擦過傷

転んで膝をすりむく。子どもの頃から誰もが経験する「すりきず」ですが、その手当て、本当に正しい方法で行えていますか?「ただのすりきず」と軽く考えがちですが、医学的には「擦過傷(さっかしょう)」と呼ばれ、実は奥が深いケガなのです。

この擦過傷、傷の深さによって種類があり、治り方や傷跡が残るかどうかが変わってくることをご存知でしょうか。ある研究では、転んでしまった高齢者の約10人に4人が擦り傷を負うと報告されており、決して珍しいトラブルではありません。

この記事では、すりきずの正しい知識から、傷跡を残さずきれいに治すための応急手当て、病院へ行くべきサインまでを詳しく解説します。いざという時に備え、ご自身やご家族を守るための知識を身につけましょう。

擦過傷の概要

転んで膝をすりむく。これは誰もが一度は経験するケガでしょう。 この「擦り傷」は、医学的には「擦過傷(さっかしょう)」と呼ばれます。

体を何かに強くこすりつけた時にできる、とても身近なケガの一つです。 私たちの皮膚は、外側から「表皮」「真皮」という層でできています。 擦過傷は、この表面に近い部分が摩擦ですりむけてしまった状態です。

擦過傷には、以下のような特徴があります。

  • 皮膚の浅い部分のケガ
  • 皮膚を外の刺激から守る「表皮」や、そのすぐ下の「真皮」が傷つきます。
  • 見た目より強い痛み
  • 痛みを感じる神経は皮膚の浅い部分に多いため、傷は深くなくても痛みます。
  • じわじわとした出血
  • 細かい血管(毛細血管)が傷つくため、血がにじみ出るように出血します。
  • 誰にでも起こりうるケガ
  • 子どもから大人まで、年齢に関係なく日常生活の中で起こりやすいです。

擦過傷は特に転んだ際にできやすいケガとして知られています。 海外のある研究では、転んでしまった高齢者のうち、約10人に4人(37.95%)が擦り傷や切り傷を負ったと報告されています。 このように、擦過傷は非常に身近なトラブルと言えるでしょう。

ほとんどの場合、擦過傷は自然に治っていきます。 しかし、傷口に砂や土が入ると、ばい菌が繁殖して化膿することもあります。 また、傷跡として残る可能性もあるため、最初の正しい手当てが大切です。

擦過傷の種類

「すりきず」とひとことで言っても、実は種類があることをご存知でしょうか。 皮膚がどれくらい深く傷ついたかによって、見た目や治り方が変わります。

傷の深さは、痛みの強さや、傷跡が残るかどうかを決める重要なポイントです。 私たちの皮膚は、外側から「表皮(ひょうひ)」、「真皮(しんぴ)」という層でできています。 すりきずが、どの層まで届いているかで、主に3つの種類に分けられます。

種類

傷の深さ

見た目や症状の目安

表皮剥離(ひょうひはくり)

とても浅い(表皮まで)

・皮膚の薄い表面だけがむけた状態です。

・出血はほとんどないか、少しにじむ程度です。

・ヒリヒリとした痛みを感じます。

真皮擦過傷(しんぴさっかしょう)

やや深い(真皮まで)

・赤い点々のような出血が見られます。

・痛みが強く、ズキズキすることが多いです。

・治った後に傷跡が残りやすいです。

深部擦過傷(しんぶさっかしょう)

深い(皮下組織まで)

・皮膚の下にある黄色い脂肪が見えることがあります。

・すぐに病院での治療が必要です。

表皮剥離は、皮膚の一番外側が少しめくれただけの、最も軽症なすりきずです。

真皮擦過傷では、点々とした出血が見られます。 これは、表皮の下にある真皮には、細かい血管がたくさん通っているためです。 また、痛みを感じる神経もこの層に多いため、傷は浅く見えても強く痛むことがあります。

特に注意したいのは、傷に砂や土、アスファルトの破片などが入り込んだ場合です。 これらが皮膚の中に残ったまま治ると、まるで入れ墨のように黒っぽい跡(外傷性刺青)になることがあります。

もし傷が深い場合や、汚れが取れない場合は、ご自身で判断せず、お早めに医療機関を受診しましょう。

擦過傷の原因

擦過傷は、皮膚が地面や壁などに強くこすりつけられる「摩擦」によって起こります。 皮膚の表面が、まるでヤスリで削られるようにすりむけてしまうことでできるケガです。

私たちの身の回りには、擦過傷ができてしまう原因がたくさん潜んでいます。 具体的には、次のような場面で起こりやすいです。

  • 転んでしまうこと
  • 廊下を走っていてつまずく、階段で足を踏み外すといった場面です。
  • 自転車やキックボードの練習中にバランスを崩して倒れることも原因です。
  • スポーツをしている時
  • サッカーでスライディングをする、柔道で畳に体をこするなどです。
  • 体育の授業や部活動での接触プレーの際にも起こりやすくなります。
  • 日常生活でのふとした接触
  • 机や家具の角に、腕や足をこすりつけてしまうことなどです。
  • アスファルトなど、ざらざらした地面に手やひざをついた時にもできます。

特に、元気に遊びまわるお子さんや、体のバランスを取りにくくなるご高齢の方は注意が必要です。 ある海外の研究では、転んでしまったご高齢の方のうち、10人に4人近く(約38%)が擦り傷や切り傷を負ったという報告もあります。

この結果からも、転倒が擦過傷の大きな原因であることがわかります。 誰にでも起こりうる身近なケガですが、日頃から転ばないよう足元に気を配ることが大切です。

擦過傷の症状

すりきずができると、体にはいくつかのサインが現れます。 傷の深さによって少し違いますが、主に3つの症状が見られます。 これらは、体が傷を治そうと頑張っている証拠でもあります。

