ポリオ

「ポリオ(小児まひ)」と聞いても、日本では過去の病気という印象が強いのではないでしょうか。ワクチン接種の普及により、1980年以降は国内での自然感染が報告されていませんが、世界ではまだ根絶に至っていないのが現状です。

この記事では、ポリオの原因や症状、種類といった基本的な知識を解説します。一般的な感染経路に加え、近年指摘されている医療現場での特殊な感染リスクについても詳しく紹介していきます。

本記事を読めば、ポリオがどのような病気で、なぜ今もなお予防が重要視されるのかがわかります。正しい知識を身につけ、感染症への理解を深めましょう。

ポリオの概要

ポリオは「小児まひ」の名でも知られる、ポリオウイルスによって引き起こされる感染症です。

感染者の多くは5歳未満の乳幼児ですが、その9割以上は症状が出ないか、出ても軽い風邪のような症状で済みます。

しかし、1%未満という非常にまれな確率で、ウイルスが血液を介して脳や脊髄へ到達することがあります。その結果、手足に回復が難しい麻痺(急性弛緩性麻痺)が残ってしまう危険性があるのです。

世界保健機関(WHO)による世界的な根絶活動と予防接種の普及により、日本では1980年を最後に国内での自然感染は報告されていません。

現在、ポリオは感染症法で「二類感染症」に、学校保健安全法では出席停止期間が定められる「第一種感染症」に指定され、厳重な監視体制が敷かれています。

主な感染経路は、ウイルスに汚染された水や食べ物を口にすることによる経口感染です。それに加え、手術中に発生する煙(サージカルスモーク)を介して、医療従事者がポリオウイルスに感染するリスクも報告されています※。

ポリオの種類

ポリオは、原因となるウイルスの「型」と、感染したときの症状の現れ方によって、いくつかの種類に分けられます。

まず、原因となるポリオウイルスそのものには、ウイルスの表面にある抗原(免疫の目印)の違いから、1型・2型・3型という3つの血清型が存在します。どの型に感染した場合でも、ポリオを発症する可能性があります。

ポリオウイルスは主に人の腸管で増殖し、便とともに排出されることで感染が広がりますが、特殊な環境下でもその存在が確認されています。

近年、手術の際に発生する煙(サージカルスモーク)から、ワクチン由来のポリオウイルス成分が検出されたという研究報告もありました※。

これは、ウイルスが持つしぶとさの一例といえるかもしれません。

次に、感染した際の症状の程度によって、臨床的には主に以下の3つに分類されます。感染者のほとんどは症状が出ないか、出ても軽いものです。

・不顕性(ふけんせい)感染

ウイルスに感染しても症状が全く現れないケースで、感染者の90〜95%がこれにあたります。

・不全型ポリオ

発熱、のどの痛み、吐き気といった、風邪に似た軽い症状のみで回復するケースです。

・麻痺型ポリオ

感染者の1%未満と非常にまれですが、ウイルスが血液を介して脳や脊髄に到達し、神経細胞を破壊することで麻痺が現れる重篤なケースです。

この麻痺は「急性弛緩性麻痺(きゅうせいちかんせいまひ)」と呼ばれ、突然手足に力が入らなくなるのが特徴です。

麻痺型ポリオは、麻痺が現れる部位によって、さらに下表のように分類されます。

種類 | 特徴

脊髄型 | ・手足の筋肉を動かす脊髄の神経が侵される ・手足に左右非対称の麻痺が残ることが多い

延髄型 | ・呼吸や飲み込みに関わる脳の一部(延髄)が侵される ・呼吸困難や嚥下障害(えんげしょうがい)を引き起こす

延髄脊髄型 | ・脊髄型と延髄型の両方の症状が現れる

また、麻痺型ポリオから回復したとしても、数十年経ってから、再び筋力の低下や筋肉の痛み、疲労感などが現れる「ポリオ後症候群(ポストポリオ症候群)」を発症することもあります。

ポリオの原因

ポリオの原因は、ポリオウイルスというエンテロウイルス属のウイルスに感染することです。このウイルスは主に人の口から体内に入り、のどや腸の細胞で増殖します。

ポリオウイルスの感染力は非常に強く、アルコール消毒や石鹸が効きにくいという厄介な性質を持っています。そのため、知らないうちに感染を広げてしまう危険性があります。

主な感染経路は、以下の3つです。

・経口感染

感染者の便に排出されたウイルスが、水や食べ物を汚染し、それを健康な人が口にすることで感染します。ウイルスは環境中でも比較的長く生存できるため、衛生環境が整っていない地域では特に注意が必要です。

・接触感染

ウイルスが付着したドアノブやおもちゃなどに触れた手で、口や鼻、目をこすることで感染します。手洗いが不十分だと、ウイルスを体内に取り込んでしまう可能性があります。

・飛沫感染

感染者の咳やくしゃみに含まれる飛沫(しぶき)を吸い込むことでも感染します。ウイルスはのどでも増殖するため、発症の初期段階ではこの経路で感染が広がることもあります。

また、これら一般的な経路とは別に、医療現場における特殊なケースも報告されています。

近年、手術の際に電気メスなどを使用したときに発生する煙(サージカルスモーク)から、ポリオウイルスを含むさまざまなウイルスの成分が検出される可能性が研究で示されました※。これは、手術室で働く医療従事者にとって、新たな感染リスクとして認識されつつあります。

