「最近、赤ちゃんの機嫌が悪い」「ミルクの飲みも良くない…」その原因、もしかしたら肌にできた痛々しい赤いポツポツにあるのかもしれません。それは、ただのあせもが悪化した「多発性汗腺膿瘍」、通称「あせものより」と呼ばれる皮膚の病気のサインである可能性があります。
言葉で痛みをうまく伝えられない赤ちゃんのために、周りの大人が症状のサインに気づいてあげることが何よりも大切です。この記事では、多発性汗腺膿瘍の症状の見分け方から、原因となる細菌感染の仕組み、そしてご家庭でできる予防・ケア方法までを詳しく解説します。大切なお子さんの肌を守るための正しい知識を、ここで手に入れてください。
多発性汗腺膿瘍の概要
多発性汗腺膿瘍は、「あせものより」とも呼ばれる皮膚の病気です。 特に、赤ちゃんや小さいお子さんの顔や頭、おしりなど、汗をかきやすい場所にできます。
原因は、あせもができた汗の腺(汗腺)の出口に、皮膚の表面にいる細菌が入り込んでしまうことです。 細菌が入ると、そこで膿(うみ)がたまって赤く腫れあがり、「おでき」のような状態になります。 このおできには痛みをともなうため、まだ上手に話せない赤ちゃんは、機嫌が悪くなったりミルクの飲みが悪くなったりしてサインを送ることがあります。
ほとんどの場合、細菌に効く飲み薬や塗り薬を使って治療します。 しかし、症状が重いときや膿がたくさんたまっている場合には、皮膚を少しだけ切って膿を出す処置が必要になることもあります。 この病気を防ぐには、あせもを作らないように、こまめに汗を拭き、お肌を清潔に保つことが何よりも大切です。
汗の腺に関係する病気はほかにもあり、治療法の研究が世界中で進められています。 例えば、たくさんの研究結果をまとめて、どの治療法が一番効果的かを比べる分析(ネットワークメタアナリシス)などが行われています。 このような研究を通じて、医療は日々進歩していますので、気になる症状があれば専門の医療機関に相談しましょう。
多発性汗腺膿瘍の種類
私たちの体には、汗を出すための「汗腺」という管が2種類あります。 「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」です。 多発性汗腺膿瘍は、このうち「エクリン汗腺」に関係する病気です。
エクリン汗腺は、全身のほとんどの皮膚にあります。 そして、体温を調節するためのサラサラした汗を出す働きをしています。 赤ちゃんや小さいお子さんに多い多発性汗腺膿瘍は、この汗腺の出口に細菌が入ることで起こります。
一方、「アポクリン汗腺」は脇の下や陰部など、限られた場所にだけあります。 こちらが関係する病気には「化膿性汗腺炎」という全く別の病気があります。 この病気は、痛いおできが繰り返しできて治りにくく、患者さんの生活に大きな影響を与えることがあります。
化膿性汗腺炎は、これまで治療が難しい病気とされてきました。 しかし、最近では研究が活発に進められています。 たくさんの治療法の効果をまとめて比較するような研究も行われ、新しい治療の選択肢も増えてきました。 このように、原因となる汗腺が違うだけで、全く異なる病気になるのです。
2つの汗腺と、関係する主な病気の違いを下の表で確認してみましょう。
|
汗腺の種類
|
主な場所
|
汗の特徴
|
関係する主な病気
|
|
エクリン汗腺
|
全身のほとんど
|
サラサラしている
|
多発性汗腺膿瘍
|
|
アポクリン汗腺
|
脇の下、陰部など
|
少し粘り気がある
|
化膿性汗腺炎
|
多発性汗腺膿瘍の原因
多発性汗腺膿瘍は、主に2つの要素が重なって起こります。 それは「あせも」と「ばい菌(細菌)の感染」です。 特に、汗をたくさんかきやすい赤ちゃんや小さいお子さんでよく見られます。
病気が起こる詳しい流れを、ステップで見ていきましょう。
- ステップ1:汗の出口が詰まり「あせも」ができる 赤ちゃんや小さいお子さんの皮膚は、汗を出す管(汗腺)の働きがまだ十分に発達していません。そのため、汗をたくさんかくと、うまく外に出せずに皮膚の中にたまって「あせも」ができてしまいます。
- ステップ2:皮膚のバリアが壊れて細菌が入る あせもがかゆくて掻いてしまうと、皮膚の表面に小さな傷ができます。その傷から、私たちの皮膚にもともと住んでいる「黄色ブドウ球菌」という細菌が入り込んでしまうのです。この菌は、普段は悪さをしませんが、傷口から中に入ると増殖して膿を作ります。
このように、あせもができているだけでは膿はできません。 掻きむしった傷から細菌が感染することが直接の引き金となります。
また、私たちの体には、異物から身を守るための免疫という仕組みがあります。 その中で「IL-36」という物質は、防御反応の信号を送る役割を担っています。 この信号が過剰に働くと、膿がたまりやすくなる病気もあることが知られており、体の仕組みと皮膚の病気との関連について研究が進められています。
