大動脈炎症候群

ただの風邪だと思っていた長引く発熱やだるさ。実はそれが、心臓から全身へ血液を送る最も重要な血管が攻撃される難病、「大動脈炎症候群」の初期サインかもしれません。15〜35歳の若い女性に多く発症し、診断が難しいことから発見が遅れることも少なくありません。

この病気は、腕の脈が触れにくくなるために「脈なし病」とも呼ばれ、日本の高安右人博士によって報告された指定難病です。放置すれば心臓や脳に深刻な影響を及ぼす可能性もあります。この記事では、大動脈炎症候群の原因や特徴的な症状、最新の治療法まで詳しく解説します。ご自身の体調と照らし合わせ、早期発見にお役立てください。

大動脈炎症候群の概要

大動脈炎症候群は、心臓から全身へ血液を送る最も太い血管「大動脈」や、その枝に炎症が起こる病気です。1908年に日本の高安右人博士が報告したため、「高安動脈炎」とも呼ばれます。厚生労働省から指定難病とされています。

血管の壁に炎症が起きると、壁は厚く硬くなります。その結果、血液の通り道が狭くなったり(狭窄)、詰まったり(閉塞)します。腕の脈が触れにくくなることから、「脈なし病」という別名もあります。逆に、血管が弱くなりこぶ(動脈瘤)ができることもあります。

この病気は初期症状がはっきりしないため、診断が難しいことが特徴です。

項目

内容

かかりやすい方

15〜35歳くらいの若い女性、特にアジア系の方に多い傾向があります。

初期のサイン

発熱や全身のだるさ、食欲不振など、風邪と似た症状から始まります。

診断の難しさ

はっきりしない症状が数年間続くこともあり、診断までに時間がかかる場合があります。

注意すべきこと

診断が遅れると心臓や血管に深刻な合併症が起こり、生涯にわたる影響が出る可能性があります。

原因はまだ解明されていませんが、免疫システムが自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患の一つと考えられています。風邪のような症状が長引く若い女性は、一度専門医に相談することが早期発見につながります。

大動脈炎症候群の種類

大動脈炎症候群は、血管のどの部分で炎症が起きるかによって、現れる症状や治療方針が大きく変わります。

そのため、炎症の場所に基づいていくつかの種類(病型)に分類されています。日本では、心臓から全身へ血液を送る大動脈とその主要な枝のうち、どこに病変があるかで分類する「沼野(ぬまの)分類」が広く使われています。

型

炎症が起きる主な血管の場所

I型

大動脈弓から分かれる腕や頭へ向かう血管

IIa型

心臓から出てすぐの上行大動脈、大動脈弓とその枝

IIb型

IIa型の範囲に加え、胸部の下行大動脈

III型

胸部の下行大動脈からお腹の大動脈、腎臓へ向かう血管

IV型

お腹の大動脈や腎臓へ向かう血管

V型

IIb型とIV型の両方の範囲(広範囲な炎症)

I型は、頭や腕につながる血管に炎症が起きるタイプです。 この血管が狭くなると、脳や腕への血流が不足します。 そのため、めまいや失神、腕のだるさといった症状が出やすくなります。 髪を洗ったり、洗濯物を干したりする動作で腕が疲れやすいのが特徴です。

IIa型とIIb型は、心臓に近い大動脈に炎症が及ぶタイプです。 心臓の出口や大動脈弁に影響が出ると、動悸や息切れ、胸の痛みにつながることがあります。 IIb型はさらに炎症が広範囲なため、より注意が必要です。

III型とIV型は、胸からお腹にかけての大動脈に炎症が起きます。 特に腎臓へ血液を送る腎動脈が狭くなると、薬が効きにくい高血圧になることがあります。 また、足への血流が悪くなり、歩くと足が痛む症状が出ることもあります。

V型は、上半身と下半身の両方の広い範囲に炎症が及ぶタイプです。 これまで説明した様々な症状が複合的に現れる可能性があります。

どの型に当てはまるかは、治療法を決定する上で非常に重要です。最終的な診断は画像検査などをもとに医師が総合的に判断しますので、気になる症状があれば専門医に相談してください。

大動脈炎症候群の原因

大動脈炎症候群がなぜ起こるのか、その詳しい原因はまだ完全には解明されていません。 しかし、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

現在、最も有力な説は「自己免疫」という体の仕組みの異常です。 私たちの体には、ウイルスや細菌から体を守る「免疫」という機能があります。 この免疫が、何かのきっかけで自分の血管を「敵」と間違え、攻撃してしまうのです。 その結果、血管に炎症が起きてしまうと考えられています。

では、なぜ大切な体を守るはずの免疫に異常が起きてしまうのでしょうか。 その引き金として、主に2つの要因が考えられています。

  • 遺伝的な要因 生まれ持った体質が関係していると考えられています。 特定の遺伝子(HLA-B*52など)を持つ人は、そうでない人と比べて、 発症しやすい傾向があることが研究でわかっています。
  • 環境的な要因 ウイルスや細菌への感染、ストレスなどがきっかけになる可能性があります。 最近の研究では、お腹の中にいる大腸菌のような身近な細菌が、 まれに大動脈の炎症を直接引き起こすこともあると報告されています。 また、腸内細菌全体のバランスが崩れることが、 体の免疫や炎症の仕組みに影響し、 血管の病気に関わっている可能性も注目されています。

