脳の中に最初にできる腫瘍(原発性脳腫瘍)のうち、約4分の1を占める「神経膠腫(グリオーマ)」。この腫瘍が持つ厄介な特徴は、正常な脳にしみこむように広がっていくため、手術で完全に取り除くことが非常に難しいという点です。
なぜ同じ神経膠腫という病名でも、治療法や薬の効き目が人によって大きく異なるのでしょうか。その鍵を握るのが、近年の研究で注目される「IDH遺伝子」の存在です。この遺伝子のタイプによっては、ある薬物療法を追加することで病気の進行リスクが53%も低下するなど、治療効果に劇的な差が生まれることがわかってきました。
この記事では、神経膠腫の基礎知識から、予後を左右する遺伝子診断の重要性、そして最新の治療法までを詳しく解説します。最適な治療法を見つけるための第一歩として、ぜひご一読ください。
神経膠腫の概要
神経膠腫(しんけいこうしゅ)は脳や脊髄にできる腫瘍の一種で、「グリオーマ」とも呼ばれます。脳の神経細胞を支え、栄養を届ける「神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)」という細胞から発生すると考えられています。
脳の中に最初にできる「原発性脳腫瘍」の中では2番目に多く、全体の約4分の1を占める腫瘍です。
神経膠腫の大きな特徴は、正常な脳にしみこむように広がることです。そのため、腫瘍と正常な脳との境目がはっきりせず、手術で全てを取り除くのが難しい場合があります。
神経膠腫は、進行の速さなどによって悪性度が4段階に分類されます。
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グレード
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悪性度の目安
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グレード1
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進行がゆっくりで、比較的おとなしいタイプです。
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グレード2
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グレード1よりは進行が少し速いタイプです。
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グレード3
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悪性度が高く、進行が速いタイプです。
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グレード4
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最も悪性度が高く、進行が非常に速いタイプです。
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手術では、腫瘍をできるだけ取り除くことが重要になります。その際、特殊な薬(5-アミノレブリン酸など)を使って腫瘍を光らせ、見分けやすくする方法があります。
しかし、複数の研究をまとめた報告によると、悪性度の低い神経膠腫では、この薬を使っても腫瘍が光る確率が低いことがわかっています。特にグレード2の腫瘍では、蛍光が確認できたのは7.3%程度だったとされています。
このため、より安全で確実な治療を目指し、新しい薬や技術の開発が世界中で続けられています。
神経膠腫の種類
神経膠腫は、どの細胞から発生したかによって種類が分かれます。 脳の神経を支える細胞にはいくつかあり、その違いが腫瘍の性質を決めます。
主に、以下の3つのタイプに分けられます。
- 星細胞(せいさいぼう)系腫瘍 星のような形をした細胞から発生するタイプです。
- 乏突起膠細胞(ぼうとっきこうさいぼう)系腫瘍 手足のような突起が少ない細胞からできます。
- 上衣(じょうい)系腫瘍 脳の中の部屋(脳室)の壁を作る細胞がもとになります。
これらの分類に加え、悪性度を示す「グレード」も診断に重要です。 グレードは1から4まであり、数字が大きいほど進行が速いことを意味します。
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大分類
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主な種類
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グレード
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星細胞系腫瘍
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びまん性星細胞腫
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2
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退形成性星細胞腫
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3
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膠芽腫
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4
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乏突起膠細胞系腫瘍
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乏突起膠腫
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2
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退形成性乏突起膠腫
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3
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上衣細胞系腫瘍
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上衣腫
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2
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退形成性上衣腫
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3
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近年では、IDH遺伝子の変異など遺伝子の特徴も調べて診断します。 これにより、より個人に合った治療方針を立てられるようになりました。
グレードが低い腫瘍は進行が緩やかですが、治療は簡単ではありません。 例えば手術の際、特殊な薬で腫瘍を光らせる方法があります。 しかし、複数の研究報告によると、グレード2の腫瘍では、この薬を使っても腫瘍が光る確率は7.3%程度と低いことがわかっています。
また、放射線治療の一種である定位放射線療法(SBT I-125)も研究されています。 しかし、この治療は合併症が10%、悪性化する確率が26%との報告もあり、安全性と有効性は慎重に検討する必要があります。
このように、腫瘍の種類を正確に特定することが、最適な治療への第一歩となるのです。
神経膠腫の原因
神経膠腫は、脳の細胞の中にある「遺伝子」という設計図に、何らかの傷が積み重なることで発生すると考えられています。
遺伝子が原因と聞くと、ご両親から受け継がれるのではと心配になるかもしれません。 しかし、神経膠腫のほとんどは遺伝ではなく、細胞が増えるときのコピーミスなどで偶然起こるものです。 そのため、特定の生活習慣や環境が直接の原因となることは少ないとされています。
近年、どの遺伝子に傷がついているかが、腫瘍の性質や治療方針を決めるうえで非常に重要だとわかってきました。 特に注目されているのが、「IDH遺伝子」の状態です。
