神経線維腫症

体に生まれつきある茶色いあざ、ただの個性だと思っていませんか? 実は、新生児およそ3,000人に1人が発症し、日本国内にも約40,000人の患者さんがいると推定される「神経線維腫症」という病気のサインかもしれません。

この病気は遺伝子の変化が原因ですが、約半数は親からの遺伝ではなく突然変異で起こるため、誰にでも発症する可能性があります。また、子どもの頃は目立たなかった症状が、大人になってから顕著になることも特徴です。

この記事では、神経線維腫症(レックリングハウゼン病)の詳しい症状や原因、そして近年大きく進歩している治療法について解説します。ご自身やご家族の気になるサインについて、理解を深める第一歩としてお役立てください。

神経線維腫症の概要

神経線維腫症は、レックリングハウゼン病とも呼ばれる病気です。 これは遺伝子の変化が原因で、体に様々なサインが現れます。 主に皮膚や神経に症状が出ることが多く、次のような特徴があります。

  • 皮膚のサイン カフェオレのような茶色いあざ(カフェオレ斑)や、 皮膚にできるやわらかいしこり(神経線維腫)が代表的です。
  • 神経のサイン 体の様々な場所にある神経に、 できもの(腫瘍)ができてしまうことがあります。
  • 骨のサイン 骨が変形したり、通常よりも弱くなったりすることがあります。
  • その他のサイン 学習面での困りごとなど、発達に関わる症状が見られることもあります。

この病気は、生まれてくる赤ちゃんの約3,000人に1人に見られます。 日本国内には、約40,000人の患者さんがいると推定されています。 原因の約半分は親からの遺伝ですが、残りは突然変異で起こります。

神経線維腫症は、大人になってから症状がはっきりしてくることも特徴です。 そのため、定期的な検査で体の変化を長期的に見守ることが大切です。 しかし、その検査方法は国や地域によっても異なり、まだ統一されていません。

だからこそ、専門の医師が一人ひとりの状態をしっかりと把握し、 その人に合った長期的な計画を立てていくことが非常に重要になります。

神経線維腫症の種類

神経線維腫症は、原因となる遺伝子の違いや症状の現れ方から、 主に3つのタイプに分けられます。 それぞれの特徴を正しく知ることが、病気と向き合うための第一歩です。

1. 神経線維腫症1型(NF1)

最も多く見られるタイプで、「レックリングハウゼン病」とも呼ばれます。 カフェオレのような色のあざや、皮膚にできる柔らかいしこりが特徴です。 症状はゆっくりと現れ、大人になってから全体像がはっきりすることが多いです。

特に小さなお子さんの場合、発達への影響に注意することが大切です。 ある研究では、NF1のお子さんは2歳ごろまでに、言葉の発達や 身の回りのことをする力に、ゆっくりとした傾向が見られると報告されています。 そのため、早い段階から発達の様子を見守り、学習面などで必要なサポートに つなげることが、お子さんの成長にとって非常に重要になります。

2. 神経線維腫症2型(NF2)

NF1の次に多いタイプです。 主に、音を聞き体のバランスを保つ神経(聴神経)に、 できもの(腫瘍)ができるのが特徴です。 そのため、聞こえにくさや耳鳴り、めまい、ふらつきといった症状が現れます。

3. 神経鞘腫症(シュワノマトーシス)

体の様々な神経にできものができますが、NF2とは異なり、 聴神経にはできないという大きな違いがあります。 このタイプでは、できものが神経を圧迫することで生じる「体の痛み」が、 主な症状として現れることが特徴です。

これら3つのタイプは、以下のようにまとめられます。

種類

主な特徴

神経線維腫症1型(NF1)

・カフェオレ斑(茶色いあざ)

・皮膚にできる柔らかいできもの

・お子さんの発達への影響

神経線維腫症2型(NF2)

・両側の聴神経にできるできもの

・難聴、耳鳴り、めまい

神経鞘腫症

・聴神経以外にできる、全身の神経のできもの

・体の痛み

神経線維腫症の原因

神経線維腫症は、体の設計図である「遺伝子」の変化が原因です。 私たちの体には、細胞がむやみに増えるのを防ぐ、 いわば「ブレーキ」の役目を持つ遺伝子が存在します。 この病気では、そのブレーキ役の遺伝子の働きが弱まってしまいます。 その結果、神経や皮膚にできもの(腫瘍)ができやすくなるのです。

原因となる遺伝子は、病気のタイプによって異なります。

タイプ

原因となる遺伝子

神経線維腫症1型(NF1)

17番染色体にある「NF1遺伝子」の変化

神経線維腫症2型(NF2)

22番染色体にある「NF2遺伝子」の変化

遺伝子の変化が起こる理由は、大きく2つに分けられます。 その割合は、およそ半分ずつです。

  • 親から受け継ぐ場合(約50%) ご両親のどちらかがこの病気の場合、 お子さんに受け継がれる可能性は50%です。
  • 突然起こる場合(約50%) ご家族に誰もいなくても、その方自身に 生まれつき偶然、遺伝子の変化が起こるケースです。

特にNF1遺伝子の変化は、お子さんの発達に影響することがあります。 ある研究では、NF1のお子さんは2歳ごろまでに、 言葉の発達や身の回りのことをする力が、 ほかのお子さんよりゆっくり進む傾向が報告されました。 これはNF1遺伝子が、脳の成長や働きにも関わるためと考えられます。 そのため、皮膚の症状だけでなく、発達の様子も丁寧に見守り、 必要であれば早めに専門家へ相談することがとても大切です。