皮膚の病気の治療で、体の免疫の働きを調整するお薬を使うこともあります。 「感染症にかかりやすくなるのでは?」と心配になるかもしれません。 しかし、ある種のお薬は、重い感染症になる危険性を特別に高めるわけではない、という多くの研究をまとめた報告もあります。 お薬について不安なことがあれば、遠慮なく医師に相談してください。
多発性汗腺膿瘍の症状
多発性汗腺膿瘍は、主に赤ちゃんの顔や頭、おしりなど、汗をかきやすい場所にできます。 言葉でうまく伝えられない赤ちゃんだからこそ、周りの大人が症状の変化に気づいてあげることが大切です。
主な症状は、膿(うみ)をもった1cmほどの赤いポツポツ(皮疹)が複数できることです。 この皮疹には、次のような特徴があります。
- 強い痛みがある ばい菌(細菌)と体が戦っているため、炎症が起きて痛みます。 触ると痛がり、押すとさらに痛みが強くなります。
- さわり心地が変わる でき始めは硬いしこりのように感じられます。 時間が経って膿がたまると、ブヨブヨとしたやわらかい感触に変わります。
ばい菌との戦いが激しくなると、皮膚だけでなく体全体にサインがあらわれることがあります。 次のような変化がないか、注意深く見てあげてください。
【見逃したくない全身のサイン】
- 熱が出ている
- 首やわきの下、足の付け根のリンパ節が腫れている
- いつもより機嫌が悪く、ぐずったり夜泣きがひどくなったりする
- ミルクやおっぱいの飲みが悪くなる
皮膚の病気の診断では、どのような見た目の変化があったかという情報が非常に重要です。 例えば「化膿性汗腺炎」という別の病気についての研究では、症状の写真を論文などに掲載し、多くの専門家で共有することが、病気の理解を深め、治療法の開発に役立つと考えられています。 気になる症状があれば写真を撮っておくと、病院で説明する際に役立つことがあります。
治療が遅れると、治った後にくぼんだような「あと」が残ることもあります。 心配なサインがあれば、自己判断せずに早めに医療機関へ相談しましょう。
多発性汗腺膿瘍の検査・診断
多発性汗腺膿瘍の診断は、ほとんどの場合、医師が皮膚の状態を直接目で見て確かめる「視診(ししん)」によって行われます。 言葉を話せない赤ちゃんだからこそ、皮膚のサインを丁寧に見ることが大切です。
視診では、主に次のような点を詳しく観察し、総合的に判断します。
- できもの(皮疹)の様子 膿がたまっているか、大きさや色、さわった時の硬さはどうか。
- できている場所 顔や頭、背中やおしりなど、汗をかきやすい場所にたくさんあるか。
- まわりの皮膚の状態 できものの周りが赤く腫れて、炎症が広がっていないか。
皮膚の病気の診断では、このように見た目の情報がとても重要です。 実は、新しい治療法を研究する専門家の論文でも、病気の写真をもっと活用することの重要性が指摘されています。 写真は、研究の透明性を高めたり、若い医師の教育に役立ったり、患者さんとの意思疎通を助けたりするからです。 ご家庭で気になる症状の写真を撮っておくと、診察の際に非常に役立ちます。
ただし、症状が「毛包炎(もうほうえん)」など、ほかの皮膚の病気と似ていることもあります。 その場合は、診断をはっきりさせるために、膿を少しだけ取って原因となっている細菌を調べる検査を行うことがあります。 これを「培養検査(ばいようけんさ)」といい、膿の中にいる細菌の種類を特定します。 この検査で、多発性汗腺膿瘍の主な原因である黄色ブドウ球菌が見つかれば、より確実な診断につながります。
多発性汗腺膿瘍の治療
多発性汗腺膿瘍の治療は、原因のばい菌(細菌)をやっつけることと、おうちでのスキンケアが中心です。 お子さんの症状に合わせて、いくつかの治療を組み合わせて行います。
主な治療は、原因菌に効く「抗菌薬(こうきんやく)」というお薬です。 飲み薬と塗り薬を使い、体の内側と外側の両方から細菌が増えるのを防ぎます。 これによって、赤みや腫れ、痛みをしずめていきます。
|
治療の種類
|
内容
|
|
お薬での治療
|
ばい菌をやっつける飲み薬や塗り薬を使います。
|
|
膿を出す処置
|
膿がたくさんたまっている場合、皮膚を少しだけ切って膿を出します。
|
お薬での治療とあわせて、ご家庭でのケアも回復を早め、再発を防ぐためにとても重要です。
【おうちでできる大切なケア】
- お肌を清潔に保つ 汗をかいたらこまめにシャワーで流したり、着替えをしたりしましょう。
- 涼しい環境を心がける 室温を調整して、汗をかきすぎないようにすることも大切です。
- 爪を短く切っておく かゆみで掻きむしると悪化したり、他の場所にばい菌が移ったりします。
近年、皮膚の病気の治療は大きく進歩しています。 2024年にもアトピー性皮膚炎や汗の多い病気などへの新しい治療法が登場しました。 また、膿がたまる他の病気では、体の炎症に関わる特定の物質の働きを抑える、新しいタイプのお薬の研究も進められています。 こうした研究の積み重ねが、未来のより良い治療につながることが期待されます。