スポロトリコーシス

「バラ庭師の病」という異名を持つ感染症をご存知ですか?ガーデニングでバラのトゲが刺さったり、土いじりで小さなキズができたり。そんな日常の出来事が、実は「スポロトリコーシス」というカビの感染症を引き起こす原因になり得ます。

この病気の厄介な点は、健康な人でも発症し、診断が難しいことです。虫刺されのようなしこりがリンパに沿って広がるだけでなく、肺の症状が結核と間違われるケースも。原因不明の皮膚の異常が続くなら、この病気を疑う必要があるかもしれません。

本記事では、スポロトリコーシスの原因から症状、正しい治療法までを詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、早期発見にお役立てください。

スポロトリコーシスの概要

スポロトリコーシスは、カビ(真菌)の一種である「スポロトリックス」が原因で起こる感染症です。このカビは私たちの身近な環境、特に土の中や植物、木材などにひそんでいます。

庭仕事や農作業などでできた皮膚の小さなキズから、カビが体の中に入り込むことで感染します。特にバラのトゲが刺さって感染することが多いため、海外では「バラ庭師の病」という別名で呼ばれることもあります。

特徴

内容

原因

スポロトリックスという種類のカビ(真菌)

感染経路

土や植物にひそむカビが、皮膚のキズから侵入

主な症状

皮膚の赤いしこりや腫れ、潰瘍(かいよう)

かかりやすさ

健康な人でもかかることがある

一般的に、カビによる感染症は体の抵抗力が落ちているときに起こりやすいです。しかし、この病気は健康な方でもかかる可能性があるという特徴があります。

また、カビが原因の病気の中には、症状が他の病気と似ていて診断が難しいものがあります。実際に、細菌による皮膚の感染症や、全く別の病気と間違われてしまうケースも報告されています。原因がわからない皮膚の異常が続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

スポロトリコーシスの種類

スポロトリコーシスは、カビが体のどの部分で悪さをするかによって、症状の現れ方が変わります。主に以下の4つのタイプに分けられますので、それぞれの特徴を理解しておくことが大切です。

  • 皮膚リンパ管型 最もよく見られるタイプです。土の中にいるカビが、バラのトゲなどが刺さった小さなキズから体の中に入って起こります。はじめはキズの部分に赤いしこりができますが、その後、リンパの流れに沿って、点々と新しいしこりができていくのが特徴です。
  • 皮膚固定型 カビがキズの周りだけにとどまり、他の場所に広がらないタイプです。しこりができたり、皮膚がえぐれたりしますが、皮膚リンパ管型のように広がることはありません。
  • 肺スポロトリコーシス とても珍しいですが、カビの胞子を吸い込むことで肺に感染するタイプです。咳や熱など、症状が結核や肺炎と非常に似ているため、診断が難しいことがあります。実際に、他の病気と間違われてしまうケースも報告されています。体の抵抗力が落ちている人でなくても発症する可能性があるため、なかなか治らない肺の不調がある場合は、原因の一つとして考える必要があります。
  • 播種型(はしゅがた) さらに稀ですが、感染が皮膚だけでなく全身に広がってしまう重いタイプです。骨や関節、脳など、体の様々な場所に症状が出ます。主に、他の病気などで体の抵抗力(免疫力)が弱っている方に起こりやすいとされています。

種類

主な感染場所

特徴

皮膚リンパ管型

皮膚、リンパ管

キズからリンパの流れに沿ってしこりが広がる、最も多いタイプ

皮膚固定型

皮膚

キズの周りにとどまり、広がらない

肺スポロトリコーシス

肺

胞子の吸い込みで感染。咳などが出て他の病気と間違えやすい

播種型

全身(骨、関節、脳など)

全身に広がる重いタイプ。免疫力が低下している人に多い

スポロトリコーシスの原因

スポロトリコーシスは、「スポロトリックス」という種類のカビ(真菌)が体の中に入ることで起こります。このカビは、私たちの身のまわりの意外と身近な場所にひそんでいます。

原因菌はどこにいるの? スポロトリックスは、特に以下のような場所にいることが多いです。

  • 土の中
  • 枯れた木や草
  • 植物(とくにバラの木やミズゴケなど)

ガーデニングや農作業でバラのトゲが刺さったことがきっかけで感染することがあるため、「バラ庭師の病」とも呼ばれています。

体への入り口(感染経路) カビが体に侵入する経路は、主に以下の3つです。

  • 皮膚の傷から入る(最も多い) 庭仕事などでできた、ごく小さな切り傷や擦り傷からカビは侵入します。
  • 動物からうつる 感染した猫などから、ひっかかれたり噛まれたりすることで感染するケースも報告されています。
  • 息で吸い込む(まれ) カビの胞子を吸い込むと、肺に感染することがあります。この場合、咳や熱など症状が結核や肺炎と似ているため、診断が難しいこともあります。

誰でもかかる可能性があります 誰でもかかる可能性がありますが、とくに以下のような方は注意が必要です。

環境的な要因

体の状態

・農業、園芸、林業にたずさわる方

・獣医師や動物の世話をする方

・糖尿病などの持病がある方

・お薬などで免疫力が低下している方

しかし、この病気で注意すべき点は、体の抵抗力が十分にある健康な方でも発症することです。明らかな危険因子がない方でもかかることがあるため、原因がわからない皮膚の異常が続く場合は、早めに医療機関に相談しましょう。

