神経鞘腫

原因がわからない耳鳴りや手足のしびれ。「もう年だから」と、何気ない不調として見過ごしていませんか?その症状、もしかしたら神経を包む膜にできる「神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)」という腫瘍のサインかもしれません。

この腫瘍は、脳にできる腫瘍の約9%、脊髄の腫瘍の約30%を占めるとも報告されており、決して珍しい病気ではありません。ほとんどが良性ですが、ゆっくりと大きくなることで神経を圧迫し、生活に影響を及ぼすことがあります。

この記事では、神経鞘腫の症状や原因、そして放射線治療によって98%という高い確率で成長を抑えられるといった最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の状態を知り、不安を解消するための一助としてください。

神経鞘腫の概要

私たちの体には、脳からの命令を伝えたり、感じたことを脳に送ったりする「神経」という大切な電線が張り巡らされています。神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)は、この神経を包んで守っている「シュワン細胞」という部分にできる、良性の腫瘍です。

ほとんどの場合、がんのように他の場所に広がることはなく、ゆっくりと大きくなるのが特徴です。大人になってから見つかることが多いですが、お子さまに発症することもあり、男女による差はありません。報告によっては、脳にできる腫瘍の約9%、脊髄の腫瘍の約30%がこの神経鞘腫だとされています。

神経がある場所ならどこにでもできる可能性があります。

  • 軟部組織 皮膚の下や筋肉の中など
  • 脳神経 聞こえや顔の感覚に関わる神経など
  • 脊髄神経 背骨の中を通り、手足につながる神経など

良性であっても、大きくなって周りの神経を圧迫すると、痛みやしびれの原因となるため治療が考えられます。治療は手術で腫瘍を取り除くことが基本です。しかし、脳の深い部分など手術が難しい場所では、放射線治療(ガンマナイフなど)が選択されることもあります。

ある研究では、放射線治療によって98%という高い確率で腫瘍の成長を抑えられたと報告されました。ただし、治療によって神経に影響が出る可能性も指摘されており、専門の医師と治療法を慎重に決めることが大切です。

神経鞘腫の種類

神経鞘腫は、体のどの神経にできるかによって種類が分かれます。 できる場所によって、あらわれる症状や治療の方法も変わってきます。

代表的な神経鞘腫には、以下のようなものがあります。

  • 聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫) 脳から直接出ている脳神経のなかで、最もできやすい神経鞘腫です。 聞こえや体のバランスを保つ神経にできるため、耳鳴りや聞こえにくさ、めまいなどの症状があらわれます。 ある研究では、腫瘍が小さい段階(目安として10〜15mm以下)で放射線治療を行うと、顔の動きなどの大切な機能を保ちやすいことがわかっています。
  • 三叉神経鞘腫 顔の感覚を脳に伝える三叉神経にできる腫瘍です。 顔の片側に痛みやしびれ、感覚がにぶくなるなどの症状が出ます。 大きな腫瘍の場合、顔の感覚を守るため、手術で全てを取りきらないこともあります。 無理に取り除かず、残った部分に放射線治療を組み合わせる方法がとられることがあります。
  • その他の神経鞘腫 のどの動きや声に関わる神経にできるもの(頸静脈孔神経鞘腫など)もあります。 ガンマナイフという放射線治療で、腫瘍の成長を98%という高い確率で抑えられたという報告もあります。 しかし神経への影響も考えながら、慎重に治療法が選ばれます。 その他、背骨の中を通る脊髄や、腕や足へつながる神経にもできます。 手足のしびれや痛み、力が入りにくくなるなどの症状があらわれます。

このように、神経鞘腫はできる場所によって特徴が大きく異なります。 気になる症状があれば、専門の医療機関に相談することが大切です。

神経鞘腫の原因

神経鞘腫がなぜできてしまうのか、その詳しい原因は残念ながらまだ分かっていません。原因がはっきりしないと、不安に感じてしまうかもしれませんね。ほとんどの場合は、特別な理由がなく偶然にできる「散発性(さんぱつせい)」のものです。

