血管炎症候群

原因不明の発熱や長引くだるさ、関節の痛み。「ただの疲れだろう」と、つい見過ごしてしまいがちなその不調、もしかしたら全身を巡る血管で起きている「炎症」が原因かもしれません。

「血管炎症候群」とは、心臓から出る太い血管から皮膚の毛細血管に至るまで、あらゆる血管が舞台となる病気の総称です。症状は非常に多彩で他の病気と間違われやすく、日本の医師の約7割が専門のガイドラインを参考にするほど、診断が難しいことで知られています。

この記事では、そんな謎の多い血管炎症候群について、その原因から多様な症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の体からのサインを見逃さないために、ぜひ参考にしてください。

血管炎症候群の概要

私たちの体内には、酸素や栄養を運ぶ血管が隅々まで張り巡らされています。 血管炎症候群とは、この大切な血管の壁に「炎症」が起こる病気の総称です。

炎症によって血管の壁が厚くなったり、逆にもろくなったりします。 壁が厚くなると血管の中が狭くなり、血液の流れが悪くなることがあります。 また、壁がもろくなることで、出血やこぶ(動脈瘤)ができてしまう危険性も高まります。

血管炎症候群は、どの太さの血管に炎症が起きるかによって、いくつかの種類に分けられます。

  • 太い血管の血管炎 心臓から出る大動脈など、体の中心となる太い血管に起こります。 (例:高安動脈炎、巨細胞性動脈炎)
  • 中くらいの太さの血管炎 内臓や手足へ向かう、中くらいの太さの血管に起こります。 (例:結節性多発動脈炎、川崎病)
  • 細い血管の血管炎 皮膚や腎臓、肺などにある毛細血管などの細い血管に起こります。 (例:顕微鏡的多発血管炎)

このように種類が多く、症状も多様なため、診断や治療が難しい場合があります。 そのため医師は、学会が作成した診療の指針(ガイドライン)を参考にします。 ある調査では、日本の医師の約7割が診療ガイドラインを参考にしたと報告されています。 専門医は、このような指針に基づき、患者さん一人ひとりに合った治療を慎重に進めていきます。

血管炎症候群の種類

血管炎症候群は、どの太さの血管で炎症が起きるかによって、大きく3つのグループに分けられます。 炎症の場所によって症状や治療法が異なるため、この分類はとても重要です。

血管の太さ

主な血管炎の種類

太い血管(大血管)

・高安動脈炎

・巨細胞性動脈炎

中くらいの血管(中血管)

・結節性多発動脈炎

・川崎病

細い血管(小血管)

・ANCA関連血管炎

・IgA血管炎

太い血管(大血管)の血管炎

心臓から全身へ血液を送る大動脈や、その太い枝に炎症が起きます。 若い女性に比較的多い「高安動脈炎」や、ご高齢の方に多い「巨細胞性動脈炎」が代表的です。

中くらいの血管(中血管)の血管炎

内臓などにつながる、中くらいの太さの血管に炎症が起こります。 主に小さなお子さんがかかる「川崎病」などがこのグループに入ります。

細い血管(小血管)の血管炎

皮膚や腎臓、肺などにある毛細血管のような細い血管に炎症が起きます。 このグループの中でも特に「ANCA関連血管炎」は複雑な病気です。

  • ANCA関連血管炎
    血液中に「ANCA(アンカ)」という特殊な物質(自己抗体)が見つかります。 これは、免疫システムが間違って自分の体を攻撃してしまうことで起こる病気です。 肺が硬くなる病気(間質性肺疾患)を合併することもあります。

また、まれですが特定の遺伝子の異常が原因となることも報告されています。 この場合、全身性エリテマトーデス(SLE)のような他の病気とあわせて血管炎が起こることもあります。 このように血管炎には多くの種類があり、正確な診断が治療の第一歩となります。

血管炎症候群の原因

血管炎症候群がなぜ起こるのか、その原因は完全にはわかっていません。 しかし、体を守るはずの「免疫」という仕組みの異常が中心と考えられています。 何らかのきっかけで免疫が自分の健康な血管を「敵」と誤認し、攻撃します。 その結果、血管に炎症が起きてしまうのです。

免疫の誤作動を引き起こすきっかけとして、以下の要因が考えられています。

  • 遺伝的な要因
    生まれ持った体質が、病気の発症に深く関わることがあります。 例えば、体内で不要になった細胞のゴミを掃除する遺伝子があります。 この遺伝子(DNASE1L3など)の働きが弱いとゴミがうまく処理されません。 体内にたまったゴミを免疫システムが異物と勘違いし、攻撃を始めます。 この時に「I型インターフェロン」という物質が過剰に作られます。 これが免疫の暴走を加速させ、血管炎を引き起こすと考えられています。 このタイプの血管炎は、全身性エリテマトーデス(SLE)を伴うこともあります。
  • 感染症や薬剤
    B型肝炎やC型肝炎ウイルスなど、特定のウイルスへの感染です。 ウイルスが免疫システムの誤作動の引き金になることがあります。 また、一部の薬に対する体の反応として血管炎が起こることもあります。
  • その他の要因
    年齢や生活習慣、他の病気なども発症に関わることがあります。

要因

具体例

年齢

50歳以上に多いタイプ(巨細胞性動脈炎)や、5歳以下の子どもに多いタイプ(川崎病)などがあります。

生活習慣

喫煙は、特定種類の血管炎のリスクを高めることが分かっています。

他の病気

関節リウマチやSLEなど、免疫異常が関わる病気に合併することがあります。

これらの要因が一つ、あるいは複数重なって発症すると考えられています。 原因を特定することは難しいですが、丁寧な診察で要因を探っていきます。

血管炎症候群の症状

血管炎症候群の症状は、炎症が起きる血管の場所によって本当に様々です。 体全体に現れるサインと、特定の場所に現れるサインがあります。 「ただの疲れかな?」と感じるような、ありふれた症状から始まることも少なくありません。

