結節性多発動脈炎

原因のわからない筋肉の痛みや手足のしびれ、なかなか消えない皮膚のあざ。もしかしたらそれは、全身の血管に炎症が起きる「結節性多発動脈炎」のサインかもしれません。

この病気は、国内の推定患者数が約600人という希少な指定難病です。特に50代以降の男性に発症しやすく、症状が全身に及ぶため診断が難しいという特徴があります。筋肉の痛みがあっても血液検査では異常が見つかりにくく、原因不明とされることも少なくありません。

この記事では、謎の多い結節性多発動脈炎について、その原因や多彩な症状、最新の治療法までを詳しく解説します。気になる不調の正体を知り、適切な一歩を踏み出すためにお役立てください。

結節性多発動脈炎の概要

結節性多発動脈炎は、全身の血管に炎症が起きる病気です。 特に、筋肉の中などを走るやや細めの「動脈」が標的になります。 炎症で血管の壁が傷つき、血液の流れが滞ってしまいます。 その結果、血液が届きにくい臓器に様々な障害が起こるのです。

この病気は、日本では患者さんの数が少ない「指定難病」です。 推定される患者数は、約600人ほどと報告されています。 男女比は3対1で男性に多く、50代での発症が目立ちます。

血管は体のすみずみまで広がっているため、症状は多彩です。 炎症が起きた場所によって、下記のような症状が現れます。

  • 皮膚
  • 網目状のあざや、痛みを伴うしこりなど
  • 神経
  • 手足のしびれや、力が入らなくなるなど
  • 消化管
  • 食後の腹痛や、血便など
  • 腎臓や心臓
  • 高血圧や、胸の痛みなど

また、筋肉にまで炎症が広がり、痛みや脱力感を伴うこともあります。 しかし、筋肉のダメージを示す血液検査の数値(CK値)は、 正常な範囲内にとどまることが多いという研究報告があります。 そのため、筋肉の症状があっても原因不明とされやすいのです。

このように多彩な症状が出るため、診断が難しい場合もあります。 気になる症状があれば、早めに専門の医療機関へ相談しましょう。

結節性多発動脈炎の種類

結節性多発動脈炎は、症状の現れ方によって種類が分かれます。 どのタイプかを見極めることは、治療方針を決める上で重要です。 主に「古典型」と「皮膚型」という2つのタイプに分けられます。

種類

特徴

古典型(全身型)

全身の様々な臓器に症状が現れるタイプです。

筋肉の血管に炎症が起きることもあります。

皮膚型

症状が皮膚だけに限定されるタイプです。

全身に広がるタイプより、病状の見通しは良好です。

古典型(全身型)

全身の様々な臓器へ血液を送る、中くらいの太さの動脈に炎症が起こります。 腎臓や消化管、神経などに症状が出やすいのが特徴です。 また、筋肉の血管に炎症が及ぶことも、決して珍しくありません。

ある研究報告では、血管炎で筋肉に炎症が起きた患者さんの多くが、 結節性多発動脈炎だったとされています。 しかし、筋肉に痛みがあっても、血液検査の数値は正常なことが多いです。 そのため、原因が分からないまま見過ごされることもあります。

皮膚型

症状が皮膚だけに現れるタイプです。 痛みを伴うしこり(結節)や、網目状のあざ(リベド)などがみられます。 古典型に移行することはまれで、病状の見通しは比較的良好です。

この他に、B型肝炎ウイルスへの感染が引き金となるタイプもあります。 しかし、ワクチンや治療法の進歩により、現在の日本ではまれです。 ご自身の症状がどのタイプかを知り、適切な治療につなげましょう。

結節性多発動脈炎の原因

結節性多発動脈炎がなぜ起こるのか、その原因はまだ不明です。 しかし、体を守る「免疫」の異常が関わると考えられています。

私たちの体には、細菌などから体を守る免疫システムがあります。 この免疫が、何かのきっかけで自分の体を攻撃することがあります。 これを「自己免疫疾患」と呼び、本疾患もその一種です。

結節性多発動脈炎では、免疫が自分の血管を敵と誤認します。 そして血管を攻撃し、炎症を引き起こしてしまうのです。 特に筋肉の周りにある血管が、標的になりやすいとされます。

なぜ免疫の異常が起きるのか、引き金として下記が考えられます。

  • ウイルスの感染
  • 特にB型肝炎ウイルスとの関連が指摘されてきました。
  • しかし現在では、ワクチンや治療の進歩でまれになっています。
  • その他の要因
  • 特定の薬剤の使用や、特殊な血液の病気がきっかけとなることもあります。

このように原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合います。 生まれ持った体質に、ウイルス感染などが加わって発症すると考えられています。

結節性多発動脈炎の症状

結節性多発動脈炎の症状は、血管の炎症がどこで起きるかで決まります。 そのため、一人ひとり症状の現れ方が異なり、多彩なのが特徴です。 症状は大きく「全身にあらわれる症状」と「特定の場所の症状」に分けられます。

<全身にあらわれる症状> 特定の臓器だけでなく、体全体にサインが出ることがあります。

  • 原因のわからない38℃以上の発熱が続く
  • 急な体重減少(半年で数kgなど)
  • 体のだるさ、強い疲労感
  • 関節の痛みや筋肉の痛み

特に、筋肉の痛みや力の入りにくさは注意したい症状です。 ある研究レビューでは、筋肉の血管に炎症が見られた患者さんの多くが、 結節性多発動脈炎であったことが報告されています。 しかし、一般的な筋肉の病気と異なり、血液検査の数値(CK値)は、 正常な範囲にとどまることが多いため、見過ごされやすいのです。