このように、大動脈炎症候群は一つの原因だけで起こるのではありません。 遺伝的な体質に、感染症などの環境的な要因が加わることで発症すると考えられています。

大動脈炎症候群の症状

大動脈炎症候群の症状は、どの血管に炎症が起きるかで大きく異なります。 初期は、熱や体のだるさなど風邪に似た症状が続くことが多いです。

その後、血管の炎症が進むと、血液の流れが悪くなることで、 体の様々な場所に特有の症状が現れ始めます。

障害が起きる血管

主な症状

全身

発熱、全身のだるさ、食欲不振、体重減少

頭や首の血管

(頸動脈など)

・めまい、立ちくらみ、失神

・首の痛み(特徴的なサインの一つ)

・視力の低下、耳鳴り

腕の血管

(鎖骨下動脈など)

・腕を上げた時に疲れやすい、力が入らない

・脈が弱くなる、または左右の腕で血圧に差が出る

・手のしびれや冷たさ

心臓

(大動脈弁など)

動悸、息切れ、胸の圧迫感や痛み

お腹や足の血管

(腹部大動脈など)

・歩くと足が痛み、休むと楽になる(間欠跛行)

・腎臓への血流が悪くなることによる高血圧

特に、腕を上げる動作、例えば髪を洗ったり洗濯物を干したりする際に、 腕がひどく疲れやすいと感じる場合は注意が必要です。

また、血管の炎症は脳の働きに影響を及ぼすこともあります。 ある研究レビューでは、血管炎の患者さんのうち2割から7割近くの方に、 物忘れや注意力の低下といった認知機能に関する症状がみられたと報告されています。 これは決して珍しいことではなく、治療によって改善が期待できる症状です。

このように症状は全身に現れる可能性があるため、 気になるサインがあれば早めに専門医へ相談することが大切です。

大動脈炎症候群の検査・診断

大動脈炎症候群は、初期の症状が風邪と似ているため診断が難しい病気です。 ある研究報告では、診断が遅れたことで生涯にわたる影響が出た例もあります。 そのため、症状や診察所見、様々な検査結果を丁寧に組み合わせ、 慎重に診断を進めていくことが非常に重要になります。

診断は、まず詳しい問診や、脈の強さ、腕の血圧の左右差などを確認する 身体診察から始まります。そのうえで、以下の検査を組み合わせて評価します。

  • 血液検査 体の中で炎症がどのくらい起きているかを調べる検査です。 炎症があると、CRP(C反応性タンパク)や赤血球沈降速度(ESR) といった数値が高くなります。
  • 画像検査 血管の状態を直接目で見て確認するため、診断の決め手となる検査です。 実際に、感染が原因で起こる大動脈炎の研究でも、 約94%の診断にCT検査が役立ったと報告されています。
  • CT・MRI検査 大動脈やその枝の壁が厚くなっていないか、 血管が狭くなったり、こぶのように膨らんだりしていないかを調べます。
  • 超音波(エコー)検査 主に首の血管を調べ、血の流れや血管の壁の厚さを確認します。 体に負担が少なく、繰り返し行いやすい検査です。
  • FDG-PET検査 体のどこで炎症が活発に起きているかを特定するのに役立ちます。 治療によって炎症がどのくらい改善したかを確認するためにも使われます。

これらの検査結果と症状を総合的にみて診断します。 その際、動脈硬化など似た症状を起こす他の病気ではないことを 慎重に見極める必要があります。気になる症状があれば、 早めに専門医に相談することが早期発見につながります。

大動脈炎症候群の治療

大動脈炎症候群の治療目標は、血管で起きている炎症をしっかり抑えることです。 これにより血管が傷つくのを防ぎ、将来の重い合併症を予防します。 治療は主に「お薬による治療」が中心となり、必要に応じて、 血管を修理する「カテーテル治療」や「外科的治療」が行われます。

お薬による治療(薬物療法)

治療の基本は、お薬を使って体の内側から炎症を鎮めることです。

  • ステロイド薬 炎症を抑える力がとても強い、この治療の主役となるお薬です。 まず十分な量で炎症を抑え、症状が落ち着いたら副作用に注意し、 少しずつ量を減らしていきます。 再発を防ぐために、少ない量を長く飲み続けることもあります。
  • 免疫抑制剤 ステロイド薬だけでは効果が不十分な場合などに使います。 免疫の働きを調整し、血管への攻撃を抑えるお薬です。 最近の研究では、新しい治療の選択肢が注目されています。 「メトトレキサート」と「ミコフェノール酸モフェチル」という 2種類の免疫抑制剤を組み合わせる治療法です。 この方法は、従来の治療法より高い効果を示すことがわかってきました。 体への負担が比較的少なく治療を進められる可能性があり、 新しい選択肢として期待されています。
  • 抗血小板薬 血管が狭くなった場所に血の塊(血栓)ができるのを防ぎます。 血液を固まりにくくするお薬が使われることもあります。

カテーテル治療・外科的治療

お薬で炎症が十分に落ち着いていることが大前提となります。 そのうえで、傷んでしまった血管を修理するために検討される治療です。 炎症で血管がもろくなっている時に行うと、かえって状態が悪化する危険があるため、 主治医が慎重にタイミングを判断します。

治療法

内容

カテーテル治療

腕や足の付け根から細い管を入れ、狭くなった血管を風船で広げます。また「ステント」という金属の筒を置いて血管を支えることもあります。

外科的治療

血管にできたこぶ(動脈瘤)が破裂しそうな場合や、心臓の弁に問題がある場合に、人工血管に取り替えたり、弁を修理したりする手術です。

治療は長期にわたることが多いですが、根気強く続けることがとても大切です。 気になることがあれば、いつでも主治医に相談してください。