徐々に手足の力が入りにくくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)。体を動かす神経だけが障害されるこの難病は、日本では約1万人が闘病しています。感覚や思考ははっきりしているのに体が動かなくなっていくことに対し、患者さんやご家族は「なぜこの病気に?」という根源的な問いを抱えています。
その原因は長らく不明な点が多くありましたが、近年の研究で驚きの事実が判明しました。英国で行われた約50万人規模の調査により、肝臓に疾患がある人は、ない人と比べてALSの発症リスクが約7倍にも高まることが示されたのです。神経の病気と肝臓には、一体どのような関係があるのでしょうか。
本記事では、ALSの基本的な知識から最新の研究で示唆された原因、そして進行を遅らせる治療法までを詳しく解説します。病気への正しい理解は、不安を和らげるための大切な一歩です。
筋萎縮性側索硬化症の概要
筋萎縮性側索硬化症は、英語名の頭文字から「ALS」とも呼ばれます。 体を動かすための「命令」を伝える神経だけが、少しずつ働きにくくなる病気です。
筋肉そのものが悪くなるわけではありません。 脳からの「動きなさい」という命令が、筋肉に届きにくくなるのが特徴です。
日本では約1万人の患者さんがいるとされ、60代から70代で発症することが多いです。 しかし、他の年代で発症することもあります。
この病気の主な特徴は以下のとおりです。
- 手足やのどの筋肉が弱くなる 徐々に筋肉がやせて、力が入りにくくなります。
- 感覚や考える力は保たれる ものを見たり聞いたり、物事を考えたりする力は影響を受けにくいです。
- 進行には個人差がある 症状の進み方は一人ひとり異なります。
現在、病気を完全に治す治療法は見つかっていません。 しかし、進行をゆるやかにするお薬や、症状をやわらげる治療法はあります。
時に、特定の食事法が話題になることがあります。 しかし、ALSの進行を抑えるという、はっきりとした科学的証拠はまだありません。 むしろ、自己判断での食事制限は、病気の進行を早める危険性も指摘されています。 体重管理はとても大切ですので、食事のことは必ず医師や専門家にご相談ください。
筋萎縮性側索硬化症の種類
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、大きく2つの視点で種類分けされます。 「症状がどこから始まるか」と「遺伝するかどうか」による分類です。
まず、症状が体のどこから現れるかによって、以下の2つに分けられます。
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種類
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最初の主な症状
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割合の目安
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四肢型(ししがた)
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手や足の力の入りにくさ、筋肉のやせ
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約75%(4人中3人)
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球麻痺型(きゅうまひがた)
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話しにくい、食べ物を飲み込みにくい
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約25%(4人中1人)
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手足の動かしにくさから始まる「四肢型」が全体の約4分の3を占めます。 一方、話しにくさや飲み込みにくさから始まるのが「球麻痺型」です。 どちらのタイプでも、最終的には全身の筋肉に症状が広がっていきます。
次に、遺伝が関係するかどうかによる分類です。
- 孤発性(こはつせい)ALS 全体の約95%を占め、遺伝とは直接関係なく発症するタイプです。
- 家族性(かぞくせい)ALS 全体の約5%とまれですが、血縁者に同じ病気の方がいるタイプです。
多くの患者さんが、少しでも進行を和らげようと様々な方法を探します。 複数の研究をまとめた信頼性の高い報告があります。 それによると、神経の病気を持つ方が栄養補助食品などを試すことは珍しくありません。 特にALSの患者さんでは、その割合が他の病気より高いことがわかっています。 どのような方法を試す場合でも、まずは主治医に相談することが大切です。
筋萎縮性側索硬化症の原因
筋萎縮性側索硬化症(ALS)がなぜ起こるのか、その詳しい原因はまだ完全には分かっていません。 しかし、世界中の研究から、いくつかの要因が複雑に関係している可能性が見えてきました。
現在、原因として考えられている主な説には、以下のようなものがあります。
- グルタミン酸の過剰 神経の情報を伝える「グルタミン酸」という物質が多すぎると、運動にかかわる神経を傷つけてしまうという説です。
- フリーラジカルによる障害 体をサビつかせ細胞を傷つける「フリーラジカル」をうまく処理できず、神経がダメージを受けるという説です。
- 遺伝的な要因 全体の約5%は「家族性ALS」と呼ばれ、血縁者で発症します。このタイプでは、原因となる遺伝子が見つかっています。
さらに近年の研究では、肝臓の健康状態が、ALSの発症リスクと深く関わっている可能性が報告されています。
英国で行われた50万人以上を対象とした大規模な調査があります。 その結果、肝臓に病気がある人は、ない人と比べてALSになる危険性が約7倍も高まることが示されました。
