マンソン孤虫症

皮膚の下に原因不明のしこりができ、不安を感じていませんか。そのしこりが移動するように感じる場合、寄生虫が原因の「マンソン孤虫症」かもしれません。日本国内でも600例以上の報告がある、他人事ではない感染症です。

この記事では、マンソン孤虫症の感染経路や特徴的な症状、検査から治療法までを詳しく解説します。カエルやヘビの生食が主な原因とされますが、患者の半数近くは感染源を特定できていないという報告もあります。

ご自身の症状と照らし合わせることで、感染の可能性を判断する手がかりになります。正しい知識を得て不安を解消し、適切な医療機関へ相談するための第一歩としてお役立てください。

マンソン孤虫症の概要

マンソン孤虫症は、マンソン裂頭条虫という寄生虫の幼虫(プレロセルコイド)が人の体内に侵入することで発症する感染症です。動物から人へうつる「人獣共通感染症」の一つとして知られています。

世界中に分布している寄生虫ですが、感染報告の多くは中国、韓国、日本、タイといった東アジア地域に集中しています。※ これは、カエルやヘビなどを生で食べる食文化が感染リスクと関連しているためと考えられています。

日本国内においても決して他人事ではなく、北海道を除くほぼ全国で発生が確認されており、これまでに600例を超える感染が報告されています。

人の体内に入った幼虫は、通常は成虫に成長しません。その代わりに、幼虫のまま皮下の脂肪組織や筋肉、ときには脳などの重要な臓器へ移動し、寄生を続けます。この幼虫は非常に生命力が強く、体内での生存期間は数年間、長いケースでは20年近くに及ぶこともあります。

マンソン孤虫症の種類

マンソン孤虫症は、体内に侵入した幼虫がどこに寄生するかによって、主に2つのタイプに分けられます。人の体内では幼虫のまま留まるのがほとんどですが、ごく稀に小腸で成虫になる「成虫寄生」という特殊なケースも存在します。

主な3つのタイプの特徴を下記に整理します。

種類 | 寄生する場所 | 主な特徴

皮下孤虫症 | 皮膚の下の脂肪組織 (胸、お腹、太ももなど) | ・マンソン孤虫症で最も多いタイプです ・幼虫の移動に伴い、しこり(腫瘤)が動くのが特徴です ・しこりには痛みやかゆみを伴うこともあります

内臓孤虫症 | 脳、肺、眼、腹腔内など | ・寄生した臓器によって症状が異なります ・脳に寄生すると、けいれんや頭痛など脳腫瘍に似た重い症状が現れる可能性があります ・肺の場合は咳や血痰、眼の場合は視力障害などがみられます

成虫寄生 (極めて稀) | 小腸 | ・幼虫が小腸で成虫になった状態で、日本での報告は非常に少ないとされています ・腹痛や下痢といった消化器症状が中心となります

症状の現れ方によってこのように分類されますが、原因となるマンソン孤虫(Spirometra属)そのものの種類は、実は非常に複雑です。

近年の遺伝子解析技術の進歩により、これまで一つの種類と考えられていたものが、実は多様な遺伝子型を持つグループであることがわかってきました※。

また、見た目が似ている別の寄生虫とは遺伝子レベルでは近縁でないことが明らかになるなど、分類の見直しが進められています。その詳しい生態や宿主との関係については、まだ解明されていない部分も多く、今後の研究によるさらなる解明が期待されています※。

マンソン孤虫症の原因

マンソン孤虫症は、マンソン裂頭条虫という寄生虫の幼虫(プレロセルコイド)が、主に汚染された飲食物を介して人の体内に入ることで感染します。

本来この寄生虫は、イヌやネコなどを最終的なすみか(終宿主)としています。終宿主の糞とともに排出された卵が水中で「ケンミジンコ(第1中間宿主)」に食べられ、そのケンミジンコを「カエルやヘビ(第2中間宿主)」が食べることで感染の輪が維持されます。

人は、この感染環に偶然入り込んでしまうことで感染に至ります。具体的な感染経路は、主に以下の3パターンです。

・食品からの感染

カエル、ヘビ、イノシシ、ニワトリなどの肉を生、あるいは加熱が不十分な状態で食べること。特に日本では、感染経路が判明しているケースの6割以上がヘビやカエルの生食によるものです。

・水からの感染

寄生虫の幼虫がいるケンミジンコを含んだ、沢の水や井戸水などを加熱せずに飲むこと。

・皮膚からの感染

傷口などにカエルやヘビの生肉を貼り付ける「すりつけ」と呼ばれる民間療法によるもの。

注意すべきは、患者さんの半数近くは感染源を特定できていないという事実です。知らないうちに汚染された水や食品を口にしている可能性も考えられます。

この感染症は、特にカエルやヘビなどを生で食べる食文化を持つ東アジア・東南アジア地域で多く報告されており、世界的な公衆衛生上の課題となっています※。

また、原因となる寄生虫の種類についても研究が進んでいます。以前はSpirometra erinaceieuropaeiが主な原因と考えられていましたが、近年の遺伝子解析により、アジア地域で人に感染するのは主にSpirometra mansoniやSpirometra asianaなどの種類であることがわかってきました※。