<特定の場所にあらわれる症状> 血管の炎症がどの臓器で起きるかによって、以下のような症状が出現します。

症状が出る場所

具体的な症状の例

皮膚

・網目状のあざ(リベド)

・押すと痛いしこり(結節)

・治りにくい潰瘍

神経

・手足のピリピリするしびれや痛み

・手首や足首に力が入らない(下垂手・下垂足)

お腹

・食後の腹痛

・吐き気や嘔吐

・血便

腎臓

・血圧が高くなる(高血圧)

・尿に血やたんぱくが混じる

心臓

・胸の痛みや圧迫感(狭心症や心筋梗塞)

神経の症状は、半数以上の方にみられる比較的多い症状です。 神経に栄養を送る血管が傷つくことで、しびれや麻痺が起こります。 これらの症状は一つだけ現れることもあれば、複数同時に現れることもあります。 気になる症状があれば、早めに専門の医療機関に相談することが大切です。

結節性多発動脈炎の検査・診断

結節性多発動脈炎の症状は多彩なため、診断は簡単ではありません。 パズルのピースを一つひとつ集めて、全体像を明らかにするように、 症状や診察の結果、各種検査を組み合わせて総合的に判断します。

診断は、主に以下のステップで丁寧に進めていきます。

  1. 問診と診察で症状を詳しく確認する
  2. 血液検査や画像検査で体の中の状態を探る
  3. 生検(組織検査)で確定的な証拠を見つける
  4. 診断基準に照らし合わせて最終的に判断する

1. 血液検査

まず、体の中で炎症が起きているかを確認します。 炎症があると、白血球の数やCRPという数値が高くなります。 しかし、この病気だけに特徴的な検査項目はありません。

特に注意したいのが、筋肉の痛みがある場合です。 ある研究レビューでは、血管炎で筋肉に炎症が起きても、 筋肉のダメージを示すCKという数値は正常なことが多いと報告されています。 そのため、筋肉痛があっても「異常なし」とされやすいのです。

2. 画像検査

血管や臓器の状態を、体の外から詳しく見るための検査です。 生検(組織検査)が難しい場合に、診断の大きな助けとなります。

  • CT検査・血管造影検査
  • 血管にこぶ(動脈瘤)ができていないか、
  • 血管が狭くなっていないかを調べます。
  • MRI検査
  • 筋肉の炎症が疑われる場合に特に役立ちます。
  • 特殊な撮り方をすることで、
  • 筋肉内部の炎症を詳しく評価できることがわかっています。

3. 生検(組織検査)

診断を確定するために、非常に重要な検査です。 症状が出ている皮膚や筋肉、神経などの組織を少しだけ採ります。 そして、顕微鏡で血管の状態を直接観察するのです。

この検査で、中小サイズの動脈に「壊死性血管炎」という、 血管の壁が壊れてしまう特徴的な変化が見つかれば、 結節性多発動脈炎であるという強力な証拠になります。

これらの検査結果を、専門家が定めた診断基準に当てはめます。 すべての情報を統合し、最終的に診断が確定するのです。

検査の種類

主に調べること

血液検査

・体内の炎症反応の強さ(CRPなど)

・筋肉のダメージの有無(CK値など)

画像検査

・血管のこぶや狭くなっている部分の有無

・筋肉や臓器の炎症の有無

生検(組織検査)

・血管の壁に特徴的な炎症(壊死性血管炎)があるか

(確定診断につながる重要な手がかり)

結節性多発動脈炎の治療

結節性多発動脈炎の治療目標は、病気の勢いを抑えることです。 そして、症状が落ち着いた良い状態を長く保つことを目指します。 かつては治療が難しい病気でしたが、現在は治療法が進歩しました。 早期に適切な治療を始めれば、多くの方が症状を抑えられます。

治療は、主に2つの段階に分けて計画的に進めていきます。

  • 寛解導入療法
  • 病気の勢いが強い時期に、集中的に行う治療です。
  • 血管で起きている激しい炎症を、強力に鎮めることを目指します。
  • 寛解維持療法
  • 症状が落ち着いた後に行う治療です。
  • 病気が再び悪化するのを防ぎ、良い状態を保つことが目的です。

治療の中心となるのは、主に以下の2種類の薬です。

  • 副腎皮質ステロイド
  • 血管の炎症を強力に抑える作用を持つ薬です。
  • まずは比較的多めの量から開始し、症状が落ち着くにつれて、
  • 少しずつ量を減らしていきます。
  • 免疫抑制薬
  • 自分の体を誤って攻撃する免疫の働きを調整する薬です。
  • ステロイドだけでは効果が不十分な場合や、
  • 腎臓や腸、神経などに重い症状がある場合に一緒に使います。

血管の炎症がひどくなると、手足への血流が極端に悪化します。 その結果、組織が大きなダメージを受ける重い合併症も起こり得ます。 しかし、このような深刻な状態でも治療の選択肢はあります。 ある研究では、免疫抑制薬による治療が有効であったと報告されました。 そして、手足の切断を回避できたという結果が示されています。

このほか、高血圧や腎臓の症状などにも治療を並行して行います。 B型肝炎ウイルスが関係する場合は、抗ウイルス薬が優先されます。 治療方針は一人ひとりの状態により異なるため、 主治医とよく相談しながら進めることが非常に大切です。