この関連は、一般的な肝臓の不調とは別の仕組みで起こると考えられています。 MRIという特別な検査でわかる肝臓の状態が、発症リスクの指標になる可能性も指摘されています。
ALSは神経の病気ですが、このように全身の状態、特に肝臓の健康が発症に関わるという発見は、今後の治療法開発の大きなヒントになるかもしれません。
原因は一つではなく、様々な要因が重なって発症すると考えられており、今も原因を突き止めるための研究が続けられています。
筋萎縮性側索硬化症の症状
筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、脳からの命令が届きにくくなります。 そのため、手足やのど、舌などの筋肉が徐々にやせて力が弱まります。 症状の始まり方には、主に2つのタイプがあります。
- 手足から始まるタイプ(四肢型) 全体の約4分の3を占めます。 箸が使いにくい、足がもつれるなど、体の中心から遠い部分から症状が出やすいです。
- のどや舌から始まるタイプ(球麻痺型) 全体の約4分の1です。 ろれつが回らず話しにくくなったり、食事でむせやすくなったりします。
どちらのタイプでも、やがては全身の筋肉に症状が広がります。 最終的には呼吸をするための筋肉も弱くなるため、注意が必要です。
一方で、ALSでは影響を受けにくい機能もあります。 見る、聞く、触れるなどの感覚や、考える力は保たれることが多いです。 また、目を動かす筋肉や、排泄を調整する筋肉の働きも維持されやすいです。
症状の進み方には個人差が非常に大きいのがこの病気の特徴です。 最近の研究では、病気の進行を予測する手がかりが報告されています。 例えば、診断時の血液検査でわかる栄養状態を示す数値(アルブミン)が高い方は、進行が比較的ゆるやかな傾向にあることがわかっています。 また、赤血球の大きさや状態を示す項目も、その後の経過と関連する可能性が示唆されています。
筋萎縮性側索硬化症の検査・診断
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断は、1つの検査だけで決まるわけではありません。 症状の経過や診察の結果、そして複数の検査を丁寧に行います。 それらの結果をパズルのピースのように組み合わせ、総合的に判断します。
特に症状が軽い初期の段階では、他の病気との区別がつきにくいです。 そのため、慎重な診断が何よりも大切になります。 診断のために行われる主な検査は、以下のとおりです。
- 筋電図検査 筋肉にとても細い針を刺して、神経の命令が正しく伝わるか調べます。 まだ症状が出ていない筋肉の異常も見つけられることがあります。 このため、早い段階での診断において非常に重要な検査です。
- 画像検査(MRIなど) 磁石の力を使い、脳や脊髄(せきずい)の断面図を撮影します。 ALSと似た症状を起こす、首の骨の病気などがないか確認します。 他の病気の可能性を一つひとつ除外していくために行われます。
- 血液検査 他の病気がないかを確認するために行います。 最近の研究では、一般的な血液検査の項目が病状を把握する上で、 参考になる可能性が報告されています。 例えば、栄養状態を示すアルブミンやコレステロールの値が高い方は、 病気の進行が比較的ゆるやかな傾向にあることがわかっています。 一方で、白血球の数や赤血球の状態を示す数値(MCVやMCH)は、 病気の進行スピードと関連する可能性が示唆されています。
これらの検査結果と、医師による詳しい診察を照らし合わせます。 そして、国際的な診断基準に基づいて最終的な診断が下されます。 気になる症状があれば、決して自己判断せず神経内科の専門医に相談してください。
筋萎縮性側索硬化症の治療
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を完全に治す治療法は、まだ見つかっていません。 しかし、病気の進行をゆるやかにしたり、生活を支えたりする治療はあります。 治療は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、以下の方法を組み合わせます。
治療の大きな柱は、2つあります。 一つは病気の進行そのものに働きかける治療です。 もう一つは、今あるつらい症状を和らげるための治療です。
1. 進行をゆるやかにする治療 病気が進むスピードを少しでも遅らせることを目指すお薬が使われます。 現在、日本で認められているお薬は2種類あります。 飲み薬の「リルゾール」と、点滴で投与する「エダラボン」です。 どちらのお薬を使うかは、専門の医師が患者さんの状態をみて判断します。
2. 症状をやわらげる治療(対症療法) 病気が進むことで現れる、様々な症状に対応するための治療です。
- リハビリテーション 筋肉や関節が硬くなるのを防ぎ、痛みを軽くするための運動です。 体を動かす練習やストレッチを行い、できるだけ動きやすい状態を保ちます。
- お薬による症状の緩和 筋肉のつっぱりや痛み、不安な気持ちなど、様々な症状をお薬で和らげます。 患者さんのつらい症状に合わせて、お薬を調整していきます。
- 呼吸のサポート 呼吸をする筋肉が弱くなると、息苦しさを感じることがあります。 その際は、マスク型の人工呼吸器などを用いて呼吸を助けます。
3. 食事に関する大切な注意点 時に、特別な食事法がALSに良いと話題になることがあります。 しかし、科学的な証拠が乏しいものには注意が必要です。
例えば、「ワールズダイエット」という食事法が知られています。 これは野菜を多く摂り、穀物や乳製品などを制限するものです。 体の中の炎症を抑えることを目的としています。
しかし、この食事法がALSの進行を遅らせるという、はっきりした証拠はありません。 むしろ、他の病気の方を対象とした研究では、注意すべき点が報告されています。 この食事法を続けると、体重が大きく減ってしまうことがあるのです。
ALSの患者さんにとって、体重が減ることは体力を奪うことにつながります。 病気の進行を早めてしまう危険性もあるため、この食事法は推奨されていません。 食事のことはご自身で判断せず、必ず医師や管理栄養士に相談してください。