マンソン孤虫症の症状

マンソン孤虫症の症状は、体内に侵入した幼虫がどこに寄生するかで大きく異なり、ほとんどは皮膚の下にしこりができる「皮下孤虫症」として現れます。

感染初期には、全身の倦怠感や原因のわからない発熱がみられることがあります。

その後、幼虫が皮下組織に寄生すると、胸やお腹、太ももといった脂肪の多い場所に、しこり(腫瘤)や腫れが生じます。このしこりは、痛みやかゆみを伴うこともあれば、全く伴わないこともあります。

最大の特徴は、このしこりが移動することです。これは生きた幼虫が体内を動き回るために起こる現象で、「移動性腫瘤」と呼ばれています。※

ごく稀ではありますが、幼虫が内臓に寄生すると、より深刻な症状を引き起こす可能性があります。

寄生した場所によって、以下のような症状がみられます。

・脳

けいれん発作、持続的な頭痛、言葉の障害、手足の筋力低下など、脳腫瘍とよく似た症状が現れることがあります。

・肺

しつこい咳や、血の混じった痰(たん)が出ます。

・眼

視力障害や、ものが見えにくくなるといった症状が報告されています。

ただし、これらの特徴的な症状が何も現れず、本人が気づかないまま体内で寄生が続いているケースも少なくありません。

マンソン孤虫症の検査・診断

マンソン孤虫症の診断は、問診で感染の可能性を探り、画像検査や血液検査などを通じて総合的に判断します。

診断の第一歩となるのが、丁寧な問診です。特に、マンソン孤虫症の大きな特徴である「皮膚の下で動くしこり」の有無は、診断の重要な手がかりとなります。

あわせて、以下のような感染リスクにつながる行動がなかったかを確認します。

・カエルやヘビの生食歴

・沢水や井戸水の飲用歴

・傷口に動物の生肉を貼り付ける民間療法の経験

これらの情報をもとに、マンソン孤虫症が疑われる場合には、さらに詳しい検査へと進みます。

画像検査(CT・MRI・超音波)

CTやMRI、超音波(エコー)検査を用いて、しこりの内部や周辺の様子を詳しく調べます。

これらの検査により、体内に潜んでいる幼虫の位置や大きさ、さらには生きた幼虫が動いている様子が映像として捉えられることもあります。

血液検査

血液検査では、主に2つの項目をチェックします。

・好酸球の値

寄生虫に感染すると体内で増加する「好酸球」という白血球の一種の値を確認します。

・血清診断

マンソン孤虫に対する特有の「抗体」が体内で作られていないかを調べます。これにより、感染しているかどうかの間接的な証拠を得られます。

臨床症状とあわせて、こうした血清学的な診断を行うことが、診断の精度を高める上で重要です。※

組織検査(確定診断)

最終的な確定診断は、手術で摘出したしこりを病理検査(組織検査)にかけることで下されます。

摘出した組織を顕微鏡で詳細に観察し、マンソン孤虫の虫体そのものを直接見つけることが、診断を確定させる最も確実な方法です。

これらの検査は、マンソン孤虫症の診断を下すだけでなく、脂肪腫や他の皮膚のできものといった、似たような症状を示す別の病気との区別(鑑別診断)を行う上でも欠かせません。※

マンソン孤虫症の治療

マンソン孤虫症の治療は、原因となっている幼虫を手術で物理的に取り除く「外科的摘出」が唯一の根本的な治療法です。

体内に寄生した幼虫に対して、確実に効果のある飲み薬や注射薬(駆虫薬)は、残念ながら現在のところ確立されていません。このため、治療の第一選択は手術による摘出となります。

手術の方法は、幼虫が体のどこに寄生しているかによって異なります。

・皮下組織に寄生している場合

皮膚の下など、比較的浅い場所に幼虫がいるケースです。この場合、局所麻酔を用いた手術で摘出できることがほとんどです。

・内臓に寄生している場合

脳や肺、眼球といった体の深い部分や重要な臓器に幼虫が寄生しているケースです。全身麻酔をかけ、慎重に虫体を摘出する手術が必要になります。

ただし、ごく稀に人の小腸で成虫が見つかる「成虫寄生」という特殊なタイプでは、プラジカンテルなどの駆虫薬が用いられることもあります。

このように治療法が外科手術に限られるからこそ、感染を未然に防ぐ「予防」が何よりも大切です。マンソン孤虫症は世界的な公衆衛生上の課題であり、特に東アジア・東南アジアでの発生が多数報告されています※。

流行地域での注意喚起はもちろん、医療体制が十分でない地域では感染の実態が正確に把握されていない可能性も指摘されており、世界規模での予防・管理体制の強化が求められています※。