スモン

かつて日本中を震撼させた「スモン」という病気をご存知でしょうか。昭和30~40年代に多発したこの病気は、激しい腹痛や手足のしびれ、視力障害など多様な症状を引き起こし、当時は原因不明の奇病として多くの人々を苦しめました。

その後の調査で、原因は当時広く使われていた「キノホルム」という成分を含む整腸剤による薬害だと判明しました。現在は新たな発生の心配はありませんが、今なお1万人以上の方が深刻な後遺症と向き合い続けています。

この記事では、スモンとはどのような病気なのか、なぜ身近な薬が神経に深刻なダメージを与えたのかを詳しく解説します。過去の悲劇から学び、今も続く治療研究の最前線に迫ります。

スモンの概要

スモンとは、神経にダメージが起きてしまう病気のことです。 「亜急性脊髄(あきゅうせいせきずい)・視神経(ししんけい)・末梢神経障害(まっしょうしんけいしょうがい)」という、 とても長い名前の頭文字をとってSMON(スモン)と呼ばれています。

今から50年以上も昔の昭和30~40年代に日本中で流行しました。 当時は原因がわからず、特定の地域だけの病気と考えられたため、 「釧路病(くしろびょう)」などと呼ばれることもありました。

その後の調査で、お腹の調子を整える薬として使われていた、 「キノホルム」という成分が原因だったことがわかりました。 国はすぐにキノホルムの販売を中止したため、 現在、新しくスモンになる心配はもうありません。

項目

内容

正式名称

亜急性脊髄・視神経・末梢神経障害(SMON)

流行した時期

昭和30年~40年代

原因

整腸剤に含まれていた「キノホルム」という成分

現在の状況

新しい患者さんの発生はないが、後遺症を持つ方への支援は続いている

現在も後遺症と向き合う方々の症状を少しでも和らげるため、 新しい治療法の研究が世界中で続けられています。

例えば、ある植物の成分に注目した研究があります。 動物実験の段階ですが、この成分には体のサビつき(酸化ストレス)を防ぎ、 炎症を抑える働きがある可能性がわかってきました。 こうした基礎研究の積み重ねが、未来の治療へとつながります。

スモンの種類

スモンは「キノホルム」という薬が原因で起こる病気です。 原因は一つですが、症状の現れ方は人によって全く違います。 これは、神経がダメージを受ける場所や程度が異なるためです。

医学的に決まった分類はありませんが、症状が強く出る場所で、 いくつかのパターンに分けて考えることができます。

主な症状のパターン

具体的な症状の例

手足の神経

・足の裏が常にビリビリとしびれる

・焼けるような、締め付けられるような激しい痛みがある

背骨の中の神経(脊髄)

・足に力が入りにくく、歩きにくい

・重い場合は、足が全く動かなくなることもある

目の神経(視神経)

・視力が落ちて、物がぼやけて見える

・約20%の方に起こり、最悪の場合は失明に至ることもある

体の調子を整える神経(自律神経)

・足が氷のように冷たくなる

・便秘や下痢を繰り返したり、おしっこが出にくくなったりする

これらの症状が、一つだけでなく複数重なって現れることが多いです。 また、子どもの頃に発症した方は、大人になってから発症した方より、 視力障害などが強く出やすい傾向があるといわれています。

なぜこのように症状に個人差が出るのか、詳しい仕組みは研究中です。 例えば、体のサビつき(酸化ストレス)や炎症を抑える仕組みについて、 世界中で研究が進められています。 ある植物の成分が、動物実験で肝臓の炎症を抑えることがわかりました。 このような基礎研究の積み重ねが、未来の治療法開発につながります。

スモンの原因

スモンの原因は、「キノホルム」という薬だとわかっています。 昔はお腹の調子を整えるための「整腸剤」として、 病院や薬局で広く使われていた成分です。

しかし、このキノホルムを飲んだ方の中から、 手足のしびれなどの神経症状が出る方がいるとわかりました。 詳しい調査の結果、キノホルムが原因だと特定され、 1970年に製造と販売が中止されました。

そのため、現在キノホルムが原因で、 新しくスモンになる心配は全くありません。

では、なぜキノホルムは神経にダメージを与えたのでしょうか。 その詳しい仕組みは、まだ全てが解明されていません。 しかし、いくつかの説が有力だと考えられています。

  • ビタミンB12が足りなくなる説 神経が元気に働くために欠かせない「ビタミンB12」が、 キノホルムによって体の中から奪われ、神経に障害が起きた説です。
  • 神経を直接攻撃する説 キノホルムという成分そのものが、神経の細胞に直接悪い影響を与え、 傷つけてしまったのではないか、という説です。

こうした影響をより深く理解する上で、 「酸化ストレス」と「炎症」という体の反応が注目されています。 酸化ストレスとは、体がサビついてしまうような状態のことです。 また、炎症は体の中で小さな火事が起きるようなイメージです。

