尺骨神経麻痺

手の小指や薬指にしびれを感じたり、指が思うように動かせなかったりすることはありませんか。その不調、もしかしたら「尺骨神経麻痺(しゃこつしんけいまひ)」という病気のサインかもしれません。

尺骨神経は肘や手首の表面近くを通っており、頬杖やパソコン作業といった日常の何気ない癖で圧迫されやすい、非常にデリケートな神経です。実際、野球選手などが受ける肘の手術では、合併症として約6%の確率でこの麻痺が起こるという報告もあり、決して他人事ではありません。

この記事では、あなたの指の不調の原因かもしれない尺骨神経麻痺について、その種類や症状、原因を詳しく解説します。ご自身の症状と比べながら、早期発見と適切な対処につなげましょう。

尺骨神経麻痺の概要

手の小指や薬指にしびれを感じたり、指が動かしにくくなったりしていませんか。 もしかしたら、それは「尺骨神経麻痺(しゃこつしんけいまひ)」かもしれません。

私たちの体には、脳からの命令を伝える「神経」が電気コードのように全身に張り巡らされています。 その中の一つである「尺骨神経」は、主に以下の働きを担っています。

  • 感覚を脳に伝える
  • 小指と、薬指の小指側半分が物に触れた感覚などを伝えます。
  • 筋肉を動かす命令を伝える
  • 指を開いたり閉じたりする、手の細かい動きを可能にします。

この尺骨神経は、皮膚のすぐ下など体の表面に近い部分を通っています。 そのため、肘をぶつけたり、長時間圧迫されたりして傷つきやすい特徴があります。 特に肘の内側や手首の小指側は、神経が圧迫されやすい注意が必要な場所です。

また、けがだけでなく、手術がきっかけで尺骨神経麻痺が起こることもあります。 例えば、野球選手などが受ける肘の靭帯(じんたい)を治す手術です。 複数の研究結果をまとめた信頼性の高い分析によると、この手術の後に起こる問題(合併症)で最も多かったのが尺骨神経麻痺でした。 具体的には、手術を受けた人の約6%に、この合併症が見られたと報告されています。

このように尺骨神経麻痺は様々な原因で起こります。 指の異変に気づいたら、放置せずに早めに専門の医療機関へ相談しましょう。

尺骨神経麻痺の種類

尺骨神経麻痺は、神経がどこで押さえつけられているかで、いくつかの種類に分けられます。 神経を水の流れるホースだと考えてみましょう。 ホースがどこかで踏まれると、その先への水の流れが悪くなります。 それと同じで、神経が圧迫される場所によって症状の出方が少しずつ変わるのです。

代表的なものは、主に以下の2つです。

  • 肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん) 尺骨神経麻痺の中で最も多く見られるタイプです。 肘の内側にある「肘部管」という骨のトンネルで神経が圧迫されます。 長時間ひじを曲げた姿勢でいると、このトンネルで神経が引き伸ばされてしまいます。 その結果、神経への血の流れが悪くなり、麻痺が起こりやすくなるのです。
  • ギヨン管症候群(ぎよんかんしょうこうぐん) 手首の小指側にある「ギヨン管」という場所で神経が圧迫されるタイプです。 自転車のハンドルを強く握り続けたり、大工仕事で工具を使ったりすることが原因です。 手首に負担がかかることで、この部分の神経が圧迫されてしまいます。

このほか、骨折などのケガや、体を治すための手術が原因で麻痺が起こることもあります。 特に、野球選手などが受ける肘の靭帯(じんたい)を修復する手術では、合併症として尺骨神経麻痺が起こることがあります。 複数の研究を分析した報告によると、この手術を受けた人の約6%に尺骨神経の麻痺が見られたとされています。

種類

神経が圧迫される場所

主な原因の例

肘部管症候群

肘の内側

・長時間の肘の曲げ伸ばし

・加齢による変化

・睡眠時の姿勢

ギヨン管症候群

手首の小指側

・自転車のハンドル

・工具の使用

・手首の骨折

外傷や手術によるもの

ケガや手術をした場所

・骨折や脱臼

・打撲

・手術の合併症

尺骨神経麻痺の原因

尺骨神経麻痺は、神経が押されたり傷ついたりして起こります。 原因はケガだけでなく、普段の何気ない生活習慣の中にも潜んでいます。

主な原因は、神経がダメージを受ける状況によって分けられます。

  • 神経が押さえつけられる(圧迫)
  • 日常生活での圧迫 肘の内側や手首の小指側で神経が押されることが主な原因です。 例えば、頬杖をつく癖や、寝ている間の腕枕などが挙げられます。 パソコン作業で長時間、肘を曲げた姿勢を続けることも危険です。
  • 腫瘍(できもの)による圧迫 ガングリオンなどの良性のできものが神経の近くにできることがあります。 この腫瘍が神経を圧迫し、しびれや麻痺を引き起こす場合があります。
  • ケガや手術で傷つく 肘や手首の骨折、脱臼などで神経が直接傷つくことがあります。 また、体を治すための手術が、原因になることも少なくありません。
    例えば、野球選手などが受ける肘の靭帯(じんたい)を治す手術があります。 複数の研究をまとめた信頼性の高い分析によると、この手術の後に起こる合併症で最も多かったのが尺骨神経麻痺でした。 具体的には、手術を受けた人の約6%にこの麻痺が見られたと報告されています。
  • 病気や加齢によるもの 加齢によって肘の骨が変形することがあります。 また、関節リウマチなどの病気の影響で神経の通り道が狭くなることも原因となります。