しかし、一部の神経鞘腫は、特定の病気との深い関わりが明らかになっています。

  • 神経線維腫症2型(NF2) 遺伝子の変化によって起こる病気です。 体の設計図である遺伝子に変化があるため、体のあちこちに腫瘍ができやすくなります。 特に、聞こえに関わる神経(聴神経)の両側に神経鞘腫ができることが多いのが特徴です。

また、腫瘍ができる直接の原因ではありませんが、治療後の経過に影響する要因も研究されています。例えば、ある研究では、高血圧や喫煙といった生活習慣が関係する可能性が示されました。

高血圧の人は、治療後に顔の動きが悪くなる「顔面神経麻痺」が起こるリスクが高まりました。タバコを吸う習慣がある人では、治療後に聴力が低下するスピードが速まる可能性も報告されています。

これらの生活習慣は、体の細い血管の状態を悪くする可能性があります。そのため、神経鞘腫の治療後の回復に影響を与えるのではないかと考えられています。

神経鞘腫の症状

神経鞘腫は、かたつむりのようにゆっくりと大きくなる腫瘍です。 そのため、最初のうちは症状がほとんどなく、気づかないことも多いです。 しかし、腫瘍が育ってきて周りの神経を押し始めると、色々なサインが出てきます。 どこに腫瘍ができたかによって、そのサインは全く違います。

脳の神経にできたときの症状

脳には、見たり聞いたり、顔を動かしたりするための大切な神経がたくさんあります。

  • 聞こえの神経(聴神経)にできた場合 キーンという耳鳴りがしたり、世界がぐるぐる回るようなめまいを感じたりします。 だんだんと片方の耳が聞こえにくくなるのも、代表的な症状の一つです。 腫瘍が大きくなると、近くにある顔を動かす神経を押してしまい、顔が動きにくくなることもあります。 喫煙などの生活習慣が、聞こえにくくなる速さに関係する可能性も研究されています。
  • 顔の感覚の神経(三叉神経)にできた場合 顔の片側に症状が出ることが多いです。ある研究では、次のような症状が報告されました。 ・感覚が鈍くなる(知覚鈍麻) 歯の麻酔が効いているときのように、触られても感じにくくなります。 ・ピリッとした痛み(三叉神経痛) 電気が走るような、急で鋭い痛みが起こります。 ・触った感じがおかしい(錯感覚) ただ触れられただけなのに、ビリビリするように感じます。

背骨や手足の神経にできたときの症状

背骨の中を通る太い神経(脊髄)や、そこから手足に伸びる神経に腫瘍ができることもあります。

できた場所

主な症状

背骨の神経

手や足のしびれ、痛み、力が入りにくくなる(おはしが持ちにくい、よくつまずくなど)

手足の神経

しこりを押すと痛む、しびれや痛みが神経にそって広がる感じがする

皮膚の下

触るとわかる「こぶ」のようなしこりができる(痛みはないことが多い)

このように、症状は腫瘍ができる場所によって本当にさまざまです。 「年のせいかな?」と思うような小さな変化が、実は神経鞘腫のサインかもしれません。 気になる症状が続く場合は、自己判断せず、専門の病院で相談することが大切です。

神経鞘腫の検査・診断

「神経鞘腫かもしれません」と言われると、不安になりますよね。 まず、腫瘍がどこにあり、どんな状態なのかを正確に知るための検査を行います。 まるで探偵が手がかりを集めるように、いくつかの検査を組み合わせて診断します。

