが可能です。
・眼圧検査
・眼圧を測定し、目の全体的な健康状態を評価します。眼圧が高い状態が続くと、網膜の血管に負担がかかりやすく、緑内障など他の目の病気のリスクにもつながるため、この検査は欠かせません。
・血液検査・血圧測定
・網膜静脈閉塞症は、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病と深く関連している疾患です。これらの全身疾患の有無や状態を確認するために、血液検査や血圧測定を行うことがあります。特に、ビタミンDの不足も網膜静脈閉塞症の発症リスクを高める要因として注目されています。ある系統的レビューとメタ分析では、ビタミンDが不足していると、網膜静脈閉塞症の発症リスクが約14.5倍に増加する可能性が報告されています※。実際に、網膜静脈閉塞症の患者さんの血中ビタミンDレベルは、健康な人に比べて平均1.91ng/mL低いことが示されており※、必要に応じて血中ビタミンD濃度の検査も検討されることがあります。
これらの検査結果を総合的に判断することで、網膜静脈閉塞症の診断が確定します。その上で、病気のタイプや重症度、合併症の有無などを考慮し、患者さんにとって最適な治療計画が立てられていく流れです。
網膜静脈閉塞症の治療
網膜静脈閉塞症の治療では、主に視力低下の原因となる網膜のむくみ(黄斑浮腫)や、その後の合併症を防ぐことに重点を置きます。病気のタイプや進行度、患者さんの全身状態に合わせて、最適な治療法が選ばれるものです。治療の柱は、主に次の3つとなります。
・眼内注射による薬物療法
・レーザー光凝固術
・硝子体手術
また、高血圧や糖尿病といった背景にある全身疾患の管理も、治療効果を高める上で非常に重要であると考えられています。
眼内注射による薬物療法
視力低下の主な原因となる黄斑浮腫に対しては、薬物による治療が中心です。眼の中に直接薬剤を注射することで、黄斑のむくみを抑え、視力の改善を目指します。
・抗VEGF薬(血管新生阻害薬)
網膜のむくみや新生血管の発生を促す「VEGF(血管内皮増殖因子)」という物質の働きを抑える薬剤です。数週から数カ月に一度、眼に注射して投与されます。
・ステロイド薬
炎症を抑える効果のある薬剤で、デキサメタゾンインプラントなどを眼の中に注入する治療法もあります。このデキサメタゾンを注入する治療では、眼圧が上昇する「続発性眼圧亢進(ぞくはつせいがんあつこうしん)」という合併症が起こることが指摘されています。
スウェーデンで行われた研究では、網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫の治療を受けた方のうち、約43.5%で眼圧が上昇する続発性眼圧亢進が報告されました※。特に、男性は女性に比べて続発性眼圧亢進を発症する可能性が2倍以上高く、また治療前の眼圧が高い方もリスクが高まる傾向が示されています※。しかし、多くの場合、点眼薬で眼圧をコントロールできるため、侵襲的な手術が必要となることは稀であると考えられています※。
レーザー光凝固術
網膜に酸素や栄養が不足し、虚血状態(血液が届いていない部分)になった場合や、それによって生じる異常な血管(新生血管)を抑制するために、レーザー光凝固術が選択されることがあります。これは、レーザーを照射してこれらの異常な部分を治療することで、さらなる視力低下や合併症の進行を防ぐものです。
硝子体手術
網膜静脈閉塞症が進行し、硝子体出血(眼の内部の出血)や牽引性網膜剥離(網膜が引っ張られて剥がれる状態)などの重篤な合併症を引き起こした場合には、硝子体手術が必要となる場合があります。この手術では、眼の中の出血や異常な膜を取り除きます。
網膜静脈閉塞症は、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった全身疾患と深く関連しています。これらの背景にある病気を適切に管理することは、目の病気の進行を抑え、治療効果を最大限に引き出す上で非常に大切です。ご自身の目の状態や治療法について不安な点があれば、主治医に遠慮なく相談し、納得して治療に臨むことが大切です。