このように原因は様々なので、自己判断は危険です。 気になる症状があれば、早めに専門の医療機関を受診しましょう。

尺骨神経麻痺の症状

尺骨神経が麻痺すると、主に2種類の症状が現れます。 それは「感覚の異常」と「動きや見た目の異常」です。 ご自身の状態と比べながら、チェックしてみてください。

感覚の異常

神経の働きが鈍くなることで、しびれや痛みを感じます。 主に小指と、薬指の小指側半分に症状が出るのが特徴です。 「ジンジンする」「触っても感覚が鈍い」と感じることがあります。

動きや見た目の異常

手の細かい動きを支える筋肉が、うまく働かなくなります。 そのため、日常生活の中で不便を感じることが増えていきます。

<自分でできる症状チェックリスト>

  • 指をまっすぐに伸ばそうとしても、小指と薬指が曲がってしまう
  • 指を閉じたり開いたりする動きがぎこちない
  • ポケットに手を入れるとき、小指が引っかかってしまう
  • 顔を洗うとき、指の間から水がもれてしまう
  • お箸を使う、字を書くなどの細かい作業が難しい
  • 手の筋肉がやせて、手の甲の骨が浮き出て見える

また、診察では以下のようなサインで神経の状態を確認します。

  • Tinel(ティネル)サイン 肘の内側を軽くたたくと、小指側に電気が走るようにしびれます。
  • Froment(フローマン)サイン 親指と人差し指で紙をつまむと、親指の第一関節が深く曲がります。

これらの症状は、肘の骨折や脱臼の後に現れることがあります。 また、野球選手などが行う肘の靭帯(じんたい)を治す手術がきっかけになることもあります。 複数の研究をまとめた報告によると、この手術を受けた人の約6%に尺骨神経麻痺が起きたとされています。 ケガや手術の後に指の異変を感じたら、早めに医師へご相談ください。

尺骨神経麻痺の検査・診断

指のしびれや動かしにくさの原因を突き止めるため、いくつかの検査を行います。 まず、患者さんから詳しくお話を聞く「問診」から始まります。 いつから症状があるか、きっかけ、どんな時に困るかなどを教えてください。 あなたの言葉が、診断への大切な第一歩になるのです。

次に行うのが、医師が直接お体の状態を調べる「身体診察」です。 これは、神経からのSOSサインを見つけ出すための大切なテストです。 手や指の感覚が鈍くなっていないか、筋肉の力が弱っていないかを調べます。

診察方法

内容

Tinelサイン

肘の内側を軽くたたく検査です。

神経が傷ついていると、小指側に電気が走るようにしびれます。

Fromentサイン

親指と人差し指で紙をつまんでもらいます。

力が弱いと、親指の関節が深く曲がってしまいます。

これらの診察で尺骨神経麻痺が疑われる場合は、さらに詳しい検査に進みます。 神経や骨の状態を「見える化」して、原因を正確に特定するためです。

  • 神経伝導速度検査・筋電図検査 神経を電気が伝わる速さや、筋肉の反応を調べる検査です。 いわば「神経のスピードテスト」で、どこで流れが悪くなっているかを探します。
  • X線(レントゲン)検査 骨の変形や骨折がないかを確認します。 肘の複雑な骨折の後に、合併症として神経麻痺が起こることがあります。 そのため、骨の状態を詳しく調べることが非常に重要です。
  • MRI検査 神経を押している「できもの」など、骨以外の原因を探る検査です。 レントゲンでは見えない、軟らかい組織の状態を詳しく確認できます。

これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりに最適な治療計画を立てます。

尺骨神経麻痺の治療

尺骨神経麻痺の治療は、まず手術をしない方法から始めるのが一般的です。 しかし、症状の程度や原因によっては手術が必要になることもあります。 一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療法を慎重に選んでいきます。

保存的療法

症状が比較的軽い場合や、発症して間もない場合には、まず手術以外の方法で神経の回復を目指します。 これを「保存的療法」と呼び、主に以下の3つの柱で行われます。

  • 安静にする 神経を休ませることが何より大切です。 特に、肘を長時間曲げたままにする姿勢は神経の負担になるため避けましょう。
  • お薬を使う 神経の働きを助けるビタミンB12や、炎症や痛みを和らげるお薬を使います。 しびれなどの不快な症状を軽くする効果が期待できます。
  • リハビリテーション 専門家の指導のもと、関節が硬くなるのを防ぐストレッチなどを行います。 また、弱ってしまった筋力を維持するためのトレーニングも大切です。

手術療法

保存的療法を3ヶ月ほど続けても改善しない場合や、症状が悪化していく場合には、手術を考えます。 また、骨折や腫瘍など原因がはっきりしている場合も手術が選ばれます。

手術の種類

内容

神経剥離術

神経が押さえつけられている部分を解放し、血の流れを良くする手術です。

神経前方移所術

肘を曲げたときの神経への負担を減らすため、神経の位置を前にずらします。

骨や靭帯の修復

複雑な骨折が原因の場合、骨だけでなく靭帯なども含めて段階的に治す手術が必要です。

再建手術・腱移行術

神経の回復が難しい重症例では、他の組織を移植する「救済手術」が行われることがあります。

手術は有効な治療法ですが、リスクも伴います。 例えば、野球選手などが受ける肘の靭帯(じんたい)を治す手術では、その合併症として約6%の人に尺骨神経麻痺が起こったという報告もあります。 どの治療法が最適か、専門の医師とよく相談して決めましょう。