- IDH遺伝子に変異があるタイプ(IDH変異型) ある種のお薬(アルキル化化学療法)が効きやすい特徴があります。
- IDH遺伝子に変異がないタイプ(IDH野生型) 同じお薬を使っても、効果が出にくい場合があります。
複数の研究を分析した報告によると、IDH変異型の患者さんがお薬の治療を追加することで、死亡のリスクが48%、病気が進行するリスクが53%も低下したとされています。
一方で、IDH野生型の腫瘍では、同じお薬を使っても病気の進行を遅らせる効果はみられたものの、生存期間を延ばすほどの明確な効果は認められませんでした。
このように、原因となっている遺伝子のタイプを詳しく調べることは、一人ひとりに合った最適な治療法を選ぶための重要な手がかりとなるのです。
神経膠腫の症状
神経膠腫の症状は、腫瘍が脳のどの部分にできるかで大きく異なります。 脳は場所によって担当する仕事が違うため、症状の出方も様々です。
症状は、主に次の2つのタイプに分けられます。
- 脳の場所による症状(巣症状)
- 頭の中の圧力が高まる症状(頭蓋内圧亢進症状)
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症状のタイプ
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なぜ起こるのか
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具体的な症状の例
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脳の場所による症状
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腫瘍ができた場所の脳が、うまく働かなくなることで起こります。
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・手足の麻痺やしびれ
・言葉が話しにくい、理解しにくい
・視野が欠ける、狭くなる
・けいれん発作
・記憶力の低下や性格の変化
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頭の中の圧力が高まる症状
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腫瘍や周りのむくみで、硬い頭蓋骨の中がパンパンになることで起こります。
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・頭痛(特に朝方に強い)
・吐き気、嘔吐
・ものが二重に見える
・視力が落ちる
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これらの症状は、数週間から数ヶ月かけてゆっくり現れることもあります。 一方で、腫瘍の中で出血などが起きて、急に症状が出ることもあります。
特に小さなお子さんの場合、自分で症状をうまく伝えられないことが多いです。 「いつもと違うな」というご家族の気づきが、病気の早期発見につながります。
近年では、小児の脳腫瘍に対する新しい治療法の研究も進んでいます。 腫瘍の遺伝子を狙い撃ちするような治療法も開発されつつあります。 どのような病気でも、早く見つけることが回復への重要な一歩となるのです。
神経膠腫の検査・診断
神経膠腫が疑われる場合、まず脳の状態を詳しく調べる検査を行います。 画像検査で腫瘍の場所や大きさを把握し、治療方針を決めていきます。
主な画像検査
診断の第一歩として、脳の中を写真に撮るような検査が行われます。 主に2つの検査があり、それぞれに得意なことがあります。
- MRI検査 磁石と電波の力で、脳の断面をとても鮮明に写し出す検査です。 神経膠腫の診断では、最も中心となる「主役」の検査と言えます。 薬(造影剤)を注射してから撮影すると、腫瘍がよりはっきりと見えます。
- CT検査 X線を使って脳の断面を撮影します。 MRI検査を助ける「サポーター」のような役割です。 特に出血や、組織が硬くなる石灰化を見つけるのが得意です。
診断を確定させるための検査
画像検査だけでは、神経膠腫の正確な種類まではわかりません。 最終的な診断は、手術で取り出した腫瘍を顕微鏡で調べることで確定します。 これを「病理診断」と呼びます。
近年、この病理診断と合わせて遺伝子検査が非常に重要になりました。 腫瘍が持つ遺伝子の特徴を調べることで、最適な治療法を選べるからです。
特に「IDH遺伝子」に変化があるかないかは、薬の効き目に大きく関わります。 複数の研究を分析した報告では、IDH遺伝子に変化がある場合、お薬の治療を追加することで病気が進行するリスクが53%も低下したとされています。 遺伝子レベルで腫瘍の個性を知ることが、治療への近道となるのです。
手術の精度を上げるための技術
手術では、正常な脳を傷つけずに、できるだけ腫瘍を取り除くことが目標です。 そのための技術も進歩しています。
- 蛍光ガイド手術 手術の前に特殊な薬を飲むと、腫瘍細胞だけが光って見える技術です。 これにより、正常な脳との境目が見やすくなります。
しかし、この方法が常に有効なわけではありません。 複数の研究をまとめた報告によると、悪性度の低いグレード2の腫瘍では、この薬を使っても光る確率は7.3%程度と低いことがわかっています。 そのため、より確実な方法を目指して、新しい薬や技術の研究が続けられています。
これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりに合った治療計画を立てます。 治療には様々な選択肢がありますが、中にはまだ研究段階のものもあります。 例えば、ある放射線治療(SBT I-125)は、合併症や後に腫瘍が悪性化する確率がそれぞれ10%、26%との報告もあり、慎重な検討が必要です。
神経膠腫の治療
神経膠腫の治療は、一つの方法だけではありません。 腫瘍の種類や悪性度、できた場所、患者さんの年齢や体の状態を考えて、最適な治療法を組み合わせていきます。
治療の大きな柱は、以下の3つです。
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治療の柱
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主な内容
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手術
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治療の基本です。脳の働きを守りながら、できる限り腫瘍を取り除きます。
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放射線治療
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手術で取り切れなかった腫瘍細胞に放射線をあてて、ダメージを与えます。
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薬物療法
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抗がん剤などのお薬で、がん細胞が増えるのを抑えたり、破壊したりします。
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治療の基本は、手術で腫瘍をできるだけ取り除くことです。 脳の大切な働きを守りながら最大限取り除くために、手術中に患者さんとお話しながら行う「覚醒下手術」という方法がとられることもあります。 新しい治療法の研究も進んでいますが、多くの場合で安全な手術が今も大切な選択肢です。
手術の後には、放射線治療や薬物療法を追加して行います。 放射線治療にも様々な種類がありますが、中には合併症の報告が多いなど、安全性についてまだ慎重な検討が必要な治療法もあります。
薬物療法では、腫瘍が持つ「IDH遺伝子」という設計図のタイプが重要です。 研究によると、IDH遺伝子に変化があるタイプでは、お薬の治療を追加することで病気が進行するリスクが53%も低下したと報告されています。 一方で、遺伝子に変化がないタイプでは、同じお薬の効果は限定的であることもわかってきました。
また、治療と並行して日々の食事に目を向けることも大切です。 野菜や果物に含まれる成分を多くとる食事が、神経膠腫を含むがんのリスクを下げる可能性があるという研究報告もあります。