ベーチェット病

繰り返しできる口内炎や皮膚の症状、原因のわからない体調不良に悩んでいませんか。ベーチェット病は国内に約20,000人の患者さんがいる指定難病で、症状が落ち着く「寛解」と悪化する「再燃」を繰り返すため、不安を感じる方も少なくありません。

この記事では、ベーチェット病の基本的な症状や原因、治療法を解説します。さらに、近年明らかになったメタボリックシンドロームとの関連性など、全身に及ぼす影響についても詳しく紹介します。

病気への正しい理解は、漠然とした不安を和らげ、ご自身の状態と向き合うための第一歩となります。今後の治療や生活を考えるうえでのヒントが見つかるはずです。

ベーチェット病の概要

ベーチェット病は、口・皮膚・眼などを中心に、全身のさまざまな場所に急な炎症が繰り返し起こる、原因不明の病気です。

症状が落ち着いている状態(寛解:かんかい)と、再び症状が悪化する状態(再燃:さいねん)を繰り返すのが大きな特徴といえます。かつてシルクロードが通っていた地中海沿岸から中東、日本を含む東アジアにかけて患者さんが多いことから、「シルクロード病」と呼ばれることもあります。

主に、以下に挙げる4つの症状(主症状)が現れます。

・口内炎(アフタ性潰瘍)

ほとんどの患者さん(98%)にみられる、痛みを伴う円形の浅い潰瘍が繰り返しできます。

・皮膚症状

ニキビのようなできもの(毛嚢炎様皮疹)や、すねを中心にできる赤く痛いしこり(結節性紅斑)などが現れます。

・外陰部潰瘍

口内炎と似た潰瘍が陰部にできます。痛みを伴い、治った後も痕が残ることがあります。

・眼の症状

「ぶどう膜炎」と呼ばれる眼の炎症が起こり、かすみ目や視力低下、目の痛みなどをきたします。放置すると失明につながるリスクもあるため、特に注意が必要です。

日本では国の指定難病(指定難病56)に定められており、推定患者数は約20,000人です。20〜40歳代の比較的若い世代での発症が多く、特に30代をピークとしています。

また、ベーチェット病は単に目に見える症状だけの問題ではありません。近年の大規模な研究により、ベーチェット病の患者さんはメタボリックシンドロームを発症するリスクが約2.2倍高く、それに伴う高血圧、糖尿病、脂質異常症とも深く関連していることがわかってきました※。

これは、病気の根本にある「全身性の炎症」が代謝システムにも影響を与えるためと考えられています。そのため、皮膚や眼の症状を抑えるだけでなく、血圧や血糖値などを定期的に確認し、全身を総合的に管理していくことが、長期的な健康を維持するうえで非常に大切です。

ベーチェット病の種類

ベーチェット病は、どの症状がどの程度現れるかによって、いくつかの種類に分けられます。この分類は、患者さん一人ひとりに合わせた治療方針を立てるための重要な手がかりとなります。

主症状の組み合わせによる分類

まず基本となるのは、4つの主症状(口内炎、皮膚症状、眼の症状、外陰部潰瘍)のうち、いくつ当てはまるかによる分類です。

下表にその分類をまとめました。

種類 | 条件

完全型 | 4つの主症状がすべて認められるタイプ

不全型 | ・4つの主症状のうち3つが認められる ・主症状2つと、副症状(関節炎など)が認められるタイプなど

特殊型(重い臓器の症状を伴う分類)

基本の症状に加えて、特定の臓器に重い炎症が及ぶケースは「特殊型」と呼ばれます。この場合、より専門的な治療が必要になることがあります。

特殊型は、病変が起こる場所によって、主に以下の3つに分類されます。

・腸管ベーチェット病

小腸の終わりから大腸の始まりにあたる回盲部(かいもうぶ)を中心に、深い潰瘍ができるタイプです。激しい腹痛や下痢、血便などの症状を引き起こします。

・血管ベーチェ-チェット病

全身の血管、特に太い血管に炎症が起こります。動脈にこぶ(動脈瘤)ができたり、静脈に血の塊が詰まったりする血栓症のリスクが高まります。自覚症状がなくても、病気自体の炎症によって気づかないうちに動脈硬化が進行しやすいこともわかっています※。

・神経ベーチェット病

脳や脊髄などの中枢神経に炎症が及ぶ、重篤なタイプです。激しい頭痛や手足の麻痺が突然現れることもあれば、徐々に物忘れが進むなどの認知機能の低下がみられることもあります※。治療が難しい場合もありますが、近年ではインフリキシマブといった生物学的製剤が有効であることが示唆されています※。

ベーチェット病の原因

ベーチェット病がなぜ起こるのか、その明確な原因はまだわかっていません。

しかし、生まれつき持っている遺伝的な要因に、細菌やウイルスへの感染といった環境的な要因が加わることで、免疫システムに異常が生じ、発症に至るという考え方が現在では最も有力です。