1. 体の中をのぞく「画像検査」

体の中を写真のように映し出して、腫瘍の様子を詳しく観察する検査です。 腫瘍の大きさや場所に合わせて、いくつかの検査を使い分けます。

  • MRI検査 神経鞘腫の診断で、最も中心となる大切な検査です。 強力な磁石の力を使って、体の断面を鮮明に映し出します。 腫瘍の正確な場所や大きさ、周りの神経との関係がよくわかります。
  • 特別なMRI検査(DTI) MRIには、神経の通り道を地図のように描き出す特別な撮影方法があります。 これをDTI(拡散テンソル画像法)と呼びます。 腫瘍に押されて曲がってしまった神経の走行を立体的に確認できます。 ある研究では、手術前にDTIで調べた顔の神経の場所と、実際の手術で確認した場所が91.67%も一致したと報告されました。 手術の前に神経の正確な位置を知ることで、大切な機能を守りながら腫瘍を取り除く計画を立てるのにとても役立ちます。
  • CT検査 X線を使って体を輪切りにした写真を撮る検査です。 腫瘍が骨に影響を与えていないかなどを調べるのに向いています。
  • エコー検査 体の表面に近い皮膚の下などにできた腫瘍を調べるのに便利です。 超音波を使って、しこりの大きさや中の状態をリアルタイムで確認できます。

2. 神経の働きを調べる「電気生理検査」

神経が命令をきちんと伝えているか、電気の信号でチェックする検査です。 例えば、聞こえの神経が疑われる場合は「聴性脳幹反応検査(ABR)」があります。 ヘッドホンから音を聞き、その信号が脳にきちんと届いているかを確認します。

3. 最終判断をする「生検(病理診断)」

診断をはっきりさせるための最終的な検査です。 手術で取り除いた腫瘍の一部を、顕微鏡で詳しく観察します。 この検査で、腫瘍が良性の神経鞘腫なのか、ごくまれな悪性のものなのかを確定させ、今後の治療方針が決まります。

神経鞘腫の治療

神経鞘腫の治療は、腫瘍ができた場所や大きさ、症状の強さなどを考えます。 患者さんご自身の年齢や健康状態もあわせて、最適な方法を決めていきます。 主な治療法には「様子を見る」「手術」「放射線治療」の3つがあります。

治療法

どのような場合に選ばれるか

良い点

注意点

経過観察

・症状がない、またはとても軽い

・腫瘍がとても小さい

・治療による体への負担や後遺症の心配がない

・腫瘍が大きくなる可能性がある

・定期的な検査が必要

手術

・腫瘍が大きく、脳などを押している

・症状が強く、生活に困っている

・腫瘍を取り除くことで、根本的な解決が期待できる

・神経を傷つけるなど後遺症のリスクがある

・入院が必要

放射線治療

・手術が難しい場所に腫瘍がある

・比較的小さい腫瘍(目安として10〜15mm以下)

・手術後に再発した

・メスを使わないので体への負担が少ない

・入院が不要な場合もある

・腫瘍を消すのではなく、成長を抑えるのが目的

・効果が出るまで時間がかかる

1. 経過観察(様子を見る)

腫瘍が小さく、特に症状がない場合は、すぐに治療を始めないこともあります。 定期的にMRI検査などを行い、腫瘍が大きくなっていないかを見守ります。

2. 手術

腫瘍が大きく、しびれや痛みなどの症状が強い場合に手術を考えます。 しかし、大切な神経の近くにある腫瘍を無理に全部取ろうとすると、後遺症が残る危険もあります。 ある研究では、あえて腫瘍を一部残し、残った部分に放射線治療を組み合わせる方法が、神経の機能を守る上で有効だと報告されました。

3. 放射線治療

ガンマナイフなどの特別な放射線を、腫瘍に集中してあてる治療法です。 腫瘍を消すのではなく、大きくならないように成長を抑えることを目的とします。 ある研究では、98%という高い確率で腫瘍の成長を抑えられたと報告されています。

大きくなり続けている腫瘍の場合、サイズが比較的小さいうちに放射線治療を行う方が、良い結果につながる可能性も示唆されています。 また、高血圧や喫煙の習慣があると、治療後に顔が動きにくくなったり、聴力が低下したりするリスクが高まるという研究結果もあります。 生活習慣を見直すことも、治療の大切な一部と言えるでしょう。