まず、多くの人に見られる全身の症状には、次のようなものがあります。

  • 原因不明の発熱 かぜでもないのに、熱が続きます。
  • 体のだるさ(倦怠感) しっかり休んでも、疲れがとれない感じがします。
  • 体重の減少 特にダイエットをしていないのに、体重が減っていきます。
  • 関節や筋肉の痛み 体のあちこちが痛みます。

これらの症状に加えて、炎症が起きている血管の場所によって、以下のような専門的な症状が現れることがあります。

炎症が起きる場所

主な症状

皮膚

あざ(紫斑)や赤い点々、しこりや治りにくい潰瘍(かいよう)ができます。

消化器

食後の腹痛や下痢、血便などが見られます。まれに食道に潰瘍ができ、食べ物が飲み込みにくくなることもあります。

肺

息切れや空咳、血の混じった痰(たん)が出ます。特にANCA関連血管炎というタイプでは、肺が硬くなる病気(間質性肺炎など)につながるため注意が必要です。

腎臓

尿検査でわかる血尿やたんぱく尿、体のむくみ、高血圧などがサインです。自覚症状が出にくい場所でもあります。

神経

手足のしびれや、力が入りにくくなることがあります。原因のはっきりしない頭痛が続くこともあります。

目・耳

目の充血やかすみ、視力の低下。また、耳鳴りや急に聞こえにくくなることも症状の一つです。

このように、症状は非常に多岐にわたり、他の病気と間違われることもあります。 例えば、お腹の症状から潰瘍性大腸炎と間違われていた方が、詳しく調べると血管炎だったという報告もあります。 特に、血液検査でANCAという特殊な物質が見つかるタイプの血管炎では、食道や肺に重い症状が出ることがあります。 気になる症状が複数ある場合や長引く場合は、自分で判断せず専門医に相談することがとても大切です。

血管炎症候群の検査・診断

血管炎症候群は症状が多彩で、他の病気と見分けるのが難しいことがあります。 そのため、まるでパズルのピースを集めるように、いくつかの検査を組み合わせます。 詳しいお話を聞く「問診」や、体を調べる「身体診察」を丁寧に行います。 そのうえで、診断を確定するために次のような専門的な検査を進めていきます。

  • 血液検査 体の中で炎症が起きているか、その強さを数値(CRPなど)で確認します。 また、病気の種類を特定する手がかりとなる「ANCA」という物質を調べます。 ANCAは、自分の体を間違って攻撃してしまう免疫の異常で増えることがあります。 ただし、ANCAは肺の病気など血管炎以外でも増えるため、結果は慎重にみます。 ある報告では、ANCAの値が高い場合、お腹の症状がなくても食道に潰瘍がないか、内視鏡で調べることが推奨されています。
  • 画像検査 CTやMRI、超音波(エコー)といった機械を使い、体の内部を画像にします。 血管の壁が厚くなっていないか、血の流れが悪くなっていないかを確認します。 「PET/CT検査」という、全身のどこで炎症が活発かを光で示す検査もあります。 ある調査では、診断の際に約2割の患者さんがこの検査を受けていると報告されています。
  • 専門的な検査 目の症状が出やすい「巨細胞性動脈炎」が疑われる場合は、眼科での検査が重要です。 視力に影響が出る前に異常を見つけるためで、約7割の患者さんが受けています。 また、診断を確定させるために「生検」を行うことがあります。 これは、皮膚や腎臓など炎症が起きている場所の組織を少しだけ取り、顕微鏡で直接血管の炎症を確かめる検査です。

これらの検査結果を、日本の専門医の多くが参考にする診療の指針(ガイドライン)と照らし合わせ、総合的に判断して最終的な診断をつけます。

血管炎症候群の治療

血管炎症候群の治療は、血管で起きている火事(炎症)を鎮めることが目標です。 炎症を抑えることで症状を和らげ、大切な臓器が傷つくのを防ぎます。 治療は病気の種類や重さ、症状の場所によって異なり、専門医が計画を立てます。

治療は主に、薬物療法が基本となります。 治療には2つの段階があり、まず強い治療で症状を抑え(寛解導入療法)、次に良い状態を保つ治療(維持療法)へと移行します。

治療で中心となるお薬は、以下のものです。

  • 副腎皮質ステロイド とても強力に炎症を抑える作用があり、治療の主役となる薬です。 ただし、長く使うと副作用の心配もあるため、できるだけ少ない量で済むように、他の薬と組み合わせて使います。
  • 免疫抑制薬 暴走してしまった免疫の働きを、おだやかにするお薬です。 ステロイドの量を減らすための「助っ人」としても活躍します。 これにより、ステロイドの副作用を最小限に抑えながら治療を続けられます。
  • 生物学的製剤 近年の進歩で登場した、特定の物質だけを狙い撃ちする新しいタイプの薬です。 ANCA関連血管炎では「リツキシマブ」が治療の中心的な役割を担います。 また、高安動脈炎や巨細胞性動脈炎の再発時には、「トシリズマブ」がステロイドと併用してよく使われます。

治療方針は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて決める「個別化医療」です。 肺や腎臓など複数の臓器に影響が及ぶ場合は、さまざまな専門家がチームを組んで治療にあたる「多職種連携」も重要となります。 医師は患者さんとよく話し合い、納得の上で治療を進めること(共有意思決定)を大切にしています。

また、薬の治療だけでは難しい場合もあります。 血管が狭くなった部分を広げたり、できたこぶ(動脈瘤)を取り除いたりするために手術が必要になることもあります。