神経線維腫症の症状

神経線維腫症の症状は、病気のタイプによって大きく異なります。 また同じタイプでも、人によって症状の現れ方や時期は様々です。 ここでは最も多い「神経線維腫症1型(NF1)」を中心に、 体に現れるサインを具体的に見ていきましょう。

  • 皮膚のサイン
  • カフェオレ斑(はん) ミルクコーヒーのような色の、平らな茶色いあざです。 多くの患者さんで、生まれてすぐの頃から見られます。
  • 神経線維腫(しんけいせんいしゅ) 皮膚や皮膚の下にできる、やわらかいできものです。 思春期ごろから数が増えたり、大きくなったりします。
  • 雀卵斑様色素斑(じゃくらんはんようしきそはん) わきの下や足の付け根にできる、そばかすのような点々です。
  • 骨のサイン 背骨が横に曲がる「脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)」や、 手足の骨が変形することがあります。 研究によって、NF1の方は全身の骨の密度が低くなり、 骨がもろくなりやすい傾向があることも報告されています。
  • 発達に関するサイン 特に小さなお子さんの場合、成長の様子に注意が必要です。 ある研究では、NF1のお子さんは2歳ごろまでに、 言葉の発達や身の回りのことをする力が、 ほかのお子さんよりゆっくり進む傾向が報告されました。 落ち着きがない(注意欠陥・多動症:ADHD)、 集団行動が少し苦手(自閉スペクトラム症:ASD) といった特性が見られることもあります。
  • 目のサイン 視力に関わる大切な神経(視神経)に、 できもの(視神経膠腫)ができることがあります。 また、黒目の部分(虹彩)に小さな斑点が見られるのも特徴です。

このほか、NF2では主に聞こえの神経にできものができ、難聴やめまいが、 神経鞘腫症では体の神経にできるできものによる痛みが主な症状となります。 症状は人によって様々なので、気になることがあれば専門の医師に相談しましょう。

神経線維腫症の検査・診断

神経線維腫症の診断は、体に現れる様々なサインを丁寧に見つけ、 国際的な診断基準と照らし合わせて行われます。 パズルのピースを一つひとつ集めていくような作業です。

特に最も多い神経線維腫症1型(NF1)には、 以下のような診断のためのチェックリストがあります。

【NF1の診断チェックリスト】 このうち、2つ以上あてはまるとNF1と診断されます。

  • カフェオレのような色のあざ(カフェオレ斑) 体に6個以上あるかを確認します。
  • 皮膚にできるやわらかいしこり(神経線維腫) 2個以上あるか、または広い範囲に広がるタイプが1個以上あるかを見ます。
  • そばかすのような点々(雀卵斑様色素斑) わきの下や足の付け根にあるかを確認します。
  • 目で物を見る神経のできもの(視神経膠腫) 視力に関わる大切な神経にできものができていないか調べます。
  • 黒目の部分の小さな斑点(虹彩小結節) 目の茶色い部分に2個以上の斑点があるかを見ます。
  • 特徴的な骨の変化 頭の骨の一部や、すねの骨が曲がっているなど、特有の変化がないか調べます。
  • ご家族にNF1の方がいるか ご両親、お子さん、ご兄弟姉妹のいずれかにNF1と診断された方がいるかを確認します。

これらの項目を確認するため、皮膚の診察に加え、 脳や神経、骨の状態を詳しく見るためのMRI検査などを行います。

ただし、どのような検査をいつ行うかという計画は、 実は世界中でまだ統一されていないのが現状です。 ある国際的な研究では、特に大人の方の長期的な検査方法は、 住んでいる国や地域によって違いがあることが報告されています。

だからこそ、この病気に詳しい専門の医師が一人ひとりの状態を把握し、 その人に合った長期的な検査計画を立てることが非常に重要です。 もし診断基準に完全にはあてはまらない場合でも、 遺伝子検査で診断を確定させることもあります。

神経線維腫症の治療

この病気を完全に無くすための治療は、まだ見つかっていません。 しかし、様々な症状を和らげ、生活しやすくするための治療は進んでいます。 治療の目的は、症状と上手に付き合い、合併症を防ぐことです。

治療法は病気のタイプや症状によって異なり、定期的な検査で 体の状態を見守りながら、その都度最適な方法を選んでいきます。 主な治療法には、手術でできものを取る方法と、お薬を使う方法があります。

  • 手術による治療 痛みやしびれの原因となる神経のできものや、 見た目が気になる皮膚のできものは、手術で取り除くのが第一の選択肢です。 できものの数や大きさによっては、レーザーや電気で取る方法もあります。
  • お薬による治療 近年、お薬による治療が大きく進歩しています。
  • セレメチニブ(NF1のお薬) 手術で取り除くのが難しい「叢状神経線維腫」という 複雑なできものに対して使われるお薬です。 複数の研究をまとめた信頼性の高い報告があります。 それによると、お薬を飲んだ約10人中7人(約68%)で、 できものが小さくなる効果が見られました。 さらに、痛みや体の動かしにくさといった症状も、 多くの人で改善することが期待できます。
  • ベバシズマブ(NF2のお薬) 聞こえの神経にできたできもの(聴神経腫瘍)などが、 速く大きくなる場合に有効なことがあります。 できものが大きくなるのを抑える働きが期待されます。

どの治療法を選ぶかは、専門の医師とよく相談して決めることが大切です。