スポロトリコーシスの症状

スポロトリコーシスの症状は、カビが体のどこで増えるかによって変わります。 感染してから症状が出るまでの期間は、平均で1〜12週間ほどです。 どのような症状が出るのか、場所ごとに見ていきましょう。

皮膚にあらわれる症状 最も多く見られるのが皮膚の症状です。

  • はじめのサイン 虫刺されのような、赤くて小さな盛り上がりや硬いしこりができます。
  • 特徴 痛みやかゆみは、ほとんど感じないことが多いです。
  • 進行すると しこりの中心が崩れて膿が出たり、皮膚がえぐれたりします(潰瘍)。

リンパ管にそって広がる症状 皮膚から入ったカビが、体の通り道であるリンパ管を通って広がることがあります。 最初のしこりから少し離れた場所に、点々と飛び石のように新しいしこりができます。 このとき、リンパ節が腫れて痛んだり、熱が出たりすることもあります。

肺にあらわれる症状 カビの胞子を吸い込むことで、まれに肺に感染することがあります。 咳やたん、息切れなどの症状が出ますが、風邪や肺炎、結核とよく似ています。 他の珍しいカビによる肺の病気でも、健康な人がかかり結核と間違われたという報告があります。 そのため、なかなか治らない咳が続く場合は注意が必要です。

感染した場所

主な症状

皮膚

・赤みのある小さな盛り上がりや、硬いしこりができる

・痛みやかゆみはほとんどない

・進行すると膿が出たり、皮膚がえぐれたりする(潰瘍)

リンパ管

・リンパの流れに沿って、飛び石のようにしこりが広がる

・リンパ節が腫れて痛む、熱が出ることがある

肺

・咳、たん、息切れなど、結核や肺炎と似た症状が出る

・健康な人でもかかることがあるため診断が難しい場合がある

全身

・非常にまれだが、骨や関節、脳などに広がる重いタイプ

・骨や関節の痛み、頭痛などが起こる

スポロトリコーシスの検査・診断

スポロトリコーシスの診断は、パズルを解くような作業です。 皮膚の見た目だけでは、他の病気と見分けるのが難しいからです。 そのため、いくつかの検査を組み合わせて慎重に診断を進めます。

診断のために行われる主な検査は、以下の通りです。

検査の種類

どのような検査か

見た目の診察

皮膚にできたしこりや、リンパ管に沿って広がる様子を医師が目で見て確認します。診断の最初のヒントになります。

組織の検査

皮膚の一部を少しだけ取って、顕微鏡で詳しく調べます。カビがいるか、どのような変化が起きているかを確認します。

カビを育てる検査

皮膚や膿から原因となるカビを採取し、育てて種類を特定します。犯人を特定する最も確実な方法で、確定診断に欠かせません。

血液検査

体の中にカビと戦うための防御反応(抗体)ができているかを調べます。感染しているかどうかの手がかりになります。

特に、肺に感染した場合は診断が非常に難しくなることがあります。 咳や胸のレントゲン写真の影が、結核の症状とよく似ているためです。 実際に、健康な人でもかかる別の珍しいカビの病気が、結核と間違われたという報告もあります。

このような誤った診断を避け、正しい治療につなげるために、専門的な検査がとても重要なのです。 原因がわからない皮膚の異常が続く場合は、早めに皮膚科を受診しましょう。

スポロトリコーシスの治療

スポロトリコーシスの治療目標は、原因のカビを体から完全に追い出すことです。 そのために最も大切なのは、原因菌の種類を正確に特定することから始まります。

症状が他の病気と似ているため、診断が難しい場合があるためです。 実際に、健康な人でもかかる珍しいカビの病気が、結核と間違われたという報告もあります。 正しい診断に基づき、最適な薬を選ぶことが効果的な治療への第一歩となります。

主な治療は飲み薬

治療の中心は、「抗真菌薬」というカビの増殖を抑える飲み薬です。 症状や体の状態に合わせて、主に以下の薬が使われます。

治療薬の種類

特徴

イトラコナゾール

皮膚やリンパ管に広がった場合に、最もよく使われる中心的な飲み薬です。

ヨウ化カリウム

古くから使われている飲み薬で、現在でも有効な治療の選択肢の一つです。

テルビナフィン

イトラコナゾールが体に合わない場合などに、代わりに使われることがある薬です。

アムホテリシンB

感染が全身に広がるなど、症状が非常に重い場合に用いる点滴の薬です。

治療で大切なこと

治療期間は、数ヶ月にわたることが多く、根気強く続ける必要があります。 見た目の症状が良くなっても、体の中にカビが残っている可能性があります。 再発を防ぐため、ご自身の判断で薬をやめず、医師の指示通りに最後まで治療を続けることが非常に重要です。

補助的に行われる治療

飲み薬とあわせて、以下のような治療を行うこともあります。

  • 温熱療法 カビは熱に弱い性質があるため、患部を温めて活動を弱める治療法です。
  • 外科的処置 薬だけでは治りにくい場合に、ごくまれに病変部分を切除することがあります。

一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てますので、ご安心ください。