ポリオの症状

ポリオウイルスに感染した場合、その症状の現れ方はウイルスの影響が体のどこまで及ぶかによって大きく変わります。

感染から症状が出るまでの潜伏期間は4〜35日(平均7〜10日)と幅があり、感染者の大多数は症状が出ないか、出ても軽い風邪のような症状で治まります。

しかし、ウイルスが神経系へと侵入すると、深刻な事態を招くことがあります。近年では、手術中に発生する煙(サージカルスモーク)を介して、医療従事者がウイルスに感染するリスクも指摘されています※。

どのような経路で感染したかにかかわらず、体内でウイルスがどう広がるかによって、症状は主に以下のパターンに分けられます。

症状のタイプ | 感染者に占める割合 | 主な症状や経過

無症状(不顕性感染) | 約72% | ・ウイルスに感染しても、症状がまったく現れない ・知らないうちに免疫を獲得する

軽症(不全型) | 約24% | ・発熱、のどの痛み、吐き気、腹痛など、風邪に似た症状が現れる ・通常は数日で後遺症なく回復する

非麻痺型髄膜炎 | 約1~5% | ・ウイルスが中枢神経系(脳や脊髄を覆う膜)まで到達した場合に起こる ・激しい頭痛、首や背中のこわばり、手足の感覚異常などが特徴 ・後遺症なく回復することがほとんど

麻痺型 | 1%未満 | ・ウイルスが運動神経細胞を破壊することで生じる最も重いケース ・突然手足の力が抜ける「急性弛緩性麻痺(きゅうせいちかんせいまひ)」が起こる ・麻痺は生涯残ることが多い ・呼吸に関わる筋肉が麻痺すると命の危険もある

また、ポリオから一度回復したとしても、それで安心とは限りません。

数十年という長い年月を経てから、再び筋力の低下や筋肉・関節の痛み、極度の疲労感といった症状が現れる「ポリオ後症候群(ポストポリオ症候群:PPS)」を発症することがあります。

これは、ポリオウイルスによって一度ダメージを受けた神経細胞が、加齢などの影響で時間とともに疲弊してしまうことが原因の一つと考えられています。

ポリオの検査・診断

ポリオの診断は、発熱や麻痺といった症状だけでは判断が難しく、体内にポリオウイルスがいることを直接証明することで確定します。

ポリオウイルスは主に人ののどや腸で増殖し、便とともに体外へ排出される性質を持っています。そのため、患者さんの便を調べるウイルス検査が診断の中心となります。

具体的な検査方法は、以下のとおりです。

検査の種類 | 検査内容と目的

ウイルス分離培養検査 | ・患者さんの便を採取し、ウイルスを培養してその存在を調べる ・ポリオ診断の基本となる、最も確実性の高い検査 ・ウイルスの排出は断続的なことがあるため、通常は24時間以上の間隔をあけて2回便を採取し、検出の精度を高める

血清診断(抗体検査) | ・血液を採取し、ポリオウイルスに対する抗体の量を調べる ・ワクチン接種によっても抗体は作られるため、この検査だけでは感染によるものか判別が難しい ・あくまで診断の補助的な手段として用いられる

日本では、ポリオの国内発生を監視するため、15歳未満で急に手足の力が抜ける「急性弛緩性麻痺(AFP)」がみられたすべての患者さんに対し、ポリオウイルスの検査を行う体制が敷かれています。

また、患者さんの診断だけでなく、さまざまな環境に潜むウイルスを検出し、感染拡大を防ぐ取り組みも重要です。

近年では、手術中に発生する煙(サージカルスモーク)から、ポリオウイルスを含む複数のウイルス成分が検出される可能性が研究で示されました※。これは、ウイルスが予期せぬ場所に存在する可能性を示しており、医療現場での感染対策の重要性を改めて教えてくれます。

もしポリオを疑う症状、特に急な手足の麻痺などが現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。

ポリオの治療

ポリオウイルスそのものを直接攻撃する特効薬は、現時点ではありません。そのため治療の目的は、今ある症状を和らげ、患者さん自身の回復力を最大限にサポートする「対症療法」が中心です。

急性期における主な治療法は、患者さんの苦痛を減らし、体力の消耗を防ぐことに重点が置かれます。

治療法 | 目的と内容

安静の保持 | ・体力の消耗を防ぎ、免疫がウイルスと戦うのを助ける ・特に麻痺の症状がある場合は、その進行を抑えるためにも安静が重要

薬物療法 | ・発熱や筋肉の痛み、頭痛などに対して解熱鎮痛薬を使用し、つらい症状を和らげる

栄養・水分管理 | ・脱水を防ぎ、回復に必要なエネルギーを補給する ・のどの痛みや麻痺で飲み込みが難しい場合は、点滴で水分や栄養を補う

万が一、手足に麻痺が残ってしまった場合、急性期を過ぎた後のリハビリテーションがその後の生活の質を左右する鍵となります。残された身体の機能を最大限に活かし、日常生活への復帰を目指すため、理学療法士や作業療法士といった専門家の指導のもとで、根気強くリハビリテーションを続けることが大切です。

このように確立した治療法がないからこそ、ポリオは「かからないこと」、つまり予防が何よりも重要といえます。

また、一般的な感染経路への対策はもちろんですが、近年では、ウイルスが予期せぬ形で存在する可能性も指摘されています。

例えば、手術の際に発生する煙(サージカルスモーク)の中から、ポリオウイルスを含む複数のウイルス成分が検出されたという研究報告があります※。

これは主に手術室で働く医療従事者にとってのリスクですが、ウイルスがいかにしぶとく、徹底した感染対策が求められるかを示す一例といえるでしょう。