  • ヒリヒリとした痛み
  • 皮膚の表面近くには、痛みを感じるセンサー(神経)がたくさんあります。
  • すりきずで皮膚がむけると、このセンサーがむき出しになるため痛みます。
  • じわじわとした出血
  • 皮膚には、髪の毛のように細い血管(毛細血管)がたくさんあります。
  • この細い血管が切れるため、血がにじみ出るようにゆっくりと出血します。
  • 黄色っぽい汁(滲出液)
  • 傷口から、透明や少し黄色い汁が出ることがあります。
  • これは「滲出液(しんしゅつえき)」といい、傷を治す成分がたくさん入っています。

ほとんどのすりきずは、自分の力で自然に治っていきます。 しかし、傷口にばい菌が入ると「感染」を起こすことがあるため注意が必要です。 次のようなサインが見られたら、ばい菌と体が戦っている証拠かもしれません。

【感染が疑われるサイン(病院受診の目安)】

  • 痛みの変化
  • ヒリヒリした痛みから、ズキズキする強い痛みに変わってきた。
  • 傷の周りの様子
  • 赤く腫れあがり、触ると熱い感じがする。
  • 出てくるもの
  • 黄色や緑色のドロッとした膿(うみ)や、嫌なにおいが出てきた。
  • 体全体の症状
  • けがとは別に、体全体が熱っぽくなってきた(発熱)。

ある海外の研究では、転んでしまったご高齢の方のうち、10人に4人近く(約38%)がすりきずを負ったと報告されています。 さらに、けがが原因で入院が必要になる方も約2割いるとされており、軽いけがだと油断はできません。 特に傷口に砂や土が残ると、黒いシミ(外傷性刺青)になるため、早めに病院で相談しましょう。

擦過傷の検査・診断

すりきずができた時、お医者さんはまず傷口をじっくりと目で見て調べます。 この「目で見る検査」を「視診(ししん)」といい、診断の基本となります。 ほとんどのすりきずは、この視診だけで状態を正しく判断することが可能です。

お医者さんが視診でチェックしている、主なポイントを見ていきましょう。

  • 傷の深さと広さ
  • 皮膚がどのくらい深く傷ついているか、範囲はどれくらいかを見ます。
  • 異物の有無
  • 砂や土、ガラスのかけらなどが傷口に入り込んでいないかを確認します。
  • 感染のサイン
  • ばい菌が入って悪さをしていないか、傷の周りの赤みや腫れ、膿を調べます。

すりきずは軽いけがと思われがちですが、隠れた問題がないか注意が必要です。 特に転んでけがをした場合、慎重な観察が求められます。 ある海外の研究では、転んだ高齢者のうち、10人に1人以上(12.50%)が骨折をしていたと報告されています。

そのため、お医者さんは「ただのすりきず」と決めつけず、隠れたけががないか慎重に診察します。 もし必要だと判断した場合は、次のような詳しい検査を行うこともあります。

検査の種類

どんなときに調べるの?

X線(レントゲン)検査

強くぶつけた時など、骨が折れていないか心配な場合に行います。

細菌培養検査

感染がひどい時に、どんなばい菌が悪さをしているか特定します。

MRI検査

皮膚の奥にあるお肉(筋肉)など、やわらかい部分のけがが疑われる時に行います。

このように、すりきずの診断は目で見る視診が基本です。 しかし、見えない場所に隠れたけがを見逃さないため、詳しい検査をご提案することもあります。

擦過傷の治療

すりきずができた時、早くきれいに治すには最初の手当てがとても大切です。 お家でできることと、病院での治療について、手順を追って見ていきましょう。

お家でできる応急手当て

けがをしたら焦らず、まずは落ち着いて傷口をきれいにすることが重要です。

  • 1. 洗う(洗浄) 傷口についた砂や土には、ばい菌がたくさんいます。 水道のきれいな水で、汚れを優しく十分に洗い流しましょう。 痛みが強くなければ、石鹸を泡立てて使うとより清潔になります。
  • 2. 血を止める(止血) 清潔なガーゼやハンカチで、傷口を直接5分ほど押さえます。 ほとんどのすりきずは、これで血が止まります。
  • 3. 保護する(湿潤療法) 傷口を乾かさない「湿潤(しつじゅん)療法」がおすすめです。 傷から出る黄色い汁には、傷を治す成分がたくさん含まれています。 乾燥させないタイプの絆創膏で、この成分の働きを助けましょう。

病院に行った方がよいサイン

次のような場合は、お家での手当てだけでなく病院の受診をおすすめします。 ご自身の判断で迷う場合は、早めに相談しましょう。

【受診をおすすめするチェックリスト】

  • □ 傷が深く、皮膚の下の黄色い脂肪などが見える
  • □ 砂や土、ガラスのかけらが洗っても取れない
  • □ 5分以上押さえても、血がなかなか止まらない
  • □ ズキズキする強い痛みが続く、またはひどくなる
  • □ 傷の周りが赤く腫れあがり、熱を持っている

すりきずは軽いけがと思われがちですが、決して油断はできません。 ある海外の研究では、転んでけがをした高齢者のうち、約2割(19.68%)が入院が必要になったと報告されています。

特に、屋外で汚れたものやサビた金属でけがをした場合は注意が必要です。 病院では専門の器具で洗浄したり、ばい菌の感染を防ぐ処置を行います。 心配な時は迷わず、お近くの医療機関を受診してください。