例えば、ある植物の成分を動物で調べた研究があります。 その成分が肝臓の炎症を抑えることが報告されました。 これは、体のサビつき(酸化ストレス)を防いだり、 炎症のバランスを整えたりする働きによるものと考えられています。

キノホルムが神経を傷つけた詳しい仕組みにも、 このような体の基本的な反応が関係している可能性があります。 詳しいメカニズムの解明に向けて、今も世界中で研究が続けられています。

スモンの症状

スモンの症状は、原因であるキノホルムを飲んでから、 数週間くらい経ってから現れることが多いです。 神経がダメージを受けることで、体のあちこちにサインが出ます。 症状の出方や重さには個人差が大きいのが特徴です。

1. 足から始まるしびれや痛み ほとんどの場合、症状は足から始まります。 足の裏がビリビリとしびれるような感覚が最初に出ます。 そのしびれは、だんだんと足の上の方へ広がっていきます。 症状が進むと、足に力が入りにくくなり、歩くのが難しくなります。 約6割の方に、歩行に関する後遺症が残るといわれています。

2. その他のさまざまな症状 足だけでなく、体にはいろいろな変化が現れます。 代表的な症状を以下にまとめました。

症状が出る場所

具体的な症状の例

目

・視力が落ちて、物がぼやけて見える

・患者さんの約2割に起こり、重い場合は失明することもある

お腹

・激しい腹痛や下痢が続く

体の調子

・足が氷のように冷たくなる

・おしっこやうんちのトラブル(便秘、下痢、失禁など)

特徴的なサイン

・舌が緑色の苔で覆われる(緑色舌苔)

・緑色の便が出る

これらの症状の詳しい仕組みは、まだ研究が続いています。 しかし、神経の細胞が傷つく過程で、体がサビつく「酸化ストレス」や、 体の中で小さな火事が起きる「炎症」が関係していると考えられています。 動物を使った研究では、ある植物の成分が肝臓の炎症を抑えることがわかり、 こうした体の反応をコントロールすることが、治療のヒントになるかもしれません。

スモンの検査・診断

スモンには、この検査をすれば診断が確定するという特別なものはありません。 そのため、似た症状が出る他の病気の可能性を一つずつ消していく方法で診断します。 これを「除外診断(じょがいしんだん)」と呼び、丁寧な診察が重要になります。

診断で最も大切なのは、原因の薬「キノホルム」を飲んだことがあるかです。 現在この薬はないため、新しくスモンになる心配はもうありません。 診断は、問診や診察、いくつかの検査を組み合わせて総合的に判断します。

検査の種類

どんなことを調べるの?

問診

・過去にキノホルムを飲んだことがあるかを確認します

・いつから、どんな症状が出たかを詳しく聞きます

神経の診察

・ハンマーで膝などを叩き、体の反応を見ます

・手足の感覚や力の入り具合を調べ、神経の働きを評価します

血液検査

・全身の状態を調べ、他の病気が隠れていないか確認します

・肝臓の働きを示すALTやASTといった数値も調べます

画像検査

・CTやMRIで頭や背骨の写真を撮ります

・脳や脊髄に、症状の原因になる他の病気がないか確認します

血液検査では、体のサビつき(酸化ストレス)や炎症の状態も確認します。 例えば、ある植物の成分を動物で調べた研究があります。 その成分は、肝臓の炎症を抑え、ALTやASTの数値を改善させました。 このように体の内部を詳しく調べ、他の病気の可能性を消していきます。 これらの検査で他の病気が見つからなかった場合に、スモンと診断されます。

スモンの治療

現在、スモンを完全に治すための治療法は、残念ながらまだ見つかっていません。 そのため、治療の目標は今あるつらい症状を、少しでも和らげることになります。 そして、できるだけ快適な日常生活を送れるようサポートしていきます。 このような治療を「対症療法(たいしょうりょうほう)」と呼びます。

患者さん一人ひとりの症状に合わせて、いくつかの治療を組み合わせて行います。

治療の種類

どのような治療を行うの?

お薬による治療

・しびれや痛みを和らげる「ノイロトロピン」を使います

・痛みが強い場合は、痛み止めのお薬を飲むこともあります

・つらい気持ちを楽にするため、抗うつ剤が使われることもあります

リハビリテーション

・スモンの患者さんのために作られた体操を行います

・無理のない範囲で体を動かし、体の機能が弱るのを防ぎます

東洋医学の治療

・ハリ(鍼)やお灸、マッサージで血の巡りを良くします

・痛みを和らげたり、足の冷たさを改善したりする目的です

これらの治療と並行して、未来の新しい治療法を見つける研究も進んでいます。 特に、体のサビつき(酸化ストレス)や炎症を抑える働きが注目されています。 例えば、昔から薬として使われてきたある植物の成分についての研究があります。

動物を使った実験の段階ですが、この成分は炎症を抑える可能性があるとわかってきました。 体のサビつきを防ぎ、炎症のバランスを整えることが期待されています。 こうした基礎研究の積み重ねが、未来のスモンの治療につながるかもしれません。