具体的には、以下のような要因が複雑に絡み合っているとみられています。

・遺伝的な要因(病気へのかかりやすさ)

人間の白血球の型である「HLA-B51」や「HLA-A26」といった特定の遺伝子を持つ人は、持たない人と比べてベーチェット病になりやすいことがわかっています。ただし、これはあくまで”かかりやすさ”を示す体質のようなもので、病気そのものが遺伝するわけではありません。親がベーチェット病だからといって、お子さんも必ず発症するわけではないのです。

・環境的な要因(発症の引き金)

虫歯菌やウイルスなどへの感染、ストレス、けがなどが、発症のきっかけになると考えられています。

これらの要因が引き金となり、本来は体を守るはずの免疫システムが暴走し、自分自身の体を誤って攻撃してしまうことで、全身に激しい炎症が引き起こされるのです。

そして、この「全身に広がる慢性的な炎症」こそが、ベーチェット病の本質的な問題であり、目に見える症状以外にもさまざまな影響を及ぼすことが近年の研究で明らかになってきました。

一つは、自覚症状のないまま動脈硬化が進んでしまうリスクです。

ベーチェット病の患者さんでは、病気の炎症そのものの影響で血管の壁が厚くなりやすいことがわかっています※。これは、高血圧や脂質異常症といった一般的な動脈硬化のリスクとは別に起こりうる、この病気ならではの特徴といえます。

もう一つは、メタボリックシンドロームとの深い関連です。

ある大規模な研究では、ベーチェット病の患者さんはそうでない人と比べて、高血圧、糖尿病、脂質異常症を合併したメタボリックシンドロームを発症するリスクが約2.2倍も高いと報告されました※。全身に及ぶ炎症が、体の代謝システムにまで悪影響を与えてしまうためと考えられています。

このように、ベーチェット病の原因は単純なものではなく、遺伝的な背景をもとに免疫システムが異常をきたし、全身に影響を及ぼす複雑な病気なのです。そのため、口内炎や皮膚症状といった目に見える症状の管理だけでなく、血圧や血糖値なども含めた全身のケアが重要になります。

ベーチェット病の症状

ベーチェット病では、診断の基準となる4つの「主症状」と、全身のさまざまな場所に現れる「副症状」がみられます。

症状が落ち着いている「寛解(かんかい)」と、再び悪化する「再燃(さいねん)」を繰り返すのが、この病気の大きな特徴です。症状の現れ方や組み合わせは一人ひとり異なり、時期によっても変化します。

主症状

ベーチェット病の診断で基本となる、以下の4つの症状を指します。

・口腔粘膜のアフタ性潰瘍

ほぼすべての患者さん(98%)に現れる、痛みを伴う円形の浅い口内炎です。頬の内側や舌、歯ぐきなど口の中のあらゆる場所に繰り返しできます。

・皮膚症状

すねや腕を中心に、押すと痛む赤いしこり(結節性紅斑)ができたり、顔や胸、背中にニキビのような発疹(毛嚢炎様皮疹)が現れたりします。

・外陰部潰瘍

口内炎とよく似た、痛みを伴う潰瘍が陰部にできます。治った後も痕が残りやすいのが特徴です。

・眼症状

「ぶどう膜炎」と呼ばれる眼の炎症が代表的です。かすみ目、視力低下、目の痛み、まぶしく感じるといった症状が起こります。治療が遅れると失明に至るリスクもあるため、特に注意深い経過観察が必要です。

副症状

主症状に加えて、以下のような全身症状が現れることがあります。

・関節炎

膝や足首、手首、肘などの大きな関節に、腫れや痛みが起こります。関節リウマチのように骨が変形することはまれです。

・血管病変

血管の炎症により、足がパンパンに腫れて痛む「深部静脈血栓症」や、動脈にこぶ(動脈瘤)ができることがあります。まれに血管の炎症が筋肉にまで及ぶと、重篤な症状を引き起こす可能性も指摘されています※。

・消化管病変

腸、特に小腸の終わりから大腸の始まり(回盲部)に深い潰瘍ができ、激しい腹痛や下痢、下血(血便)などを引き起こします。

・神経病変

急な頭痛や発熱を伴う髄膜炎のほか、物忘れが進んだり、うつ状態になったりといった認知機能や精神面での症状が慢性的に現れることも報告されています※。

・副睾丸(精巣上体)炎

男性に見られる症状で、片方の精巣の腫れと痛みが起こります。

これらの症状は、必ずしもすべてが現れるわけではありません。気になる症状が一つでもあれば、自己判断せずに専門医へ相談することが、病気の早期発見と適切な治療への第一歩となります。

ベーチェット病の検査・診断

ベーチェット病の診断は、特定の検査一つで決まるものではなく、特徴的な症状と複数の検査結果をパズルのように組み合わせて総合的に判断します。

この病気にだけ見られる特別な検査項目(疾患特異的マーカー)が、今のところ存在しないためです。そのため、厚生労働省が定める診断基準にもとづき、4つの主症状(口内炎、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍)と、副症状(関節炎など)がいくつ当てはまるかを確認しながら、診断を絞り込んでいきます。

診断の補助や、病気の勢い(活動性)、そして目に見えない内臓へのダメージを評価するために、以下のような検査を組み合わせて行います。

検査の種類 | 目的・わかること

血液検査 | ・CRP値や赤血球沈降速度(血沈)などを測定 ・体内でどれくらいの強さの炎症が起きているかを数値で把握する

針反応 | ・清潔な注射針で皮膚を軽く刺し、48時間後の反応を見る ・皮膚の過敏性が高まっていると、赤く腫れたり膿が出たりする陽性反応が見られ、診断の有力な手がかりになる

画像検査・特殊検査 | 隠れた臓器の病変を詳しく調べる ・消化器症状がある場合: 内視鏡(大腸カメラ)で腸の潰瘍の有無を確認 ・神経症状が疑われる場合: 髄液検査や頭部MRI検査で脳や脊髄の炎症を評価 ・血管の病変が疑われる場合: CT、MRI、血管超音波(エコー)検査で血管の状態を可視化

特に血管の病変は、自覚症状がないまま進行することがあるため注意が必要です。

近年の研究では、ベーチェット病の患者さんは高血圧や脂質異常症といった一般的な動脈硬化のリスク因子がなくても、病気そのものが引き起こす「全身の炎症」によって血管の壁が厚くなりやすいことがわかっています※。

これは、この病気ならではの血管への影響といえます。

そのため、定期的な画像検査で血管の状態を正確に把握し、隠れたリスクに先手を打つことが、将来の深刻な合併症を防ぐうえで非常に重要です。

ベーチェット病の治療

ベーチェット病の治療目標は、病気の活動性をコントロールし、症状が落ち着いている「寛解(かんかい)」の状態をできるだけ長く維持して、患者さんらしい生活の質(QOL)を保つことです。

現在のところ、この病気を完全に治す方法は見つかっていませんが、症状や重症度に合わせて治療法を的確に使い分けることで、炎症を抑え、重い合併症を防ぐことを目指します。

治療の基本は薬物療法ですが、その効果を最大限に引き出すためには、後述する生活習慣の見直しも欠かせません。

治療薬は、症状が出ている場所やその重さによって、段階的に選択されます。

治療薬の種類 | 主な対象となる症状 | 特徴・補足

外用薬 | 口内炎、皮膚症状 | ・ステロイドを含んだ軟膏や貼り薬など ・症状がある場所に直接作用させ、炎症を和らげる

コルヒチン (内服薬) | 皮膚・粘膜症状、関節炎 | ・多くの患者さんで最初に検討される基本の治療薬 ・炎症に関わる白血球(好中球)の過剰な働きを抑え、症状の再燃を予防する

ステロイド (内服薬) | 全般(特に炎症が強い場合)、 眼症状 | ・体の中で起きている強い炎症を迅速かつ強力に抑える ・効果が高い一方、長期使用はさまざまな副作用のリスクを伴うため、症状が落ち着けば速やかに減量・中止を目指す

免疫抑制剤 (内服薬) | 眼症状、 特殊型(血管・腸管・神経) | ・ステロイドだけでは効果が不十分な場合や、ステロイドの量を減らす目的で併用 ・アザチオプリンという薬は、ベーチェット病で起こりやすい動脈硬化の進行を抑える可能性も報告されている※

生物学的製剤 (注射・点滴) | 既存の治療で効果が見られない 重症例(特に眼・腸管・神経) | ・炎症を引き起こす原因物質(TNF-αなど)をピンポイントで狙い撃ちする薬 ・特に治療が難しい神経ベーチェット病に対し、インフリキシマブという薬が9割を超える患者さんで有効だったという報告もある※

これらの薬物療法を土台から支えるのが、日々の生活習慣の見直しです。ベーチェット病は免疫システムの異常な反応が病気の根本にあるため、その引き金となりうる要因をできるだけ避けることが、症状を安定させるうえで重要になります。

・口腔ケアを徹底する

虫歯菌や歯周病菌などが、免疫の暴走のきっかけになることがあります。毎日の丁寧な歯磨きや定期的な歯科受診を心がけましょう。

・禁煙を続ける

喫煙は血管の炎症を悪化させ、血栓症のリスクを高めることがわかっています。

・ストレスをため込まない

過度な身体的・精神的ストレスは、免疫のバランスを乱し、症状を再燃させるきっかけになり得ます。

・感染症を予防する

風邪やインフルエンザなどの感染症も、症状悪化の引き金となります。手洗いやうがいといった基本的な対策を習慣にしましょう。

治療は、医師と患者さんが協力し、二人三脚で進めていくものです。ご自身の判断で薬をやめたり量を調整したりせず、気になることがあれば些細なことでも主治医に相談してください。